情シスのためのDX推進ガイド:やるべきことと優先順位の決め方

情シスがDX推進で最初につまずく理由(そして役割の再定義)

DXは「新しいツールを入れること」だと思われがちですが、現場で起きる失敗の多くはそこではありません。情シスがDX推進を任されたとき、最初につまずくのは目的が“IT導入”にすり替わり、業務のどこをどう変えるかが曖昧なまま進むことです。結果として、導入したSaaSが使われない、データが散らばる、部門間の調整に疲弊する、といった状態になりがちです。

情シスの役割は、単なるシステム保守やヘルプデスクから、DX時代には「業務とITの通訳・設計者」へ広がります。具体的には、(1)業務課題の構造化、(2)データの扱い方の設計、(3)セキュリティと運用の整備、(4)内製・外注の判断、(5)定着までの推進が中心です。開発の専門知識がなくても、この“設計と推進”は十分に担えます。

また、DX推進は「全社を一気に変える」よりも「小さく始めて、学びながら広げる」方が成功率が高いです。特に中小企業では、現場の暗黙知が強く、業務手順が人に依存しがちなため、最初から大規模刷新すると反発や混乱を招きます。大企業でも、部門最適のツール導入が増えすぎ、統合の難易度が上がることがよくあります。

情シスが最初に握るべき“3つの前提”

  • DXは目的ではなく手段:売上・コスト・品質・スピード・リスクのどれを改善するかを明確にする
  • 対象はシステムより業務:現場の作業とデータの流れを起点に考える
  • 成果は導入ではなく定着:使われ続ける運用(ルール、教育、KPI)が必要

このガイドでは、情シスがDX推進を進める際に「やるべきこと」と「優先順位の決め方」を、専門用語を避けつつ実務の手順に落とし込みます。予算はあるが詳しくない、という状況でも、判断と段取りができるように整理していきます。

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DXのゴール設定:経営目標→業務課題→デジタル施策に落とす

DX推進の優先順位は、いきなり「何を導入するか」から考えると崩れます。最初に必要なのは、ゴール設定です。おすすめは、経営目標(何を良くしたいか)→業務課題(どこが詰まっているか)→デジタル施策(どう変えるか)の順に落とすことです。

たとえば「売上を伸ばしたい」という経営目標がある場合、業務課題は「見積作成に時間がかかり提案スピードが遅い」「顧客対応履歴が共有されず機会損失が出る」かもしれません。そこから初めて、CRMや見積ワークフロー、データ連携といったデジタル施策が候補になります。逆に、先にCRMを入れると「入力が面倒」「現場に合わない」などで定着しにくいです。

ゴール設定を現実的にするコツは、定量指標と“現場の言葉”をセットにすることです。定量指標は「月次の処理件数」「リードタイム」「再作業率」「問い合わせ件数」「エラー件数」「監査指摘数」など、情シスでも把握しやすいものを選びます。現場の言葉は「月末が地獄」「このファイルが最新かわからない」「担当者が休むと止まる」といった具体的な困りごとです。これがあると、DXが“自分ごと”になり協力が得やすくなります。

ゴール設定で使える簡易テンプレ

  • 経営目標:例)粗利率を上げる/受注までの期間を短縮する/監査対応を強くする
  • 業務課題:例)承認待ちが長い/二重入力がある/属人化している
  • あるべき姿:例)当日中に見積が出る/1回の入力で他システムに反映される
  • 指標(KPI):例)処理時間、差戻し率、問い合わせ件数、入力漏れ率

情シスの立場では、経営と現場の間に入り、ゴールを“実装可能な粒度”にすることが重要です。ここが曖昧だと、DXが「なんとなく便利そう」で始まり、途中で方向性が揺れたり、評価ができなくなります。

優先順位の決め方:効果×実現性×リスクでスコアリングする

DXの施策候補が出たら、次は優先順位です。ここでありがちな失敗は、声が大きい部門の要望が通る、最新ツールが採用される、役員の好みで決まる、といった“政治”の問題です。そこで、情シス主導で効果×実現性×リスクの観点でスコアリングし、合意形成しやすい土台を作ります。

おすすめの評価軸は次のとおりです。効果は「どれだけ業務・売上・品質に効くか」。実現性は「期間・体制・データの揃い具合・現場協力の見込み」。リスクは「セキュリティ、法務、運用負荷、ベンダーロックイン、停止時の影響」。各項目を5段階で点数化し、合計で並べるだけでも、判断の透明性が上がります。

スコアリング例(5点満点)

  • 効果:工数削減が大きい/売上に直結/品質事故が減る
  • 実現性:既存データが使える/関係者が少ない/3か月以内に試せる
  • リスク(減点または逆スコア):個人情報を扱う/権限設計が難しい/運用が複雑

さらに、情シスの現場感として「まずやるべき」の定番は、次の3カテゴリです。

  • 業務の見える化:手順・責任・入力項目・承認経路を整理し、ムダや属人化を特定する
  • データの整備:マスタ(顧客、商品、取引先)やコード体系、入力ルールを揃える
  • 基盤の標準化:認証(SSO)、端末管理、権限、ログ、バックアップなどを整える

なぜこの順番かというと、DX施策の多くは「正しいデータがあること」「継続運用できること」が前提だからです。たとえばAI活用も、入力データがバラバラだと精度以前に運用が破綻します。RPAも、業務手順が曖昧だと例外対応で止まります。優先順位は、派手さより土台づくりが効きます。

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情シスが主導する推進プロセス:小さく始めて全社に広げる

DX推進を進める際は、最初から全社導入を狙うより、パイロット(小規模検証)→改善→展開の流れが現実的です。情シスにとって重要なのは、“最初の成功体験”を最短で作り、社内の協力を引き出すことです。成功体験があると、次の予算と人がつきやすくなります。

推進プロセスの基本形は以下です。まず対象業務を選び、現場ヒアリングで現状フローとデータの流れを描きます。次に、ムダ(同じ入力、転記、承認待ち、差戻し)と例外パターンを洗い出します。そのうえで「どこまでをデジタル化するか」を決め、PoC(試し導入)で効果測定します。効果が出たら、運用ルールと教育を整え、他部門へ横展開します。

パイロットに向く業務の条件

  • 関係者が少ない:まずは1部門・1チームで閉じる範囲
  • 効果が見えやすい:処理時間や差戻しが数字で追える
  • 例外が少ない:複雑すぎる業務は後回し
  • データが揃っている:Excelでも良いので最低限の入力がある

なお、情シスが“全部やる”必要はありません。業務側は要件(何が困っているか、どうなりたいか)を出し、情シスはそれをシステムと運用に落とす。ベンダーや開発会社は実装を担う。役割分担をはっきりさせると、推進が楽になります。

よくある落とし穴は、PoCが「動いたら成功」になってしまうことです。PoCで見るべきは、操作のしやすさ、データが正しく集まるか、例外時の運用、問い合わせ対応など、実運用の耐久性です。小さな検証でも、稼働後の運用負荷まで確認しておくと、DX推進が“実装して終わり”になりません。

やるべきことチェックリスト:データ・業務・セキュリティ・運用の4点セット

DX推進では、「機能」より「運用」が難所になりがちです。特に情シス視点では、データ、業務設計、セキュリティ、運用の4点セットを押さえると失敗が減ります。この4つが揃って初めて、デジタル施策が継続的に価値を出します

データ:まず“正”を決める(マスタ整備と入力ルール)

データ整備で最初にやるべきは、「どれが正か」を決めることです。顧客名が複数表記、担当者が異動しても更新されない、取引先コードが部門で違う、といった状態だと、分析も自動化も機能しません。最低限、顧客・商品・取引先・部門・担当者などのマスタを決め、入力ルール(必須項目、表記、コード)を定めます。

業務:例外処理を先に潰す(差戻し、承認、代理)

業務のデジタル化は「通常フロー」だけ作ると、すぐ破綻します。実際に多いのは、差戻し、承認者不在、緊急対応、例外値引き、手配変更などです。これらを事前に洗い出し、運用で対応するのか、システムで吸収するのかを決めます。情シスは“例外が起きる前提”で設計するのが強みです。

セキュリティ:権限とログを最初に設計する

DXの施策が増えるほど、アカウント管理が複雑になります。そこで、SSO(シングルサインオン)やID管理、権限設計、ログ取得、端末の管理、バックアップ方針を早めに整えます。特に個人情報や機密情報を扱う業務では、アクセス権限の設計が後回しになると手戻りが大きいです。“便利さ”と“守り”を両立する設計が、情シスの価値になります。

運用:問い合わせ窓口と変更管理(誰が何を直すか)

稼働後に必ず起きるのが、「設定変更したい」「項目を追加したい」「権限を変えたい」「帳票を変えたい」といった要望です。これを場当たり的に受けると、システムがすぐ複雑になります。問い合わせ窓口、変更申請のルール、優先度判断、リリース手順を決め、軽微な変更は素早く、重大変更は影響範囲を見て進める仕組みを作ります。

情シス向け:稼働前に最低限確認したい項目

  • 権限:誰が見て、誰が編集し、誰が承認するかが明確
  • データ:マスタの正が決まり、入力の必須項目が揃っている
  • 運用:問い合わせ・障害・変更の窓口と手順がある
  • 教育:マニュアルより“よくある失敗と対処”が共有されている

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よくある失敗パターンと回避策:情シスが先回りできること

DX推進は、技術よりも「進め方」で失敗します。情シスが先回りして潰せる典型パターンを押さえておくと、プロジェクトの生存率が上がります。ここでは、現場で頻発するものを整理します。

失敗:ツール先行で導入し、現場が使わない

便利な機能があっても、入力が増える、二重管理になる、現場の言葉と画面が合わない、といった理由で使われません。回避策は、現場の1日の流れ(朝〜夕方)に合わせて画面や入力項目を最小化することです。特に最初は「全項目入力」を目指さず、運用に必要な最小項目で回し、後で育てる方が定着します。

失敗:部門ごとに最適化し、後で統合できない

部門単位でSaaS導入が進むと、顧客や商品データの定義がズレ、連携が難しくなります。回避策は、全社共通のマスタとID体系、データ連携方針を“先に”決めることです。全部を統一する必要はありませんが、「どこが共通で、どこが部門固有か」を合意しておくと、後からDXの効果を全社に広げやすくなります。

失敗:PoCから本番への道筋がなく、検証で止まる

PoCで満足してしまい、本番移行のための予算、体制、運用設計がないケースです。回避策は、PoC開始時点で「本番条件(KPI)」「運用体制」「データ移行の方針」「セキュリティ要件」を軽くでも定義することです。情シスは、PoCを“本番の縮小版”として設計すると強いです。

失敗:情シスが抱え込みすぎて燃え尽きる

問い合わせが情シスに集中し、プロジェクトが増えるほど疲弊します。回避策は、業務側の推進役(業務オーナー)を立て、運用の一次対応やルール変更の窓口を分担することです。また、外部パートナーを使う場合も、丸投げではなく「意思決定は社内、設計と実装は伴走」という形にすると、DX推進の学びが社内に残ります。

情シスが“先回り”で用意すると効くもの

  • 要件の型:目的・対象業務・KPI・制約(期限/予算/セキュリティ)を1枚にする
  • 決め方:スコアリング表で優先順位を透明化する
  • 定着策:教育、FAQ、問い合わせ導線、運用ルールをセットで準備する

まとめ

情シスがDX推進を成功させる鍵は、「ツール選定」よりも、目的の整理と優先順位の設計、そして運用まで見据えた推進にあります。特に、経営目標→業務課題→施策の順に落とし、効果×実現性×リスクでスコアリングするだけでも、判断がブレにくくなります。小さく始めて成功体験を作り、データ・業務・セキュリティ・運用の土台を固めながら横展開するのが、現実的で強い進め方です。

もし「どの業務から着手すべきか」「社内だけで要件整理が難しい」「AI活用も見据えてデータ基盤を整えたい」といった状況であれば、外部の伴走支援を活用するのも有効です。情シスの負荷を抑えつつ、社内にノウハウを残す形で進めると、DX推進が一過性で終わりません。

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