- システム開発契約の注意点:発注・外注でトラブルを防ぐ完全ガイド
- NDAと知的財産権の扱い|見落としがちな契約項目を整理
- 保守契約・費用・トラブル対策の実務ガイド|契約でプロジェクトを守る方法とは?
契約でトラブルを防ぐには、「契約後の運用をどう定義しておくか」も非常に重要です。
このパートでは、保守契約の範囲・SLAの設定・支払いスケジュール・見積もりチェックなど、システム開発契約の実務対策を総まとめ。
さらに、よくあるトラブル事例とその予防策、交渉時の注意点まで含めて解説します。
Contents
保守・運用に関する契約条項
システムを無事リリースした後も、安定稼働させるための保守・運用フェーズが続きます。開発契約と合わせて、納品後の保守契約についても検討しておきましょう。ここでは、保守契約で確認すべきポイントを紹介します。
保守契約の範囲(バグ修正・機能追加・システム監視)
システム運用開始後の保守契約では、どこまでを契約内で対応してもらえるかを明確にすることが重要です。主な観点は以下の通りです。
- バグ修正:リリース後に予期せぬバグや不具合が見つかることがあります。保守契約では、納品後どの範囲・期間のバグ修正が無償で対応されるかを決めておきます。一般的には「納品後○ヶ月間は無償対応」といったルールを設けるケースが多いです。また、バグの定義も重要です。仕様変更が必要なものはバグではなく追加開発扱いになるなど、バグと機能改善の線引きをはっきりさせ、混同しないように注意しましょう。
- 機能追加:システムを使っていく中で「この機能を追加したい」「使い勝手を改善したい」といった要望が出てくることがあります。保守契約でこうした機能追加への対応を含める場合は、あらかじめ「どのレベルの機能追加まで契約内で対応するのか」「新規開発が必要な場合の見積もり・発注手順はどうするか」を決めておくとスムーズです。通常、機能追加はその都度新たに見積もりを取って、別料金で対応する形になることが多いですが、「軽微な改善は月○時間まで保守内対応」などのルールを設けることもあります。
- システム監視:システムを安定稼働させるために、サーバー監視や障害対応まで依頼するケースもあります。例えば「24時間監視してもらえるのか」「障害発生時の初動対応はどこまで行ってもらえるのか」といったことです。特に自社業務に直結する重要なシステムの場合、トラブル発生時に迅速な復旧対応をしてもらえるよう、契約時に対応範囲を決めておきましょう。監視体制によって費用も変わるため、必要なレベルに応じて契約内容を調整します。
SLA(サービスレベルアグリーメント)の設定
**SLA(サービスレベルアグリーメント)**とは、保守・サポート業務におけるサービス水準を明文化した合意のことです。システム保守契約の中で、トラブル対応時のレスポンスや復旧時間の目安を取り決めておくと、いざというときに安心です。
SLAで取り決めておくべき項目の例としては、次のようなものがあります。
- 障害対応の迅速さ:障害の深刻度に応じて、対応開始までの目標時間を設定します。例えば「致命的な障害(システムが全く動かないなど)は1時間以内に初期対応」「軽微な不具合は24時間以内に対応開始」などです。こうした目安を決めておけば、トラブル発生時に「いつまで待てばいいのか」が明確になり、発注者・開発会社双方にとって安心です。
- 問い合わせへの返答時間:運用中に質問や相談をする場合の、回答までの目安時間も決められます。例えば「平日営業時間内の問い合わせには2時間以内に返答」といった具合です。これにより、発注者はサポートへの期待値を持ちやすくなり、開発会社も適切なリソース計画を立てられます。
- サポート対応時間:サポートを提供する時間帯も明確にします。24時間365日対応なのか、平日9時~18時のみなのかで、緊急時の対応も変わってきます。また、深夜や休日の障害対応が必要な場合の連絡フロー(誰に連絡してエスカレーションするか)なども決めておくと安心です。
SLAを設定することで、**「どこまで対応してもらえるのか」**という期待値を明確にでき、トラブル時の混乱を防げます。逆にSLAが曖昧だと、いざ障害が起きたときに「こんなに待てない!」「そんな対応だとは思わなかった…」といった不満やトラブルにつながる可能性があります。発注者のビジネスに合ったレベルのSLAを設定し、契約書に盛り込んでおきましょう。
保守契約の費用と更新条件
システムを安定運用するには継続的な保守が欠かせませんが、その分毎月・毎年のコストも発生します。契約時に、長期的なコスト見通しも立てておきましょう。特に以下の点を確認しておくと安心です。
- 費用モデルの確認:保守契約の費用には大きく分けて固定費用制と従量課金制があります。固定費用制は「毎月○万円でバグ修正・軽微なメンテナンスを含む」のように一定額を支払う方式で、予算の見通しが立てやすいメリットがあります。従量課金制は「実際に対応した工数や時間に応じて支払う」方式で、使った分だけの支払いで済みますが、逆に予想外の対応が増えると費用も膨らむリスクがあります。自社の状況に合わせてどちらが良いか検討し、契約時に確認しておきましょう。
- 基本料金に含まれる範囲:毎月支払う保守費用の中に何が含まれているのかを明確にします。例えば「月額○万円で軽微なバグ修正対応・電話サポート込み。ただし機能追加は別途見積もり」などです。基本料金の範囲外の対応には追加料金が発生するため、どこまでが定額内サービスで、どこからが追加請求になるのかを理解しておきましょう。契約後に「それは別料金です」とならないよう、疑問点は事前にクリアにしておくことが大切です。
- 契約期間と更新条件:保守契約が自動更新なのか、更新ごとに見直しができるのかもチェックしましょう。例えば「1年ごとの契約で、自動更新。ただし○ヶ月前までに解約通知がなければ更新」といったケースや、「年度ごとに契約内容を双方協議の上で更新」といったケースがあります。システムの利用状況や会社の方針によって保守内容を変更したくなることもありますので、柔軟に見直し・解約ができる条件になっているか確認することが大切です。例えば「毎年契約更新時に内容と費用を再交渉できる」「○ヶ月前通知で解約可能」などの条件があれば、不要なコストを抱え込まずに済みます。
契約トラブルの回避方法
最後に、システム開発の契約にまつわるトラブルを防ぐための方法をまとめます。契約段階でしっかり対策を打っておけば、後々の大きな問題を未然に防ぐことができます。
よくある契約トラブルの事例
まずはシステム開発でよく起こりがちな契約トラブルを押さえておきましょう。以下のようなケースが典型例です。
- 仕様変更に伴うトラブル:プロジェクト進行中に「この機能をやっぱり追加したい」「仕様を変更したい」という話が出たとき、契約時にその対応を決めていないと**「追加費用は発生するの?納期は延びるの?」**といった揉め事になりがちです。発注者は「言えばやってくれると思った」、開発会社は「追加の範囲なので費用も時間も追加で欲しい」と考え、食い違ってしまうパターンです。
- 納期遅延によるトラブル:開発がスケジュール通りに進まず、納期が大幅に遅れてしまうケースもあります。特に、最初の要件定義が曖昧だったり、途中で仕様変更が頻発したりすると計画より時間がかかることが多いです。契約時に納期遅延時の対応を決めていないと、「こんなに遅れるなんて聞いてない!」「予定通りにできないのは困る!」と発注者が強く不満を抱き、関係が悪化することがあります。
- 追加費用の請求トラブル:「開発を進める中で、これは契約に含まれていないので追加費用がかかります」と途中で言われ、発注者が驚くケースです。特に契約時に開発範囲や費用の条件が曖昧だった場合に起こりがちで、発注者側は「契約内の仕事だと思っていたのに…」と困惑し、開発会社側は「契約外の対応をしているのだから追加は当然」と主張し、対立してしまいます。
契約トラブルを防ぐためのポイント
上記のようなトラブルを未然に防ぐため、契約段階で以下のポイントに留意しましょう。
- 事前の合意徹底:発注者と開発会社の間で、開発開始前に**「何をどこまで作るのか」「対応範囲はどこまでか」**を徹底的にすり合わせ、合意しておくことが重要です。お互いの頭の中のイメージをできるだけ具体化し、「こんなはずじゃなかった!」を防ぎます。特に、仕様変更が発生した場合のルールを明確に決めておくことで、追加費用に関するトラブルを防ぐことができます。「もし途中で仕様変更があれば改めて協議する」という一文を入れておくだけでも違います。
- 契約書の細部チェック:契約書を交わす際は、細かい部分までしっかりチェックすることが大切です。専門用語が多く分かりにくい場合もありますが、「納品物の範囲は明記されているか」「保守対応の条件はどうなっているか」「追加費用が発生する条件は書かれているか」「納期遅延時の対応策は含まれているか」など、トラブルになりやすいポイントは必ず確認しましょう。もし自分だけでは判断が難しい場合、遠慮せず開発会社に説明を求めるか、必要に応じて専門家(ITコンサルタントや弁護士など)に契約内容を確認してもらうのも有効です。また、支払いスケジュールや途中解約のルールなども事前に明確にしておけば、不要な金銭トラブルを避けられます。不明点は曖昧にせず、納得した上で契約を締結しましょう。
交渉時の注意点と対策
契約内容を決める交渉の段階でも、いくつか注意すべきポイントがあります。以下を意識して交渉を進めましょう。
- 曖昧な表現はNG、具体的な取り決めを:契約交渉では「柔軟に対応します」「できる範囲で修正します」などの曖昧な表現は避け、できるだけ具体的な条項に落とし込みましょう。例えば「○○も対応可能です」という説明なら、「契約範囲に○○機能の実装を含める」と明記してもらう、「できれば△月くらいで納品したいですね」という話なら「○月○日納品」と契約書に記載する、といった具合です。費用やスケジュールについても「おおよそ○ヶ月で○円くらい」といった曖昧な取り決めではなく、「○月○日までに納品、総額○○円(税込)」など明確な数字で合意しておきます。これにより、納期遅延や追加費用に関する認識ズレを防ぐことができます。
- 口頭だけに頼らず記録を残す:交渉で話し合った内容は、必ず議事録やメールで記録に残しましょう。口頭で「ここまでは基本料金に含まれるんですね?」と確認して「はい、大丈夫です」と言われても、後から担当者が変わったり記憶が曖昧になったりすると証拠が残りません。特に、「どこまでが基本範囲で、どこからが追加料金か」「どういう場合に納期が延びる可能性があるか」といったポイントは文書にして共有し、双方で認識を揃えておくことが大切です。メールで質問し、回答をもらっておく形でも構いません。書面に残しておけば安心感が違いますし、後々のトラブル防止に大いに役立ちます。
まとめと次のステップ
システム開発を成功させるには、契約書をしっかり準備することが重要なステップです。契約書に重要事項が網羅されていれば、開発途中で「こんなはずじゃなかった」といったトラブルを防ぎやすくなります。特に、仕様や納期、費用の取り決めを明確にすることで、発注者と開発会社の間で認識のズレが減り、スムーズなプロジェクト進行につながります。
また、きちんとした契約書があることで、万が一トラブルが発生した場合でも落ち着いて対処しやすくなります。例えば、納期が遅れた場合の対応策や追加費用が発生する条件が契約書に明記されていれば、感情的な争いにならずに契約に従って解決策を見出しやすくなります。ルールが決まっていることで、双方が安心して開発に集中でき、お互い信頼関係を築きながらプロジェクトを進めることができるのです。
さらに、契約書の準備をしっかり行うことは、発注者自身にとってプロジェクト全体を整理する良い機会にもなります。仕様や要件を詰めていく過程で開発の方向性がより具体化され、結果的にスムーズな進行につながります。十分に練られた契約を結ぶことは、開発成功率を高めるための大事な一歩と言えるでしょう。
次のステップ:これからシステム開発を発注・外注しようと考えている方、あるいは契約内容について不安がある方は、ぜひ早めに行動しましょう。契約書の作成や内容のチェック、システム開発に関するご相談や見積もり依頼など、分からないことがあればお気軽に専門家や信頼できる開発会社にお問い合わせください。事前にしっかり準備を整えることで、安心してプロジェクトをスタートできます。万全の契約を結んで、あなたのシステム開発プロジェクトを成功へと導きましょう!
※この記事はシリーズの最終回です。
契約の基礎から押さえたい方は第1部、知的財産の扱いを整理したい方は第2部もぜひご覧ください。
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