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クラウド移行の費用相場は「何をどこまでやるか」で大きく変わる
クラウド移行の費用相場を調べると、数十万円から数千万円まで幅が広く、判断がつきにくいはずです。結論から言うと、相場がブレる理由はシンプルで、移行対象(システムの数・複雑さ)と移行範囲(設計〜運用までの責任範囲)が会社ごとに違うからです。まずは「何を移すのか」「どこまで任せるのか」を分けて捉えると、見積もりが読み解けるようになります。
一般的に、クラウド移行費用は大きく次の層で構成されます。
- 初期費用(移行プロジェクト費):調査、設計、構築、データ移行、テスト、切替、教育など
- ランニング費用(クラウド利用料):サーバ、データベース、ストレージ、ネットワーク、監視など
- 運用・改善費用:保守、セキュリティ更新、性能改善、コスト最適化(FinOps)など
「クラウド移行=クラウド利用料」だと思ってしまうと、初期費用の見積もりが高く感じたり、逆にクラウド利用料の増加を見落としたりします。特に情シスや経営層が押さえておきたいのは、移行の初期費用は“一度きり”に見えて、品質が低いと運用費として後から回収されるという点です。安い見積もりが必ずしも得ではありません。
また移行方式(後述)によって、費用の出方が変わります。例えば「とりあえず現行をそのまま移す(リフト)」は初期費用が抑えられやすい一方で、クラウド利用料が最適化されずランニングが高止まりすることがあります。逆に「作り直し(リビルド)」は初期費用が膨らむ代わりに、運用・拡張・セキュリティが整い、長期の総コスト(TCO)が下がるケースも多いです。
本記事では、クラウド移行の費用相場を“ざっくり把握”するだけでなく、社内説明に耐える見積もりの考え方、そして発注先の比較に使えるコスト内訳(見積もりテンプレ)まで落とし込みます。
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費用に影響する要素:見積もりの前に決めるべき前提
見積もりを依頼する前に、前提が曖昧だとベンダー側も安全係数を乗せざるを得ず、金額も比較も難しくなります。見積もりを安定させる鍵は「前提条件を言語化して揃えること」です。以下は費用に直結する代表的な要素です。
移行対象の棚卸し(何を移すか)
最低限、次の情報があると見積もりが現実的になります。
- 対象システム数、環境(本番/検証/開発)の数
- サーバ台数、OS、ミドルウェア(Webサーバ、DB等)
- データ量(DB容量、ファイルストレージ容量)、月間増加量
- 連携(他システム、外部SaaS、バッチ、API、SFTP等)
- 利用者数、ピーク時のアクセス、処理件数(ざっくりでも可)
専門知識がなくても、「今どんな機器/契約にお金を払っているか」「どの部署が何に困っているか」を聞き取るだけで精度は上がります。よくある落とし穴は、“隠れ連携”が後から見つかり、追加費用・スケジュール遅延が発生することです。ファイル共有、メール送信、夜間バッチ、Excelマクロの取り込みなど、現場に聞かないと出てこない連携が多いです。
移行方式(どう移すか)
クラウド移行では「6R(Rehost/Refactor/Replatform/Retire/Retain/Replace)」のように分類されますが、非エンジニアの方は次の3つで考えると十分です。
- そのまま移す(リフト):短期・低リスクだが、クラウド最適化は弱い
- 一部作り替える(リファクタ/リプラットフォーム):バランス型。費用も効果も出やすい
- 作り直す/置き換える(リビルド/リプレイス):初期費用は大きいが、将来の運用が楽
見積もり段階でここを曖昧にすると、A社はリフト想定で安く、B社はリファクタ想定で高い、のように「比較にならない見積もり」になります。
求める非機能要件(どれくらい堅牢にするか)
費用を左右するのが非機能要件です。例えば、冗長化(止まらない構成)、バックアップ、災害対策、監視、セキュリティ強化、ログ管理、運用手順整備など。“落ちたら困る度合い”を言えるだけで見積もりが整うので、次の質問に答えられるようにしておくとよいです。
- 停止許容時間:止まってもよいのは何時間までか
- データ損失許容:失ってよいデータはどれくらいか(0が理想か)
- セキュリティ要件:IP制限、MFA、暗号化、監査ログ、脆弱性対応の頻度
ここが決まらないと、ベンダーは「最高に堅牢」か「最低限」のどちらかに寄せて提案しがちで、費用相場からズレます。
クラウド移行のコスト内訳:見積もり書で見るべき項目
クラウド移行の見積もりは、内訳が薄いと判断できません。見るべきは総額ではなく、工程別・成果物別に費用が分かれているかです。ここでは、見積もりに入る代表的な内訳を「何をしている費用か」まで噛み砕いて整理します。
調査・アセスメント費(現状把握と移行方針の確定)
サーバ構成調査、アプリ構造の把握、データ/連携の棚卸し、移行方式の提案、概算のクラウド利用料試算などです。ここを省くと、移行中に未知が噴出し、追加費用が出やすくなります。費用を抑えたいほど、最初の調査に投資したほうが結果的に安くなることが多いです。
基本設計・詳細設計(クラウド上の設計図づくり)
ネットワーク、セキュリティ、監視、バックアップ、権限設計、運用設計などを決めます。例えば「社外から管理画面にアクセスできないようにする」「部署ごとに権限を分ける」「ログを何日残す」といった運用ルールもここに含まれます。非機能を丁寧に設計すると費用は増えますが、運用トラブルの回数が減りやすいです。
環境構築(インフラ構築・IaC・アカウント整備)
クラウドの基盤を作ります。最近はIaC(Infrastructure as Code)で構成をコード化することが多く、最初の費用は増える一方、再現性が上がり、将来の改修・監査対応が楽になるメリットがあります。見積もりでは「手作業構築」か「IaC込み」かを確認すると比較しやすいです。
アプリ改修(移行に伴う修正)
OSやミドルウェア差異、接続先変更、ファイルパス、メール送信、バッチの実行方式など、移行で必ず出る修正に対応します。「そのまま移す」つもりでも、実際には小改修が発生しがちです。内訳が「一式」だとブレるので、改修対象を“機能単位”で分けて見積もっているかを見ます。
データ移行(移す手順とリハーサル)
DBやファイルを移し、整合性を確認します。重要なのは本番前のリハーサル(移行リハ)で、ここを削ると切替日に詰みます。データ量が大きいと、回線・転送方式・停止時間に直結し、費用も変動します。
テスト(動作確認・性能・セキュリティ)
移行後に「いつも通り動くか」を確認します。最低限の観点は、結合テスト、受入テスト、性能テスト、障害時の復旧テストです。特に情シス目線では、障害時に誰が何をするか(復旧手順)がテストに含まれるかが重要です。
切替・リリース・教育(本番移行の当日対応)
切替手順書作成、当日の立会い、ロールバック(戻し)手順、ユーザー通知、操作教育など。ここが手薄だと、社内の混乱コストが跳ね上がります。
運用設計・運用移管・保守(移行後に困らないための整備)
監視項目、アラート設計、障害一次対応、月次レポート、パッチ適用、権限申請フローなど。移行後の費用は「月額」で見えるので、初期費用とセットでTCOとして評価しましょう。
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見積もりの考え方:初期費用と月額費用をTCOで判断する
クラウド移行は「初期費用がいくらか」よりも、3年〜5年の総コスト(TCO)と、得られる効果(時間短縮・障害減・拡張性)で判断するのが現実的です。比較すべきは“移行費”ではなく“移行後の運用まで含めた体験”です。
TCOの基本式(社内説明に使える)
社内稟議で説明しやすい形にすると、次のように整理できます。
TCO(3年)= 初期費用(移行一式)
+ 月額クラウド利用料 × 36
+ 運用保守費(月額) × 36
+ 追加開発・改善(見込み)
- 既存の削減(オンプレ保守、データセンター費、機器更新、作業工数)
ポイントは「削減できるもの」を同じ表に入れることです。オンプレの保守費や更改費は当然として、情シスや現場の“作業時間”も金額換算してよい領域です。例えば、障害対応に毎月数時間かかっている、サーバ手配に数週間待たされている、といった“見えないコスト”が、クラウド移行で減る場合があります。
クラウド利用料は「設計」で変動する
クラウド利用料(ランニング)は、スペック・台数・稼働時間・データ転送・バックアップ保持などで上下します。特に見落とされがちなのが次です。
- 常時稼働:検証環境まで24時間動かすと月額が増える
- ログ/監視:ログ保管期間が長いほどストレージと分析費が増える
- データ転送:外向き通信や拠点間通信が多いと効く
見積もりの妥当性を判断するには、「どの前提で月額を出したのか」を確認しましょう。ベンダーに「稼働時間は?バックアップ保持は?ログ保持は?」と聞くだけでも、コストの読み解きが進みます。
よくある“安く見える見積もり”の正体
初期費用が安い見積もりは魅力的ですが、次のどれかが削られている可能性があります。
- 移行リハーサルなし(本番一発勝負)
- 設計が薄く、後から追加対応
- 監視・バックアップが最低限で、障害時に困る
- 運用手順が整備されず、情シスが抱え込む
“移行できる”と“運用できる”は別物です。特にクラウドは自由度が高い分、運用が弱いとコストとトラブルが増えます。
コスト内訳の作り方:比較可能な見積もりテンプレ(非エンジニア向け)
ベンダー比較で最も重要なのは、同じ前提で見積もらせることです。そのために、発注側で「見積もり内訳の型」を提示すると、金額の妥当性が見えやすくなります。“見積もりを取る前に、見積もりの書き方を揃える”のがコツです。
以下は、そのまま依頼文に貼れる内訳テンプレ例です(可能ならExcel化)。
見積もり内訳テンプレ(例)
- 前提:移行対象(システム名/環境数/データ量/連携)、移行方式(リフト/一部改修/作り直し)、停止許容時間、運用体制
- 調査・アセスメント:現状調査、移行方針、概算クラウド利用料、リスク一覧、移行計画(成果物明記)
- 設計:ネットワーク/セキュリティ/監視/バックアップ/権限/運用設計(成果物明記)
- 構築:クラウド環境構築、IaC有無、アカウント設計、CI/CD(必要時)
- アプリ対応:改修項目の一覧、工数根拠、テスト観点
- データ移行:方式、回数(リハ含む)、移行手順、検証方法
- テスト:結合/受入/性能/障害復旧/セキュリティ(実施範囲)
- 切替:当日体制、手順書、ロールバック、周知・教育
- 運用移管:運用手順、監視設定、権限申請フロー、月次レポート例
- 運用保守(月額):監視一次対応、障害対応SLA、定例、パッチ、改善提案の有無
- クラウド利用料(月額):サービス別の内訳(概算で可)、前提(稼働時間/保持期間)
- 前提外・除外:対応しない範囲、追加費用になり得る条件
このテンプレの狙いは、金額の比較だけでなく「どこが手厚い/手薄いか」を可視化することです。例えば、A社は運用移管が厚いが設計が薄い、B社はIaC込みで長期運用が強い、といった違いが見えるようになります。
さらに一歩進めるなら、見積もりに「成果物」を紐付けてもらいましょう。例として、設計なら“構成図、権限設計書、監視設計書”、切替なら“切替手順書、ロールバック手順書”など。成果物が明確だと、納品の品質と責任範囲が合意しやすいため、トラブル予防になります。
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失敗しないためのチェックリスト:追加費用が出やすいポイント
クラウド移行の現場で、追加費用・炎上の原因になりやすい論点をまとめます。見積もり時点で質問しておくだけで、相場から大きく外れるリスクを下げられます。
「一式」見積もりに潜むリスク
「クラウド移行一式 ◯◯万円」のような見積もりは、比較も交渉もできません。一式の内訳が説明できない場合、追加費用の温床になります。最低でも工程別に分けてもらい、各工程の前提(対象範囲、回数、体制)を記載してもらいましょう。
切替日のダウンタイムと夜間対応
停止時間が短いほど、事前準備・移行方式が難しくなり費用が上がります。夜間/休日対応が必要か、立会いは何名か、切替後の監視強化期間はあるか。これらは人件費に直結します。
セキュリティ・監査要件の後出し
IP制限、MFA、ログ監査、脆弱性診断、ISMS/社内監査対応などは、後から入れると設計変更になりがちです。「最低限のセキュリティ」ではなく「自社が求める証跡レベル」を先に合意しておくのが安全です。
運用責任の境界(誰がやるのか)
移行後に揉めるのが「障害時に誰が何をするか」です。クラウドの管理画面操作は誰が行うのか、アラートが鳴ったら一次対応はベンダーか情シスか、復旧の判断権限は誰か。運用は“技術”より“分担”で決まるため、契約前にRACI(責任分担)を簡易でも作ると安心です。
クラウド利用料の最適化が含まれているか
移行直後は“安全な大きめ構成”になりがちです。その後のコスト最適化(使っていないリソース削除、スケール調整、予約/割引活用、ログ保持の見直し)が提案・運用に含まれるかで、3年後のTCOが変わります。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
まとめ
クラウド移行の費用相場が広いのは、「何を」「どの方式で」「どの品質(非機能)まで」やるかでコスト構造が変わるためです。総額だけを見るのではなく、初期費用・月額費用・運用費を一体で捉え、3〜5年のTCOで比較すると判断が安定します。
- 見積もり前に、移行対象(連携含む)と停止許容時間などの前提を揃える
- 見積もりは工程別・成果物別の内訳で確認し、「一式」を避ける
- 移行方式(リフト/一部改修/作り直し)を明確にして比較可能にする
- クラウド利用料は前提条件で上下するため、稼働時間・保持期間・転送量を確認する
- 運用責任の境界と、移行後のコスト最適化が含まれるかをチェックする
もし社内に詳しい人がいない場合でも、「見積もり内訳テンプレ」を提示して複数社に同条件で出してもらうだけで、費用の妥当性と提案品質が見えやすくなります。クラウド移行は“移すこと”がゴールではありません。移行後に運用し続けられる形で、費用対効果が出る計画になっているかを軸に検討しましょう。
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