Contents
RAGとは?「社内データを参照して答えるAI」という理解でOK
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、生成AI(ChatGPTのような文章生成)に「検索(Retrieval)」を組み合わせ、社内の文書・ナレッジを参照しながら回答させる仕組みです。ざっくり言えば「AIが勝手に想像で答えるのではなく、根拠となる資料を引いて答える」イメージです。
たとえば、就業規則・社内手順書・製品マニュアル・契約書のひな形・FAQ・議事録などが社内に散在しているとき、RAGを使うと「その資料のどこに書いてあるか」を踏まえた回答を期待できます。情シスや管理部門の問い合わせ対応、営業の提案資料作成の下調べ、コールセンターの応対支援など、情報参照が中心の業務で効果を出しやすいのが特徴です。
一方で、RAGは魔法ではありません。検索対象のデータが古い・間違っている・見つけにくい形で保存されている場合、AIはそれを参照してしまいます。つまり、RAGの品質は「データの品質」と「検索の設計」に強く依存します。導入前に「どの業務に向くか」「どこで失敗しやすいか」を見分けることが、コストと期待値ギャップを減らす最短ルートです。
この記事では、開発の専門知識がなくても判断できるように、RAGが向く業務・向かない業務の特徴、適用可否のチェックリスト、PoC(小さな実証)の進め方、運用でつまずくポイントを、業務シーンに即して整理します。
3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら
RAGが向く業務の特徴:答えが「社内のどこかにある」仕事
RAGが力を発揮するのは、結論がゼロから創造されるのではなく、既存の文書・ルール・事例から「探してまとめる」ことが本質の業務です。日々の問い合わせ対応や、判断根拠を示す必要がある仕事は特に相性が良いです。
向くパターン
- 問い合わせ対応:情シスへの「VPNつながらない」「アカウント申請は?」、総務への「慶弔休暇の条件は?」など、社内規程・手順書に答えがある
- 文書検索・要約:契約書・仕様書・議事録・監査資料など、読む量が多く、必要箇所を抜き出したい
- 手順の案内:経費精算、購買申請、入退社手続きなど、定型フローがあり案内のブレを減らしたい
- ナレッジ継承:ベテランが頭の中に持つ「過去の対応履歴」をFAQ化・文書化して参照させたい
- 営業・CS支援:製品マニュアルや過去事例から、回答・提案のたたき台を作る
共通点は「情報がすでに社内に存在する」ことです。RAGは、社内ポータルの検索よりも会話形式で辿り着けるため、利用者にとっては「聞けば答えてくれる」体験になります。結果として、問い合わせ件数の削減や、対応の標準化、探す時間の短縮が狙えます。
また、RAGは「根拠の提示」にも向きます。たとえば「その結論はどこに書いてある?」と聞かれたときに、参照元の文書名や該当箇所を示せる設計にすると、社内の信頼性が上がります。意思決定の説明責任が必要な部門ほど、RAG導入の価値を感じやすいでしょう。
RAGが向かない業務の特徴:正解が文書にない・変化が激しい・リスクが重い
RAGは「検索して根拠を集め、文章にまとめる」ことが得意ですが、逆に言えば、根拠が存在しない・根拠が毎日変わる・根拠が曖昧だと、期待どおりに動きません。特に、ミスが重大事故や法令違反につながる領域は、RAG単体に任せるのは危険です。
向かない(または慎重にすべき)パターン
- ゼロからの最適化:需要予測、価格最適化、在庫最適化など、統計モデルや因果・制約が必要な仕事
- リアルタイム性が極端に高い:刻々と変わる市況・障害対応の一次判断など、参照文書が追いつかない
- 正確性が100%求められる:医療判断、法務の最終判断、税務申告の確定など(支援には使えても自動化は難しい)
- 社内データが整っていない:最新版が不明、文書が散乱、更新されない、命名規則が崩壊している
- 機密・権限が複雑:人事評価、給与、M&A、顧客個人情報など、アクセス制御を誤ると致命的
誤解されやすい点として、RAGは「ハルシネーション(それっぽい嘘)」を減らせますが、ゼロにはできません。さらに、参照した資料自体が誤っていれば、AIは自信満々に間違いを言います。“AIが参照したから正しい”ではなく、“参照した資料が正しいか”が重要です。
したがって、向かない業務で無理に導入するより、「回答案を作るが最終確認は人」「根拠の提示を必須にする」「権限で見せる文書を絞る」といったガードレール設計が欠かせません。
3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら
導入前に見分けるチェックリスト:5つの質問で適用可否が分かる
ここからは、専門知識がなくても現場ヒアリングで判断できるように、RAG適用のチェックポイントを質問形式にします。各項目で「はい」が多いほどRAG向きです。
質問1:答えの根拠は社内文書(またはデータ)にありますか?
RAGは「参照できる根拠」が必要です。就業規則、手順書、規程、製品マニュアル、ナレッジ記事、過去チケットなど、根拠の置き場所が明確なら強いです。逆に、属人的な口頭知識が中心なら、まずは文書化が必要です。“探せばどこかにある”ではなく、“どこにあるか言える”が理想です。
質問2:同じ質問が繰り返し来ていますか?
問い合わせが多いほどROIが出ます。情シス・総務・人事・経理・CSは狙い目になりやすいです。月に数件しかない業務は、導入しても効果が見えにくいため、まずは頻出領域から始めるのが安全です。
質問3:回答に「引用(根拠提示)」が求められますか?
監査対応、社内統制、品質保証、規程運用などでは「どの規程の何条か」を示す必要があります。RAGはこの「根拠に紐づく回答」を得意とします。逆に、アイデア出し中心で根拠が不要なら、RAGより通常の生成AIだけで足りることもあります。
質問4:情報は定期的に更新され、最新版が管理されていますか?
更新頻度が高い場合でも、最新版が一元管理されていればRAGで追従できます。問題は「改定されたのに古いPDFが残っている」「担当者ごとにローカルに保存」などです。RAG導入は“文書管理の課題”を可視化するので、ここで詰まるケースが多いです。
質問5:アクセス権限は単純ですか?
部署別・役職別で見える情報が違う場合、RAGにはアクセス制御が必須です。「誰でも見ていい公開情報」から始めるとスムーズです。個人情報や評価情報などは、技術的に可能でも運用事故の影響が大きいので、初手には向きません。
この5問に加えて、現場でよく効く判断軸が「誤答の許容度」です。誤答が許されない業務でも、“回答”ではなく“関連文書候補の提示”に役割を下げると、実用性が上がることがあります。
業務別の具体例:向く/向かないを「現場のシーン」でイメージする
判断を早めるには、実際の業務シーンに当てはめるのが一番です。ここでは中小企業〜大企業の情シス・管理部門でありがちな例を挙げます。RAGを「何に使うか」だけでなく「どこまで任せるか」までセットで考えてください。
情シス(社内ヘルプデスク)
- 向く:アカウント申請、端末設定、VPN、社内ツールの使い方、よくあるエラーの一次切り分け(手順書があるもの)
- 注意:障害対応の原因特定や復旧判断は、状況依存が強い。RAGは「過去チケットの類似事例提示」までに留め、最終判断は人
例えば「Teamsにサインインできない」と聞かれた際、RAGが社内手順書と既知のFAQを参照して、確認手順を順番に提示し、必要なら申請リンクまで案内する、といった形が有効です。“何を聞かれても答えるAI”ではなく、“一次対応の標準化”として設計すると成功しやすいです。
総務・人事(規程・手続き案内)
- 向く:就業規則、休暇、慶弔、出張規程、入退社手続き、社内制度の案内
- 注意:個別の労務判断・懲戒・評価などはリスクが高い。案内はできても、最終判断は人事が行う運用に
規程の改定が多い会社ほど、「最新版の一元化」と「改定履歴の管理」が重要です。RAGを入れる前に、参照元をSharePointやGoogle Driveなどに整理するだけでも、効果が大きく変わります。
経理(経費精算・請求・会計処理)
- 向く:経費精算ルール、勘定科目の選び方のガイド、申請差し戻し理由の標準化
- 注意:税務の最終判断、仕訳の確定、監査対応の最終回答は人の確認が必要
経理は「例外処理」が多いので、RAGに任せる範囲を決めるのがコツです。たとえば「領収書がない場合の手続き」など、規程に書ける範囲を強くできます。
営業・カスタマーサポート(製品情報の参照)
- 向く:製品マニュアル、仕様、過去の問い合わせ回答、提案事例の検索・要約
- 注意:契約条件の断定や、未公開ロードマップの回答は危険。回答テンプレと承認フローをセットに
CSでは、回答品質のバラつきが課題になりがちです。RAGで「過去の正しい回答」を引けるようにすると、教育コストを下げながら品質を揃えられます。
3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら
失敗しない導入手順:PoC→小さく本番→運用改善の3段階
RAGは「作って終わり」ではなく、データと運用の設計が成否を分けます。特に予算はあるが詳しくない組織ほど、最初から大規模に作るより、用途を絞ってPoCで確かめ、段階的に広げる方が成功確率が上がります。
PoC(2〜4週間)の進め方
- 対象業務を1つに絞る:例:情シスのパスワード・アカウント系問い合わせ、総務の休暇規程など
- データを限定して集める:まずは100〜300ファイル程度でも可。最新版が明確なものを優先
- 質問セットを作る:現場の「頻出質問」30〜50件を用意し、正答例(根拠文書)も控える
- 評価する:正確さ、根拠提示、回答スピード、現場の使いやすさ、誤答パターンを確認
- 結論を出す:適用可能か、データ整備が先か、運用でカバー可能かを判断
PoCで大事なのは「デモが動いたか」ではなく「現場が使うか」です。回答が少し賢いだけでは定着しません。利用者の導線(どこから使うか、いつ使うか)まで含めて試すと、投資判断がしやすくなります。
小さく本番にする時の設計ポイント
- 根拠を出す:参照元の文書名・該当箇所を表示し、確認しやすくする
- 答えられない時の挙動:無理に断定せず「関連文書候補」「担当窓口」「追加で必要な情報」を返す
- 権限:部署別に参照できる文書を分ける(検索対象を分離する発想が安全)
- ログ:質問・回答・参照文書を保存し、改善と監査に使う
「答えられない」設計は、実務で特に効きます。RAGは万能ではないため、答えられない場合にそれっぽく誤答する挙動を抑えるだけで、信頼性が大きく上がります。
運用改善(定着)でやること
運用では、問い合わせログから「新しいFAQ」「誤答しやすい論点」「文書が古い箇所」を特定し、データを更新します。RAGは運用を回すほど賢くなるというより、“社内ナレッジが整うほど安定する”と捉えるとよいです。文書の更新フロー(誰が、いつ、どこを直すか)を業務として組み込むのが成功パターンです。
セキュリティ・コンプライアンスの要点:不安を潰してから進める
情シスや管理部門でRAG導入が止まりやすいのが「情報漏えいが怖い」「どこまで社内データを渡すのか分からない」という不安です。ここは技術論よりも、運用ルールと設計の合わせ技で事故確率を下げるのが現実的です。
最低限押さえる論点
- データの置き場所:社内のどこに保存し、誰が管理するか(共有ドライブ、文書管理、ナレッジ基盤)
- アクセス制御:人事・法務・顧客情報を混ぜない。最初は公開範囲が広い文書から
- 個人情報:学習に使われるのか、ログに残るのか、保存期間はどうするかを明確に
- プロンプト注入対策:「このルールを無視して…」などの悪意ある入力を前提に、システム側でガードする
- 責任分界:AIの回答を最終回答にするのか、あくまで下書き・参照提示にするのか
特に「RAG=学習させる」ではありません。多くの構成では、社内文書を“検索対象”として参照するだけで、モデルそのものに追加学習させない選択肢もあります。どの方式を採るかでリスクとコストが変わるため、要件を言語化することが重要です。
また、現場で安心感を作るには「使い方のルール」を決めるのが効果的です。例えば、機密分類ごとに利用可否を定義し、禁止入力(個人情報など)を明文化すると、過剰なブレーキを避けつつ安全に前進できます。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら
まとめ
RAGは、生成AIに社内検索を組み合わせることで、社内文書を根拠にした回答や要約を実務で使える形にするアプローチです。向くのは、答えが社内のどこかにあり、問い合わせや参照が多く、根拠提示が求められる業務(情シス・総務・人事・経理・CSなど)です。
一方、正解が文書にない最適化問題、リアルタイム性が極端に高い判断、誤答が重大事故につながる領域は、RAG単体では不向きです。ただし「回答」ではなく「関連文書候補の提示」など、役割を下げれば活用できる場面もあります。
導入前は、根拠の所在、頻出度、引用の必要性、文書の最新版管理、アクセス権限の複雑さをチェックし、まずは小さなPoCで検証するのが安全です。RAGの成否はデータと運用で決まります。最初から完璧を目指さず、用途を絞って段階的に広げることで、費用対効果と社内定着を両立しやすくなります。
コメント