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受託で作るかSaaSを買うかを「勘」ではなく戦略とTCOで決める
本記事では、年商5〜10億円規模の中堅企業が、新しいシステムを受託開発で作るか買うか、あるいは既製のクラウドサービスとしてSaaS導入するかを、感覚ではなく戦略とTCO(総保有コスト)の両面から整理することを目的としています。本記事で述べる内容は、一般的な中堅企業のIT投資の現場で観察されるパターンをもとにした考え方です。
経営会議や稟議の場では、「見積が高いからやめよう」「月額が安いSaaS導入で様子を見よう」といった表面的な議論で作るか買うかが決まってしまうことがよくあります。しかし、本来は3〜5年スパンのTCO、事業戦略との整合性、ガバナンスやリスク許容度、そして現場が回る運用体制までを含めて、「受託で作るか買うか」「どこまでをSaaS導入でカバーするか」を検討する必要があります。
特に、顧客接点やデータ活用など差別化の源泉になる領域では、汎用SaaS導入だけでは競合と同じ体験に埋もれてしまう可能性があります。一方で、勤怠・経費・会計などの非差別化領域では、成熟したSaaS導入によるスピードと安定性、そして予測しやすいTCOが魅力になります。このように、「どこを受託で作るか買うか」、「どこを
本記事では、まず作るか買うかの議論が迷走しやすい理由を整理し、次に5つの判断軸で受託とSaaS導入を比較するフレームを紹介します。そのうえで、3年・5年のTCOとROIをどう試算し、ガバナンスやリスクをどう設計に落とし込むかを具体的に解説します。最後に、90日で意思決定から実行までつなげるロードマップを提示し、「経営判断としての投資ストーリー」と「ベンダーに渡せる企画・要件の形」を手に入れていただくことを狙います。
なぜ「作るか買うか」「SaaS導入」の議論はいつも迷走するのか
現場で作るか買うかの議論が迷走する背景には、前提条件がバラバラのまま話し合いが始まることがあります。経営陣は事業戦略と投資回収期間を意識しており、現場は業務の使いやすさや属人化の解消に関心があります。一方、情シスや情報担当はセキュリティと運用負荷、監査部門はログや権限設計を重視します。このような立場の違いがあるにもかかわらず、「とりあえず見積を取って比較しよう」という順番で議論を始めると、作るか買うかもSaaS導入の是非も金額だけの話に矮小化されがちです。
もう一つの原因は、単年度の開発費や月額料金だけを見て判断してしまい、3〜5年のTCOやサポート・改修・法改正対応などの将来コストを十分に見積もっていないことです。受託で作るか買うかを検討する場合、要件定義・設計・開発・テストに加え、保守や追加開発、インフラ費用、監視・障害対応、人員入れ替え時の教育など、多くのコスト要素が発生します。同様にSaaS導入でも、標準料金だけでなく、初期設定やマスタ移行、既存システムとの連携、権限やワークフロー設計、監査対応、解約・移行時のコストなどが実際のTCOを押し上げます。
このような前提のズレとコストの「抜け」があると、受託で作るか買うか、SaaS導入かを冷静に比較するのではなく、「昔から付き合いのあるベンダーだから」「有名なSaaSだから」という理由で決まってしまうことがあります。本記事では、こうした曖昧な判断を避けるために、共通の評価軸とTCOの考え方を明示し、社内の利害関係者が同じテーブルで議論しやすくすることを重視します。
ポイント:議論の出発点を「どの製品を選ぶか」ではなく、「どの業務領域を受託で作るか買うかし、どこをSaaS導入で標準化するか」「3年・5年のTCOはどうなるか」に置き換えることで、会話の質が大きく変わります。
5つの判断軸で受託かSaaS導入かを設計する
本記事では、受託で作るか買うかを検討する際に有効と考えられる5つの判断軸を提示します。これらは一般的な中堅企業におけるIT投資の意思決定の整理に役立つ観点です。5つの軸とは、①TCO(総保有コスト)、②差別化への寄与度、③スピード(立ち上げまでの時間)、④ガバナンスの難易度、⑤将来拡張性です。この5軸をシートにして、候補となる「受託で作るか買うかの案」と「SaaS導入案」を横並びで評価することで、感覚的な議論ではなく構造的な比較がしやすくなります。
まずTCOの軸では、3年TCOや5年TCOのシナリオを用意することが有効です。受託開発であれば、初期の要件定義・設計・実装・テストだけでなく、保守・改修・法改正対応・インフラ更新などをすべて含めたTCOを見積もります。SaaS導入であれば、ライセンス費や従量課金に加え、連携開発や設定変更、ユーザー追加、トレーニング、監査対応などを含めたTCOを検討します。
差別化への寄与度の軸では、そのシステムが競合との差別化にどれほど関わるのかを評価します。例えば、顧客向けポータルやデータ分析基盤などは差別化の余地が大きく、受託で作るか買うかを慎重に検討し、場合によってはSaaS導入と自社開発を組み合わせた「ビルドかバイか」のハイブリッド戦略が有効です。逆に、勤怠管理や経費精算などの非差別化領域は、成熟したSaaS導入によって標準的な業務フローに合わせた方が、長期的なTCOを抑えやすくなります。
スピードの軸では、「いつまでに何を動かしたいか」を明確にします。新規事業の検証であれば、まずSaaS導入とノーコードの組み合わせで素早く試し、うまくいった要素を将来的に受託で作るか買うか検討する二段階の戦略も取りやすくなります。ガバナンスの軸では、アクセス権限や監査ログ、法規制対応などがどの程度求められるかを整理し、どのパターンが最も現実的に運用できるかを比較します。将来拡張性については、多拠点展開や海外展開、他システムとの統合など、中長期的な構想を前提に、「今の選択が将来の選択肢を狭めないか」という視点で受託とSaaS導入を評価します。
実務Tip:Excelやスプレッドシートで、行に候補案(受託で作るか買うかの案、複数のSaaS導入案)、列に5つの評価軸とTCOの数値を並べ、関係者でスコアリングすると、主観が絡むテーマでも合意形成がしやすくなります。
TCOとROIで比較する:受託開発とSaaS導入のリアルなコスト構造
ここでは、3年TCOや5年TCOという考え方を使って、「受託で作るか買うか」と「SaaS導入」のコスト構造を整理します。以下は一般的な中堅企業の事例を想定した考え方です。受託開発のTCOには、初期の要件定義・設計・開発・テストに加え、サーバーやクラウドインフラ費、監視・バックアップ、バグ修正、機能追加、法改正対応、ドキュメント整備や引き継ぎ教育など、多数の項目が含まれます。初期見積には、これらが十分に含まれていないこともあり、後から「想定外の追加費用」として現れることがあります。
一方でSaaS導入のTCOも、単に「ユーザー数×月額」で終わりではありません。初期のシステム設定、マスタデータや過去データの移行、既存システムとの連携開発、権限やワークフローの設計、監査ログの出力やレポートのカスタマイズ、組織変更時の設定変更、ユーザー教育、ヘルプデスク対応など、運用に関するコストが蓄積していきます。また、標準機能だけでは業務に合わずカスタマイズが重なると、結果的に受託で作るか買うかと同程度の柔軟性と引き換えに、ベンダーロックインや将来の移行コストが高まることもあります。
ROIを考える際には、効果を「売上向上」「コスト削減」「リスク低減」「機会損失の回避」という4つの視点に分解する方法が有効です。例えば、受注処理システムを受託で作るか買うか、あるいはSaaS導入する場合、「1件あたり処理時間を何分短縮できるか」「月間何件処理があるか」「誰の工数がどの程度減るか」を具体的に仮定し、3年TCOに対してどの程度のリターンが見込めるかを試算します。このような形で数字に落とすことで、「高いように見える受託開発が、長期的には安い選択肢だった」「安く見えるSaaS導入が、拡張や連携のたびに追加費用がかかり、総額では高くついた」といったシナリオを事前に比較できるようになります。
加えて、撤退戦略もTCOの一部として考えることが重要です。特定のベンダーに依存し過ぎると、「将来別のSaaS導入に切り替えたい」「自社開発に切り替えたい」と思ったときに、データの移行や再構築に大きなコストが発生します。受託で作るか買うかを選ぶ場合も、データ形式やAPI、ドキュメントを標準化しておくことで、将来の選択肢を確保できます。このように、TCOとROIの視点で受託とSaaS導入を比較することが、経営としての筋の通った意思決定につながります。
実務Tip:「初期費用」「月額費用」というラベルの見積書だけでは不十分です。別シートで3年TCO・5年TCOを試算し、「受託で作るか買うか」「SaaS導入」「ハイブリッド」の3パターンを比較することをおすすめします。
リスクとガバナンスから見た「作るか買うか」とSaaS導入
受託で作るか買うか、SaaS導入かを検討する際には、コストや機能だけでなく、セキュリティ・監査・コンプライアンスといったガバナンス面も重要なテーマです。本記事で扱う内容は、一般的にガバナンスを重視する企業で用いられる考え方です。SaaS導入では、データがどの国・どのリージョンに保存されるのか、どのような暗号化やアクセス制御が行われているのか、どこまでの権限粒度と監査ログが提供されるのかを事前に確認する必要があります。また、障害発生時の対応プロセスやSLA、委託先管理の観点も重要です。
受託開発で作るか買うかを選ぶ場合は、開発ベンダーがどの程度セキュアな設計・実装・テストのプロセスを持っているか、脆弱性対応や変更管理をどのように行うかがポイントになります。ガバナンスの観点からは、アクセス権限の設計(誰が何にアクセスできるか)、ログの保管期間と検索性、バックアップとリストアの手順、変更の承認フローなどを仕様書と運用設計書に明文化しておく必要があります。これらを最初から要件に含めておかないと、導入後に監査や顧客からの要請を受けて、結果的にTCOを押し上げる「後付け対応」が発生しやすくなります。
グローバル展開を視野に入れている企業では、現時点で海外拠点がなくても、将来の多言語対応や異なる税制・決済手段への対応を見込んで、「どの程度までグローバル要件を設計に織り込むか」を決めておくことが大切です。例えば、最初は国内向けのSaaS導入でスタートし、将来は一部機能を受託で作るか買うかしてグローバル向けに拡張する計画も考えられます。逆に、初期段階から過剰な要件を背負い込むと、不要に高いTCOになってしまいます。
チェックすべき項目例:
・SaaS導入の場合:データ所在地、権限設計の柔軟性、監査ログの有無、SLA、解約時のデータエクスポート
・受託で作るか買うかの場合:セキュリティ要件の明文化、脆弱性対応のプロセス、変更管理、ドキュメント整備
これらを初期要件に含めておくことで、長期的なTCOとリスクをコントロールしやすくなります。
90日ロードマップで「決めただけ」で終わらせない
作るか買うか、そしてSaaS導入を含む選択肢の比較が終わり、「このシステムはこう進めよう」という方向性が決まっても、実行計画に落とさなければ現場は動きません。そこで、本記事では一般的な中堅企業を想定した90日ロードマップという考え方を提示します。このロードマップは一例ですが、実務で計画を立てる際の参考になる構成です。
最初の1〜14日では、現状の棚卸しを徹底します。対象業務のフロー、関係部署と担当者、扱うデータの種類と流れ、既存システムとの連携、監査・コンプラ要件を整理し、「なぜ今この領域で受託で作るか買うか、あるいはSaaS導入を検討するのか」を言語化します。この段階で、目的とKPI(例:リードタイム短縮、ミス削減、監査指摘ゼロなど)も仮置きで構いませんので明確にします。
15〜30日目では、候補となるSaaS導入パターンと受託開発パターン、それらを組み合わせたハイブリッド案を並べ、3年TCOと5年TCOを試算します。この段階でPoCやトライアルを設計し、「このSaaS導入でどこまで業務をカバーできるか」「どこから先は受託で作るか買うか検討するか」を見極めます。ここまでで、「Build or Buy(ビルドかバイか)」の方向性がかなり絞り込まれているはずです。
31〜60日目では、Must・Should・Couldに分けた要件定義、KPIの確定、運用体制の設計(誰が運用し、誰が管理するか)、移行計画、契約スコープの整理を行います。SaaS導入であれば、標準機能に合わせるための業務側の調整と、どうしても必要な追加設定や連携の要件を切り分けます。受託で作るか買うか場合は、フェーズ1で必須の範囲と、将来の機能拡張のロードマップを明示し、TCOの中で段階的に投資する形を設計します。
最後の61〜90日では、社内体制の確立(プロジェクトオーナー、現場代表者、情シス、監査担当など)、具体的な開発・設定作業の開始、テスト計画とユーザー教育計画、初期リリースのスケジュール策定までを進めます。ここまで進めることで、「作るか買うか」「SaaS導入か」という意思決定が、実行可能なプロジェクト計画として動き始めます。
実務Tip:90日ロードマップは、ベンダーに渡すRFPや提案依頼書の骨格にもなります。「どこまでをSaaS導入で任せ、どこからを受託で作るか買うか依頼するのか」「3年TCOのイメージはどうか」を記載すると、提案の質が大きく変わります。
まとめ:あなたの会社の最適な「作るか買うか」とSaaS導入を決める
本記事では、一般的な中堅企業を想定しながら、受託で作るか買うかとSaaS導入のどちらを選ぶかを、戦略とTCOの両面から整理する考え方を紹介しました。最終的な結論は企業ごとに異なりますが、共通して意識したいポイントは、①3〜5年TCOでの比較、②差別化領域と非差別化領域の切り分け、③ガバナンス要件とリスク許容度、④将来の選択肢を狭めない設計、⑤90日で実行に落とすロードマップの5つです。
作るか買うかの判断においては、「すべて受託でビルドする」「すべてSaaS導入で済ませる」という極端な選択肢ではなく、業務ごとに最適な組み合わせを見つけることが現実的です。例えば、基幹系は受託で作るか買うか慎重に検討しつつ、周辺業務はSaaS導入とノーコードで迅速に構築する、将来のデータ活用基盤はクラウドサービス導入を前提に分割して設計する、といった組み合わせが考えられます。
また、経営として筋の通った投資ストーリーを描くためには、「なぜ今この投資なのか」「どの程度の期間でどんな効果を目指すのか」「そのために受託で作るか買うか、どこまでをSaaS導入に任せるのか」を、資料1〜2枚で説明できる形にしておくことが重要です。その上で、ベンダーに渡せる企画・要件の最小セット(目的とKPI、要件一覧、運用・権限設計、移行・連携方針)が揃えば、提案の質も比較しやすくなり、結果としてTCOとリスクをコントロールしやすくなります。
株式会社ソフィエイトは、IT戦略策定から要件定義、技術選定、受託開発やSaaS導入の支援、運用・ガバナンス設計まで、「経営と現場」のあいだをつなぐパートナーとして伴走することを得意としています。作るか買うかの判断や3年TCO・5年TCOの整理、既存のSaaS導入環境の見直しなどでお悩みの際は、早い段階でご相談いただくことで、個別案件に閉じない「勝ちパターン」の蓄積をお手伝いできます。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
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