Contents
- 1 RAGとは?「社内資料を参照して答える」仕組みをやさしく理解する
- 2 RAGが効く業務・効かない業務:導入前に見極めるチェックリスト
- 3 用途別ユースケース:バックオフィス(総務・人事・経理)でのRAG活用
- 4 用途別ユースケース:情シス・ヘルプデスク・セキュリティ運用でのRAG活用
- 5 用途別ユースケース:営業・カスタマーサポート・社外向け回答でのRAG活用
- 6 用途別ユースケース:開発・製造・プロジェクト管理(設計書・議事録・ノウハウ)でのRAG活用
- 7 「用途別に整理する」ための進め方:ユースケース棚卸しテンプレと優先順位の付け方
- 8 導入時の注意点:データ整備・権限・精度評価・運用でつまずかないために
- 9 まとめ
RAGとは?「社内資料を参照して答える」仕組みをやさしく理解する
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、生成AIが回答を作る前に、社内のドキュメントやデータベースから関連情報を検索(Retrieval)し、その内容を根拠として文章生成(Generation)する仕組みです。ChatGPTのように“それっぽい文章”を作れるだけでなく、社内規程、手順書、議事録、FAQ、契約書など「自社固有の情報」に基づいて回答できるのが特徴です。
たとえば、通常の生成AIに「経費精算のルールは?」と聞くと、一般論は答えられますが、あなたの会社の規程は知りません。一方、RAGなら「自社の経費規程PDF」「経費精算の運用マニュアル」「過去の差戻し例」を参照して答えられます。つまり、RAGは“社内向けのAIアシスタント”を現実的にするアプローチです。
よくある誤解として「RAG=社内データをAIに学習させること」と思われがちですが、必ずしも学習(ファインチューニング)を行う必要はありません。RAGは検索で必要な情報を取り出し、回答時に引用材料として使います。このため、導入のハードルが比較的低く、更新にも強い一方で、設計を誤ると「関係ない文書を拾う」「肝心の根拠が見つからない」といった問題も起こります。
押さえるべきポイント
- RAGは「社内情報を検索してから回答する」仕組み
- 学習よりも“参照”が中心なので更新がしやすい
- 成功の鍵は、ユースケース設計とデータ整備(どの文書を、どう探せる形にするか)
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RAGが効く業務・効かない業務:導入前に見極めるチェックリスト
RAGは万能ではありません。社内業務で効果が出やすいのは「答えの根拠が社内資料として存在する」かつ「問い合わせや調査が繰り返し発生する」領域です。逆に、根拠が資料化されていない、あるいは判断が人の裁量に強く依存する業務では、RAGの価値が出にくくなります。
まずは“検索で答えが出る業務か”という視点で、RAGに向くかどうかを仕分けしてください。以下は見極めのためのチェックリストです。
RAGが効きやすい業務の特徴
- 根拠が文書化されている(規程、マニュアル、FAQ、議事録、設計書、契約書など)
- 問い合わせが多い/属人化している/調査に時間がかかる
- 回答に“最新の社内情報”が必要(改訂が頻繁)
- 一度答えを作れば横展開できる(部門が違っても同様の質問が出る)
RAGが効きにくい業務の特徴
- 根拠が暗黙知で、資料がない(「ベテランが知っている」)
- 一次情報がリアルタイムに変動する(在庫や当日の進捗など)※別の連携が必要
- 評価・意思決定が主で、正解が一つでない(採用可否、投資判断など)
ただし「効きにくい業務」でも、分解すればRAGが使えることがあります。例えば投資判断そのものは難しくても、「過去案件の稟議書を横断検索して類似事例を提示する」「ルール違反のチェック観点を出す」など、判断を補助する形で価値が出ます。重要なのは、RAGに“結論を出させる”のではなく、根拠探し・要点整理・たたき台作成を任せる設計にすることです。
用途別ユースケース:バックオフィス(総務・人事・経理)でのRAG活用
バックオフィスはRAGの効果が出やすい代表領域です。理由は、規程・申請手順・テンプレ・過去対応といった「参照すべき社内文書」が多く、問い合わせが日々発生するためです。特に中小企業では担当者が少なく、問い合わせ対応で時間が溶けがちですし、大企業の情シスでも「何がどこに書いてあるか」を案内する負荷が積み上がります。
よく効くユースケース例
- 社内FAQボット:就業規則、出張規程、福利厚生、経費精算、購買申請などの質問に回答
- 申請ナビゲーション:「このケースはどの申請?どの様式?承認ルートは?」を案内
- 規程の要点整理:改訂版の差分要約、周知文の下書き、注意点の箇条書き
- 監査・内部統制の一次調査:該当規程の検索、チェックリストの作成、根拠箇所の提示
ここでの設計のコツは「回答は短く、根拠リンク(または根拠抜粋)を必ず出す」ことです。RAGは検索結果を材料に生成しますが、利用者が安心して使うためには、“どの文書のどの部分に基づく回答か”が見える必要があります。
導入手順の具体例(最小構成)
- 対象業務を1つに絞る(例:経費精算)
- 参照元を確定(規程PDF、手順書、よくある差戻し理由、申請フォーム説明)
- 文書の版管理を決める(最新版フォルダ、改訂履歴、公開日)
- 「質問テンプレ」を作る(例:誰が、いつ、何をしたいか)
- 回答の運用ルールを定義(最終判断は規程原本、例外は担当へエスカレーション)
バックオフィスは個人情報が含まれることも多いので、アクセス制御が重要です。RAGで人事資料を参照するなら、部署・役職で閲覧可能な文書を分け、検索対象も分離します。「RAGに入れる文書=全社員に見せてよい」ではありません。まずは公開可能な規程・手順から始めるのが安全です。
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用途別ユースケース:情シス・ヘルプデスク・セキュリティ運用でのRAG活用
情シスやヘルプデスクは、RAGの導入効果が数字で出やすい領域です。問い合わせの多くが「手順」「設定」「エラー対応」「申請案内」「社内ルール」に集中し、ナレッジが散らばりがちだからです。RAGを使うと、散在する情報を横断検索し、回答を自然文で返せます。
よく効くユースケース例
- 問い合わせ一次対応の自動化:VPN/メール/端末設定、パスワード、アカウント申請、ソフト導入手順
- 社内システムの操作支援:SaaSの使い方、社内ポータルの手順、よくあるミスの防止
- 障害対応の初動支援:過去障害の原因・復旧手順・切り分け観点の提示
- セキュリティ規程の案内:持ち出しルール、端末紛失時対応、インシデント報告フロー
情シス領域で特に重要なのが「正確性」と「現場で使える手順性」です。単に説明するだけでなく、“次に何をクリックするか”“どの画面で何を入力するか”まで具体的に示すと価値が上がります。そのため、参照元には文章だけでなく、手順書(画面キャプチャ付き)や運用Runbook、チケットの解決メモなどを含めると効果的です(画像はRAGに入れにくい場合もあるため、テキスト化や代替説明があると望ましいです)。
失敗しやすいポイントと対策
- 情報が古い:旧手順が混ざると事故になる。→フォルダ分離、改訂日でフィルタ、旧版は検索対象から除外
- 製品名・略称が揺れる:同じものを別名で呼ぶ。→同義語辞書、タグ付け、用語集を整備
- 権限の問題:管理者向け手順が一般社員に出る。→文書の閲覧権限と検索範囲をロールで制御
また、情シスは「RAG+業務システム連携」に発展しやすい領域です。RAG単体では“調べて答える”までですが、次の段階では「申請の下書きを作る」「チケットの分類案を出す」「対応テンプレを作る」など、運用の一部を加速できます。ここでも、RAGは自社のルールや過去対応を参照しながらたたき台を作れる点が強みです。
用途別ユースケース:営業・カスタマーサポート・社外向け回答でのRAG活用
営業やカスタマーサポートでは、提案資料・製品仕様・価格表・契約条件・過去QAなど、参照すべき情報が多い一方で、回答速度が求められます。RAGを使うと、社内の情報を横断して要点を抜き出し、顧客向けの文章に整形できます。特に「担当者によって回答品質がブレる」「新人が立ち上がるまで時間がかかる」といった課題に効きます。
よく効くユースケース例
- 問い合わせ回答の下書き:製品の仕様、対応可否、制約事項、運用要件を社内資料から整理
- 提案書・RFP回答支援:過去提案の類似記述を集め、顧客要件に合わせて編集
- 価格・契約条件の確認:割引ルール、標準SLA、免責、セキュリティ回答(SOC2等)
- ナレッジの統合:FAQ、リリースノート、既知の不具合、回避策を一箇所に集約して検索
社外向けの用途では、「言ってはいけないこと」を防ぐガードレールが必須です。たとえば、未公開機能の言及、契約上の約束、誤った仕様断定はリスクになります。対策としては、RAGの参照元を「公開してよい文書」に限定する、回答テンプレに免責(最終確認は担当)を入れる、価格や納期は“推定”ではなく“参照できる条件のみ”で答える、といった設計が有効です。
社外向けRAGの運用ルール例
- 参照元は「公開可」「社外回答可」タグが付いた文書のみ
- 仕様・契約・価格は根拠抜粋を必ず添える(社内確認の導線も用意)
- 回答をそのまま送らず、担当者が最終編集する前提にする
営業・CSのRAGは、単なる時短だけでなく「回答の標準化」「属人化の解消」「コンプライアンス担保」に効きます。つまり、RAGは“早くする”だけでなく、「安心して速くする」ための仕組みとして設計するのがポイントです。
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用途別ユースケース:開発・製造・プロジェクト管理(設計書・議事録・ノウハウ)でのRAG活用
開発部門や製造、プロジェクト管理でもRAGは強力です。ただし、ここでの価値は「自動でコードを書く」よりも、「情報探索と整理のコストを下げる」ことにあります。設計書、仕様変更履歴、議事録、障害報告、手順書、品質基準などが散在していると、引き継ぎや調査に多大な時間がかかります。
よく効くユースケース例
- 設計・仕様の検索:要件、IF仕様、例外処理、非機能要件を文書横断で探す
- 議事録の要点抽出:決定事項、未決事項、宿題、担当者、期限を抽出して一覧化
- 障害ナレッジ検索:類似障害、原因、暫定対応、恒久対応、再発防止策を提示
- レビュー支援:過去の指摘傾向やチェック観点を参照してレビュー観点を生成
非エンジニアの方に伝えると、これは「社内の設計書や議事録を、質問すれば即座に探して要点をまとめてくれる」状態です。たとえば「この機能のエラーハンドリングはどこに定義がある?」「過去にこの顧客で似た要望はあった?」といった質問に、RAGが文書を引いて回答します。
注意点は、ドキュメントの品質がそのまま回答品質に反映されることです。古い仕様書が残っている、議事録の書式がバラバラ、ファイル名だけでは内容が分からない、といった状態だとRAGが迷子になります。“AIを入れる前に片付ける”のではなく、まずは「検索されやすい最低限の整備(タイトル・日付・対象システム・版)」から始めると現実的です。
整備の最低ライン例
- ファイル名:YYYYMMDD_案件名_議事録_v1 など
- 冒頭にメタ情報:対象/版/作成者/更新日/関連チケット
- 変更履歴の記載(古い版を検索対象から外す判断材料になる)
「用途別に整理する」ための進め方:ユースケース棚卸しテンプレと優先順位の付け方
RAGで何ができるかを考えるとき、ユースケースを思いつきで列挙すると「PoCはしたが使われない」になりがちです。用途別に整理するコツは、業務を「質問の型」で分解し、次に「参照元」を確定し、最後に「効果」と「リスク」で優先順位を付けることです。ここまでやると、情シスが主導しても現場に刺さる企画になります。
ユースケース棚卸し(テンプレ)
- 用途カテゴリ:バックオフィス/情シス/営業CS/開発PJ/法務など
- 質問の型:「ルールを知りたい」「手順を知りたい」「過去事例を探したい」「差分を把握したい」
- 想定ユーザー:誰が使うか(全社員、部門限定、管理者)
- 参照元:文書の種類・保存場所・更新頻度・版管理の有無
- 期待効果:削減時間、対応件数、教育工数、品質向上、リスク低減
- リスク:誤回答の影響、機密、個人情報、誤った公開
- 運用:更新担当、月次レビュー、改善フロー(誤回答のフィードバック)
優先順位は、次の観点でスコアリングすると判断しやすくなります。
- 頻度:月に何回発生する質問か(多いほど優先)
- 調査コスト:1回あたり何分かかるか(長いほど優先)
- 根拠の明確さ:文書で答えられるか(明確ほど優先)
- 誤回答の影響:ミスが事故になるか(影響が大きいものは慎重に、まずは“案内+根拠提示”にする)
さらに、現場定着を狙うなら「入口」を作るのが重要です。チャットツール(Teams/Slack)に置く、社内ポータルの検索窓にする、問い合わせフォームの前段に置く、など、利用者が“いつもの導線”で使えると利用率が上がります。RAGは技術よりも、業務導線と運用設計で勝負が決まります。
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導入時の注意点:データ整備・権限・精度評価・運用でつまずかないために
RAGの導入でつまずくポイントは概ね4つです。データ、権限、精度評価、運用です。ここを最初に押さえると、PoCから本番までの移行がスムーズになります。
データ整備:まずは“勝てる文書”から
RAGは参照元の品質に依存します。最初から全社の共有フォルダを入れるとノイズが増え、精度が落ちます。最初は「規程」「手順書」「FAQ」など、答えが明確で版管理しやすい文書に限定し、対象範囲を段階的に広げるのが安全です。
権限:誰が何を参照できるかを“先に”決める
RAGは検索して文書を見つけるため、検索対象に入れた時点で情報漏えいリスクが生まれます。部署別・役職別・プロジェクト別のアクセス制御を設計し、必要ならRAGを複数系統に分けます。特に人事・法務・個人情報を含む領域は、スモールスタートでも慎重に進めるべきです。
精度評価:正解率より“業務で困る誤り”を潰す
評価は「テスト質問集」を作り、根拠が適切か、回答が誤解を招かないかを見ます。重要なのは、少しの言い回し違いよりも「誤った断定」「根拠の取り違え」「古いルールの採用」といった業務事故につながる誤りを潰すことです。運用ルールとして、回答に根拠抜粋を含め、例外は担当に誘導する導線を入れるとリスクが下がります。
運用:更新と改善の担当を決める
RAGは入れて終わりではなく、文書更新に追随し、誤回答を改善する運用が必要です。最低限、次を決めてください。
- 文書更新の責任者:規程改訂時にRAG側も更新される流れ
- 問い合わせログの分析:検索できない質問をFAQ化、文書不足を補う
- 品質レビュー:月次で誤回答・危険回答を点検し、参照元やプロンプトを調整
ここまで整えると、RAGは「検索が上手いチャット」から「社内の知識基盤」へ育っていきます。“答えを作るAI”ではなく“根拠を引いて説明する仕組み”として位置づけると、現場の納得感も得やすいです。
まとめ
RAGは、生成AIに社内情報を“参照させて”回答させる仕組みで、規程・手順・FAQ・議事録・設計書などを活用した社内業務の効率化に向いています。特にバックオフィス、情シス・ヘルプデスク、営業・CS、開発・プロジェクト管理では「探す・まとめる・案内する」作業を大きく削減できます。
一方で、RAGの成否は技術だけでは決まりません。用途別にユースケースを整理し、参照元を絞ってスモールスタートし、権限と運用を先に設計することが、PoC止まりを避ける近道です。まずは「頻度が高い」「根拠が明確」「リスクが低い」業務から始め、改善サイクルで範囲を広げていきましょう。
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