なぜ「最初にシステム化すべき業務」を間違えると、IT投資のROIが出ないのか
年商5〜10億クラスの企業では、「DX」「AI活用」「SaaS導入」といったキーワードが飛び交う一方で、実際の現場では業務システム化がうまく進まず、担当役員やDX推進担当が板挟みになっているケースが少なくありません。現場からは「あの業務も、この業務も不便だからシステム化してほしい」という声が上がり、ベンダーからは魅力的なサービス紹介が届きます。しかし、経営としては投資対効果、すなわちROIを説明できなければ意思決定はできません。また、監査・セキュリティ・コンプライアンスといったリスクも無視できません。
この段階でよく起きるのが、「とりあえず見えるところから」勤怠やワークフロー、SFA、チャットボットなどのツールを点で入れてしまい、その結果、データが分断されてしまうパターンです。部門ごとに異なるSaaSが入り、同じ情報を複数の画面に二重入力することになり、本来進めたかった業務システム化や要件定義が後回しになります。情報がつながらないままでは、ROIを正しく測ることもできませんし、経営会議で「このシステム化がいかにキャッシュフローや利益に効いているか」を示すこともできません。
本記事では、そうした状況にある年商5〜10億規模の企業を前提に、業務システム化の「最初の一手」としてどの業務を優先すべきかを整理します。そのうえで、投資対効果であるROI、リスク、実行性の3つの軸で考えるフレームワークと、実際に「受注〜請求〜入金」のプロセスを軸に進める際の要件定義や90日ロードマップのイメージまで、実務でそのまま使えるレベルで解説します。読後には、「経営として筋の通ったIT投資のストーリー」と「ベンダーにそのまま渡せる企画・要件のたたき台」を持ち帰っていただくことを目指します。
1. 年商5〜10億がまず業務システム化すべきは「受注〜請求〜入金」の線
システム化したい業務は多くありますが、年商5〜10億レンジで最初に業務システム化を検討すべきなのは、営業やバックオフィスの見えやすさではなく、「キャッシュになるまでの線」、すなわち受注〜請求〜入金(order-to-cash)です。売上が計上されても、請求が遅れたり、入金確認や消込が属人化していたりすると、資金繰りや投資余力に直接ダメージが出ます。ここを業務システム化することで、請求漏れ・二重請求の防止、入金遅延の抑制、月次決算の早期化といった効果を同時に狙うことができます。
具体的には、見積・契約情報から受注データを起こし、検収や納品の完了をトリガーに請求金額を確定し、請求書発行、入金確認・消込までを一貫したフローとして設計します。この一連の業務システム化によって、どの時点で誰が何を承認すれば売上が確定し、いつ請求が発行され、いつ現金化されるのかが、会社全体で共通認識として持てるようになります。これは単なる効率化ではなく、ROIを説明しやすい投資です。「請求漏れ率が1%減ると年あたり◯◯万円改善」「月次締めが5営業日早まることで、経営数値をもとにした意思決定のタイミングが前倒しされる」といった形で、投資対効果を具体的に語ることができます。
また、受注〜請求〜入金を起点とした業務システム化は、その後の在庫・購買管理や勤怠・工数管理、サポート・CSなどへの拡張の土台にもなります。最初に「売上・債権の正本はどのシステムか」「誰がどの権限で何を確定するのか」といった要件定義を丁寧に行っておくことで、後続のシステム化でも同じ考え方を流用できます。ここが曖昧なまま個別にツールを入れると、後から統合しようとしたときにデータ構造や権限設計がバラバラで、再度大がかりな業務システム化が必要になってしまいます。
ポイント:「どの業務が一番困っているか」ではなく、「どの業務をシステム化するとキャッシュフローと決算の質が最も良くなるか」というROI視点で優先順位をつけることが重要です。その観点でほとんどの企業で最初に来るのが、受注〜請求〜入金の業務システム化だと考えられます。
2. なぜ中堅企業は業務システム化で詰まりやすいのか:構造的な課題を整理する
年商5〜10億クラスの企業が業務システム化で行き詰まりやすい理由は、個々の担当者のスキル不足というよりも、構造的な背景にあります。まず一つ目は、組織の成長スピードに対して、バックオフィスや情報システム部門の体制が追いついていないことです。営業や現場の人数は増えても、経理、人事、情シスは「兼務で何とかしている」状態が続きます。その結果、Excel台帳や紙の書類が増殖し、「この売上はどのシートが最新版か」「この請求書の控えはどこにあるのか」といった混乱が日常化します。
二つ目は、ツール導入が業務システム化や要件定義よりも先行しやすいことです。現場の「この作業が大変なので何とかしたい」という声を受けて、単体のSaaSやRPAが導入されると、一時的には便利になります。しかし、部門ごとにバラバラのツールが入ることで、「データの正本がどこか」「売上や顧客情報の唯一の参照源はどこか」が不明確になります。これではROIの算出も難しく、経営層への説明も感覚的なものになってしまいます。
三つ目は、IT投資のROIとリスク、そして現場の実行性を同時に語れる資料が用意されていないことです。社内の稟議書や投資提案書には、「業務効率化」や「ペーパーレス」といった抽象的な言葉が並びますが、「年間で何時間削減され、その時間単価はいくらで、合計でどれくらいの金額インパクトになるのか」「監査・コンプラ上のどのリスクが下がるのか」といった具体的なROIの説明がないため、意思決定が先送りされます。このギャップを埋めるには、業務システム化の前提となる現状の業務フローとデータの流れを可視化し、課題とインパクトを整理することが不可欠です。
この章で述べた課題は、どれも「どこから手をつければよいか」が見えづらい要因になっています。そこで次の章では、候補となる業務を俯瞰し、「ROI」「リスク」「実行性」の3軸で評価するためのフレームワークを紹介しながら、どの業務の業務システム化を最初に選ぶべきかを整理していきます。
3. 「ROI×リスク×実行性」で最初の業務システム化を決めるフレームワーク
どの業務を最初に業務システム化すべきかを感覚で決めてしまうと、後から「本当にそこだったのか?」という議論が起こり、プロジェクトが中止になったり、別のツール導入に差し替えられたりするリスクがあります。そこで役に立つのが、「ROI」「リスク低減」「実行性(90日でどこまでいけるか)」という3つの軸で評価するシンプルなフレームワークです。
まずROIの軸では、「売上回収のリードタイム短縮」「請求漏れ・二重計上の削減」「月次締めや決算にかかる工数削減」「人件費やアウトソーシング費用の圧縮」「経営ダッシュボードの精度向上」といった項目を洗い出します。各業務の業務システム化により、これらの指標がどれくらい改善するかをざっくりでよいので数値化し、「年間◯◯時間削減 × 時給◯◯円」「請求漏れ◯%減 × 年間売上◯◯円」といった形で金額換算します。ここでは、直接的なコスト削減だけではなく、「経営判断のスピードが上がる」「顧客体験が向上し解約率が下がる」といった広義のROIも意識しておくことが重要です。
次にリスクの軸です。監査・税務・コンプライアンス・情報セキュリティといった観点から、「この業務を今のままにしておくと、どのような事故が起こりうるか」を整理します。請求・入金・契約管理といった領域では、少額のミスでも信用問題に発展する可能性がありますし、個人情報や機密情報を扱う業務では、漏洩や不正アクセスのリスクが常につきまといます。ここでは、形式的な社内規程だけでなく、監査法人や顧問税理士からの指摘、取引先からのセキュリティチェックシートなども参考にしながら、「リスクの大きさ」と「発生確率」に基づく優先度を決めていきます。
最後が実行性です。どれだけROIやリスク低減効果が高く見えても、現場の負担やデータ移行の難易度が高すぎては、90日〜半年で成果を出すことは難しくなります。そこで、「既に類似のSaaSが存在するか」「既存システムとの連携はどれくらいの工数か」「マスターデータの整備状況はどうか」「現場メンバーをプロジェクトにアサインできるか」といった観点でスコアリングを行います。ここで作成した評価表は、そのまま要件定義やRFP(提案依頼書)のベースとして利用でき、ベンダーとのコミュニケーションでも有効な資料になります。
実務での使い方:Excelやスプレッドシートで「業務名」「ROIスコア」「リスクスコア」「実行性スコア」の3列を用意し、候補業務を並べて点数をつけてみてください。定量的なROIが出せない場合は、「高・中・低」でも構いません。重要なのは、感覚ではなく共通のフレームで議論することです。
4. 最初にシステム化する5つの業務候補と、その見極め方
上記のフレームワークで候補を洗い出すと、多くの中堅企業で上位に挙がるのが、次の5つの領域です。①受注〜請求〜入金、②在庫・購買、③勤怠・工数管理、④問い合わせ・CS、⑤契約・法務です。ここからは、具体的なイメージが湧くように、それぞれの業務システム化のポイントを解説します。
まず①受注〜請求〜入金は、本記事の主題でもある「キャッシュになるまでの線」の中心です。ここを業務システム化することで、売上・債権の正本が一つに定まり、経営数値の信頼性が飛躍的に向上します。要件定義としては、「見積番号・受注番号・請求番号の紐づけ」「検収・納品のタイミング」「締め日・支払条件」「通貨・税率」「与信ルール」などを丁寧に設計していきます。
②在庫・購買は、製造業や小売・卸売など、在庫がビジネスの中心にある企業にとっては、最初の候補になりえます。在庫回転率や欠品率、廃棄ロスといった指標をもとに業務システム化のROIを算出し、「どの商品群からシステム化するか」を決めていきます。在庫・購買の業務システム化では、「どの時点で在庫を引き当てるか」「発注点とリードタイムをどう定義するか」といった要件定義が重要です。
③勤怠・工数管理は、IT・クリエイティブ・コンサルティングなど人件費比率の高いビジネスにおいて有力な候補です。案件別の採算管理ができていない場合、どの案件で利益を出し、どの案件で赤字を垂れ流しているのか見えないまま、人を増やすかどうかの判断を迫られます。ここでは、「プロジェクトコード」「タスク種別」「残業申請フロー」「有給・代休のルール」などを含めた業務システム化と要件定義が求められます。
④問い合わせ・CSは、解約率が高かったり、クレーム対応に追われていたりする企業ではROIの高い領域です。問い合わせ窓口がメール・電話・チャットなど複数に分かれている場合、対応状況の把握やナレッジの共有に大きなムダが発生します。問い合わせ管理の業務システム化では、「問い合わせ件数の集計」「対応ステータス管理」「顧客情報との紐づけ」「FAQ・ナレッジベースの活用」などを要件定義に落とし込んでいきます。
⑤契約・法務は、サブスクリプションや長期契約型ビジネスを展開している企業にとって重要な候補です。契約更新、価格改定、解約、特約条項といった情報がバラバラに管理されていると、請求漏れや条件違反、法的トラブルのリスクが高まります。ここでは、「契約IDと顧客IDの紐づけ」「更新・解約のフロー」「電子契約サービスとの連携」などを前提にした業務システム化が求められます。
これらの5領域を比較しながら、自社にとってのROI・リスク・実行性のバランスを見極めることで、「最初の業務システム化の一手」を決めやすくなります。多くのケースでは、①受注〜請求〜入金を中核に据えつつ、業種・ビジネスモデルに応じて②〜⑤のどれかを第2フェーズとしてロードマップに組み込む形が現実的です。
5. 受注〜入金プロセスをどう業務システム化するか:要件定義から運用まで
ここからは、最初の一手として選ばれやすい「受注〜請求〜入金」の業務システム化について、より踏み込んだプロセスをイメージしていきます。まず着手すべきは現状の業務フローの可視化です。営業がどのタイミングで見積を作成し、誰の承認を経て契約・受注になるのか。納品や検収はどのような形式で行われ、どの情報をもとに請求金額や請求タイミングが決まるのか。入金確認は誰がどのシステム・口座情報を見て行い、消込はどう処理されているのか。これらをヒアリングと現場観察を通じて洗い出します。
そのうえで、「今後あるべき姿(To-Be)のフロー」と「データの流れ」を設計し、システム要件と運用ルールに落とし込む要件定義フェーズに入ります。ここでは、業務システム化の観点から、例えば次のような論点を整理します。どのタイミングで売上を計上するか(出荷時か検収時か)、請求書番号の採番ルール、部分請求や前受金の扱い、返品や値引きが発生した場合の処理、複数通貨や複数税率への対応、与信限度額を超えた場合の自動チェックなどです。これらはすべてROIとリスクに直結するため、経営・経理・営業・情シスが一体となって議論する必要があります。
「作る vs 買う」の判断では、標準的な販売管理・請求業務に関しては既存のSaaSを活用し、自社固有のロジックや承認フローについてはカスタマイズや個別開発で補うハイブリッド型が現実的です。インボイス制度や電子帳簿保存法、今後の電子インボイスといった法制度対応を考えると、そのアップデートを自社だけで追いかけるのはリスクとコストが大きいため、法対応を含めた機能アップデートを提供してくれるサービスをベースに置き、そこに自社の業務システム化要件を被せる設計が、長期的なROIの観点から望ましいでしょう。
導入・移行フェーズでは、「全顧客・全案件を一度に切り替える」のではなく、「新規案件は新システムで運用」「既存案件は順次移行」といったステップを踏むことで、リスクを抑えながら移行を進めることができます。また、運用ルールやマニュアル、教育コンテンツの整備も要件定義の一部として捉え、プロジェクトのスコープに含めておくことが重要です。システムそのものが良くても、現場の入力ルールや承認フローが曖昧なままでは、データの品質が担保されず、結果的にROIが出ない業務システム化になってしまいます。
ソフィエイトのような外部パートナーを活用する意義:業務フローの整理から要件定義、システム選定、開発・設定、運用設計までを一気通貫で支援できるパートナーがいれば、「ツール導入だけで終わるIT投資」から、「キャッシュフローとガバナンスを改善する業務システム化」へと発想を転換しやすくなります。
6. 90日ロードマップと伴走イメージ:経営判断と現場実装をつなぐ
最後に、実務で使える「90日ロードマップ」のイメージを紹介します。これはあくまで一例ですが、年商5〜10億クラスの企業が受注〜入金の業務システム化に取り組む際の現実的なスケジュール感です。
Day 1〜15:現状把握と要件定義の素案づくりのフェーズです。経営層・経理・営業・バックオフィス・情シス兼務のメンバーを集め、現状の業務フローと課題、改善したい指標を洗い出します。この段階で、「どの業務を最初にやるか」「なぜ受注〜請求〜入金なのか」を、前述の「ROI×リスク×実行性」のフレームで整理し、経営会議での合意を取ります。
Day 16〜45:詳細要件定義とソリューションの選定フェーズです。To-Beフローとデータモデルを設計し、「ここは標準SaaS」「ここは自社開発」「ここは既存システムと連携」といった大枠を決めます。同時に、「導入時に何をKPIとするか(例:請求漏れ率、月次締め日数、入金遅延件数)」を合意しておくことで、後のROI評価がスムーズになります。
Day 46〜75:設定・開発・テストのフェーズです。ユーザーアカウントと権限設計、マスターデータの投入、インターフェースの開発・連携テストなどを集中的に行います。ここでは「現場の代表ユーザー」を巻き込み、実際の入力画面・帳票・承認フローを触ってもらいながら改善していくことで、リリース後の定着度合いを高めることができます。
Day 76〜90:本番リリースと運用定着のフェーズです。新規案件を新システムで運用開始しつつ、週次で問い合わせ窓口と小さな改善サイクルを回します。90日が終わる頃には、KPIの初期値と比較しながらROIの兆しを確認し、「次にどの業務を業務システム化するか」を議論できる状態を目指します。
このようなロードマップを描くことで、経営としても「いつ、何を、どこまでやるのか」が明確になり、IT投資の意思決定がしやすくなります。同時に、現場メンバーも「自分たちの業務がどう変わるのか」「どのタイミングで新しいツールを使い始めるのか」が具体的にイメージできるようになります。ソフィエイトでは、こうした90日ロードマップの設計から要件定義、システム選定、開発・導入、運用・ガバナンス設計までを一気通貫で伴走し、単なるツール導入ではなく、本質的な業務システム化とROI最大化を支援することを重視しています。
まとめ:最初の一手を「受注〜入金の業務システム化」として、筋の通った投資ストーリーを描く
本記事では、年商5〜10億規模の企業が「最初にシステム化すべき業務」として、受注〜請求〜入金のプロセスを中心に据えるべき理由と、その見極め方・進め方を解説しました。個別の不便さや声の大きさに引きずられるのではなく、ROI、リスク、実行性の3軸で業務を俯瞰し、もっともキャッシュフローとガバナンスに効く領域から業務システム化を始めることが重要です。
最初の一手として受注〜入金の業務システム化に取り組むことで、「売上と債権の正本が一本化される」「請求漏れや入金遅延のリスクが下がる」「月次決算のスピードと品質が上がる」といった具体的な成果が期待できます。そのプロセスで作成した業務フロー図や要件定義資料、KPI設計は、そのまま次の在庫・購買、勤怠・工数、問い合わせ・CS、契約・法務といった領域のシステム化にも転用可能であり、中長期的なIT投資の土台になります。
もし、社内に業務システム化と要件定義をリードできる専任の人材がいないとしても問題ありません。経営と現場の間に立ち、業務と技術の両面から支援できるパートナーと組むことで、「ツールの良し悪し」ではなく、「自社の事業戦略とキャッシュフローにとって最適な一手」を一緒に考えることができます。株式会社ソフィエイトは、IT戦略策定から要件定義、開発・導入、運用・ガバナンス設計までを一気通貫で伴走することで、年商5〜10億クラスの企業が、限られたリソースで最大のROIを引き出すための業務システム化を支援しています。「うちの場合はどこから手をつけるべきか」「既に入れてしまったSaaSを活かしながら全体を整理したい」といったお悩みがあれば、ぜひ一度ご相談ください。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
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