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なぜ今「止めずに」TypeScriptへ移行するのか(JavaScript運用の限界)
JavaScriptは学習しやすく、スピード感を持って開発できる一方で、システムが育つほど「事故が起きやすい」側面も強くなります。たとえば、担当者交代や外注先の変更が起きた瞬間、どこに何が入っているか分からない、変更の影響範囲が読めない、といった状態になりがちです。情シスや管理職の立場から見ると、これは「不具合対応のたびに予算と時間が溶ける」典型パターンです。
TypeScriptは、JavaScriptに「型(データの形)」の情報を足すことで、実行前にミスを見つけやすくし、将来の改修コストを抑える仕組みです。たとえば「ユーザー名は文字列」「金額は数値」「この項目は必須」といった前提がコードに明示され、間違った使い方をするとエディタやCIが警告してくれます。現場では「テストを増やす」より先に、型を入れるだけで減る事故が多いのが特徴です。
そして重要なのは「止めずに段階移行できる」点です。大規模に一気に置き換えると、予算・リリース計画・品質保証が破綻しやすいのですが、TypeScriptはJavaScriptと共存できます。つまり、既存の動く仕組みを維持しながら、価値の高い箇所から少しずつ安全性を上げていくことが可能です。
特にNext.jsはTypeScript対応が成熟しており、プロジェクト作成時点での導入も、既存プロジェクトへの後付けも比較的スムーズです。この記事では「開発に詳しくないが、品質とスケジュールを守りながら移行したい」方のために、段階移行の考え方、手順、判断ポイント、失敗しやすい落とし穴までを、業務目線で整理します。
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まず押さえる判断軸:移行のゴール、範囲、リスクの置き方
TypeScript移行は「全部tsにすること」がゴールではありません。現実的には、業務上のボトルネックを減らし、変更に強い体制を作ることが目的です。そこで最初に決めるべきは、ゴール・範囲・リスク許容の3点です。
ゴールは大きく分けて次のどれかになります。
- 品質の底上げ:軽微な不具合(null、項目名の打ち間違い、API仕様のズレ)を減らしたい
- 改修速度の維持:担当者が変わっても改修スピードが落ちないようにしたい
- 外注・内製の接続:仕様の行き違いを減らし、レビューや受け入れをしやすくしたい
- 採用・引き継ぎ:標準的な技術に寄せて人材確保と教育コストを下げたい
範囲は「フロントだけ」「APIクライアントまで」「サーバーサイド含む」などがありますが、最初は“事故が多い・変更が多い”ところからが鉄則です。典型的には、フォーム入力、権限、料金計算、在庫・予約といった業務ロジック周辺、またはAPI連携(バックエンドとの境界)が狙い目です。
リスクの置き方も重要です。段階移行では、一定期間「JavaScriptとTypeScriptが混在」します。混在自体は問題ではありませんが、ルールがないとスパゲッティ化します。そのため、最初に以下の運用ルールを決めると安定します。
- 新規開発は原則TypeScript:新しく触るところから型を付けていく
- 既存修正も触った範囲は型を付ける:“ボーイスカウトルール”で少しずつ健全化
- 例外は明文化:納期・工数の都合で型を後回しにする場合の手順を決める
Next.jsの場合、画面(ページ)とAPI(Route Handlers)など複数の層が同居します。最初の計画で「型の入り口」を決めると、移行が一気にやりやすくなります。たとえば「APIレスポンスの型を定義してフロントに配る」だけでも、現場の不具合は目に見えて減ります。
Next.jsで段階移行する全体像:共存しながら安全度を上げる設計
Next.jsは、TypeScriptを“自然に使える”ように設計されています。段階移行の基本戦略は「壊れにくい境界から型を固める」ことです。具体的には次の順番が実務的です。
- ビルド・Lint・型チェックの土台を作る:TypeScriptを入れても開発が止まらない状態にする
- 型の“入口”を固める:APIレスポンス、フォーム入力、環境変数など、ミスが致命傷になる箇所から
- コンポーネントに型を広げる:Props(受け取るデータ)を起点に連鎖的に安全になる
- ドメイン(業務ロジック)を整理する:金額や権限などを型で表現し、仕様変更に強くする
ここで誤解されやすい点として、「TypeScriptを入れると開発が遅くなるのでは?」という不安があります。短期的には、型を書く分の手間は増えます。ただし段階移行では、厳格さ(strict)を最初から最大にしないことで、現場の速度と安全性を両立できます。まずは“警告が出ても動く”状態から入り、重要箇所から厳格にしていくのが現実的です。
また、Next.jsの構成(app/router、pages/router)や、サーバーコンポーネント/クライアントコンポーネントの境界によっても、型の付け方は変わります。とはいえ、非エンジニア視点で押さえるべきはシンプルで、「データの受け渡し地点(境界)に型を置くほど、事故が減る」という原則です。境界に型があると、外注・内製の分業でも「何を渡すべきか」が明確になり、レビューで見落としが減ります。
段階移行では「全部を一気に直さない」代わりに、設計の筋を通します。例えば「APIクライアント層はTypeScriptで統一」「新規のUIは.tsx」「古い画面は触るまで保留」など、ルールがあれば混在でも迷子になりません。このルールがないと、結局“誰も手を付けられない”状態に戻るため、最初の合意が最重要です。
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実務手順:既存JavaScriptのNext.jsにTypeScriptを導入する(止めない移行)
ここからは、既存のNext.js(JavaScript)を止めずにTypeScriptへ移行する代表的な手順を、実務の流れとして説明します。社内稟議や外注管理の観点でも追えるよう、作業の意図と成果物をセットで書きます。
導入ステップ(最小構成)
- TypeScript関連の依存を追加:
typescript、型定義(例:@types/react、@types/node) - tsconfig.jsonを用意:Next.jsは自動生成/自動補完することが多いが、段階移行の方針に合わせて調整
- 最初の変換は“1ファイルだけ”:たとえば小さなコンポーネントを
.jsx→.tsxへ - CIに型チェックを入れる:本番事故を減らす。最初は警告レベルでも良い
- Lint/フォーマットの整備:ESLintでTypeScriptルールを最低限適用し、チームの書き方を揃える
非エンジニアの方が確認すべき成果物は「ビルドが通る」「既存機能の挙動が変わらない」「型チェック(tsc)が回る」「ルールが文書化されている」の4つです。TypeScriptは“書いた瞬間に価値が出る”というより、運用に乗せて継続的に効果が出るので、導入直後は「止まらず回る」ことが重要です。
厳格さ(strict)を段階的に上げる
TypeScriptにはstrictという強いチェックがあります。理想は最終的にstrict: trueですが、既存コードが多いと最初からは厳しすぎます。段階移行では以下のような現実解が多いです。
- 初期:既存コードは緩め(strictを部分的に緩和)、新規コードは厳しめ
- 中期:重要モジュール(API、権限、計算)をstrict寄りに
- 後期:全体をstrictへ。残課題は一覧化して計画的に潰す
「緩めに始める」と聞くと不安かもしれませんが、段階移行の現場では合理的です。なぜなら、強制的に全警告を直すより、バグが起きやすい境界に型を入れる方が費用対効果が高いからです。経営・情シス目線では、ここが投資対効果の分かれ目です。
移行の作業単位を“業務変更”に寄せる
「移行のための移行」をすると、現場は疲弊します。おすすめは、機能追加や不具合修正のタイミングで、その周辺をTypeScript化していく進め方です。例えば「請求書PDFの項目追加」という改修があるなら、該当画面・API・型定義までをセットでTypeScriptにしていきます。こうすると、移行コストが“追加価値の一部”として説明でき、稟議も通りやすくなります。
失敗しやすいポイントと回避策:移行が止まる原因は技術より運用
TypeScript移行が頓挫する原因は、TypeScriptそのものというより「運用設計の不足」であることが多いです。特に中小企業や情シス主導のプロジェクトでは、外注・内製・複数部署が絡み、決め事が曖昧になりやすい傾向があります。ここでは、よくある失敗と回避策をまとめます。
anyだらけで“移行した気分”になる
TypeScriptにはanyという「型チェックを無効化する」便利な逃げ道があります。短期的には助かりますが、放置すると“TypeScriptなのに事故が減らない”状態になります。回避策は、anyを使うときのルールを決め、期限付きの負債として管理することです。
- ルール例:any使用はコメントで理由を書く、次の改修で消す、一覧化する
- 代替:unknown(安全側に倒す)、型ガード、zod等のバリデーション
API仕様が曖昧で型が作れない
フロントとバックエンドの仕様が口頭・Slackベースだと、型を作ろうとしても前提が揺れます。ここはTypeScript移行の“良い副作用”として、API仕様の明文化を進めるチャンスです。APIレスポンスのサンプルと型定義をセットで管理するだけでも効果があります。
Next.js特有の境界(サーバー/クライアント)で混乱する
Next.jsでは、サーバー側で動く処理とブラウザ側で動く処理が混在します。ここで「このコードはどこで動くのか」が曖昧だと、型以前に実装が不安定になります。回避策は、境界を明確にすることです。
- 方針例:データ取得と整形はサーバー側、画面の状態管理はクライアント側に寄せる
- 成果物:どこがサーバーでどこがクライアントか、簡易図にして共有
移行の“責任者”がいない
段階移行は、短距離走ではなくマラソンです。責任者がいないと、日々の開発に押されて移行が止まります。回避策は、移行の定義(Done条件)と毎月の小さな目標を置くことです。「今月はフォーム周りの型を整備」「来月は環境変数とAPIクライアント」など、粒度を小さくすると続きます。
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投資対効果が出やすい移行優先順位:まず型を付けるべき場所
予算はあるが詳しくない、という状況では「どこから着手すると効果が出るか」が最重要です。TypeScriptは全部に型を付けるほど効果が増しますが、最初の成果が見えないと継続が難しくなります。そこで、成果が出やすい優先順位を紹介します。
環境変数・設定値(本番事故の温床)
APIキー、URL、機能フラグなどの設定は、間違えると本番障害に直結します。Next.jsでも環境変数の扱いは頻出で、名前の取り違えや未設定が起こりがちです。ここは型と検証(起動時チェック)を入れると、「デプロイしたら動かない」を事前に潰せるため費用対効果が高いです。
APIクライアント(フロントとバックの接続点)
データ連携のズレは、仕様変更のたびに発生します。APIレスポンスに型をつけ、フロント側の利用箇所まで伝播させると、変更が入った瞬間にコンパイルやエディタが教えてくれます。これは、情シスにとって「仕様変更の影響範囲が見える化される」ことを意味します。
フォーム入力(顧客/従業員の操作ミスも吸収)
申し込み、問い合わせ、申請、登録、検索など、フォームは業務の入口です。必須項目・形式・上限など、現場の運用ルールが詰まっています。TypeScriptの型とバリデーションをセットで整えると、UIの不具合だけでなく、運用上のミスも減ります。現場の問い合わせ対応コスト削減に繋がりやすい領域です。
ドメインロジック(料金・権限・状態遷移)
金額計算や権限判定、ステータス(申請中/承認/却下など)は、一度バグると影響が大きい領域です。ここは型で「あり得ない状態」を表現し、実装を強制的に正しい方向へ寄せると強いです。例として、ステータスを文字列の適当な比較で処理するのではなく、決められた集合として扱うだけでも、仕様漏れが減ります。
これらの優先順位は、Next.jsの画面数が多い場合でも適用できます。画面を全部.tsxにする前に、まず「共通の土台」と「境界」を固める。これが段階移行を成功させる近道です。
まとめ
JavaScriptからTypeScriptへの移行は、システムを止めて大工事する必要はありません。JavaScriptとTypeScriptは共存できるため、価値の高い箇所から段階的に安全性を上げるのが現実的で、費用対効果も出しやすい進め方です。
特にNext.jsはTypeScriptとの相性が良く、導入のハードルは比較的低い一方で、成功の鍵は「技術」より「運用」にあります。ゴール(品質/改修速度/引き継ぎ)を定義し、混在期間のルール(新規はTypeScript、触ったところは改善、例外は明文化)を決めるだけで、移行が止まりにくくなります。
最初に成果を出すなら、環境変数・APIクライアント・フォーム・業務ロジックなど、事故が起きやすい“境界”から型を付けるのがおすすめです。anyの乱用や、API仕様の曖昧さ、責任者不在といった落とし穴を避けつつ、小さな目標を積み上げることで、移行は確実に前進します。
「どこから始めるべきか」「自社のNext.jsの規模だと何ヶ月か」「外注と内製を混ぜても進む設計にしたい」など、状況に合わせて計画を作ることが成功確率を上げます。段階移行は、将来の改修費を抑える“保険”ではなく、日々の開発を安定させる“仕組み”として効いてきます。
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