Excelでできる!AIによる請求書チェック・転記・集計の自動化術
中小企業の経理現場では、毎月送られてくる紙やPDFの請求書を一枚一枚チェックし、Excelに手入力する作業に多くの時間を費やしています。特に月末月初には請求書の山に追われ、「金額の入力ミスがないか」「計算がズレていないか」と何度も確認する請求書処理地獄に陥りがちです。
また、この作業のノウハウが特定のベテラン社員に属人化し、その人が休めないといった問題も指摘されています。2023年のインボイス制度施行や電子帳簿保存法の改正により、請求書に記載すべき項目が増えたり、紙のままでは保存が認められなくなったりと、経理部門の負担は一層重くなりました。
その中で今、AIを活用したOCR技術(AI-OCR)が請求書処理効率化の切り札として大きな注目を集めています。AI-OCRとは、従来のOCRに機械学習の力を組み合わせたもので、様々なレイアウトの請求書でも高精度に文字を読み取り、日付・金額・取引先名といった必要な情報を自動抽出できます。
なぜ今、請求書業務にAIが注目されているのか?
- 中小企業の経理現場では、これまで請求書処理の多くを人手に頼ってきた
- 月末月初の請求書処理地獄で、ミスのリスクも伴う手作業が続いている
- 2023年のインボイス制度施行により、経理部門の負担が一層重くなった
- AI-OCR技術により、請求書データ入力の自動化やチェックの自動化が現実的になった
今あるExcelだけでできる!自動化の仕組みとは?
「AIを使った自動化」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、実は今お使いのExcelだけで請求書処理の自動化は実現できます。ポイントは、ExcelにAI-OCRサービスを組み合わせることです。
例えば、Excelのマクロ(VBA)からクラウドのAI-OCR(MicrosoftのAzure Document Intelligenceなど)に請求書PDFを送信すると、AIがその内容を読み取って会社名・日付・品目・金額などのデータを取得し、自動的にExcelシートへ書き込んでくれます。従来は手入力していた転記作業をAIが代行するイメージです。
Excel上にはいつもの見慣れた表形式でデータが整理されて戻ってくるため、担当者は後から確認・修正もしやすく、普段使っているExcelの延長感覚で導入できます。
基本的にはExcelとネット環境があればOKです。AzureのAI-OCRサービスは月500ページまで無料利用でき、個人事業主や小規模企業なら十分な範囲でしょう。Excelのマクロ機能を使えば、自社の請求書形式や業務ルールに合わせて処理をカスタマイズすることもできます。
ExcelとAIの連携方法
- VBAマクロ:プログラミング知識があれば、ExcelからAI-OCRを呼び出すマクロを作成
- Power Automate:Microsoft 365利用者なら、ノーコードで自動化フローを構築可能
- API連携:クラウドAIサービスとExcelをAPIで連携させて自動処理
こんな作業をAIが代わりにやってくれる!
AIとExcelを組み合わせることで、これまで人が行っていた請求書関連の作業の多くを自動化できます。具体的には次のような作業をAIに任せることが可能です。
請求書データの自動入力・転記
紙やPDFの請求書から会社名、日付、品目、金額などをAI-OCRで読み取り、自動でExcel台帳に入力します。手作業での打ち込みが不要になり、入力ミスも激減します。
数量や金額の照合チェック
AIが請求書の内容と発注書や受入データ(Excelにまとめた社内データ)を自動で付き合わせ、不一致を検出します。例えば「発注数量300に対し請求数量が310になっている」等の差異があれば、自動的にリストアップして教えてくれるので、人が目視で探す手間が省けます。
計算ミス・記入漏れの自動検知
請求書内の計算が正しいか、必要項目が抜けていないかをAIがチェックします。例えば、請求書データをAI(ChatGPTなど)に読み取らせ、「合計金額と内訳の計算に矛盾がないか確認して」と指示すれば、関数では見逃しがちな1円の計算ズレや項目の未記入まで指摘してくれます。
請求情報の自動集計・レポート化
AIが取り込んだ請求データをもとに、Excel上で支払予定額の集計や月次の支出レポート作成まで自動化できます。複数の請求書から合計金額や消費税額を集計表にまとめる作業もボタン一つで完結し、集計ミスも防げます。
AIが自動化できる請求書業務の例
- スキャンまたはPDF化した請求書から自動で金額・日付・取引先を抽出
- Excelシート内のフォーマットチェック・表記揺れ検出・合計金額の整合確認
- 月末に請求データを自動で集計してグラフ化・報告資料の下地を生成
- 「未処理」「重複」などのエラーをAIがコメント付きで指摘
導入ステップ:AI自動化を試してみるために必要なこと
「AI × Excel」での請求書自動化は、適切な手順を踏めば中小企業でも無理なく始められます。以下に、導入までの大まかなステップを示します。
現状業務の棚卸し
まず現在の請求書処理フローを洗い出し、どの作業に時間がかかっているか、ミスが生じやすいかを把握します。例えば「請求書の金額チェックに○時間」「手入力に○時間」など具体的に書き出すことで、AI自動化の効果が高そうな部分(転記や照合など)を特定します。
少量の請求書で試行
すぐに全業務を置き換えるのではなく、まずは手持ちの数枚~十数枚の請求書でテストしましょう。AI-OCRサービスの準備として、Microsoft Azureなどに無料登録し、請求書読み取り機能を使えるようにします(AzureのAI-OCRは月500枚まで無料で利用可能で、まずは費用をかけず試せます)。
Excelでの連携設定
AIの準備ができたら、ExcelからそのAI-OCRを呼び出す仕組みを構築します。プログラミングに自信がある場合はVBAマクロを作成し、APIキーなどを設定して請求書データ取得マクロを組みましょう。初心者の場合、ネット上に公開されているサンプルコードやマクロテンプレートを利用したり、ChatGPTに「ExcelでPDF請求書を読み取るマクロを作成して」と頼んでコード生成してもらう方法もあります。
テスト運用と精度確認
構築した自動化フローを実際に動かし、結果を確認します。Excelに転記されたデータが原本の請求書と合っているか、項目の抜け漏れがないかをチェックしましょう。最初はAIの読み取りミスや想定外のレイアウトによる誤認識が起こる可能性があります。
本格導入と社内周知
テストで有効性が確認できたら、本番の請求書業務に適用してみます。現場の担当者にも手順を共有し、実運用での注意点(例えば「このフォルダにPDFを入れると自動処理される」等)を周知します。初めは念のため自動化結果と手作業結果を突き合わせて検証し、問題なければ徐々に完全自動に移行します。
導入にあたっての注意点
- AIによる読み取り精度は高いとはいえ、100%完璧ではないことは念頭に置く
- 特に初期段階では人間の目による確認と併用し、重大なミスがないかダブルチェックする運用が安心
- 紙の歪みや画像の不鮮明さによって精度が落ちる場合もあるため、スキャンの解像度を上げるなど入力品質にも気を配る
- クラウドAIを使う場合は請求書データの機密性にも注意が必要
コスト削減・ミス削減を実現した中小企業の事例
製造業の「A社」(従業員20名、経理担当1名)では、毎月末に取引先から届く約100枚の請求書を処理する業務に追われていました。担当者は請求書の計算チェックから支払リスト作成までほぼ一人で担っており、月末2~3日はそれだけにかかりきり。手入力ゆえの金額ミスや見落としも年に数件発生し、経営者も「もっと効率化できないか」と頭を悩ませていました。
そこでA社では思い切ってExcel+AI-OCRによる自動化にチャレンジしました。具体的には、請求書をスキャンしてPDF化し、ExcelマクロからAzureのAI-OCRサービスに送り込む仕組みを構築。AIが読み取った請求データは自動的にExcelの支払台帳に転記され、合計金額や消費税の計算もExcelが自動処理します。
さらに、発注書と照合して数量や金額の不一致がないかもチェックし、怪しいものがあれば自動的にハイライトされるようにしました。導入後、担当者の作業はAIが吐き出した結果をざっと確認する程度となり、もし不備が見つかった場合に取引先に連絡する時間に充てられるようになりました。
月末の請求書処理にかかっていた時間はそれまでの20時間からわずか2時間程度へと大幅短縮(約90%の時間削減)され、手作業によるヒューマンエラーもほぼゼロになりました。AIが計算ミスや記入漏れを自動検知してくれるため再発行依頼も激減し、社内のストレスも大きく軽減されています。
コスト面でも、Azureの無料枠内で運用できているため追加費用はほとんどかかっていません。「これまで残業して対応していた月末業務から解放され、他の経理業務や分析に時間を使えるようになった」と担当者は笑顔を見せます。
A社の導入効果
- 処理時間:20時間 → 2時間(90%削減)
- ヒューマンエラー:ほぼゼロに削減
- 再発行依頼:激減
- 追加費用:Azure無料枠内で運用
まとめ:まずは”AI × Excel”で小さく始めよう
請求書業務へのAI活用は、大企業だけのものではありません。むしろ業務リソースに限りがある中小企業こそ、”Excel+AI”という手軽な組み合わせで業務効率化の恩恵を受けるチャンスがあります。
今回解説したように、特別なソフトを買わなくても、今あるExcel環境に少し工夫を加えるだけで転記作業の自動化やチェック業務の省力化が実現できます。まずは身近なところから小さく試し、効果を実感してみてください。
例えば1社分の請求書だけを対象にAI転記をテストしてみる、月末の一部工程だけAIに任せてみる――そんな小さな一歩から始めてみましょう。
導入にあたって不安もあるかもしれませんが、AIは文句ひとつ言わず24時間働いてくれる優秀な経理アシスタントのような存在です。反復的な単純作業はAIに任せ、人間はより創造的な業務や意思決定に注力する。これは決して夢物語ではなく、既に多くの企業で始まっている働き方改革です。
最初から完璧を目指す必要はありません。小さな成功体験を積み重ねながら、徐々にAI活用の幅を広げていけば良いのです。ぜひ”AI × Excel”の自動化をできるところから試してみてください。それが将来の業務プロセス改善への第一歩となるはずです。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
貴社の請求書業務も、AIという新しいパートナーを得て、きっと次のレベルへと進化していくでしょう。
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