「本人確認は面倒だから、できるだけ簡単にしたい」。現場からこうした声が出るのは自然です。一方で、なりすまし申込や不正利用が増えると、チャージバック、未回収、サポート対応の炎上が発生し、結果として事業の信用を傷つけます。つまり、KYC 本人確認は“セキュリティの施策”であると同時に、“売上を守る施策”でもあります。
ただし、eKYC(オンライン本人確認)を「全員必須」にすると、入力や撮影の負担で離脱が増え、転換率 改善(CVR改善/申込完了率向上)が逆回転することもあります。この記事では、AIやITに詳しくない中小企業の経営者・マネージャーの方でも判断できるように、KYC 本人確認を段階設計し、eKYCを“必要な人に、必要なタイミングで”出すことで、セキュリティと転換率を両立させる実務の型をまとめます。
この記事のゴールは「最強に厳しい本人確認」ではありません。KYC 本人確認を“リスクに応じて段階化”し、eKYCを使いつつも、転換率 改善に繋がる導線と運用ルールを作ることです。
Contents
KYC/本人確認が「売上」と「リスク」を同時に左右する理由
KYC 本人確認は金融サービスだけの話ではありません。サブスクの高額プラン、BtoBの掛け払い、端末やSIMの貸与、チケット・ギフトなど換金性のある商材、代理購入が起きやすいサービスなど、広い領域で“本人の実在性”と“申込者の正当性”が事業リスクを左右します。本人確認が弱いと、不正申込の増加、なりすましによる利用、支払い拒否、チャージバックなどが発生し、回収・調査・顧客対応コストが膨らみます。さらに、トラブルがSNSで共有されると、少数の事故でも信用を失いやすくなります。
一方で、セキュリティを上げるために、申込直後から重たい本人確認を強制すると、正規ユーザーまで離脱します。特にeKYCは、撮影に慣れていないユーザーにとってハードルが高く、再撮影が続くと「面倒だからやめよう」となりがちです。ここで重要なのは“安全か/不安全か”の二択ではなく、取引や利用状況に合わせてKYC手続きを段階化し、必要な時だけ確認強度を上げることです。
実務では「場当たりKYC」が最も危険です。営業の判断で例外が増え、紙で本人確認を取り、誰が何を確認したかが残らず、CSが問い合わせ対応で苦しむ、というパターンはよくあります。結果として、厳しさがバラバラになり、抜け穴が生まれ、しかも転換率 改善にも繋がりません。だからこそ、KYC 本人確認は“システム”だけでなく“運用”までセットで設計する必要があります。
Tips:本人確認の議論が迷走するときは「どの不正を防ぎたいか」を先に言語化すると進みます。なりすましか、多重登録か、法人名義の悪用かで、KYC 本人確認とeKYCの最適解は変わります。
KYC設計の前提:どこまで確認すべきかを「リスク」で決める
KYC 本人確認の設計は、最初から「この手段を入れる」と決めない方がうまくいきます。まず、自社の取引リスクを棚卸しし、どの場面でリスクが跳ね上がるかを整理します。判断軸は、取引金額、頻度、継続性、現金性・換金性、匿名性、海外要素、第三者(代理・紹介・委任)の介在などです。例えば無料プランの申込で強い本人確認を要求すると離脱が増えますが、高額利用や換金性が高い機能を使う直前に段階的に確認を入れると、セキュリティと転換率 改善を両立しやすくなります。
大切なのは「全員に同じKYC手続き」をやめることです。リスクベースで本人確認レベルを変えると、正規ユーザーの摩擦を減らしつつ、危ないユーザーにだけ追加確認を要求できます。例えば、低リスクでは軽い本人確認、一定条件を超えたらeKYC(オンライン本人確認)を実施する、といった段階設計が現実的です。
個人と法人でも設計ポイントが異なります。法人では実在性だけでなく、申込者が権限者か、委任を受けた担当者か、請求名義や契約名義の整合が取れているかが重要です。さらに、本人確認をいつ挟むか(申込直後/利用直前/高リスク行動の前)で離脱の出方が大きく変わります。KYC 本人確認は「安全のためのチェック」ではなく「事業の導線設計」の一部だと捉えると、判断がぶれにくくなります。
補足:本人確認の“強度”は、手段だけで決まりません。確認のタイミング、例外の扱い、ログの残し方まで含めて、KYC 本人確認の強度が決まります。
手段別に見るKYC/本人確認:eKYCの使いどころと失敗時の設計
本人確認の手段には、書類アップロード、撮影+セルフィ、住所確認(郵送等)、銀行口座連携、法人登記情報の確認などがあります。eKYC(オンライン本人確認/電子本人確認)は、スピードと自動化が魅力ですが、撮影品質、端末性能、通信環境に左右されます。導入しても「撮影が通らない」「再撮影が続く」「審査待ちが不安」といった理由で離脱が起きると、転換率 改善どころか申込完了率が下がります。
実務で有効なのは、まず低摩擦な本人確認で入口を広げ、条件を満たしたらeKYCを求める段階方式です。例えば、低リスクでは属性確認や口座名義照合などの軽いKYC手続き、高リスクではeKYCで本人性を強く確認する、といった組み合わせです。これにより、正規ユーザーに無用な負担をかけずに、危ない取引だけ安全を強化できます。
また、eKYCは「失敗したときにどう前へ進めるか」が設計の中心です。再撮影導線、別手段への切替(書類アップロードへの変更など)、サポート導線、FAQの提示タイミングがないと、ユーザーは手詰まりになります。外部サービス利用か自社実装かは、単純な費用比較だけでなく、審査品質、API連携、審査時間、監査ログ、運用負荷(人手審査がどれだけ必要か)まで含めて判断します。KYC 本人確認は、システムの選定よりも「運用で詰まらないか」が成果を左右します。
Tips:eKYCの失敗は“ユーザーのミス”ではなく“導線の設計不足”で起きます。再撮影のガイド、別手段への切替、問い合わせ導線の3点が揃うと、転換率 改善に繋がりやすくなります。
転換率を落とさないUX設計:離脱ポイントと改善の定石
転換率 改善の観点で、本人確認の離脱ポイントはほぼ決まっています。入力項目が多い、撮影がうまくいかない、審査待ちが不安、エラー文言が不親切、の4つです。まず入力は「必要最小限」にし、補完できる項目は後回しにします。次に撮影は、枠・明るさ・ブレ防止などのガイドを具体的に出し、失敗理由を分かりやすく示して再撮影に戻せるようにします。審査待ちは、目安時間や進捗表示があるだけで安心感が上がり、離脱が減ることがあります。
また、本人確認を完了しないと価値が見えない導線だと離脱が増えます。可能なら「本人確認はあとで」を用意し、利用開始に近い地点でKYC 本人確認を求める設計も検討します。ただし、後回しにするほど不正が入りやすいケースもあるため、リスクベースで「後回し可の範囲」を明確にします。eKYCを後回しにするなら、利用上限を低くする、換金性のある機能をロックするなど、段階的に制限をかける設計が安全です。
KPIは、本人確認完了率、再撮影率、審査時間、途中離脱率、サポート問い合わせ率、不正発生率をセットで見ます。CVR改善だけを追うと不正が増え、セキュリティだけを追うと申込完了率向上が止まるため、同じダッシュボードで両方を見ることが運用上のコツです。UX改善は一度で終わらず、ログとKPIに基づいて継続的に改善することで、KYC 本人確認は“売上の足かせ”ではなく“信頼の土台”になります。
補足:エラーメッセージは“原因”ではなく“次に何をすれば良いか”を書くと離脱が減ります。eKYCのエラーは専門用語を避け、具体的な行動(明るい場所で撮る、枠内に収めるなど)を提示するのが定石です。
セキュリティ設計:不正対策・審査運用・ログで抜け穴を塞ぐ
KYC 本人確認を入れても、不正は抜け穴から入ってきます。なりすまし、同一人物の多重登録、使い捨ての連絡先、法人名義の悪用など、eKYCだけでは防ぎきれないケースもあります。ここで有効なのが、リスクシグナルに基づく追加本人確認のトリガー設計です。端末やIP、申込パターン、過去の失敗履歴、同一情報の反復などを手がかりに、疑わしいときだけ追加のKYC手続きを要求します。これにより、正規ユーザーの摩擦を増やさずに、危ない申込だけ強く確認できます。
審査運用は、自動判定→要確認キュー→人手審査の三段階が回りやすい構造です。人手審査は属人化しやすいので、判断基準を文章化し、「どの条件なら通す/止める/追加確認する」を揃えます。ここが揃うと、セキュリティと転換率 改善の両面で事故が減ります。誤判定(本当は問題ないのに落とす)が増えると申込完了率向上が止まるため、再申請の導線や、別手段への切替も安全策として重要です。
監査・トラブル対応に効くのはログです。いつ、どのKYC 本人確認手段で、何を確認し、誰がどう判断したかが残っていれば、クレーム対応の説明がぶれず、運用の改善点も見つけやすくなります。ログは守りのためだけでなく、転換率 改善のための“改善材料”にもなるため、最初から設計に含めておくことをおすすめします。
Tips:不正対策は“強い本人確認”だけで解決しません。疑わしいときだけ追加確認に切り替えるトリガー設計があると、eKYCの負担を増やさずに安全性を上げられます。
まとめ
KYC 本人確認は、セキュリティのためだけでなく、売上と信用を守るための基盤です。重要なのは、全員に同じKYC手続きを強制するのではなく、取引リスクに応じて段階設計し、eKYC(オンライン本人確認)を必要な人に必要なタイミングで出すことです。これにより、セキュリティを上げながらも、転換率 改善(CVR改善/申込完了率向上)を狙える設計になります。
実装面では、eKYCの導線と、失敗時のリカバリー(再撮影、別手段への切替、サポート導線)が成果を左右します。運用面では、自動判定→要確認キュー→人手審査の三段階にし、判断基準を標準化して例外を増やさないことが重要です。最後に、KPIとログを整備し、本人確認完了率と不正発生率を同じダッシュボードで追うことで、セキュリティと転換率の両方を改善サイクルに乗せられます。
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