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RAGのPoCとは?「30日で何を証明するか」を最初に揃える
RAGは、生成AI(LLM)に社内文書やナレッジを参照させて回答精度を上げる仕組みです。検索(Retrieval)で根拠となる資料を引っ張り、生成(Generation)で文章化します。PoC(概念実証)は、そのRAGが「自社の業務で使えるか」を短期間で確かめる活動です。
PoCでよくある失敗は、「かっこいいデモはできたが、結局何が良くなったのか説明できない」状態です。30日で成果を出すには、最初にPoCのゴールを“技術の完成”ではなく“業務価値の証明”に置くことが重要です。例えば「問い合わせ対応の一次回答を自動化したい」なら、PoCの成果は“回答がどれだけ正しいか”だけでなく“対応時間がどれだけ減るか”まで含めて定義します。
また、RAGは「AIが賢いか」よりも「参照する情報が整理されているか」で体感が大きく変わります。つまりPoCは、AIモデルの比較だけでなく、文書の置き場所・更新頻度・アクセス権など、情報基盤の現実をあぶり出す機会でもあります。
本記事では、開発に詳しくない中小企業や情シスの方でも意思決定しやすいように、30日でPoCを回し、次の本番導入(小規模でもOK)につなげる進め方を、チェック項目と実務手順として整理します。
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PoCで決めるべき評価指標:精度・根拠・コスト・運用の4点
RAGのPoCでは、評価軸を増やしすぎると議論が散らかります。意思決定に直結するのは、次の4点です。
- 精度(業務として使えるか):正答率だけでなく「現場が採用できる回答か」を見る
- 根拠(説明できるか):回答に参照元(どの文書のどこか)を提示できる
- コスト(継続できるか):API利用料、検索基盤、運用工数の合算で見積もる
- 運用(回り続けるか):文書更新、権限、監査、障害時の手当てが現実的か
精度は、いきなり「正答率◯%」のように数値化すると失敗しがちです。業務回答は、正誤が二値で割り切れないことが多いからです。おすすめは「採用」「要修正」「不採用」の3段階判定にし、要修正の理由(情報不足、根拠不明、言い回し不適切など)を記録します。これが改善の地図になります。
根拠については、RAGの強みを最も説明しやすいポイントです。現場・監査・法務・セキュリティの観点では「AIがそう言った」では通りません。PoC段階から、回答と一緒に引用文(抜粋)と参照先(ファイル名、見出し)を出す設計にしましょう。根拠提示ができないRAGは“便利なチャット”止まりになりやすいためです。
コストは「月額いくら」だけでなく、利用が伸びたときの変動費も見ます。特にチャット型は、利用回数と回答の長さでAPI費用が変動します。PoCでは「1日100回使うと仮定したら」「部署展開したら」を試算して、上振れ時の上限を経営に提示できるようにします。
運用は、PoCで最も後回しにされがちですが、本番化の可否を決める本丸です。文書が更新されたときの反映(再取り込み)、誤回答が出たときの差し替え、権限の取り扱い(部署ごとに見える文書を変える等)を、30日のうちに最低限検証しておくと、稟議が通りやすくなります。
30日で回すRAG PoCロードマップ(週単位のやること)
30日という短期間で成果を出すには、週ごとに「確定させるもの」を決め、決めたら次に進むのがコツです。以下は現場で通用しやすい進め方です。
1週目:ユースケースとデータ範囲を確定する
まずはユースケースを1つに絞ります。おすすめは「問い合わせ対応」「社内規程の検索」「製品仕様Q&A」「申請手続き案内」など、文書に答えがある領域です。逆に、経験や判断が必要な「営業戦略」「人事評価」などはPoCの初手には向きません。
次に、データ範囲(文書の集合)を決めます。最初から全社文書にすると、権限と品質で詰まりやすいです。“成果が出やすい文書だけ”に限定して勝ち筋を作るほうが、結果的に本番が早くなります。例としては、FAQ、規程集、マニュアル、過去の回答テンプレなどです。
この週でやるべきアウトプットは、次の3つです。
- PoCの対象業務(誰が・何に困っていて・何を改善したいか)
- 対象文書の一覧(どこにあるか、形式、更新頻度、所有者)
- 評価用質問リスト(最低30〜50問、実際の問い合わせから作る)
2週目:最小構成のRAGを作り、まず動かす
2週目の目的は「精度の作り込み」ではなく、「エンドツーエンドで動くRAG」を早く出すことです。具体的には、文書を取り込み、検索し、回答を生成し、引用元を表示できる状態にします。
この段階で重要なのは、UIを凝りすぎないことです。Slack/Teamsのボット、あるいは簡単なWeb画面で十分です。現場検証では「使えるかどうか」が最優先で、UIは後から改善できます。
また、RAGの基本設計として、次を押さえます。
- 検索対象を分割(チャンク化)し、見出しや章構造をできるだけ保持する
- メタデータ(文書名、部署、更新日、版数)を付ける
- 回答に引用を必ず付け、参照した断片を表示する
専門用語を避けて言うと、「資料を小分けにして“引きやすい形”に整える」「後から追跡できるタグを付ける」「AIの答えに“出典”を付ける」です。これだけでPoCの説得力が上がります。
3週目:評価→改善を回して“業務に耐えるライン”に近づける
3週目は、評価質問リストを回して、どこでつまずくかを記録し、改善します。改善の打ち手は大きく3種類です。
- データ改善:文書の不足、表現ゆれ、古い手順の混在を是正する
- 検索改善:探し方(キーワード/意味検索)の調整、メタデータ絞り込み
- 生成改善:回答のフォーマット、禁止事項、口調、引用の出し方を揃える
現場で多い失敗は、生成(AIの言い回し)ばかり調整して、そもそも検索で正しい文書が取れていない問題を見落とすことです。RAGは「検索が外れると必ず外す」仕組みです。評価では、回答の良し悪しと同時に「参照した文書が正しいか」を必ず確認しましょう。“参照が正しいのに回答が変”なら生成側、“参照が違う”なら検索側と切り分けできます。
4週目:本番を見据えた運用・セキュリティ・費用を固める
最後の週でやるべきは「このまま本番に行けるか」の判断材料をそろえることです。具体的には、運用フローとセキュリティ要件、概算費用、段階導入案を作ります。
- 文書更新の反映:誰がいつ更新し、AI側にどう反映するか
- アクセス権:部署別に参照範囲を分ける必要があるか
- ログと監査:誰が何を質問し、何を参照したかを追えるか
- 費用:月額(固定)+利用量(変動)+運用工数
- 段階導入:PoC→限定公開→部署展開→全社展開の道筋
ここまで揃うと、情シスは稟議に必要な材料が揃い、経営は投資判断がしやすくなります。PoCの成果は「デモ動画」よりも、「評価結果と運用設計の叩き台」が強い武器になります。
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RAG PoCの実務手順:データ準備・設計・評価のチェックリスト
ここでは、RAGのPoCを具体的に進めるための手順を、非エンジニアでも確認できる観点で整理します。発注・社内調整・レビューのときに、そのままチェック項目として使えます。
データ準備:まず“正しい情報がどれか”を決める
RAGの品質は、参照する文書の品質に強く依存します。PoCの段階で、次の点を明確にします。
- 正本(マスター)はどれか:同じ内容の資料が複数ある場合、採用する版を決める
- 更新ルール:改訂頻度、改訂履歴の残し方、廃止文書の扱い
- 形式のばらつき:PDF/Word/Excel/HTML/社内Wikiなど、変換が必要か
例えば「経費精算の手順」が、古いPDFと新しい社内Wikiに両方存在する状態では、RAGが古いほうを参照して誤回答する可能性が上がります。PoCでは、対象範囲を狭め、正本を一本化するだけで精度が大きく改善することがよくあります。
検索設計:部署・製品・日付など“絞り込み軸”を作る
RAGの検索は、単に全文検索するだけでは不十分なことがあります。特に規程やマニュアルは「部署」「製品」「契約プラン」「施行日」で答えが変わります。そこで、文書にメタデータを付けて絞り込みができるようにします。
例として、情シス向けの社内IT手順なら、次のメタデータが効きます。
- 対象部門(営業/開発/管理など)
- 対象システム(メール、SFA、会計など)
- 有効期限・施行日(改訂の多い規程で重要)
検索の質は“探し物の棚を作る”作業に近いです。棚がないと、AIが資料の山から運よく当たりを引くしかなくなります。
回答設計:答え方をテンプレ化して「使える文章」にする
PoCで「正しいことは言っているが、現場で使いにくい」問題はよく起きます。そこで、回答のフォーマットを揃えます。例えば次のようなテンプレが有効です。
- 結論(最初に一文)
- 手順(箇条書き)
- 注意点(例外や期限)
- 参照元(引用・リンク)
また、RAGは自信満々に誤ることがあります。PoCから「不明な場合は不明と言う」「根拠がない推測は禁止」「社内規程に反する可能性がある場合は確認を促す」など、ガードレールを入れましょう。これはAIの能力というより、業務システムとしての安全設計です。
評価:質問セットで定量・定性の両方を取る
評価質問は、現場が実際に困った表現をそのまま使うのがコツです。「旅費精算の領収書がなくなった」など、曖昧で短い質問に答えられるかが実戦です。評価は次のように行います。
- 質問を投げる
- 回答を「採用/要修正/不採用」で判定する
- 引用元が正しいか確認する
- 修正が必要な理由を分類して記録する
この記録があると、「PoCで何ができ、何が課題で、どれくらい改善余地があるか」を関係者に説明できます。特に予算がある企業ほど、説明責任が重いので、評価ログが強い根拠になります。
よくある失敗と回避策:RAG PoCが“デモ止まり”になる原因
RAGのPoCが本番につながらないとき、原因は技術力不足よりも「設計の前提」がズレていることが多いです。典型例と回避策をまとめます。
失敗:最初から全社データを入れようとして止まる
全社文書を扱うと、権限・機密・版管理・重複が一気に噴き出します。結果として、PoCが終わる前に調整疲れで頓挫します。回避策は、対象範囲を「一部署」「一業務」「一種類の文書」に絞ることです。PoCは小さく成功させ、その後に横展開するほうが速いです。
失敗:評価質問が“都合の良い質問”になっている
PoCでありがちなのが、作り手が答えやすい質問を用意してしまうことです。実際の利用は、短文・誤字・前提不足が多いです。回避策は、実際の問い合わせログやメール、チャット履歴から質問を作ることです。ログがない場合は、現場に「最近困った質問を10個」出してもらうだけでも現実に寄ります。
失敗:セキュリティ確認を最後に回して差し戻される
特に大企業の情シスでは、AIに送信されるデータ、ログの保持、アクセス制御、委託先管理が論点になります。PoC段階から「何を外部APIに送るのか」「個人情報や機密は除外するのか」「閉域や社内環境で完結できるのか」を整理しましょう。セキュリティは“最後に詰める”ではなく“最初に合意する”のが近道です。
失敗:PoCの成果物が“動くもの”だけで終わる
本番化に必要なのは、動作物に加えて「運用設計」「費用試算」「展開計画」です。回避策は、4週目に必ず「本番に必要なToDo一覧」を作り、優先度と担当を置くことです。PoCのゴールを「このまま稟議に出せる資料がある状態」と定義すると、自然に成果物が揃います。
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本番につなげる判断基準:Go/No-Goと小さく始める導入パターン
PoCの最後は「なんとなく良さそう」で終わらせず、判断基準を明確にして次の一手を決めます。おすすめはGo/No-Goを以下の観点で決めることです。
- 品質:採用+要修正の合計が業務で許容できるか(不採用の理由が改善可能か)
- 根拠:参照元が安定して提示され、監査・説明に耐えるか
- 運用:文書更新と権限管理のフローが回りそうか
- 費用:想定利用量での月額上限が説明できるか
ここで重要なのは、いきなり「全社導入」か「中止」かの二択にしないことです。RAGは段階導入に向いています。よくある本番へのつなげ方は次の3パターンです。
- 限定公開(パイロット運用):特定部署・特定文書だけで実運用し、ログから改善する
- 業務フローに組み込む:問い合わせフォームの下書き生成、回答テンプレ提示など“人が最終確認”する形で始める
- ナレッジ整備とセットで進める:RAG導入をきっかけに文書の正本化・改訂ルールを整える
PoCで「要修正」が多い場合でも、致命的とは限りません。多くは文書側の整備や検索の絞り込みで改善できます。一方で、根拠が出せない・文書が存在しない・権限が整理できない、といった構造課題は先に片付ける必要があります。
最終的に、本番化の提案資料には「対象業務」「対象範囲」「期待効果」「リスクと対策」「費用」「運用体制」を1枚ずつでも良いので含めましょう。意思決定者は“AIの仕組み”より“導入後に困らないか”で判断します。
まとめ
RAGのPoCを30日で成功させるポイントは、「動くものを作る」より先に、業務価値と評価方法を揃えることです。RAGは検索と文書品質の影響が大きいため、モデル選定だけに寄るとデモ止まりになりやすい一方、対象範囲を絞って正本を定め、根拠提示と評価ログを整えると、本番につながる判断材料が揃います。
進め方としては、1週目でユースケース・文書範囲・評価質問を確定し、2週目で最小構成のRAGを動かし、3週目で評価→改善を回し、4週目で運用・セキュリティ・費用を固めるのが近道です。最終的にはGo/No-Goを明確にし、限定公開など小さく始める本番導入に接続すると、投資対効果を作りやすくなります。
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