Contents
ローコード導入で最初に設計すべき「社内体制」とは
ローコードは、プログラミングを最小限にして業務アプリや簡易システムを作れる仕組みです。中小企業にとっては「外注せずに小さく始められる」「現場の改善を早く回せる」一方で、導入がうまくいかない原因の多くはツール選定より社内体制と役割分担が曖昧なことにあります。
例えば、営業が「見積作成を自動化したい」と言い、総務が「申請フローもやりたい」と言い、現場が各自で作り始めると、似たようなアプリが乱立し、入力項目や顧客コードが揃わず、結局「どれが正しいのか分からない」状態になります。ローコードはスピードが武器ですが、スピードが出るからこそ“交通整理”が不可欠です。
社内体制の設計とは、簡単に言うと次の3点を決めることです。
- どの業務を対象にし、何をゴール(効果)とするか
- 誰が作り、誰が承認し、誰が運用するか
- どこまでを内製し、どこからを外部支援や開発に任せるか
この3点を「役職名」ではなく「役割(責任と権限)」で定義すると、ITに詳しくない組織でも迷いが減ります。以降では、ローコード導入を継続的に成果へつなげるための体制と役割分担の考え方を、現場の業務シーンに沿って解説します。
3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら
失敗しやすいパターン:ローコードが「野良アプリ」化する理由
ローコード導入が頓挫する典型例は、ツールの使い方が難しいからではありません。むしろ操作は分かりやすいのに、次のような“組織の問題”でつまずきます。
- 作りたい人はいるが、業務側の決裁や優先順位が決まらない
- 入力ルールが統一されず、データがつながらない
- 担当者が異動・退職すると、誰も直せない
- 便利だからと範囲を広げ、権限管理や監査に引っかかる
特に注意したいのが「野良アプリ化」です。現場の好意で作られたアプリが増え、業務改善のはずが運用負担になっていきます。例えば、営業日報アプリが複数できてしまい、管理職が見るべき数字が部署ごとに違う、集計のために結局Excelへ再入力、という逆戻りが起きます。
この問題の本質は、ローコードが悪いのではなく、“作ること”と“業務の標準化・ガバナンス”が分離してしまうことです。現場は「早く便利にしたい」、管理側は「統一したい・リスクを減らしたい」。この両方を同時に満たすには、役割分担を「現場任せ」にしない仕組みが必要です。
対策はシンプルで、「どのレベルのアプリなら現場が自由に作って良いか」「会社として守るべきルールは何か」を決めます。例えば、顧客マスタや受注データのような基幹に近いものはルールを厳しめに、部署内のチェックリスト程度は自由度を上げる、といった線引きです。線引きがないままローコードを広げると、スピードの裏側で整合性が崩れます。
役割分担の基本:5つの役を小さく置く
中小企業でローコード導入を進めるとき、最初から大掛かりなIT部門を作る必要はありません。重要なのは、少人数でも機能するように「帽子を5つ」用意し、兼務でもいいので責任の所在を明確にすることです。
ローコード導入で最低限おさえたい5つの役割
- スポンサー(経営・部門責任者):目的と優先順位、投資判断、止める判断をする
- 業務オーナー:対象業務のルール・例外・責任範囲を定義し、最終承認する
- 現場リード(スーパーユーザー):要件を具体化し、試作・改善を回す中心になる
- ローコード開発担当(ビルダー):画面・フロー・データ構造を作り、運用可能な形にする
- ガバナンス/IT窓口:権限、セキュリティ、データ連携、命名規則など最低限の統制を担う
ポイントは、役職に紐づけないことです。例えば営業部長がスポンサー、営業企画が業務オーナー、現場リーダーがスーパーユーザー、情報システム担当がガバナンス、という組み合わせでも構いません。IT人材がいない会社では、最初は外部パートナーがガバナンスとビルダーを支援し、社内に徐々に移管する形が現実的です。
また、「業務オーナー」と「現場リード」を分けるのは重要です。現場リードは改善案をどんどん出しますが、例外対応まで含めた最終責任は業務オーナーが持つべきです。これが逆転すると、現場の声が強い人の都合で仕様が揺れ、運用が破綻しやすくなります。
ローコードは“作る人”が注目されがちですが、成功の鍵は「作る前に決める人」「運用を守る人」を置けるかにあります。5つの役がそろうと、意思決定が速くなり、改善のループが回り始めます。
3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら
導入フェーズ別に変わる体制:PoCから全社展開まで
ローコードは一気に全社導入するより、段階的に進める方が失敗確率を下げられます。体制もフェーズで重みが変わります。
小さく試す(PoC・試作)
最初は「一つの部署」「一つの業務」「一つの指標」で始めます。ここでの目的は、完璧なシステムを作ることではなく、効果が出る型を見つけることです。体制としてはスポンサー・業務オーナー・現場リード・ビルダーがいれば回ります。ガバナンスは最低限(アクセス権、データの持ち出し禁止など)から着手します。
試作でありがちなミスは、最初から「全機能」を入れようとすることです。見積作成なら、まずは「入力→承認→PDF出力」程度に絞り、例外(値引き例外、複数税率、海外取引など)は後回しにします。例外は現場を苦しめますが、最初から全部抱えると止まります。
定着させる(運用・改善)
使われ始めたら、運用責任が重要になります。ここでは業務オーナーが中心となり、「入力ルール」「マスタ管理」「変更申請の窓口」を決めます。現場リードは改善要望を取りまとめ、ビルダーは月1回などのリリースサイクルで改修します。ガバナンスはログや権限の見直しを行い、退職者アカウントの整理なども運用に組み込みます。
横展開する(複数部署・全社)
横展開では、部署ごとの最適化が衝突します。そこで「共通部品」と「共通ルール」を整える必要が出ます。たとえば顧客マスタ、商品マスタ、営業ステータスなどは共通化し、部署固有の項目は拡張フィールドで持つ、といった設計です。ここでガバナンス/IT窓口の比重が上がり、命名規則やデータ辞書の整備が効いてきます。
中小企業では、全社展開の段階で「外部連携(会計・販売管理)」「SSO(シングルサインオン)」「監査対応」などが必要になることがあります。ローコードだけで解決できない部分は、無理に内製せず、必要に応じて受託開発やAPI連携を組み合わせる判断が重要です。
社内ルールの作り方:スピードを落とさないガバナンス
ガバナンスというと堅苦しく感じますが、目的は「現場のスピードを守るための最低限の柵」です。ルールがないと事故が起き、結局利用停止や作り直しでスピードが落ちます。おすすめは、最初から分厚い規程を作るのではなく、次の“薄いルール”から始めることです。
- データの分類:個人情報・機密・社外秘などを簡易定義し、扱いを決める
- 権限設計:閲覧・編集・承認の最小ロールを定義し、付与基準を決める
- 命名規則:アプリ名、テーブル名、項目名、バージョンの付け方を統一する
- 変更管理:「誰が」「いつ」「何を」変えたか分かる運用(申請・履歴)
- バックアップ/引継ぎ:退職・異動時に困らないよう、設計メモのテンプレを作る
特に命名規則は地味ですが効きます。例えば「顧客名」がアプリごとに「会社名」「取引先名」「顧客名称」などバラバラだと、連携時に詰みます。最初に「顧客(customer)」「案件(deal)」「見積(quote)」「受注(order)」など、業務用語の辞書を簡単に作るだけで後が楽になります。
また、権限設計は「できるだけ細かく」ではなく、運用できる粒度が正解です。中小企業では人の入れ替わりや兼務が多いので、ロールを増やしすぎると管理が破綻します。まずは「一般」「承認者」「管理者」程度の3段階で始め、必要に応じて増やす方が現実的です。
ガバナンス担当が社内にいない場合は、外部の支援でルールの雛形を作り、社内で回せるレベルに落とし込むと定着します。ローコードは“ツールの操作”よりも、運用の設計が成果を左右すると理解しておくと、導入の打ち手が変わります。
3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら
よくある業務シーン別:担当者の動き方と会議体
「体制は分かったが、実際に何をどう回すのか」が曖昧だと、結局止まります。ここでは典型的な業務シーンでの回し方を紹介します。
営業:案件管理・見積作成をローコード化する
営業はスピードが命なので、現場リード主導で試作が進みやすい領域です。一方で、営業担当ごとの運用が残りやすく、入力品質が課題になります。ここで業務オーナー(営業責任者や営業企画)が「必須項目」「ステータス定義」「承認条件」を決め、現場リードが浸透させます。
会議体は重くする必要はありません。おすすめは週1回15分の「改善スタンドアップ」です。
- 現場リード:困りごと、改善要望の優先順位案を提示
- 業務オーナー:業務ルールとして採用するか判断
- ビルダー:実装可否と工数、暫定対応案を提示
これだけでも、改善が止まらず、仕様のブレが減ります。
総務・経理:申請・承認フローをローコード化する
申請業務は「例外が多い」「監査の目がある」ため、ガバナンスの関与を早めに入れるのが安全です。例えば立替精算なら、領収書画像、金額、勘定科目、承認履歴などが必要になります。ローコードで作れても、権限とログが弱いと後で困ります。
ここでのポイントは、現場担当だけで決めないことです。経理の業務オーナーが「証憑の要件」「締め日」「差戻しのルール」を持ち、IT窓口がアクセス権・保管・連携方針を決めます。紙の運用をそのまま画面にするのではなく、差戻しや検索など“デジタルの利点”を設計に入れると定着します。
製造・現場:点検チェック・日報をローコード化する
現場は端末やネットワーク制約があることも多く、入力負荷が定着の鍵です。ビルダーは「入力を最小限にする」「選択肢化する」「後から修正しやすくする」設計を優先します。業務オーナーは、点検項目の標準化と、異常時のエスカレーション(誰に通知するか)を決めます。
この領域は成果が出やすい一方、アプリが増えやすいので、ガバナンス担当が「アプリ棚卸し(利用状況の見える化)」を四半期に1回だけでも行うと、野良アプリ化を防げます。
内製と外注の線引き:中小企業が現実的に勝てる戦略
ローコードは内製に向いていますが、すべてを内製する必要はありません。むしろ「内製した方が良い領域」と「外部の力を借りた方が早い領域」を分けると、費用対効果が上がります。
- 内製向き:画面項目の追加、簡単な承認フロー変更、帳票の軽微な修正、通知文面の変更
- 外部支援向き:基幹連携(販売管理・会計)、権限設計の見直し、データ統合、パフォーマンス問題、セキュリティ要件の整理
- 受託開発向き:ローコードの限界を超える独自機能、複雑な計算ロジック、特殊なUI、既存システム改修を伴う連携
現実には、社内に「ローコード開発担当」を置くのが難しい会社もあります。その場合は、最初の3か月だけ外部がビルダーとして入り、社内の現場リードへ作り方と考え方を移し、以降は社内で回す、という形が取りやすいです。重要なのは、完成品を納品して終わりではなく、運用できる形で引き継ぐことです。
また、経営側が押さえるべきKPIは「アプリの数」ではありません。「リードタイムが何日短縮したか」「転記作業が何時間減ったか」「差戻し回数が減ったか」など、業務成果に紐づけます。これが明確だと、内製・外注の判断もブレません。
ローコードは“作れる人”が1人いるだけで進む反面、その1人に依存するとリスクになります。少人数でも、仕様の決め方・記録の残し方・変更の承認プロセスを整えることで、属人化を抑えながらスピードを維持できます。
3分でできる! 開発費用のカンタン概算見積もりはこちら
まとめ
ローコード導入を成功させるポイントは、ツール選び以上に社内体制と役割分担を先に決めることです。特に中小企業では、少人数で兼務しながら回す前提で「スポンサー」「業務オーナー」「現場リード」「ビルダー」「ガバナンス」の5つの役を置くと、意思決定と改善が止まりにくくなります。
また、導入はPoCから始めて、運用で定着させ、横展開で共通化するのが安全です。ガバナンスはスピードを殺すためではなく、事故を防ぎ、継続的に改善するための最低限のルールとして設計します。命名規則・権限・変更管理・引継ぎテンプレなどを小さく整えるだけでも、野良アプリ化を大きく減らせます。
内製と外注の線引きも重要です。ローコードで現場改善を進めつつ、基幹連携やセキュリティ設計などは外部の知見を借りることで、スピードと品質を両立できます。自社の体制に合った進め方を選び、業務成果に直結するテーマから着手することが、最短で成果を出す近道です。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
コメント