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なぜ今「小規模からのクラウド構成」が社内システムに効くのか
社内システムを新しく作る・刷新する話になると、最初にぶつかるのが「どんな構成にするか」です。サーバーを買うのか、クラウドを使うのか、どのサービスを選ぶのか。特に開発の専門知識がない担当者にとって、ここで判断を誤ると予算・納期・運用負荷が雪だるま式に膨らむのが社内システムの怖いところです。
結論から言うと、多くの企業にとって現実解は「最初から完璧な設計を目指す」より、小規模に始めて、使われ方に合わせて段階的に強くするクラウド構成です。クラウド(AWS、Azure、Google Cloud など)には、必要な分だけ借りて、後から性能や冗長性を上げられる特性があります。オンプレミス(自社でサーバーを保有する方式)と違い、初期投資を抑えつつ、判断材料を集めながら前に進められます。
ただし「クラウドなら何でもOK」ではありません。クラウド移行・クラウド導入で失敗する典型は、最初に大きく作りすぎて費用が跳ねる、運用ルールが決まらずセキュリティが穴だらけになる、担当者が退職して誰も触れない、の3つです。この記事では、非エンジニアでも意思決定できるように、社内システム構築の基本として小規模から始めるクラウド構成の作り方を「考え方→選択肢→手順→運用→失敗回避」まで通しで説明します。
想定する社内システムは、たとえば申請ワークフロー、受発注の入力、日報、問い合わせ管理、社内ポータル、簡易CRMのような業務アプリです。まずは“止まっても致命傷になりにくい範囲”から始め、安定稼働と改善のサイクルを作り、必要に応じて基幹系へ広げるのが安全です。
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クラウド構成を考える前に整理する「業務要件」と「非機能要件」
クラウド設計・インフラ設計は、技術より先に“業務の現実”を整理しないと迷走します。ここで役立つのが、要件を業務要件(何をしたいか)と非機能要件(どれくらいの品質が必要か)に分けることです。
業務要件:画面とデータの流れを先に描く
非エンジニアでも整理しやすいのは「誰が、いつ、どこで、何を入力し、どんな帳票や一覧が必要か」です。たとえば「営業が外出先から案件情報を入力」「上長が承認」「経理がCSV出力して会計に取り込む」のように、登場人物とデータの流れを文章で書き出します。ここでExcel管理の痛み(転記、重複、最新が分からない)が見えると、システム化の範囲も決めやすくなります。
また、クラウド構成に直結するのが「社外公開が必要か」「取引先からも使うか」「モバイル中心か」「既存システムと連携するか」です。社外公開があるなら入口の防御(WAFや認証)を厚くする、連携が多いならAPIやバッチの設計が必要、という具合に変わります。
非機能要件:小規模でも決めておくべき最低ライン
非機能要件は難しく見えますが、最低限は次の質問に答えるだけでOKです。
- 可用性:止まったら困る度合いは?(月1回30分停止が許されるのか、24時間止められないのか)
- 性能:同時に何人が使う?ピークはいつ?(月末、朝会前など)
- セキュリティ:扱うデータは何か?(個人情報、見積、給与など)
- 運用:誰が監視し、障害時に誰が一次対応する?夜間休日は?
- バックアップ:どこまで戻せればよい?(1日前、1時間前、直前など)
ここで重要なのは、最初から“最高レベル”を選ばないことです。たとえば可用性を上げる(冗長化する)ほど費用も運用も増えます。小規模スタートでは、「守るべきデータ」と「止められない部分」だけを先に固めるのが合理的です。
なお、経営・情シス視点で見落としがちなのが、クラウドの費用は「作った後のランニング」で効いてくる点です。CPUやメモリだけでなく、データ転送、ログ保管、バックアップ、監視などが積み上がります。だからこそ、要件定義の時点で“何をどこまでやるか”を決めておくと、後からの驚きが減ります。
小規模スタートに向くクラウド構成パターン(迷ったらこの3択)
クラウド構成には無数の選択肢がありますが、社内システム構築の基本としては「小規模から始めやすく、拡張もできる」パターンに寄せるのが正解です。ここでは、実務でよく使われる3パターンを紹介します。どれが正しいというより、運用体制と求めるスピードで選びます。
パターンA:マネージドPaaS中心(運用を減らしたい)
アプリ実行環境・DB・認証などをクラウドのマネージドサービスに寄せる構成です。サーバーOSのパッチ適用やミドルウェア更新の負担が減り、情シスが少人数でも回しやすいのがメリットです。小さく始めて利用者が増えたらスケールさせやすく、クラウド導入の最初の一歩に向きます。
- アプリ:マネージドなアプリ実行(例:コンテナ/アプリサービス)
- DB:マネージドDB(自動バックアップや冗長化オプション)
- 認証:ID基盤(SSOや多要素認証)
注意点は、サービスごとの制約(できない設定)があること、そして構成が分散しやすいことです。とはいえ、最初に「採用するサービスの種類」を絞れば、運用は大きく楽になります。
パターンB:仮想サーバー中心(既存のやり方に近く移行しやすい)
クラウド上に仮想サーバー(VM)を立て、従来のオンプレミスに近い形でWebサーバーやDBを構築するパターンです。既存システムをそのまま移し替える(リフト)に近く、ベンダーや社内の理解が得やすい一方、運用(OS更新、監視、バックアップ設計)を自分たちで背負いやすいのが特徴です。
「予算はあるが詳しくない」組織の場合、VM中心は見た目が分かりやすい反面、運用を甘く見積もってしまいがちです。小規模スタートなら、VMの台数を絞り、バックアップと監視をテンプレ化して、運用が破綻しない形にするのが重要です。
パターンC:サーバーレス中心(変動が大きい・開発スピード優先)
アクセスが少ないときは費用が抑えられ、急に増えても自動で伸びる構成です。小規模のPoCや、イベント的に利用が増える仕組みに向きます。一方で、設計思想が独特なため、ベンダー選定や内製スキル次第では学習コストがかかります。社内システムでも「月末だけ負荷が上がる」「データ処理がバッチ中心」などのケースで効果が出ます。
迷った場合は、まずパターンA(マネージドPaaS中心)をベースにし、要件的に合わない部分だけVMやサーバーレスを混ぜるのが安全です。クラウド構成は“純度”よりも、運用できる形に落とすことが成功条件です。
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小さく作って安全に伸ばす:最小クラウド構成の設計手順
ここからは、実際に社内システムを立ち上げるときの手順を、非エンジニアでもレビューできる粒度で示します。ポイントは、最初の構成を「最小だが安全」にすることです。安全とは、セキュリティ事故が起きにくく、障害時に復旧でき、費用が予測しやすい状態を指します。
ネットワーク:まず分離と入口を決める
クラウドでは、ネットワーク(仮想ネットワーク)内にシステムを置き、外部公開の有無に応じて入口を作ります。社内システムでも、社外からアクセスするならインターネット公開になります。ここで「公開するのは入口だけ、DBは外に出さない」という原則を徹底します。
- アプリの入口:ロードバランサやゲートウェイ(HTTPSで統一)
- アプリ実行環境:公開・非公開どちらかを明確に
- DB:必ず非公開(プライベート)側に配置
IP制限(社内からのみアクセス)にするのか、認証で制御するのかもここで決めます。近年はテレワークや拠点増でIPが管理しにくいことが多く、認証(SSO+多要素認証)を基本にする方が運用が安定します。
認証・権限:最初に「人の出入り」を想定する
社内システムは人の異動・退職が必ずあります。最初に個別アカウントを作り始めると、後で管理が破綻しやすいです。小規模でも、会社のID基盤(Microsoft 365やGoogle Workspace等)と連携したSSOを検討し、役割(管理者、承認者、一般)で権限を分けます。
さらに、クラウド自体の権限(管理コンソールに誰が入れるか)も最初に固めます。情シスが全権を持つのは当然として、開発会社にも必要最小限の権限だけを付与し、作業ログが残る形にします。これだけで「いつ誰が何を変えたか」が追えるようになり、トラブル対応が速くなります。
データ:バックアップと復旧手順を“文章で”用意する
バックアップは設定して終わりではありません。復旧できることが大事です。小規模構成では、まず次を決めます。
- バックアップ対象:DB、ファイル、設定(IaCがあるならコードも)
- 世代:何日分残すか(例:日次30世代)
- 復旧目標:どの時点まで戻すか(RPO)と何時間で戻すか(RTO)
そして、復旧手順を1枚でいいので文章化します。「管理画面のどこから」「何を選び」「戻した後に誰が動作確認するか」。担当者が変わっても復旧できる状態が、社内システムの安心につながります。
監視・ログ:障害に気づける仕組みを先に入れる
小規模なクラウド構成ほど「誰も見ていない」状態になりがちです。そこで、最初から最低限の監視を入れます。たとえば、死活監視(サイトが応答するか)、エラー率、DBの容量、コスト急増のアラートです。ログは“全部保存”をすると費用が跳ねるため、まずはアプリのエラーログと操作ログなど、必要なものを絞って保存期間を決めます。
この時点で、運用の連絡先(一次対応の担当、ベンダー窓口、エスカレーション)も決めておくと、夜間休日の不安が減ります。
よくある失敗と回避策:クラウド導入を「成功」に寄せるチェックリスト
クラウド移行・クラウド導入の失敗は、技術の難しさよりも、判断の順序と運用設計の欠落で起きます。ここでは、社内システム構築で頻出する失敗パターンと回避策をセットで整理します。プロジェクトのレビューにもそのまま使える観点です。
失敗:最初から大規模・高可用にして費用が膨らむ
「止まったら困るから」と二重三重に冗長化し、監視もログも盛り、結果として月額が想定の数倍になるケースがあります。回避策は、止められないのは“業務”であって“システム全部”ではないと切り分けることです。たとえば「承認だけは止められないが、分析レポートは翌日でも良い」など、重要度で層を分け、重要な部分から強化します。
失敗:誰が運用するか決めずにリリースして炎上
社内システムは作るより、運用の方が長いです。担当者がいないと、障害時の判断、ユーザー追加、権限変更、問い合わせ対応が詰みます。回避策は、リリース前に運用の役割分担(情シス/現場/開発会社)をRACIで決めることです。誰が責任者で、誰が実行者で、誰に共有するかを明文化すると、揉め事が減ります。
失敗:セキュリティを“後で”にして穴が残る
「とりあえず動かす」を優先して、管理画面がインターネットに丸出し、パスワード運用が属人化、監査ログがない、といった状態になることがあります。回避策は、最初の最小構成でもHTTPS、SSO(可能なら多要素認証)、権限最小化、操作ログを必須にすることです。これらは追加コストが比較的小さく、事故防止効果が大きいです。
失敗:クラウドの費用がブラックボックス化する
クラウドは従量課金が多く、知らないうちにログ、バックアップ、データ転送で増えます。回避策は、費用の可視化と上限アラート、そしてタグ付け(どの部署・システムの費用か)です。さらに、毎月のレポートを自動化し、「先月より増えた理由」を説明できる状態にします。これだけで経営への説明コストが下がります。
失敗:ベンダー任せでブラックボックス、引き継ぎ不能
開発会社に丸投げし、構成図や手順書が薄く、退任時に何も残らないケースは少なくありません。回避策は、納品物として「クラウド構成図」「運用手順(監視・復旧・権限変更)」「IaCや設定値の一覧」を契約に入れることです。可能なら、最小限でも社内に“読み解ける人”を1人作る(または伴走支援を受ける)と、長期的な安全性が上がります。
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小規模から始めた社内システムの育て方:拡張・改善のロードマップ
小規模構成の価値は「後から伸ばせる」ことにあります。ただし、場当たり的に増築すると複雑になり、運用コストが上がります。そこで、拡張の順番を決めておくと、判断が楽になります。ここでは一般的な育て方の例を示します。
段階:利用が増えたら先に“入口”と“DB”を強くする
アクセスが増えると、まず入口(Webの入口やAPI)が詰まり、次にDBがボトルネックになります。スケールはこの順に考えると良いです。入口はキャッシュや負荷分散、DBは性能プランの見直し、読み取りの分離などが候補です。重要なのは、アプリを変えずに改善できる手段から優先することです。
段階:障害が痛くなったら冗長化とDRを検討する
最初は単一構成でも、影響が大きくなったら冗長化(同じ機能を複数用意して片方が落ちても動く)を検討します。さらに事業継続の観点では、別リージョンへのバックアップや切替(DR)を検討します。ただし、DRは費用も運用も増えるため、「何時間止まると損失がいくらか」を基準に決めると納得感が出ます。
段階:業務が増えたらデータ連携と権限設計を再整理する
社内システムは、最初は単体でも、次第に会計・人事・営業支援などとつながります。連携が増えると、データの整合性、マスタ管理、権限の粒度が課題になります。ここで一度、データの責任範囲(どのシステムが正か)を定義し、APIやETLなど連携方式を揃えると、将来の改修が楽になります。
段階:体制が整ったらIaCと自動化で属人性を減らす
クラウド構成は“手で作る”と再現性が下がります。体制が整ってきたら、Infrastructure as Code(IaC)で設定をコード化し、変更履歴を残し、テスト環境と本番環境の差分を減らします。全部を一気にコード化する必要はなく、まずはネットワークや権限、DB、入口など変更頻度が低い土台から始めると効果が出ます。
まとめ
社内システムのクラウド構成は、最初に“正解の完成形”を当てにいくほど難しくなります。成功しやすいのは、小規模から始めて、運用できる形で、安全に伸ばすアプローチです。そのために、業務要件と非機能要件を分けて整理し、クラウド導入の構成パターンを絞り、最小構成でも認証・バックアップ・監視を先に入れることがポイントになります。
また、失敗を避けるには「費用の見える化」「運用責任の明確化」「ベンダー任せのブラックボックス化を防ぐ納品物」が効きます。クラウド移行や社内システム構築は、技術だけでなく意思決定と運用設計のプロジェクトです。迷ったら、まずは“止められない業務”と“守るべきデータ”から優先順位を付け、段階的に強化していきましょう。
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