RAGとファインチューニングの違い:社内活用で失敗しない方式選定のやり方

RAGとファインチューニングは「目的」が違う:まずは誤解を解く

社内で生成AIを使おうとすると、よく出てくる選択肢がRAG(検索拡張生成)とファインチューニングです。どちらも「社内データを使って賢くする」方法に見えますが、実は得意分野がかなり違います。ここを取り違えると、予算と期間をかけたのに「結局、現場で使われない」状態になりがちです。

RAGは「社内資料を探して根拠つきで答えさせる」ための仕組みです。AIが回答する前に、社内の規程、マニュアル、議事録、FAQ、設計書などから関連箇所を検索して、その内容を見ながら回答します。イメージは「社内ナレッジ検索+文章作成」。情報が更新されても、検索対象の資料を入れ替えれば追従しやすいのが特徴です。

一方、ファインチューニングはモデル自体の“クセ”や“判断の型”を学習させる手段です。たとえば「この問い合わせはどのカテゴリに分類するべきか」「この文章を当社のトーンに整える」といった、出力形式や判断パターンを安定させるのが得意です。ただし、学習した時点の知識がモデルに焼き込まれるため、最新情報の反映は別途手当が必要になります。

よくある誤解は、「社内の文書をAIに覚えさせたい=ファインチューニング」と考えてしまうことです。実務では、社内文書は頻繁に改訂されます。覚えさせる(学習する)より、参照させる(検索して読む)ほうが運用しやすいケースが多く、まずはRAGを第一候補に置くのが定石です。

  • RAG:“その場で資料を探して読ませる”。根拠提示・最新反映に強い
  • ファインチューニング:“判断や文体の型を覚えさせる”。一貫性・自動分類・定型化に強い
  • 現実解:どちらか一方ではなく、RAG+軽いチューニング(プロンプトやルール)で十分なことが多い

3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら

それぞれ何ができて、何が苦手か:現場の「困りごと」別に整理

方式選定は、技術の流行ではなく「現場の困りごと」から逆算するのが最短です。ここでは、情シス・管理部門・業務部門で起きやすい課題を軸に、RAGとファインチューニングの向き不向きを整理します。

社内規程・手順書・マニュアルの問い合わせ対応

「出張精算の条件は?」「この契約書のひな形は?」「手続きの手順は?」のように、“社内のどこかに答えが書いてある”問い合わせはRAG向きです。回答に根拠(参照した文書の該当箇所)を添えられると、監査対応や説明責任の面でも強いです。逆にファインチューニングで文書内容を覚えさせようとすると、改訂時に再学習が必要になり運用負荷が上がります。

問い合わせの振り分け、分類、テンプレ返信の整形

メールやチケットを「経理」「人事」「情報システム」などに振り分けたり、一定のテンプレで返信文を整えたりする用途は、ファインチューニングが効く場面があります。特に「この例ではこのラベル」「この条件ではこの定型文」といった教師データ(正解例)が揃っている場合、出力のブレが減りやすいです。ただし、最近はプロンプト設計とルールベースでも相当な精度を出せるため、いきなり学習に入らず、段階的に検討するのが安全です。

社内の“独自用語”や製品仕様を踏まえた回答

「社内略語が多い」「製品の型番・仕様が複雑」「過去の障害対応の経緯が散らばっている」など、ナレッジが資料に存在するならRAGが本命です。検索対象の文書を整備し、適切な粒度で分割して取り込むことで、AIが“知っているふり”をしにくくなります。

社内データが少ない・資料が整っていない

この場合は方式以前に、土台作りが必要です。RAGは検索できる資料がないと力を発揮しませんし、ファインチューニングは教師データがないと精度が上がりません。まずは「何を、誰が、どのルールで更新するか」まで含めた情報整備から始めるのが現実的です。最初は小さく、特定業務(例:総務の問い合わせ)に絞って、文書を集めるところから段階導入する企業が増えています。

社内活用で失敗しない方式選定:判断基準チェックリスト

「RAGとファインチューニング、どっちが正解?」という問いに対して、万能解はありません。ただし、予算がある情シス・管理部門でもつまずきやすいポイントは共通しています。ここでは失敗しにくい判断基準をチェックリスト形式でまとめます。

  • 最新情報が重要か:規程・価格・手順など更新が多いならRAGが有利
  • 根拠提示が必要か:「どの文書のどこに書いてあるか」を示したいならRAG
  • 回答の“型”を固定したいか:分類・定型出力・文体統一ならファインチューニング(または強いプロンプト)
  • 正解データ(教師データ)があるか:過去チケットにラベル付けがあるなら学習が活きる
  • 社内文書の品質はどうか:重複・古い版・表現ゆれが多いなら、まず整理しないとRAGも不安定
  • セキュリティ要件:取り扱う情報区分、ログ保管、権限制御の必要性を先に決める
  • 運用体制:文書更新、アクセス権、回答品質の改善を誰が回すか

実務では、最初からファインチューニングに踏み切ると「学習データの作成」「評価」「再学習」のコストが読みにくく、長期化しがちです。特に非エンジニア主導の社内導入では、まずRAGで“使える”状態を作り、必要なら追加で学習を検討する流れが堅実です。

また、方式選定の前に「何をKPIにするか」も決めてください。問い合わせ工数を減らしたいのか、回答の誤りを減らしたいのか、教育コストを下げたいのかで、最適解が変わります。KPIが曖昧だと、PoCは成功したのに本番で止まる典型パターンになります。

3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら

RAG導入の進め方:非エンジニアでも押さえたい実務ポイント

RAGは「社内文書を読ませて回答する」仕組みなので、導入時の勝負どころはモデル選定よりも、文書の扱い方と検索設計です。ここを外すと「それっぽいけど違う」回答が増え、現場の信頼が落ちます。

ステップ:小さく始めて、検索の精度を上げる

  1. 対象業務を絞る:例)総務・人事の社内問い合わせ、情報システムの申請手続きなど
  2. 文書を集める:最新版・正本を決め、古い版や重複を整理する
  3. 文書を分割して取り込む:章・見出し単位など、回答に引用しやすい粒度にする
  4. 検索と回答のテスト:よくある質問20〜50個で、根拠が正しいか確認する
  5. 運用ルールを決める:改訂時の更新手順、閲覧権限、ログの扱い

特に重要なのは「文書の正本管理」と「分割粒度」です。たとえば就業規則のPDFを丸ごと入れるだけだと、検索で該当箇所が引けず、AIが一般論で埋めてしまうことがあります。“引用しやすい単位”に整えることで、回答の根拠が安定し、誤回答も減ります。

失敗しがちなポイント:アクセス権と“見せてはいけない情報”

社内では部署ごとに見える資料が違います。RAGは検索して文書を参照するため、権限制御が甘いと情報漏えいにつながります。情シスとしては、文書の機密区分とユーザー権限を先に定義し、部署・役職単位で検索対象を出し分ける設計が必要です。

もう1つは「AIが参照した文書の提示」です。根拠として該当箇所を表示できると便利ですが、そこに個人情報が含まれていると危険です。RAGの対象文書は、原則として業務ルールやマニュアルなど、横断利用して問題ない情報に寄せ、個人情報を含む資料は除外するか、マスキングを検討してください。

現場定着のコツ:回答の“出し方”を設計する

RAGは精度だけでなく、UIや運用で体験が大きく変わります。たとえば、回答の末尾に「参照した社内文書」「適用条件」「例外」をセットで出すと、現場は安心して使えます。逆に、結論だけを断言されると不安になり、利用が止まります。“根拠+条件+次の行動”まで一体で出す設計が定着の近道です。

ファインチューニング導入の進め方:やるならここまで決める

ファインチューニングは、正しく使えば強力ですが、準備が甘いと「学習したのに期待した動きをしない」「更新に追いつけない」となりやすい領域です。情シスや管理部門が主導するなら、学習データと評価の設計が成否を分けます。

向いているケース:判断のブレを減らしたい

代表例は、問い合わせのカテゴリ分類、重要度判定、要約のフォーマット統一、社内文体への整形です。たとえば「A条件なら必ずこの案内を入れる」といった、ルールに近い判断を大量に行っている業務では、学習で一貫性が出やすいです。逆に「最新の規程を参照して答える」用途は、学習だけで追従しづらく、RAG併用が前提になります。

最低限必要なもの:教師データと評価セット

ファインチューニングで必要なのは「入力→望ましい出力」のペアです。これが少ない、または品質がバラバラだと、モデルの挙動も安定しません。さらに、学習して終わりではなく、改善のために「評価セット(テスト問題)」が必須です。評価がないと、良くなったのか悪くなったのか判断できないからです。

  • 教師データ:できれば数百〜数千件。まずは100件でも試す価値はあるが過信しない
  • 評価セット:現場の難問・例外・境界ケースを含めて作る
  • 更新計画:半年ごとか、ルール改定時か、再学習のトリガーを決める

コストの考え方:学習費より“データ整備費”が効く

予算がある企業ほど見落としがちなのが、学習そのものよりも「データ作成・ラベル付け・レビュー」に工数がかかる点です。現場が忙しいとデータが集まらず、いつまでも学習に入れません。最初に誰が、何時間で、どの粒度の正解を作るかを決め、業務として確保するのが重要です。

なお、機密情報を学習に使う場合は、契約面(データの取り扱い、保存期間、二次利用の有無)や、社内規程との整合も必要です。技術よりもガバナンスで止まるケースが多いので、早い段階で法務・セキュリティと合意形成しておくとスムーズです。

3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら

よくある失敗パターンと回避策:PoC止まりにしない

最後に、RAGとファインチューニングの社内導入で起きやすい失敗を、回避策とセットでまとめます。非エンジニアの意思決定者ほど「デモで動いた=成功」と見えやすいため、ここを押さえるだけでも成功確率が上がります。

  • 失敗:「とりあえず全社文書を入れる」→検索がノイズだらけで精度が落ちる
    回避:対象業務を絞り、正本・最新版・重要文書から段階的に拡張する
  • 失敗:根拠が示せない回答で現場が信用しない
    回避:RAGで参照箇所を提示し、「条件」「例外」「次アクション」も出す
  • 失敗:権限制御が後回しで、情報管理に不安が残る
    回避:機密区分、部署別の検索範囲、ログ設計を最初に決める
  • 失敗:ファインチューニングに着手したが教師データが集まらない
    回避:既存チケット・メールの棚卸し、ラベル付けの業務化、評価セットの先行作成
  • 失敗:導入後に改善サイクルが回らない
    回避:問い合わせ削減率、一次回答率、誤回答率などKPIを決め、月次で見直す

社内AIは「作って終わり」ではありません。文書が更新され、業務ルールが変わり、人も入れ替わります。だからこそ、運用設計(更新・権限・評価)まで含めて方式を選ぶことが、失敗しない一番の近道です。

まとめ

RAGとファインチューニングは、どちらが上位という関係ではなく、目的が違う手段です。社内文書の問い合わせ対応や最新情報の参照、根拠提示が必要な用途ではRAGが強く、分類や定型出力など“判断の型”を安定させたい用途ではファインチューニングが選択肢になります。

  • RAGが向く:社内規程・手順・製品ナレッジなど「文書に答えがある」業務。更新が多いほど有利
  • ファインチューニングが向く:分類・文体統一・テンプレ化など「出力の型」を固定したい業務
  • 進め方:まずは小さくRAGで業務効果を出し、必要に応じて学習を検討すると失敗しにくい

方式選定で迷うときは、「最新性」「根拠提示」「教師データの有無」「運用体制」の4点に立ち返ると判断がブレません。社内導入は技術だけでなく、情報整備と運用設計が成果を左右します。

株式会社ソフィエイトのサービス内容

  • システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
  • コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
  • UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
  • 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い

3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら

自動見積もり

CONTACT

 

お問い合わせ

 

\まずは15分だけでもお気軽にご相談ください!/

    コメント

    この記事へのコメントはありません。

    関連記事