Dify活用:社内向けAIツールを「PoCから本番運用」まで1週間で立ち上げる方法

From PoC to Production in 7 Days with Dify: Practical Process for Internal AI Tools

やりたいこと事業ベースで進める「Dify × 社内向けAIツール」

AIプロジェクトに関わっていると、「とりあえずPoCまでは動いたけれど、そこから先が長い」「社内向けAIツールを作ったのに、結局現場では使われていない」という声をよく耳にします。特に、業務をよく理解している社内の開発チームが内製するケースでは、やりたいこと・できそうなことが多すぎて、PoCから本番運用までの道のりが見えづらくなりがちです。本記事では、オープンソースのプラットフォームであるDifyを活用し、PoCから本番運用までを1週間で走り切るための具体的なプロセスを、現場目線で解説します。

前提として、ここで目指すのは「完璧な全社システム」ではありません。対象業務を絞ったうえで、まずは一つの社内向けAIツールをDify上で動かし、実際に部署のメンバーが使える状態まで持っていくことです。そのうえで、ログとフィードバックをもとに、2週目以降に改善を重ねていくスタイルを想定しています。「PoCから本番運用までを一度やり切る」ことで、組織としてAI開発のパターンを獲得し、他の業務にも横展開できるようにするのが狙いです。

Difyは、プロンプト・RAG・ワークフロー・モデル切り替え・ログといったAIアプリ開発の部品を1つのUIにまとめたプラットフォームです。これをうまく使うことで、「コードを書き始める前に考えるべきこと」に時間をかけつつ、「PoCから本番運用まで共通して使える基盤部分」はテンプレート化する、というメリハリが付けられます。結果として、社内向けAIツール開発のボトルネックが「細かい実装」ではなく「業務と運用の設計」にシフトし、1週間というタイトなスケジュールでも現実的なプロジェクトになっていきます。

DifyでPoCから本番運用まで進める社内向けAIツールの全体像イメージ

なぜ「1週間でPoCから本番運用」が重要なのか

PoCから本番運用までを短期間でやり切ることには、技術的な意味以上に組織的な意味があります。AIプロジェクトが長期化すると、最初は高かった期待感が徐々に薄れ、「また新しいおもちゃが来たが、業務は変わらない」という空気が広がります。さらに、PoC時点で関わっていたメンバーが異動したり、業務フローが変わったりして、「あのPoCは結局何だったのか」という結果になりがちです。これに対し、1週間という明確な期限を切ってDify社内向けAIツールを立ち上げると、「短い時間でもここまで変わる」という成功体験を、現場とマネジメントが同時に共有できます。

ここで誤解してはいけないのは、「1週間でなんでもかんでも実装する」わけではない、という点です。むしろ、PoCから本番運用のスコープをきちんと絞り込むことが成功の鍵になります。例えば、「CSの一次問い合わせのうち、よくある質問トップ20をDifyベースの社内向けAIツールで自己解決させる」といったレベルです。この範囲であれば、必要なデータも限定され、評価軸も明確になります。1週間でやるべきことは、「この範囲に関しては、DifyでPoCから本番運用までの流れを一度経験する」ことなのです。

もう一つのポイントは、「スピードがあるからこそ、途中で迷走しづらい」というメリットです。1ヵ月や3ヵ月のスケジュールでは、どうしても「やっぱりこの業務も入れよう」「この部署も巻き込もう」とスコープが膨らみがちですが、1週間でPoCから本番運用までと決めてしまうと、「今回はここまで」「次回以降に回す」という判断がしやすくなります。その結果、社内向けAIツールの第一弾が早く立ち上がり、成功・失敗を含めた学びを早期に得られます。Difyを使うことで、その1本目のツールの立ち上げコストを下げ、同じ型を他の業務にも展開しやすくなるのが大きな利点です。

ポイント
「1週間」は機能を詰め込むための期限ではなく、DifyでPoCから本番運用までの流れを一度完走するための枠だと考えると、意思決定がシンプルになります。

Difyが社内向けAIツール開発に向いている理由

Difyは、LLMアプリケーション開発に必要な要素を一通り揃えたプラットフォームです。チャットUI、ワークフロービルダー、RAG(検索拡張生成)、モデル管理、ログ・モニタリング、API公開など、PoCから本番運用までで必ず必要になる機能が統合されています。社内の開発チームにとっては、「AIのバックエンドを一から組む」のではなく、「Difyの上に業務ロジックと社内ルールを載せる」という形に切り替えられるため、実装時間を大きく短縮できます。

特に社内向けAIツールでは、ナレッジをどう扱うかが重要です。マニュアルや規程、FAQ、議事録などのドキュメントが社内に大量に存在していても、それをそのままLLMに投げると「それっぽいけれど間違っている」回答が頻発します。DifyのRAG機能を使うと、ナレッジをデータセットとして登録し、分割方法やメタデータを設定しながら、「どの文書を根拠として回答を生成するか」を制御できます。これにより、「どの文書を元に答えたのか」を回答に添付することもでき、社内向けAIツールの信頼性を高めることができます。

さらに、Difyはワークフローベースで処理を定義できるため、「入力チェック → キーワード抽出 → 社内API呼び出し → RAG → 回答生成 → ポストプロセス」といった一連の流れを視覚的に組み立てられます。これは、PoCから本番運用に移る際に非常に効きます。なぜなら、「PoCのときは簡易なフロー」「本番運用では例外処理や監査ログ出力を含めたフロー」というように、同じ社内向けAIツールのフローを少しずつ厚くしながら育てられるからです。基盤の考え方や実装スタイルを揃えやすいので、複数のDifyアプリを並行して運用していくことも現実的になります。

また、Difyはオープンソースであるため、自社のセキュリティポリシーやインフラ要件に合わせてセルフホストすることもできます。クラウド版を使って素早くPoCから本番運用の流れを試し、将来的にオンプレミスや自社クラウド環境に移行する、といったロードマップも描きやすいのが特徴です。社内向けAIツールにおいては、データの所在やログの扱いが重要なテーマになるため、「最初から移行性を考えた選択ができる」ことは大きな安心材料になります。

補足:フルスクラッチでLLMアプリを作る場合、プロンプト管理、ログ設計、評価・ABテストなどを一つひとつ自作する必要があります。Difyはこれらをあらかじめ備えているため、PoCから本番運用までの「共通部分」を再開発せずに済み、社内向けAIツールごとの業務ロジックに集中しやすくなります。

1週間でPoCから本番運用まで進めるためのプロセス設計

1週間でPoCから本番運用まで進めるには、最初の1日で「どこまでをゴールとするか」を明確にすることが肝心です。対象業務、想定ユーザー、成功指標をセットで決めましょう。例えば、「営業部の新人が、Difyベースの社内向けAIツールを使って、商品仕様に関する問い合わせの80%を自力で解決できるようにする」といった具体度です。このレベルまで決めると、「必要なナレッジは何か」「どの画面からAIにアクセスできるべきか」「誤回答時に誰にエスカレーションするか」が見えてきます。

続いて、プロジェクトメンバーの役割を絞り込みます。プロジェクト全体を束ねる人、DifyのワークフローやRAG設定を触るテクニカル担当、業務ルールに詳しい現場代表、セキュリティや情報システムの観点を見てくれる担当。この4者がいれば、1週間の間に必要な意思決定はほぼ回せます。特に、社内向けAIツールの運用を誰が持つのか(問い合わせ窓口、ログ監視、改善要望の取りまとめ)を最初に決めておくと、PoCから本番運用に移行したあとも、スムーズに改善サイクルを回せます。

プロセス設計のコツは、「後戻りコストが高いものから潰す」ことです。具体的には、どのデータをDifyに渡してよいかどの部署が使えるようにするかどこまで自動応答し、どこから人間に切り替えるかといったルールを、Day1〜2の段階で決めておきます。これらは一度動き出してから変えると影響範囲が大きいため、PoCから本番運用を通じてブレない前提条件として扱うのがおすすめです。逆に、UIの細かい文言や見た目、レアケースの例外処理などは、1週間目のスコープから外し、「リリース後のバックログ」として明示的に後回しにします。

Day1は業務とデータの棚卸し、Day2〜3でDify上に最小限のフローと画面を作り、Day3〜4で代表的な問い合わせセットを使って評価・改善、Day5〜6で権限・導線・運用ルールを整え、Day7でリリース判断と今後の改善計画を固める。この「1週間の型」を一度組織として経験しておくと、次から別の社内向けAIツールを立ち上げるときも、同じ枠組みを流用できます。Difyでの設定やパターンも「テンプレ化」されていくため、「PoCから本番運用」までの立ち上げに迷う時間が減っていきます。

1週間プロセスのイメージ

  • Day1:業務定義・データ棚卸し・ゴール設定
  • Day2〜3:Difyでプロトタイプ作成と簡易デモ
  • Day4:代表質問での評価とRAG・プロンプト調整
  • Day5〜6:権限・導線・運用ルール・マニュアル整備
  • Day7:リリース判断と改善バックログ整理

Difyを使った実装と運用設計の実務ポイント

実際にDify社内向けAIツールを作る際にポイントとなるのが、「ナレッジ設計」「品質担保」「監視とコスト管理」「変更管理」の4つです。まずナレッジ設計では、「AIに答えてほしいこと」と「答えてほしくないこと」を明確に分けます。RAGに投入するドキュメントは、最新性と信頼性の高いものに絞り、古いバージョンが混ざらないようにします。ナレッジごとにメタデータ(対象部署、文書種別、有効期限など)を付与しておくと、Dify側の検索条件で「この社内向けAIツールは、営業向けマニュアルだけを見る」といった制御がしやすくなります。

品質担保の面では、「正しく答える」ことと同じくらい「分からないときに無理に答えない」ことが重要です。Difyのワークフローで、RAG検索のスコアが一定以下のときには「関連情報が見つかりませんでした。担当者に確認します」といったテンプレートを返すようにしておくと、PoCから本番運用へ移っても、誤回答によるトラブルを減らせます。また、回答と同時に「参照した文書タイトルとリンク」を示すようにプロンプトを調整しておけば、ユーザー側でも自己検証がしやすくなり、社内向けAIツールへの信頼感が高まります。

監視とコスト管理では、Difyが提供するログとメトリクスを活用します。どの質問が多いのか、どのフローでエラーが発生しているのか、どのRAGクエリがヒットしていないのか、といった情報を定期的に確認し、「よく聞かれるがうまく答えられていない領域」に対してナレッジ追加やプロンプト修正を行います。モデルコストについては、「通常は安価なモデルを使い、特定の高度な処理だけ高性能モデルに切り替える」といった分岐をDifyのワークフロー内で定義しておくことで、PoCから本番運用までのスケールを意識しながらコスト最適化できます。

最後に、変更管理です。社内向けAIツールは、一度リリースして終わりではなく、業務や規程の変更に合わせて継続的にアップデートしていく必要があります。Difyではアプリ設定やワークフローが構造化されているため、変更箇所をGitなどで管理しやすく、誰がいつ何を変えたかを追跡できます。これを前提に、「本番用」「検証用」の環境を分け、PoCから本番運用への切り替え手順を定義しておくと、安全に改善を回せます。リリースノートを社内向けに配信するなど、ユーザーへの周知も含めて運用設計をしておくと、「知らないうちに挙動が変わっていた」という不信感を避けることができます。

Tips:運用開始後1〜2週間のログレビュー会を、関係者で一度必ず実施しましょう。Difyのログ画面を見ながら、「この社内向けAIツールはどんな使われ方をしているか」「どの質問に弱いか」を共通認識にすると、次の改善施策が決めやすくなります。

まとめ:DifyでPoCから本番運用までを一度やり切る価値

ここまで、Difyを活用して社内向けAIツールを短期間で立ち上げ、PoCから本番運用までを1週間で進めるための考え方と実務ポイントを整理してきました。ポイントは、「最初から完璧を目指さないこと」と「PoC専用ではなく、運用を見据えた基盤を選ぶこと」です。対象業務と成功指標を絞り込み、Dify上に最小限のワークフローとRAGを構築し、代表的な問い合わせセットで評価と改善を回す。そして、権限・導線・ログ・問い合わせ窓口といった運用の枠組みまで含めて設計することで、1週間という短い期間でも、実際に現場で使える社内向けAIツールを生み出すことができます。

一度でも「DifyでPoCから本番運用までをやり切った経験」ができると、それ自体が社内の貴重な資産になります。プロジェクトの型、必要な役割、事前に決めておくべきルール、よくあるつまずきポイントなどが具体的に見えてくるため、次のツールを立ち上げるときのハードルが一気に下がります。結果として、「まずは小さく始めて、うまくいったら広げる」という事業ベースのやり方と、Difyというプラットフォームがうまく噛み合い、組織全体のAI活用のスピードと質を同時に高めることができます。

もし、「どの業務から着手すべきか」「スコープの切り方に自信がない」「セキュリティやガバナンスの整理が不安」といったお悩みがあれば、外部パートナーと一緒に最初の1本を走り切るのも有効です。要件整理とプロセス設計さえつかめば、その後は自社の開発チームだけでも社内向けAIツールを増やしていくことができます。DifyでPoCから本番運用までの流れを一度経験し、その学びを組織全体の標準プロセスとして育てていくことが、これからのAI時代における「内製チームの競争力」そのものになっていくはずです。

株式会社ソフィエイトのサービス内容

  • システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
  • コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
  • UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
  • 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い


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