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TypeScriptは「バグを減らす魔法」ではないが、事故の型を減らせる
「TypeScriptを入れるとバグが減ると聞いたが、本当?」という質問は、経営層・情シスの方からよく出ます。結論から言うと、TypeScriptは万能薬ではありません。ただし、“バグの種類”を狙って減らせる技術であり、結果として品質の安定と開発スピードの底上げにつながりやすいのは事実です。
TypeScriptは、JavaScriptに「型(データの形)」の情報を追加した言語です。たとえば「この値は文字列」「この関数は数値を返す」といったルールをコード上で明確にします。すると、実行する前(開発中)に「その使い方は危ない」とエラーで教えてくれる場面が増えます。これが、いわゆる“事前に防げるバグ”の削減です。
一方で、TypeScriptでも防げないバグがあります。たとえば仕様の誤り(「割引率の計算式がそもそも間違っている」)や、外部システムの都合(APIのデータが欠けている)、業務フロー理解不足などです。つまり、TypeScriptは「品質活動の一部」であり、要件定義・テスト・運用監視とセットで効果が最大化します。
本記事では、非エンジニアの方でも社内説明・稟議に使えるように、TypeScript導入の効果を「品質」「開発スピード」「運用」の観点で分解し、特にNext.jsのWeb開発においてどう効くかを、実務の言葉で整理します。
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どんなバグが減るのか:現場で多い「痛いミス」を例で理解する
TypeScriptが効きやすいのは、「値の受け渡し」や「データ構造の食い違い」が原因の不具合です。Webシステムでは、画面(フロント)・サーバー(API)・DBがデータをやり取りします。この境界でのミスが、地味に多く、かつ見つけづらいのが特徴です。TypeScriptはこの境界に“チェックポイント”を増やします。
- 項目名の間違い:「customerName」のつもりが「custmerName」になっていて画面に出ない
- 型の違い:数値として扱うべき金額が文字列で渡ってきて計算が崩れる
- Null/未定義の取り扱い:「必ずあるはず」のデータが実際は欠けていて画面が落ちる
- API仕様変更の見落とし:バックエンドでフィールド名が変わったのにフロントが追従していない
例として、受注管理の画面で「合計金額」を表示するケースを考えます。APIが返す「amount」が文字列 “1200” のとき、JavaScriptだと気づかず足し算して “1200100” のような連結になってしまう事故が起こり得ます。TypeScriptでは「amountはnumber」と決めておけば、文字列を渡した瞬間に警告され、修正が早い段階で入ります。
特にNext.jsの開発では、画面側(Reactコンポーネント)・API Routes・サーバーアクション・外部API連携・フォーム入力など、データが行き来する場所が多いです。TypeScriptで「このデータはこういう形」と揃えると、変更に強い構造になり、リリース後の保守が楽になります。
なお、TypeScriptの型は「契約書」のようなものです。契約書があるだけでは取引が成功するとは限りませんが、契約違反(想定外のデータ)が入り込む確率を下げられます。経営・情シスの観点では、“障害の発生確率と復旧コストを下げる”ための投資として説明しやすい領域です。
品質の効果を説明する:KPIは「欠陥密度」より“手戻り”で語る
品質改善を説明するとき、エンジニアは「バグ件数」「欠陥密度」を言いがちですが、非エンジニアには伝わりにくいことがあります。TypeScript導入の効果は、次のように“手戻りの減少”として整理すると理解されやすくなります。
- テスト前に潰せる不具合が増える:レビューや実行前チェックで弾けるため、結合テスト以降の修正が減る
- 影響範囲が見える:型エラーが「どこが壊れたか」を指してくれるので、修正漏れが減る
- 属人化が下がる:口頭説明に頼らず、コード自体が仕様を語る(読み解きやすい)
手戻りには、開発だけでなく社内調整コストも含まれます。たとえば「リリース直前に不具合が見つかり、営業・CS・情シスが一斉に対応」「休日の緊急対応」「ユーザーへのお詫び」「追加請求の交渉」といった負担が発生します。TypeScriptは、こうした“後工程での炎上”を減らしやすい性質があります。
社内説明では、「品質が上がる」よりも、「後から直す作業が減り、予定が読みやすくなる」と伝えるほうが刺さります。予算がある企業ほど、バグ1件の損失(信頼・工数・機会損失)が大きいため、投資判断に直結します。
また、Next.jsはUIの更新頻度が高い案件(キャンペーン、管理画面改善、段階リリース)で採用されやすいフレームワークです。更新が多いほど「小さな変更が別の画面を壊す」リスクが増えます。TypeScriptは変更点を“見える化”するので、品質の安定に寄与します。
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開発スピードは落ちる?結論:最初は遅く、途中から速くなる
導入検討で必ず出る反論が「型を書くと遅くなるのでは?」です。ここは正直に説明するのが重要です。TypeScriptは、導入直後は学習・設定・型付けで、一定のコストが増えます。しかし、多くのチームで中長期的には開発が速くなる傾向があります。
理由は大きく3つあります。
- 調査時間が減る:「この関数は何を返す?」「このオブジェクトに何が入る?」を型が教えてくれる
- リファクタ(整理整頓)がしやすい:変更して壊れた箇所がエラーとして出るため、安心して改善できる
- レビュー効率が上がる:「型として成立しているか」が一定担保され、論点が仕様・設計に寄る
非エンジニア向けには、「Excelの入力規則」に例えると伝わりやすいです。入力規則を作るのは手間ですが、一度作ると入力ミスが減り、確認作業が減り、運用が回ります。TypeScriptも同様に、“確認・問い合わせ・手直し”を減らすことで実質的なスピードを上げます。
Next.jsのプロジェクトでは、画面コンポーネントの再利用やAPI連携が増えるほど、型の恩恵が大きくなります。たとえば「商品」「顧客」「権限」といった共通概念が複数画面にまたがる場合、型が共通言語になり、実装のブレが減ります。
ただし、スピードが上がるには前提があります。型設計が雑だと、any(何でも入る)を多用して形骸化し、効果が薄れます。逆に厳密すぎる型を追求すると、開発が進まないこともあります。重要なのは、業務上の“壊れると困る境界”から優先して型で固める現実的なバランスです。
Next.jsでのTypeScript導入ポイント:どこに効かせると費用対効果が高いか
Next.jsは、画面(React)とサーバー機能が同じプロジェクト内に共存しやすく、TypeScriptと相性が良い構造です。費用対効果を出しやすい「効かせどころ」を、情シス・発注側目線で整理します。
フォーム入力(問い合わせ・申請・受発注)の型を固める
入力フォームは不具合が直接業務影響につながります。TypeScriptで入力データの形を定義し、バリデーション(必須・桁数・形式)と合わせると、「送信できるのに処理できない」事故が減ります。申請ワークフローやECの注文など、ミスが売上・オペレーションに直結する領域は最優先です。
APIの入出力(社内システム・外部SaaS連携)を契約化する
Next.jsで社内APIや外部サービス(CRM、会計、決済、在庫)と連携する場合、相手側の仕様変更が起こります。TypeScriptでレスポンスの形を定義しておくと、変更時に影響箇所が見つけやすいです。「静かに壊れて気づくのが遅い」タイプの障害を減らせます。
権限・ロール(情シスが気にする統制)を型で表現する
管理画面では「閲覧のみ」「承認者」「管理者」など権限が複雑化しがちです。TypeScriptで権限の種類や許可される操作を表現しやすく、実装の抜け漏れを減らせます。統制の観点では、“想定外の操作ができてしまう”リスクを抑える説明がしやすいです。
UI部品の再利用(複数部署・複数画面)を安全にする
Next.jsのUIコンポーネントは再利用されます。TypeScriptでコンポーネントの受け取るデータを定義すると、使い回しの際の誤用が減り、見た目崩れや表示欠けを防げます。UI改善を高速に回したい企業ほど、“変更しやすいが壊れにくい”状態が価値になります。
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導入手順(非エンジニア向け):稟議で説明できる現実的な進め方
TypeScript導入は「全部一気に置き換え」より、段階導入が現実的です。特に既存システムが動いている場合、リスクと費用をコントロールする必要があります。ここでは、発注側・情シス側が説明しやすい導入ステップを示します。
- 対象範囲を決める:新規機能から入れるのか、既存の一部(フォーム、API、管理画面)から入れるのかを決定
- TypeScriptの厳しさ設定を調整:最初は厳しすぎない設定で開始し、慣れたら段階的に強化
- “境界”から型を付ける:API入出力、フォーム、権限など壊れると困る部分を優先して型定義
- レビュー基準を整える:any乱用禁止、型の責務(どこに定義するか)を簡単にルール化
- CIで自動チェック:ビルド時に型エラーを検出し、品質を仕組みで担保
- 運用で効果測定:リリース後の不具合原因を分類し、TypeScriptで防げたかを振り返る
稟議での表現としては、「TypeScriptを入れます」より、「変更に強い設計にして、リリース後の手戻りを減らします」のほうが伝わります。合わせて、定量指標を置くと説得力が上がります。
- リリース後1か月の不具合件数(種類も分類:入力・API・権限・表示)
- 不具合1件あたりの復旧時間(調査→修正→確認→再リリース)
- 改修のリードタイム(要望から本番反映まで)
さらに、外部委託の場面では「ベンダーが変わっても保守できるか」が重要です。TypeScriptはコードの意図を明確にしやすく、引き継ぎ時のブラックボックスを減らします。これは情シスが抱える長期リスク(属人化・委託先固定化)への対策にもなります。
失敗しがちなポイント:TypeScriptを入れても品質が上がらないケース
期待値を正しく持つために、導入でつまずきやすい点も押さえます。TypeScriptは道具なので、使い方を誤ると効果が薄れます。
- anyだらけ:「とりあえず動かす」でanyを多用すると、型チェックが機能しない
- 型が仕様とずれる:実際のAPIや業務ルールが変わったのに型定義が更新されず、混乱する
- 型を厳密にしすぎ:理想の型を追いすぎて実装が進まず、現場が疲弊する
- テストやレビューが弱い:型で防げないバグ(仕様ミス、画面遷移、権限の抜け)を放置する
対策はシンプルで、「守るべき境界を決め、そこは厳しく、内部は柔軟に」です。たとえば外部APIのレスポンス、ユーザー入力、権限判定などは厳しめに型を定義し、画面表示用の加工処理などは現実的な範囲で型を整えます。
Next.jsの場合、サーバーとフロントが同居する分、「どこに型を置くか」の設計が重要です。型定義が散らばると、更新漏れが起きます。共通の型フォルダを設ける、APIごとに入出力型をまとめる、といったルールがあるだけで運用品質が上がります。
また、導入の成功は技術力だけでなく、プロジェクト運営にも依存します。要件が頻繁に変わるなら、変更に強い設計と小さく出すリリース運用(段階公開、計測)が必要です。TypeScriptはその“変更耐性”を支える要素として位置づけると、投資対効果が説明しやすくなります。
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まとめ
TypeScriptは「バグがゼロになる技術」ではありませんが、データの食い違い・受け渡しミスといった“防げる不具合”を開発中に潰せるため、品質と開発スピードの両面で効果が出やすい選択肢です。特にNext.jsのように画面とサーバーの開発が密接な環境では、フォーム・API・権限・共通部品といった境界に型を効かせることで、変更に強いプロダクトになります。
社内説明では「バグ件数が減る」よりも、「後工程の手戻りが減って、リリース計画が読みやすくなる」「運用障害の復旧コストが下がる」といった言い方が伝わりやすいです。導入は段階的に進め、anyの乱用を防ぐルールと自動チェックを整えることで、投資対効果を高められます。
もし「既存システムを止めずにTypeScriptへ移行したい」「Next.jsでの開発を内製と外注の両方で回したい」「情シスとして統制とスピードを両立したい」といった状況であれば、現状のコード・運用・体制を踏まえた導入設計が重要です。小さく始めて確実に成果を出す進め方も含め、検討材料として整理してみてください。
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