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画像・音声・PDFを“そのまま業務に使う”時代と、Difyでのマルチモーダル内製の意義
社内チャットボットや検索系AIを入れてみたものの、現場ではこんな状態が残りがちです。
- PDFは結局、目でページをめくって探している
- 会議や営業通話は、人が聞き直して議事録にしている
- 現場写真のチェックは、担当者の経験と勘に寄っている
原因はシンプルで、現場が普段扱っている情報の多くが「テキスト以外」だからです。
だから最近は、画像・音声・PDFをそのまま扱える仕組み(=マルチモーダル)を前提に、
社内の業務フローに合わせた“使える道具”として作る動きが増えています。
ただ、ここでやりがちなのが「全部フルスクラッチで作ろうとする」ことです。
モデル選定、ファイル入出力、RAG、ログ、権限、ワークフロー、UIまで自前で抱えると、
PoCはできても運用が続かない、というパターンになりやすいです。
そこで土台として使いやすいのが Dify です。
チャットUIやAPI、ワークフロー、ナレッジベース、ログの確認など、必要な部品が最初から揃っているので、
「業務で回る形にする」ところに時間を使えます。
例えば、契約書PDFをアップロードしておいて「この条文の変更リスクは?」「似た契約は過去にある?」と聞けるようにしたり、
通話音声から要点とToDoだけ抜いてチケットに流したり、現場写真をチェックリストに沿って一次判定させたり──
こういう“現場の素材そのまま”の使い方が現実的になります。
もちろん、画像判定や要約はミスがゼロにはなりません。
だからこそ、根拠(参照した文書・該当箇所)や、最終確認の導線まで含めて設計しておくと、現場に定着しやすいです。
この記事では、Difyをベースにマルチモーダルな社内ツールを内製するときに、
どこで設計を間違えやすいか/どう作ると運用まで繋がるかを、できるだけ具体的に整理していきます。

Difyで実現する「配布できる」社内ツール内製の全体像
Difyの良いところは、「とりあえず動くデモ」を作るだけで終わらず、
そのまま社内に配って使ってもらえる形まで持っていきやすい点です。
チャット画面やフォーム画面を用意できるのはもちろん、REST APIとして公開して
社内ポータルや既存システムから呼び出す、といった使い方もしやすくなっています。
ざっくり分けると、考えるレイヤーは2つです。
- アプリ:ユーザーが触る入口(チャット/フォーム/API)
- ワークフロー:裏側の処理(分岐、ツール呼び出し、整形、連携など)
「入口は同じでも、裏側の流れは業務ごとに違う」というのが社内ツールのリアルです。
ワークフロー側で、LLM・条件分岐・HTTPリクエスト・コード処理などを組み合わせて、
PDFなら抽出→検索→根拠付き回答、音声なら文字起こし→要点→ToDo、画像なら判定→説明→根拠の参照、
といった流れを “業務の型” として作っておけます。
ここが整ってくると、ゼロから毎回作るのではなく、
「法務向けのPDF確認」「営業向けの通話要約」「現場向けの写真チェック」みたいに、
テンプレートをベースに増やしていく運用に寄せられます。
もうひとつ大事なのが、ナレッジ(RAG)の置き場所と管理です。
PDFマニュアル、社内規程、議事録、FAQなどを取り込んでおくと、
質問に対して関連箇所を引いてくる“土台”が作れます。
さらに、音声や画像から取り出したテキストも同じ検索の流れに乗せられるので、
「この写真の状況は、どの手順と関係が深い?」「この会話は、どのルールに引っかかりそう?」
のような“横断の当たり”を付けやすくなります。
最後に、運用で効いてくるのがログです。
どの問い合わせで詰まりやすいか、どのファイル形式で失敗が多いか、
どこで時間がかかっているか――こういう情報が見えると、
改善が「プロンプトの微調整」だけで終わらず、ワークフローやデータ側まで手が入れられます。
結果として、社内ツールがPoCで止まらず、ちゃんと育つ状態を作りやすくなります。
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マルチモーダルを前提にしたアーキテクチャ設計とデータ設計のポイント
画像・音声・PDFを扱う社内ツールを作るとき、最初に詰まりやすいのはモデル選びというより、
「どんな入力が来ても業務が止まらない形にできているか」です。
Difyはファイルを受け取って処理するところまでは用意してくれますが、
前後の設計(どう整えて、どう残して、どう根拠を返すか)は内製側の腕の見せどころになります。
ここでは、PDF/音声/画像の3つに分けて、落とし穴と対策を整理します。
PDF:入れれば賢くなる、はだいたい幻想
PDFをそのままナレッジに突っ込むと、「それっぽい回答は返るけど、根拠がズレる」状態になりがちです。
長いマニュアルほど関係ない章まで引っ張ってきて、検索結果が散ります。
PDFまわりで最初に決めておくとラクなのは、だいたいこの辺です。
- 分割単位:章・節・手順・表・付録のどこで区切るか(“1ファイル=1冊”にしない)
- メタデータ:部門/業務プロセス/版数/施行日/対象システムなど、絞り込みに使う情報
- 図と本文の扱い:図だけ孤立させない(図の説明文や周辺手順とセットにする)
現実的には、元のPDFを「手順書は10〜20ページ程度に分ける」「図版と本文を近くに置く」など、
検索しやすい形に整えるだけでも効きます。
“モデルで何とかする”前に、まずデータの形を整えるほうが結果が出やすいです。
音声:文字起こしして終わりにしない
音声は、まず文字起こし(STT)→要点整理→ToDo抽出、という流れにするのが定番です。
ただ、議事録として使うなら「いつ/誰が/どの案件で」を後から追える状態がないと、
検索も監査も結局つらくなります。
音声の記録で最低限そろえておきたいのは、こんな属性です。
- 話者(可能なら):少なくとも発言者ラベル、理想は担当者名まで
- 案件の紐づけ:案件ID/顧客名/プロジェクト名など
- 日時・チャネル:いつの、電話かZoomか、など
- 成果物の型:要点、決定事項、宿題(ToDo)、期限、担当
ここが揃ってくると、「前に同じ話をいつしたっけ?」とか
「誰が何を約束したっけ?」が引けるようになります。
逆に言うと、要約テキストだけが大量に溜まると、あとで使いづらくなります。
画像:1枚で完結させず、“裏取り”の導線を作る
現場写真やスクリーンショットは、1枚だけ見ても前後関係が分からないことが多いです。
なので、画像からいきなり最終判定を出すより、
「異常っぽい点を言語化する」→「関連する手順や規程を引いてくる」→「根拠付きで返す」
という二段構えにしておくほうが、現場で揉めにくいです。
画像系で決めておくと運用が安定しやすいのは、例えばこの辺です。
- 判定の粒度:OK/NGの二択にするか、チェック項目ごとの判定にするか
- 対象の限定:どの撮り方/どの機材/どの角度までを対象にするか(最初は狭くてOK)
- 返し方:結論だけでなく、理由と根拠(該当マニュアルや規程)をセットにする
- 誤判定時の逃げ道:人の確認へ回す導線、再撮影の指示テンプレ
画像や音声の判断はどうしてもブレが出ます。
だから「結論+根拠リンク+必要なら人が確認できる」形にしておくと、
ツールへの信頼が落ちにくく、現場導入が進みやすいです。
まとめると、設計の考え方はシンプルで、
前処理(整える)→検索(当たりを付ける)→出力(根拠とセットで返す)の流れを切らさないことです。
マルチモーダルを“雰囲気で賢い”方向に寄せるより、
業務として回る形に落とすほうが、結果的に使われ続けます。
Tips:マルチモーダル設計を始める前に決めておきたいこと
・どの業務フローで、どの種類のファイル(画像・音声・PDF)を扱うのか
・RAGの軸にするのはマニュアルか、契約か、FAQか
・「回答の根拠」をどのような形でユーザーに見せるか(リンク、引用、添付など)
・誤判定時に誰がどのようにリカバリするか(人の承認フロー、再問い合わせ導線)
Difyでの実装ステップ:画像・音声・PDFを扱うマルチモーダルワークフロー構築
ここからは、Difyを使って画像・音声・PDFを扱う社内ツールを作るときの進め方を、
「よくある型」と「詰まりやすいところ」をセットで整理します。
画面やノードの名前はアップデートで変わることがありますが、考え方の流れはだいたい同じです。
ステップ1:ワークスペースとモデル設定(最初に“環境事故”を潰す)
まずはワークスペースを作り、LLM・埋め込みモデル・音声認識(STT)などの連携先を登録します。
ここでおすすめなのは、検証用と本番用を最初から分けることです。
プロンプトを試している途中の状態が、そのまま現場ユーザーに当たる事故は意外と起きます。
- 検証用:試行錯誤のプロンプト/一時データOK
- 本番用:承認されたプロンプト/ログと権限を固める
また、全部をマルチモーダル対応モデルで回すとコストと待ち時間が伸びやすいので、
「テキストだけで十分な処理」と「画像・音声が必要な処理」を早めに分けておくと後がラクです。
ステップ2:ナレッジ(RAG)の土台を作る(“入れて終わり”にしない)
次に、マニュアル・規程・契約書・議事録など、検索の根拠になる資料を取り込みます。
ここは地味ですが、後から効きます。
- 分割の方針:章・手順・表など、検索しやすい単位で区切る
- メタデータ:部門/業務プロセス/版数/施行日など、絞り込みに使う情報
- テスト:「欲しい根拠が取れるか」を最初に少数の質問で確認する
ここで“それっぽい回答”が出ても、根拠がズレていたら現場は使いません。
最初は完璧を狙わず、よく聞かれる10〜20問だけ通る状態を作ってから広げるのが現実的です。
ステップ3:入力(ファイル)を受けて分岐する(まずは3ルートでOK)
アプリ側では、ユーザーがテキストに加えてファイルを添付できるようにします。
ワークフロー側では、受け取ったファイルを「種別」で分けて、処理ルートを作ります。
最初から細かくやるより、まずは下の3つに分けるだけでも十分回ります。
- PDF:テキスト抽出 → 検索(RAG) → 根拠付きで回答
- 音声:文字起こし(STT) → 要点/ToDo抽出 → 保存・共有
- 画像:内容の言語化 → 関連資料の検索 → 結論+根拠を返す
ここでのコツは、「画像や音声の結果を、そのまま結論にしない」ことです。
一度テキストに落として、関連資料を引いて、根拠をセットで返す。
この一手間があるだけで、現場の納得感が変わります。
ステップ4:出力を“業務に入る形”に整える(文章だけで終わらせない)
出力は、チャットに文章を返すだけでも動きます。
ただ、業務に定着させるなら「次に何をするか」までつなげたほうが強いです。
- 根拠(参照した文書・該当箇所)を一緒に返す
- 要点・ToDoを構造化して、チケットやCRMに渡せる形にする
- 社内システム連携は、まずは“POSTできるJSON”を作るところから始める
DifyのHTTPリクエストやコード実行を使えば連携自体は作れますが、
いきなり全部つなぐと壊れやすいので、最初は「JSONを出す」→「手で貼る」くらいから始めると安定します。
ステップ5:テンプレ化して増やす(属人化を防ぐ)
一度うまく回るフローができたら、テンプレとして残しておきます。
このとき「社内のどの業務で、どんな入力が来て、何を返すか」が分かるように、
テンプレの説明文(用途・想定入力・出力形式・注意点)までセットにしておくのがおすすめです。
こうしておくと、次の部署から依頼が来たときに「丸ごとコピーして少し変える」だけで済みます。
内製のスピードが上がるのは、だいたいここからです。
現場でありがちなつまずきポイント
・全部をマルチモーダル対応モデルで回して、コストと待ち時間が悪化する
・PDFや議事録を整えずに投入して、検索結果がノイズだらけになる
・画像や音声の出力に根拠を付けず、「本当に正しいの?」で止まる
・ワークフローが属人化して、作った人しか直せない状態になる
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配布後に効く評価・運用・ガバナンスと、事業インパクトの出し方
こういう社内ツールは、リリースした瞬間がゴールではなく、むしろスタートです。
最初の1〜2週間で「便利そうだけど、なんか信用できない」「待ち時間が長い」みたいな不満が出ると、
そのまま使われなくなります。なので、配布後にちゃんと手当てできる形を先に用意しておくのが大事です。
まず見るのは「失敗の種類」と「詰まっている場所」
Difyは問い合わせログやトレースが見えるので、慣れてくると原因の切り分けがしやすくなります。
現場で多いのは、だいたいこの3パターンです。
- 検索が外れている:根拠文書がズレる/そもそも引けていない
- 入力が想定外:PDFの形式がバラバラ/画像がブレている/音声が聞き取りにくい
- 処理が重い:マルチモーダル処理を使いすぎて待ち時間が増える
ここを雑に「プロンプトが悪い」で片づけると、改善が止まりがちです。
検索・データ整備・分岐条件・モデル使い分けのどこを直すべきか、ログで当たりを付けていくのが現実的です。
評価は3つで十分。指標は“現場が答えられる形”にする
評価軸を増やしすぎると、結局だれも追わなくなります。
最初は次の3つだけで回すのがやりやすいです。
- 正確性:根拠が合っているか/一次判定がズレていないか
- 体験:待ち時間は許容か/入力しやすいか/返し方が分かりやすいか
- 業務インパクト:何分短縮されたか/確認漏れが減ったか/引き継ぎが楽になったか
ここでのコツは、評価を“現場が答えられる質問”に落とすことです。
例えば、アプリに簡単なフィードバックを付けておくだけでも回り始めます。
- この回答は役に立った?(はい/いいえ)
- 根拠は十分?(十分/不足)
- 待ち時間は気になった?(気にならない/気になる)
自由記述を必須にすると集まらないので、最初は選択式中心が無難です。
「いいえ」が付いたものだけ、後で理由を拾いにいく運用が回しやすいです。
ガバナンスは“怖い話”にしない。最低限の線引きを決める
社内で扱う以上、権限とログは避けて通れません。
ただ、最初から完璧な統制を目指すより、「事故が起きやすいところ」を先に潰すほうが現実的です。
- 権限:誰が使えるか/誰が編集できるか(特にワークフローの編集権限)
- データ範囲:どの資料を入れていいか/部署を跨いで混ざらないか
- ログ:誰が何をアップロードし、どう返したかを後から追えるか
特に、ワークフローやプロンプトが誰でも触れる状態だと、
意図しない出力や情報漏えいのリスクが上がります。
「作る人」「直す人」「使う人」を分けるだけでも、運用が安定しやすくなります。
事業インパクトは“時間短縮”だけだと弱い。品質の話もセットで出す
「何時間削減した」は分かりやすい一方で、業務によっては刺さりません。
社内ツールが効くのは、むしろ“判断のばらつき”や“抜け漏れ”のような品質面だったりします。
伝え方としては、Before/Afterを短く置くと一気に具体になります。
- Before:担当者の経験で判断が分かれる/確認漏れが起きる/引き継ぎがつらい
- After:チェック項目と根拠が残る/判断が揃う/あとから追える
例えば、契約書の一次チェックをツールに寄せて、法務が“本当に見たい案件”に集中できるようにする。
写真チェックでヒヤリハットを拾いやすくして、ベテラン依存を減らす。
こういう話は、時間短縮よりも説得力が出ることが多いです。
とはいえ、導入ロードマップや連携設計までを内製チームだけで抱えるのがしんどいケースもあります。
業務部門・情シスと一緒に進めたり、詳しい外部パートナーに設計の壁打ちを頼んだりして、
「技術的にできる」と「業務として回る」を同時に詰めていくのが現実的です。
まとめ:Difyでマルチモーダルな社内ツール内製を加速するために
ここまで、画像・音声・PDFといった「現場の素材そのもの」を扱える社内ツールを、
Difyを土台にして作るときの考え方を整理しました。
結局いちばん効くのは、次の3つです。
- テキストだけで完結させない:PDF・音声・画像の入口を用意して、現場の情報を取りこぼさない
- “根拠まで返す”設計にする:結論だけだと信用されないので、参照箇所や関連資料をセットにする
- 育てる前提で運用する:ログとフィードバックで詰まり箇所を特定して、データやフローごと直す
Difyは、UI・ワークフロー・ナレッジ・ログ・権限といった部品が揃っている分、
「業務で回る形にする」ところに集中しやすいのが良いところです。
最初から大きく作るより、まずは1ユースケースを“小さく出して”、うまく回る型を作ってから横展開するほうが進みます。
一方で、実際にやるとなると悩みどころも出ます。
たとえば、
- どの業務から始めるのが一番ラクで、効果が出やすいか
- PDFや議事録の整備を、どこまでやれば“使える検索”になるか
- 既存システム連携(チケット/CRM/SFAなど)をどの粒度で繋ぐべきか
- 権限やログをどこまで固めれば、現場に出しても安全か
こういう論点は、社内事情(運用、権限、データの散らばり方)で正解が変わります。
もし「この条件だと、どこまで現実的に作れる?」「まず何を決めれば破綻しない?」みたいな壁打ちが必要なら、
外部の詳しいチームと一度整理してしまうのも手です。
要件の棚卸しだけでも、次の一手がかなり具体になります。
「この要件だと、Difyでどんな社内ツールが現実的か?」という観点で詰めたい場合は、
無料相談などを使って、業務フローとデータの現状から一緒に整理してみると進めやすいと思います。
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