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なぜ「TypeScript運用ルール」が必要なのか(Next.jsで特に起きやすい問題)
Webサイトや社内向けシステムをNext.jsで作ると、画面(フロント)とサーバー処理(API、認証、バッチなど)が1つのリポジトリにまとまりやすく、開発スピードが上がる一方で「人が増えた瞬間に品質が揺れやすい」という特徴があります。特にTypeScriptは、書き方の自由度が高いぶん運用ルールがないと“正しいのに読みづらい”“動くけど危ない”コードが増えることがよくあります。
よくある症状は次の通りです。
- 同じ意味のデータ型がファイルごとに違い、修正が波及してバグになる
- anyや型アサーション(as)が増えて、TypeScriptを入れているのに安全性が上がらない
- lintやフォーマッタの設定が人によって違い、PR(レビュー)で指摘が散発して疲弊する
- 「どこまで厳密に型を書くか」が決まっておらず、締切前に品質が崩れる
想定読者が情シスや経営層の場合、「コードの細部」よりも「運用コスト」と「事故の確率」を抑えたいはずです。TypeScript運用ルールは、個人の頑張りを前提にせず、チームとして一定の品質を“仕組みで担保”するための契約です。ルールは厳しければ良いわけではなく、体制(内製/外注/混成)、開発人数、変更頻度、期限に合わせて「守れる範囲」に落とし込むのが成功のポイントです。
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ルール設計の前提:守れる最小セットから始める
TypeScript運用ルールを作る際、最初に決めたいのは「運用の目標」です。目標が曖昧だと、ルールが“理想論”になり現場で破綻します。Next.jsのプロジェクトで現実的な目標は、だいたい次の3つに集約されます。
- 品質の底上げ:明らかな型の抜け・危険な書き方を自動で止める
- レビュー負荷の削減:指摘が毎回発生する見た目・書式の議論を無くす
- 変更に強くする:仕様変更に対して「直す場所がすぐ分かる」構造にする
ここで重要なのは、いきなり厳格なルール(例:全てを厳密に型定義、例外禁止)にしないことです。特に外部ベンダーや複数チームが関わる場合、守れないルールは「形だけのチェック回避」を生みます。すると、無理やり通すためのas anyやeslint-disableが増え、仕組みの信頼が落ちます。
おすすめは「最小セット → 段階的に厳しく」の進め方です。例えば、最初は「フォーマット統一(Prettier)」「危険なanyの抑制」「未使用変数の禁止」だけにして、運用が回り始めたら「戻り値型の明示」や「境界(APIレスポンス)の型検証」へ拡張します。運用ルールは法律ではなく、チームの成長に合わせて更新するマニュアルとして設計すると長続きします。
lintとフォーマット:ESLint/Prettierを“議論が起きない”形に固定する
まず整えるべきはコードの見た目です。理由は単純で、ここを人がレビューすると確実に時間が溶けるからです。Next.jsは標準でESLintの導入がしやすく、基本方針は「見た目は機械に任せる」「危険な兆候はlintで止める」です。レビューで見るべきは設計とロジックであり、インデントではありません。
最低限おすすめの方針は以下です。
- フォーマットはPrettierに一本化(ESLintでフォーマットを争わない)
- ESLintは「バグにつながるもの」「保守性に効くもの」を中心に
- 例外(無効化)は“コメント付きで理由を残す”運用にする
運用イメージとしては、開発者が保存時に自動整形され、PR作成時にCI(自動チェック)でESLintが走り、違反があればマージできない、という流れです。これにより、レビューアは「スタイル指摘」から解放され、PRの会話が本質に寄ります。
例として、プロジェクト方針として明文化しやすいルールを挙げます。
ルール例(非エンジニアにも説明しやすい)
- フォーマット(見た目)は自動整形で統一し、人は指摘しない
- 危険な書き方(未使用変数、暗黙のany、不要な例外握りつぶし)はESLintで検知し、CIでブロックする
- どうしても例外が必要な場合は、該当行に理由を書き、後から見直せる状態にする
Next.js特有で言うと、React Hooksの依存配列ミスなどは本番障害に直結しやすいので、Hooks系のlintは有効です。また、console.logの扱いも方針化しておくとトラブルが減ります(開発は許可、productionは警告/禁止など)。
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型の厳しさ:まず「境界」を固め、次に「内部」を整える
TypeScriptの厳しさは、プロジェクトの成功を左右します。厳しすぎると開発速度が落ち、緩すぎるとTypeScriptを入れた意味が薄れます。ここでおすすめの考え方は、システムの「境界」から固めることです。境界とは、例えば次のような箇所です。
- 外部APIやDBから受け取るデータ
- Next.jsのAPI RoutesやServer Actionsの入出力
- フォーム入力(ユーザーが入れる値)
境界データは、想定外の値が入りやすい場所です。ここを曖昧にすると、内部のロジックがいくら型安全でも意味がありません。よくある失敗は「APIのレスポンスをanyで受けて、内部で事故る」パターンです。最初に守るべきは“外から入ってくる値は信用しない”というルールです。
実務で効果が高い運用は次の2段階です。
- 段階1(開始時):strictは基本ONにしつつ、例外の逃げ道(暫定対応)を明確化
- 段階2(安定後):境界の型検証(例:スキーマバリデーション)を必須化して、any/unknownの氾濫を止める
strictをONにすると、null/undefined絡みの事故や、暗黙の型推論ミスを早期に検知できます。一方で、既存コードが多い場合や、短納期で立ち上げる場合、いきなり全てを理想の型にするのは現実的ではありません。その場合は、例外を許可する場所を限定します。例えば「外部サービスのSDKが型を提供していない場合はunknownで受け、境界で変換する」「どうしても暫定でasを使う場合はTODO期限をコメントする」などです。
Next.jsではサーバーとクライアントが混在するため、型の置き場も決めておくと混乱が減ります。例えば、APIの入出力型は共有ディレクトリに集約し、画面専用の型(UI都合の整形後データ)は画面側に閉じる、といったルールです。こうすると、仕様変更時に「どの型を直せばよいか」が見えやすくなります。
PR運用:レビューが詰まらない「サイズ・観点・合格ライン」を決める
運用ルールの中で、非エンジニアにとっても成果が見えやすいのがPR(Pull Request)運用です。PRは「変更をレビューしてから取り込む仕組み」ですが、決め事がないと次の問題が起きます。
- PRが巨大化してレビュー不能になり、結局見ないで通る
- レビュー観点が人によって違い、指摘がブレる
- 承認が遅れて開発が止まり、納期に響く
そこで、PR運用は“文章として”ルール化します。ポイントは、厳しさよりも流れの詰まりを防ぐことです。レビューが滞ると、品質以前に開発が止まります。
おすすめのPRルール例です。
PRルール例(運用に落ちる形)
- サイズ:原則として小さく分割(目安:1PRで変更ファイル数や差分がレビュー可能な量)
- 説明:目的、変更内容、影響範囲、動作確認方法(スクショ不要でも手順は必須)
- 合格ライン:ESLint/型チェック/テストがCIで通っていることを必須条件にする
- レビュー観点:仕様に合うか、セキュリティ・権限、例外処理、ログ、将来の変更容易性
- 緊急対応:例外フロー(ホットフィックス)は条件付きで許可し、後追いで品質回復PRを出す
Next.jsの場合、影響範囲が「画面」「API」「認証」「SEO」など広がりやすいので、PRテンプレートにチェック項目を入れておくと抜け漏れが減ります。たとえば「該当ページのメタ情報は問題ないか」「サーバー側で権限チェックができているか」「キャッシュ戦略を崩していないか」など、事故りやすい観点を固定化します。
また、情シスや管理者視点では「誰が最終責任を持つか」も重要です。外注を含む体制なら、最終マージ権限は社内(またはリード)に置き、レビューのSLA(例:1営業日以内に一次 प्रतिक्रिया)を決めるとプロジェクトが止まりにくくなります。
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導入手順:既存/新規のどちらでも失敗しない進め方(Next.jsを想定)
ルールは作るだけでは意味がなく、プロジェクトに「無理なく入る形」にしないと続きません。導入は、技術よりも段取りで決まります。ここでは新規と既存で共通の、現場に落ちやすい流れを紹介します。
- 現状把握:ESLint/Prettier/TypeScript設定、CI有無、テスト有無、レビューの詰まりポイントを棚卸し
- 最小ルールを決定:フォーマット統一、CIでlint+型チェック、PRテンプレ導入(ここまでを最短で)
- 例外ポリシー:eslint-disableやasの扱い、緊急対応フロー、移行期間の扱いを文章化
- CIに組み込み:ローカルでなくCIで必ず再現するようにし、環境差を消す
- 教育というより“合意”:30〜60分でルールの意図を共有し、守れない点はその場で削る
- 運用で改善:月1回など定期的に「lintが邪魔していないか」「例外が増えていないか」を見直す
既存プロジェクトでありがちな懸念は「導入したら警告が大量に出て止まる」ことです。この場合は、段階的に適用します。たとえば、新規/変更ファイルのみ厳格化し、既存の大量警告は“技術的負債”として別管理にします。一度に完璧を目指すより、改善が続く仕組みにすることが結果的に最短です。
また、Next.jsではビルドや型チェックに時間がかかることがあります。CI時間が長すぎると運用が嫌われるため、チェックの粒度(push時は軽く、mainマージ前は重く)を分けるなど、運用設計もセットで考えます。加えて、依存ライブラリ更新時に型が変わって崩れることがあるため、更新頻度と責任者(誰が月1で更新するか)もルールに含めると安定します。
よくある失敗と回避策:厳格さより「例外管理」と「意思決定」が重要
TypeScript運用ルールの失敗は、技術力不足よりも「運用の破綻」で起きます。ここでは、現場で頻出する落とし穴と回避策をまとめます。
- 失敗:ルールが厳しすぎて守れず、eslint-disableやas anyが常態化する
回避:例外は“許可制”ではなく“記録制”にし、理由・期限・影響範囲を残す。例外が増える箇所はルール側を見直す - 失敗:レビューが遅くて開発が止まり、ルールが形骸化する
回避:レビュー担当とSLAを決め、PRを小さくする。CIで機械チェックを増やし、人の確認を減らす - 失敗:型が画面都合で増殖し、同じ意味の型が乱立する
回避:「ドメインの型(業務の意味)」と「表示の型(UI)」を分け、共有する型の置き場を決める - 失敗:Next.jsのサーバー/クライアント境界が曖昧で、セキュリティ事故が起きる
回避:権限チェックや機密データの扱いを“サーバー側で完結”させるルールをPR観点に入れる
また、非エンジニア視点で見落とされがちなのが「意思決定の窓口」です。運用ルールは、現場の状況で必ず例外や変更が出ます。そのときに、誰が決めるか(リード、情シス、外注先の責任者)が曖昧だと、議論が長引きます。ルールの所有者(オーナー)を明確にし、変更履歴を残すだけで、運用品質は大きく上がります。
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まとめ
Next.jsでTypeScriptを運用する場合、成功の鍵は「技術選定」よりも「運用ルールの設計と継続」です。最初から完璧な厳格さを目指すのではなく、守れる最小セットをCIとPR運用で固定し、境界の型安全から段階的に強化するのが、コストと品質のバランスが良い進め方です。
- フォーマットは自動化し、レビューの議論を減らす(ESLint/Prettier)
- 型の厳しさは「境界」から。外部入力は信用せず、変換・検証する
- PR運用はサイズ・観点・合格ライン・SLAを決め、詰まりを防ぐ
- 例外は必ず記録し、増えた箇所はルール側を改善する
もし「社内に詳しい人がいないが、Next.jsでの開発を安定運用したい」「外注と内製が混ざっていてルールが定まらない」「TypeScriptのstrict化やlint導入を進めたい」といった状況であれば、現状診断からルールの文書化、CIへの組み込み、チーム定着までを一気通貫で進めるのが近道です。
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