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セキュリティとスピードは本当に両立できるのか?ITガバナンス再設計の出発点
新しいSaaSの導入、AI活用、海外展開――こうしたテーマが経営会議に上がるたびに、「セキュリティは大丈夫か」「監査に耐えられるのか」という不安が同時に噴き出します。結果として、スピードを重視する事業側と、リスクを抑えたい管理部門・情シスとの間で、見えない綱引きが続いている企業は少なくありません。この綱引きの裏側には、ITガバナンスの方針が共有されておらず、「案件ごとに場当たり的に判断せざるを得ない」という構造があります。本来は、経営としての方針を定めたITガバナンスがあり、その下に具体的なセキュリティポリシーや業務フローがぶら下がっている状態が望ましいと言えます。
しかし現実には、「セキュリティは重要だから、チェック項目を増やす」「監査が心配だから、とりあえず承認者を増やす」という形で、ルールが積み増しされていきます。その結果、セキュリティポリシーは分厚いPDFになり、現場は誰も読まず、例外申請と口頭相談だけが増えていきます。ここで失われているのは、ITガバナンス全体の設計思想と、DX案件を進めるためのDX ガバナンスの視点です。「すべてを守る」のではなく、「どのリスクをどの程度まで許容するのか」を、経営として言語化できているかどうかが分かれ目になります。
この記事では、年商5〜10億規模の中堅企業を想定し、経営・事業・管理部門・情シスが同じテーブルで議論できるよう、ITガバナンスとDX ガバナンスの考え方を整理し、実際に90日で形にするロードマップをご紹介します。単なる概念論ではなく、「どの順番で何を決めるか」「どのタイミングでセキュリティポリシーに落とすか」といった実務の視点から解説します。
この記事のゴール
- 経営判断として筋の通ったITガバナンスと投資ストーリーを描けるようになる
- ベンダーに渡せるレベルの企画書・要件書に、ガバナンスとセキュリティポリシーを織り込めるようになる
- 90日で「止めるためのルール」ではなく「攻めるためのDX ガバナンス」を整えるイメージを持てるようになる
なぜセキュリティ強化がスピード低下につながるのか(誤解の構造)
まず、なぜ「セキュリティを強化するとスピードが落ちる」という構図が生まれるのかを整理します。多くの企業では、インシデントや監査指摘をきっかけに、セキュリティポリシーや規程を慌てて整備します。その際、「とりあえず禁止」「とりあえず承認ステップ追加」という形で、現場の業務フローに上乗せするかたちでルールが増えます。本来であればITガバナンス全体を見直し、「どの業務にどの強度の管理を適用するか」という設計が必要ですが、そこに手が回らないため、「守りのためのパッチ」が増え続けてしまいます。
また、経営と現場の間でDX ガバナンスの前提が共有されていないことも、スピード低下の原因になります。経営側は「DXを進めてほしい」と言いながら、同時に「とにかくセキュリティ事故は起こすな」と指示しがちです。現場から見ると、「DXとガバナンス、どちらを優先すべきかわからない」という状態になり、意思決定のたびに経営や管理部門へエスカレーションが必要になります。これはITガバナンスとDX ガバナンスの整合が取れていないために起こる現象であり、セキュリティポリシーそのものが悪いわけではありません。
さらに、SaaSやAIツールの導入時、「このサービスはセキュリティポリシーに違反しないか」「どの部署の承認が要るのか」が不明確なまま進むケースも多く見られます。この場合、個別相談・メールでのやり取りが増え、結果としてプロジェクトのリードタイムが読めなくなります。本来、ITガバナンス設計の段階で、「この種類のサービスはこのレーンで審査する」「このリスクレベルであればこの承認フロー」とDX ガバナンスと一体で決めておくべきです。
つまり、「セキュリティ強化=スピード低下」は必然ではありません。ITガバナンスとDX ガバナンスを事前に設計し、セキュリティポリシーをその一部として位置づけ直すことで、「安心して速く進められるレール」を作ることが可能です。ここから先のセクションでは、そのレールをどう設計し、90日で実務に落としていくかを具体的に見ていきます。
経営が握るべき「守り」と「攻め」のITガバナンス
次に、経営目線でITガバナンスを「守り」と「攻め」に分けて整理します。守りのITガバナンスは、会社の存続にかかわる領域を対象に、絶対に起こしてはいけないリスクを管理する仕組みです。具体的には、個人情報・決済情報・財務データ・機密設計図などを扱うシステムやプロセスに対して、厳格なセキュリティポリシーと監査対応を求めます。一方、攻めのITガバナンスでは、売上成長や事業スピードを優先しつつ、リスクを許容したうえでDXを推進するためのDX ガバナンスを設計します。
ここで重要なのは、「守り」と「攻め」を別世界として切り離すのではなく、同じITガバナンスの枠組みの中で整理することです。守りの領域では、セキュリティポリシーや情報セキュリティ関連規程を詳細に定め、例外を極力出さない運用にします。攻めの領域では、DX ガバナンスとして、「PoC環境では匿名化されたデータのみ使用する」「AIサービスへの投入データはこのレベルまでに限定する」といった原則を決め、スピードとリスクのバランスを取ります。どちらもITガバナンスの一部ですが、求めるスピードとリスク許容度が違うだけだと理解することが重要です。
経営としては、これらを「ポートフォリオ」として俯瞰します。例えば、守りのプロジェクト(基幹システム更新など)と攻めのプロジェクト(新規サービスやAI活用など)の比率を決め、それぞれに必要なITガバナンスとDX ガバナンスの強度を調整します。その上で、ガイドラインとしてセキュリティポリシーの優先度を示し、「このタイプの投資はここまでリスクを取りに行く」「この領域はゼロリスクを目指す」といった判断基準を経営会議で明文化することが、現場の迷いを減らします。
ポイント:「全部守る」「全部攻める」ではなく、プロジェクトのポートフォリオごとにITガバナンスとDX ガバナンスの強度を変える。その前提があると、セキュリティポリシーも「一律の禁止事項」ではなく「プロジェクトごとに参照するルール集」として機能しやすくなります。
こうした整理を経営層・事業責任者・管理部門・情シスで共有することで、「この案件は攻めの枠組みだから、このDX ガバナンスに沿って進めてよい」「この案件は守りの枠組みだから、セキュリティポリシーのこの章を必ず満たす必要がある」といった、具体的な会話が可能になります。結果として、案件ごとの調整コストを大幅に減らしつつ、全体として整合の取れたITガバナンスを維持できます。
90日で整えるITガバナンス設計ロードマップ
ここからは、90日でITガバナンスとDX ガバナンスの骨格を整えるロードマップの一例をご紹介します。これはあくまでモデルケースですが、多くの中堅企業で応用できる流れです。
Day0〜30:現状棚卸しと課題の可視化
最初の30日で行うのは、「知らないリスクをなくす」ことです。既存システム、SaaS、RPA、ノーコードツール、Excelマクロなどを含め、業務で使われているIT資産を一覧化します。同時に、それぞれが扱うデータ種別・社外接続・アクセス権限・委託先を洗い出します。この作業は、ITガバナンスの前提となる台帳づくりであり、DX ガバナンスの観点からも、どこにシャドーITや過剰な権限が潜んでいるかを把握するために重要です。並行して、現在のセキュリティポリシー・規程類を収集し、実態との乖離を整理します。
Day31〜60:方針・原則レベルのITガバナンス設計
次の30日間で、「守りと攻めの方針」を文章化します。ここでは、詳細な手順に落とす前に、ITガバナンスの原則、投資の優先度、リスク許容度を明確にします。例えば、「個人情報・決済情報はゼロリスクを目指す」「PoC環境ではこのレベルまでリスクを許容する」といった判断を、経営会議で合意します。それをもとに、DX ガバナンスの骨格(PoCの進め方、本番移行の条件、AIモデル利用の前提など)を定義し、連動する形でセキュリティポリシーの改訂方針を決めます。このフェーズで重要なのは、「どの領域から手をつけるか」を絞り込むことです。
Day61〜90:ルールを業務フロー・ツールに落とし込む
最後の30日では、決めた原則を実務で回る形に落とし込みます。具体的には、SaaS導入申請、AIツール利用申請、システム改修申請などのフォームを標準化し、それぞれに対応する承認フローをワークフローシステムに実装します。この際、申請フォームの項目はセキュリティポリシーとITガバナンスで定めた観点(データ種別・利用目的・委託先の有無など)と対応させることで、チェックの抜け漏れを防ぎます。同時に、ログ保存やアクセス権レビューの仕組みを整え、DX ガバナンスで求められるスピードを損なわないよう、自動化できる部分は積極的にツールに任せます。
Tips:90日で「完璧」を目指さない
90日で目指すのは、「すべてのITガバナンスとDX ガバナンスを作り切ること」ではなく、「これからの投資案件を安全に進めるための最低限のレール」を整えることです。セキュリティポリシーも、まずは優先度の高い領域から順に見直し、年1回のアップデートを前提とした運用にする方が現実的です。
現場で機能するセキュリティポリシーと監査対応の作り方
ITガバナンスを現場で機能させるうえで最大のボトルネックとなるのが、「誰も読まないセキュリティポリシー」です。多くの企業では、監査や認証取得を意識するあまり、情報セキュリティ規程が細かくなりすぎ、現場の行動指針としては使われなくなっています。実務目線では、ITガバナンスの文書体系を三層に分けると機能しやすくなります。第一層は経営向けの原則・方針文書、第二層は管理部門向けの詳細規程、第三層は現場向けの行動ルールです。
経営向け文書では、ITガバナンスの目的、リスク許容度、DX ガバナンスとの関係を簡潔に示します。ここでは、「なぜこのセキュリティポリシーが必要なのか」「どのような投資判断を支えるのか」といったストーリーを明確にします。管理部門向けの詳細規程では、アクセス権限管理、ログ管理、バックアップ、委託先管理、インシデント対応など、監査で問われる要素を網羅的に整理します。この層が、監査法人や顧客監査に提示する想定のITガバナンス文書群になります。
現場向け行動ルールでは、A4数枚程度に要点を絞り込みます。SaaS利用時に確認すべきポイント、AIツールに入力してはいけない情報の例、外出時のデバイス取り扱い、パスワードポリシーなどを、具体的なケースで示します。ここでDX ガバナンスの観点を組み込み、「こういう使い方ならOK」「この線を越えるなら事前に相談」といったレベル感を明示することで、現場が自律的に判断しやすくなります。セキュリティポリシーの要点とITガバナンスの原則をつなぐ橋渡しの役割を果たすイメージです。
監査対応においては、「ルールの有無」だけでなく、「運用実績と証跡」が重視されます。申請・承認・レビューといったプロセスをワークフローシステムに載せ、いつ誰がどのセキュリティポリシーに基づいて判断したかを残すことで、ITガバナンスとDX ガバナンスの実効性を示せます。特に、AIやSaaSに関する判断は今後監査でも注目される領域であり、ログ保存や記録フォーマットをあらかじめ設計しておくことが重要です。
ポイント:監査を「後追いのチェック」ではなく、「ITガバナンスとDX ガバナンスが機能しているかの健康診断」と捉え直すと、セキュリティポリシーの見直しも前向きなプロジェクトになります。
SaaS・AI・海外展開時代のDX ガバナンスと運用パターン
SaaSやAI、海外展開を前提としたビジネスでは、従来の境界防御型のITガバナンスだけでは不十分です。クラウドサービスや外部APIと連携することが前提になるため、「社内か社外か」ではなく、「どのデータをどのレベルのリスクで扱うか」に基づいたDX ガバナンスが必要になります。このとき有効なのが、「利用パターン」をあらかじめ定義した運用モデルです。
例えば、社内コラボレーション系SaaS、顧客向けサービス連携SaaS、生成AIツール、海外拠点で利用する業務システムといったカテゴリごとに、標準の申請フローとチェック観点を定義します。それぞれについて、「このカテゴリはこのITガバナンスレベル」「このカテゴリはこのDX ガバナンスレベル」といった形で、「レーン」を事前に作っておくイメージです。申請時には、どのレーンに当てはまるかを選ぶだけで、必要な確認事項が自動的に決まるようにしておくと、現場の負担を減らしつつ、セキュリティポリシーの担保も容易になります。
AI活用のケースでは、投入データの機密度と出力結果の利用範囲に応じて、レベル1〜3などの区分を設ける方法が現実的です。例えば、「レベル1:匿名化データのみ・社内利用」「レベル2:限定的な個人情報・特定プロジェクト内で利用」「レベル3:機密データを扱う自社専用環境」といった区分とし、それぞれに対応するITガバナンス・DX ガバナンス・セキュリティポリシー上の要件(ログ保全期間、レビュー頻度、承認者など)を紐づけます。これにより、「このユースケースはレベル2なので、この手順で進めればよい」と現場が判断しやすくなります。
海外展開では、各国の個人情報保護法や税制、決済ルールに対応する必要があります。ここでは、現地の専門家とも連携しながら、各国ごとの制約条件をITガバナンスとDX ガバナンスの要件として整理し、その要件をベンダーへのRFPや要件定義書に落とし込みます。例えば、「EU顧客データはEU内リージョンに保存」「決済情報と会員情報を論理分離」「現地税率変更時の自動反映」といった条件をセキュリティポリシーの一部として明文化し、システム要件に転写します。
運用パターン化のメリット
・案件ごとにゼロからITガバナンスとDX ガバナンスを検討する必要がなくなる
・現場は「どのパターンか」を選ぶだけでセキュリティポリシーを満たせる
・ガバナンスのレベルを保ちつつ、導入スピードを大きく落とさずに済む
ソフィエイトと進めるITガバナンス・DX ガバナンス改善プロジェクト
ここまで、「自社でやる場合」の視点でITガバナンスやDX ガバナンス、セキュリティポリシーの整備方法を整理してきました。ただし、現実には、経営企画・財務・法務・情シスを兼務する少人数体制の企業が多く、ここまでの設計をすべて自前でやり切るのは容易ではありません。そこで有効なのが、経営と現場の間を翻訳しながら並走できる外部パートナーの活用です。
株式会社ソフィエイトは、システム開発・コンサルティング・UI/UXデザインに加え、大学発ベンチャーとしてAI活用プロジェクトも多数手がけています。このような背景を活かし、ビジネス側の戦略と技術・ガバナンスの要件を同時に整理し、「攻めたいのに守りが不安」「守りたいのにスピードが出ない」といったジレンマの解消を支援できます。具体的には、次のようなステップで伴走することが可能です。
- 現状のITガバナンス・DX ガバナンス・セキュリティポリシーの棚卸しと課題の可視化
- 経営戦略・事業計画と整合したITガバナンス方針・DX推進方針の整理
- SaaS/AI/海外展開を見据えたDX ガバナンスと運用パターンの設計
- 方針を要件定義・技術選定・システム設計に反映するプロジェクト推進
- 運用開始後のガバナンスレビューやセキュリティポリシーの定期見直し支援
読者の方にまずおすすめしたいのは、「完璧なITガバナンス文書を作ろう」とするのではなく、「直近1〜2年で予定している投資案件(新規開発・SaaS導入・AI活用・海外展開など)を安全かつスピーディに進めるために、どこから手をつけるべきか」を明らかにすることです。そのうえで、「方針整理から相談したい」「既存のセキュリティポリシーを前提にDX ガバナンスだけ整えたい」「次のリプレイス案件に間に合わせる形で一緒に進めたい」など、今の状況に近いパターンでソフィエイトにご相談いただければ、最短距離の進め方をご提案できます。
まずは小さな一歩から
・今動いている、もしくはこれから動くプロジェクトを1つ選び、その案件に必要なITガバナンスとDX ガバナンスを一緒に整理する。
・そこで得られた学びを、他案件にも展開できるようにセキュリティポリシーや標準フローとしてテンプレート化していく。
こうした「スモールスタート+水平展開」の進め方であれば、中堅企業でも無理なくガバナンス改善に着手できます。
まとめ:ITガバナンスとDX ガバナンスを「攻めるための武器」に変える
本記事では、ITガバナンスとDX ガバナンス、そしてセキュリティポリシーを、「ブレーキ」ではなく「安全なアクセル」として機能させるための考え方と実務ステップを整理しました。ポイントは、「守り」と「攻め」を対立させず、経営目線でリスクとリターンのバランスを定義し、そのうえで90日で回り始めるレールを敷くことです。守るべき領域ではITガバナンスを強化し、攻める領域ではDX ガバナンスを通じてスピードと学習サイクルを優先する。この全体設計の中に、セキュリティポリシーを位置づけ直すことで、「ルールに縛られるDX」から「ルールがあるからこそ攻められるDX」へと視点を変えることができます。
年商5〜10億規模の中堅企業にとって、限られた人員でこの再設計を行うのは簡単ではありません。しかし、最初から完璧を目指す必要はありません。まずは、直近の投資案件を安全かつ速く進めるために必要な最低限のITガバナンスとDX ガバナンスを整え、そこで得られた知見をテンプレート化していく。そのプロセスを通じて、セキュリティポリシーも「現場が自分ごととして捉えられる生きた文書」に変わっていきます。
株式会社ソフィエイトは、こうした取り組みを、「経営と現場の間」をつなぎながら支援するパートナーです。IT戦略策定から要件定義、技術選定、開発・導入、運用・ガバナンス設計までを一気通貫で伴走することで、単発のプロジェクトではなく、長期的なITガバナンスとDX ガバナンスの強化につなげていきます。もし、「セキュリティとスピードの両立」に少しでも課題感をお持ちでしたら、ぜひ一度ご相談ください。貴社の状況と目指したい姿を伺ったうえで、最初の一歩として何から始めるべきか、一緒に整理させていただきます。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
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