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なぜ「PoC止まり」が起きるのか(外注の前に押さえる前提)
AI/生成AIの開発を外注したのに、デモや実験(PoC:概念実証)で終わって本番導入に進まない——これは珍しい失敗ではありません。原因は「技術が難しいから」ではなく、発注側の期待と、受注側の進め方のズレが積み重なることにあります。特に、情シスや事業部が「AIに詳しくないけど予算はある」状態だと、ベンダー選定の基準が曖昧になり、結果として“それっぽいデモ”はできても、業務で使える形に落とし込めないケースが増えます。
PoC止まりの典型要因は大きく4つです。1つ目は、業務課題が「AIで何かしたい」に留まり、KPI(成功条件)が数字で定義されないこと。2つ目は、データの状態(どこにある・誰が持つ・品質はどうか)が後から判明し、計画が崩れること。3つ目は、生成AIの特性(回答の揺らぎ、誤回答、情報漏えいリスク)を踏まえた運用設計がなく、現場が使えないこと。4つ目は、PoCの成果物が「学習」や「デモ」中心で、運用・保守・改善の体制が作られないことです。
ここで重要なのは、生成AIの活用は「モデルを作る」よりも「業務に組み込む」比重が大きい点です。例えば、問い合わせ対応の効率化を狙うなら、単にチャットボットを作るだけでなく、回答根拠の提示、FAQ更新フロー、誤回答時のエスカレーション、ログ監査、個人情報マスキングなどが必須になります。つまり、成功する外注はAI開発というより“業務システム+運用設計のプロジェクト”として組み立てる必要があります。
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外注前に決めるべき「成功条件」とスコープ(AIの前に業務を決める)
ベンダーを比較する前に、発注側で最低限決めておくべきことがあります。これが曖昧だと、提案が「便利そうな機能の寄せ集め」になり、PoCで満足して終わりがちです。まず設定すべきは成功条件です。成功条件は“気持ち”ではなく、数字や状態で表現します。例としては「月間の一次回答率を30%→60%」「見積作成の所要時間を平均45分→15分」「社内規程検索の自己解決率を20%改善」など、業務KPIに接続させます。
次にスコープ(対象範囲)を決めます。生成AIは適用範囲を広げるほど難易度が上がります。最初は「特定の部門」「特定の業務」「特定の文書群」に絞るのが現実的です。たとえば「総務の社内問い合わせ(就業規則・申請手順)」「営業の提案書作成(過去事例と製品資料に限定)」「コールセンターの応対要約(通話ログのみ)」のように、入力と参照情報を限定します。“何でも答えるAI”を最初から目指すと、品質・責任・セキュリティの壁で止まります。
さらに、評価方法も設計します。生成AIは同じ質問でも回答が揺れるため、従来のシステムのように「正解が1つ」とは限りません。そこで「許容できる誤りの範囲」「根拠提示の有無」「禁則(言ってはいけないこと)」「人手確認が必要な回答カテゴリ」などを決め、テストケース(想定問答集)を作ります。ベンダーに丸投げすると、ベンダーは短期間で見栄えの良いデモを作りがちです。発注側が「何をもって合格とするか」を持つことで、PoCが本番に繋がる道筋になります。
AI/生成AI開発の外注先タイプ別の特徴(選び方の地図)
AI/生成AIの外注先は一括りに見えて、得意領域が大きく異なります。選び方の第一歩は「どのタイプが自社の状況に合うか」を理解することです。代表的には、SIer(大手/中堅)、AI専門ベンダー、開発ベンチャー、コンサル会社、フリーランス/小規模チームがあります。
SIerはガバナンスや大規模運用、既存基幹システム連携が得意で、稟議や監査の要件が重い企業には相性が良いです。一方で、生成AIの高速な仮説検証にはプロセスが重くなりやすく、費用も大きくなりがちです。AI専門ベンダーはアルゴリズムや評価の知見が深い反面、業務システム化やUI/UX、運用まで面倒を見ない場合があります。開発ベンチャーはスピードと柔軟性が強みで、MVP(最小限の実用版)まで一気に進められることが多い一方、体制・継続性の見極めが重要です。
コンサル会社は上流の整理(業務設計、KPI、体制、セキュリティ方針)に強い反面、実装は別会社になることがあり、分業で責任が曖昧になるリスクがあります。フリーランスはコストを抑えられますが、属人化しやすく、セキュリティや障害対応、引き継ぎで課題が出やすいです。「誰が最後まで責任を持つか(設計〜開発〜運用)」が外注成功の分かれ目です。
自社が「AIに詳しくない」「現場が忙しい」「本番運用まで持っていきたい」場合は、提案だけでなく“実装と運用設計をセットで持てる”パートナーが向いています。逆に、社内に強いエンジニアやデータ担当がいるなら、部分的に外注して内製比率を高める選択肢もあります。重要なのは、タイプの優劣ではなく「自社の不足を補える組み合わせ」になっているかです。
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外注先を見極めるチェックリスト(PoCで終わらせない質問集)
提案書や実績の数だけでは、本番導入できる外注先かは判断できません。そこで、打ち合わせで必ず確認したい観点をチェックリスト化します。結論から言うと、生成AIの外注では「モデル」より「設計・運用・統制」を語れる会社が強いです。
課題設定とKPIの作り方
まず、「課題をどう分解し、KPIをどう置くか」を質問します。例えば「問い合わせ対応を減らす」と言っても、一次回答率を上げるのか、平均処理時間を下げるのか、有人対応の単価を下げるのかで設計が変わります。良い外注先は、業務フロー(現状→あるべき)と合わせてKPIを提案し、“AIが効く領域/効かない領域”を先に線引きします。
データとナレッジの扱い(RAG・検索・権限)
生成AIを業務で使う場合、多くはRAG(社内文書を検索して根拠を参照しながら回答する方式)を採用します。このとき重要なのは、どの文書を対象にするか、更新頻度、版管理、アクセス権(部署別に見せ分けるか)、個人情報の混入、ログの保管です。ここを「とりあえず全部突っ込む」と言う外注先は危険です。信頼できる会社は、文書棚卸し、メタデータ設計、権限設計、監査ログまで踏み込みます。
品質担保(評価・テスト・ガードレール)
生成AIは誤回答(ハルシネーション)がゼロになりません。だからこそ、評価設計が生命線です。「どうテストするか」「NG回答をどう防ぐか」「根拠提示を必須にするか」「曖昧な質問を聞き返す設計か」「人に回す条件は何か」などを確認します。“正答率”だけでなく、業務上の事故を防ぐ設計ができるかがポイントです。
セキュリティ・法務・社内統制
情シスが特に気にするべきは、データの取り扱いです。クラウド利用時の契約(学習利用の有無、保存期間)、ネットワーク経路、暗号化、権限管理、監査対応、プロンプトに機密を入れない仕組み(マスキング/ポリシー)など、具体策を確認します。「社内ルールが決まってから」と先送りする外注先は、結局PoCで止まります。先に“できる範囲”を定義して走れる会社が現実的です。
運用と改善(MLOps/LLMOpsの考え方)
本番で大事なのは、導入後に改善が回ることです。問い合わせ内容は変わりますし、参照文書も更新されます。回答ログの分析、失敗パターンの分類、プロンプトや検索設定の改修、評価セットの更新といった運用(LLMOps)が必要です。「納品して終わり」ではなく、月次で改善する前提の提案になっているかを見ます。
発注の進め方:要件定義〜PoC〜本番を一気通貫にする契約と体制
PoC止まりを防ぐ最も効く方法は、最初から「本番までの道筋」を契約と体制に埋め込むことです。おすすめは、フェーズを分けつつも、成果物が次フェーズに直結する設計にすることです。具体的には「①業務・要件整理(短期)→②PoC(評価設計込み)→③MVP(限定範囲で本番運用)→④拡張」という流れにします。PoCのゴールは“デモ”ではなく、MVPに移れる根拠を揃えることです。
要件定義では、機能要件だけでなく運用要件を先に決めます。たとえば「誰が使うか(権限)」「どこに組み込むか(Teams/Slack/社内ポータル)」「回答の責任分界(免責表示、有人確認)」「ログの保存と閲覧者」「ナレッジ更新担当」などです。ここが決まると、必要なUI/UXやデータ連携が見えてきます。生成AIは“現場導線”が弱いと使われずに終わるため、画面や導入先(チャット、フォーム、CRMなど)まで含めて設計します。
契約の観点では、PoCを準委任で回し、MVP以降を請負+運用保守にするなど、フェーズに応じて適切に分けます。また、PoCの成果物として「評価レポート」「テストケース」「プロンプト/検索設定」「データ整備手順」「リスクと対策」「本番見積」を必須にすると、次に進めます。体制面では、発注側も最低限の役割が必要です。プロダクトオーナー(業務決定者)、現場代表(実運用の責任者)、情シス/セキュリティ(統制)、ベンダーPM(推進)を置き、週次で意思決定します。
予算の使い方も重要です。PoCに全額を投下すると、本番の開発・運用費が足りず止まります。最初から「本番運用で継続費がかかる」前提で、クラウド費用、LLM利用料、監視、改善工数を含めて全体最適で設計します。外注先がこの総額観点で説明できるかは、信頼性の指標になります。
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失敗パターン別の回避策(よくある落とし穴と対処)
ここでは、現場で頻発する失敗パターンと、具体的な回避策をまとめます。自社がどれに当てはまりそうかを確認すると、外注先への依頼内容が明確になります。
第一の失敗は「目的がふわっとしたままPoC開始」です。回避策は、PoC前に“業務のどこを、どれだけ良くするか”を決めること。小さくても良いので、対象業務とKPIを固定します。第二は「データがない/汚い/権限が複雑」。回避策は、先に棚卸しとデータ整備の責任者を決め、最初は扱いやすい文書群から始めることです。第三は「精度が出ない」。回避策は、モデルの微調整に走る前に、RAGの検索品質(分割方法、メタデータ、更新、同義語)と、プロンプトの制約(根拠必須、回答形式固定)を改善します。多くの精度問題は“検索と設計”で改善します。
第四は「セキュリティで止まる」。回避策は、情シス・法務を後から呼ばず、最初から要件に入れること。社内規程や個人情報の扱い、外部サービス利用の可否を早期に確認し、可能な範囲で設計します。第五は「現場が使わない」。回避策は、現場の入力負担を減らし、導線を既存ツールに寄せること(例:Teams上で質問→回答→チケット作成まで)。また、回答の品質が揺れる領域は“人が確認する前提”にして心理的抵抗を下げます。
最後に「ベンダーに依存しすぎる」問題です。回避策は、運用に必要な情報(プロンプト、評価セット、設定、アーキテクチャ、権限)をドキュメント化し、引き継ぎ可能な状態で納品させること。契約上、成果物の帰属や再利用条件も整理します。外注は悪ではありませんが、ブラックボックス化は長期コストを押し上げます。
まとめ
AI/生成AI開発の外注でPoC止まりを防ぐには、「技術選定」より前に、業務課題・成功条件・運用設計を固めることが重要です。外注先は実績の見栄えだけでなく、KPI設計、データ/権限、評価とガードレール、セキュリティ、運用改善まで一気通貫で語れるかで見極めてください。PoCはデモ作りではなく、MVP本番に進むための根拠作りです。契約と体制に“次へ進む条件”を埋め込み、小さく始めて確実に業務へ組み込むことで、投資対効果が出る生成AI導入に近づきます。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
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