社内プロンプト設計の基本:誰もが成果が出る「業務プロンプト」の作り方

社内プロンプト設計で「一部の人だけが使えるAI」から卒業する

ChatGPTなどの生成AIや社内AIを導入したのに、「ごく一部の人しか使いこなせていない」「成果が人によってバラバラ」という声はよく聞きます。原因の多くは、ツールそのものではなく、社内プロンプト設計が現場任せになっていることです。思いつきで文章を打つ人もいれば、工夫して長文の指示を書く人もいる。その結果、「業務プロンプト」が属人化し、ノウハウが会社の資産になっていません。

本記事では、AIやITに詳しくない中小企業の経営者・マネージャーの方でも実践できるように、誰もが成果を出せる業務プロンプトの作り方と、チームで使い回せる社内プロンプト設計のポイントを、具体的な手順と事例を交えながら解説します。社内AIの導入を検討している方、すでに使い始めたものの効果が見えづらい方に、実務でそのまま使える考え方とフォーマットをお届けします。

なぜ「業務プロンプト」を設計しないと成果がバラつくのか

まず押さえておきたいのは、「AIの性能」よりも「人間の使い方」の差の方が、成果に大きく影響するという事実です。例えば、同じ社内AIに「メールを作って」とだけ指示する人と、「誰に」「どんな目的で」「どのようなトーンで」「どんな構成で」書いてほしいかまで伝える人とでは、出てくるアウトプットの質がまったく違います。

この「伝え方の差」を埋めるのが社内プロンプト設計です。属人的な勘に頼るのではなく、「この業務では、こういう前提と情報を渡して、こういう形で出してもらう」といった型を決めておくことで、誰が使っても一定以上の成果が出る状態をつくれます。逆に言えば、業務プロンプトが設計されていないと、次のような問題が起こりがちです。

  • 一部の“AIが得意な人”だけが便利に使い、他の人はうまく活用できない
  • その人が退職・異動すると、プロンプトのノウハウごと失われる
  • 部門ごとにバラバラの使い方をしていて、社内AIの投資対効果が測りにくい

こうした状況を避けるには、「個人が都度考える」のではなく、「会社として標準の業務プロンプトを用意する」発想が必要です。これは決して難しい話ではなく、いくつかのポイントを押さえれば、今日から少しずつ実践できます。

誰でも使える「業務プロンプト」の基本フレーム

ここからは、具体的に社内プロンプト設計の型を紹介します。どんな業務でも共通して使えるシンプルなフレームは、次の4要素です。

  • ①目的(ゴール):このプロンプトで、最終的に何を達成したいのか
  • ②入力情報:AIに判断してほしいために必要な事実・前提条件
  • ③AIへの役割・指示:AIにどんな専門家になってもらい、どう考えてほしいか
  • ④出力フォーマット:どのような形式・粒度で答えてほしいか

例えば「クレーム対応メールの下書きを作りたい」という業務であれば、プロンプトは次のように組み立てられます。

①目的:顧客の怒りを和らげ、今後も取引を継続してもらえる返信文を作る。
②入力情報:顧客の属性(法人/個人、業種など)、クレームの内容、こちらの非・相手の非、社内方針、伝えたい落としどころ。
③役割・指示:「BtoB営業を10年以上経験したカスタマーサクセスマネージャーとして、相手の感情に配慮しつつ、当社のスタンスも丁寧に伝えてください。」
④出力フォーマット:「件名」と「本文」を日本語で、敬体(ですます調)で作成。本文は「お詫び」「状況説明」「今後の対応」の3段落構成にしてください。

このように業務プロンプトとしてフレーム化しておけば、誰が使っても一定水準のアウトプットが得られますし、改善も簡単です。「目的をもう少し具体的にする」「入力情報をチェックリスト化する」「出力フォーマットを社内標準に合わせる」といった調整を繰り返すことで、プロンプトの品質が組織として育っていきます。

Tips:プロンプトは「1回で完璧」を目指さない

最初から完璧な社内プロンプト設計を目指す必要はありません。まずは4要素を意識して作り、実際に社内AIで動かしてみて、「ここが足りなかった」「ここは要らなかった」という気づきを反映していけば十分です。プロンプトは“仕様書”というより“業務のレシピ”なので、使いながら育てる発想が大切です。

代表的な業務ごとのプロンプト設計例

続いて、現場でニーズの多い3つの業務を例に、社内プロンプト設計の具体像を見ていきます。どれも社内AIと相性が良く、中小企業でも取り組みやすい領域です。

1. 問い合わせ対応・社内FAQ

問い合わせ対応や社内ヘルプデスクでは、「質問に対して一貫した回答を素早く返す」ことが求められます。ここでの業務プロンプトは、「どのデータを前提に回答するか」を明確にすることが重要です。

例えば、社内AIに社内規程やマニュアルを読み込ませたうえで、次のようなプロンプトを標準化します。

「あなたは当社の人事総務担当です。次の社内規程とQ&A集を前提として、社員からの質問に回答してください。
・前提となる資料:〇〇規程、△△マニュアル、社内FAQ集
・分からない場合は、推測せず『この件は人事に確認が必要です』と回答してください。
・回答は、『結論→理由→必要な手続き』の順で、箇条書きではなく分かりやすい文章で説明してください。」

このようなプロンプトを社内AIのテンプレートとして登録しておけば、担当者が交代しても同じ品質の回答が続けられますし、「回答品質のブレ」を抑えることもできます。

2. 営業資料・提案書のドラフト作成

営業資料や提案書の作成は、生成AIと非常に相性の良い業務です。ただ、「資料を作って」とだけ伝えても、ピントのずれたアウトプットになりがちです。ここでは、「誰向けの提案か」と「どのフェーズの資料か」をきちんと伝えることがポイントです。

例えば、次のように業務プロンプトを設計します。

「あなたは中小企業向けのITコンサルタントです。以下の条件にもとづいて、提案書のアウトラインと1枚目のスライド原稿案を作成してください。
・提案先:売上10億規模の卸売業。基幹システムの老朽化に悩んでいる。
・提案のゴール:『まずは小さな改善プロジェクトから始めましょう』という合意を得ること。
・提案の切り口:業務の見える化→小規模PoC→段階的な刷新。
・トーン:専門用語を使いすぎず、経営層にも伝わる平易な言葉。
・出力形式:①全体のアウトライン(5〜7章構成) ②1枚目のスライドに載せる「現状の課題」を文章で。」

このような形で、提案先の情報とゴールをしっかり伝えることで、社内AIはかなり実務に使えるドラフトを出してくれます。あとは営業担当者が自社ならではの表現や事例を足していくだけで済み、作業時間を大きく減らせます。

3. 報告書・議事録・要約の自動化

会議の議事録や報告書は、書く人によってスタイルが大きく分かれる代表的な業務です。ここで社内プロンプト設計を行うと、「誰が書いても読みやすい形」を標準化できます。

例えば、録音の文字起こし結果を社内AIに渡し、次のようなプロンプトを用意します。

「以下の会議の文字起こしから、社内向けの議事録を作成してください。
・想定読者:当日参加できなかった管理職と関係メンバー。
・構成:①会議の目的 ②決定事項 ③宿題・ToDo(担当者・期限付き) ④主な議論のポイントの4章構成。
・文体:社内向けのフラットな文体(ですます調は不要)。
・重要な数値や日付は、見落としのないようにそのまま残してください。」

ここまで具体的に業務プロンプトとして指定しておけば、あとは毎回テキストだけ差し替えて繰り返し使えます。「議事録を書く」という仕事が、「文字起こしを確認し、社内AIが作ったドラフトをチェック・修正する」仕事に変わり、担当者の負担を大きく減らすことができます。

チームで使い回せる社内プロンプト設計とナレッジ化

ここまでの例で見たように、1つひとつの業務に対して業務プロンプトを設計できるようになったら、次のステップは「個人のプロンプト」を「組織の資産」に変えていくフェーズです。そのために大事なのが、命名、保存場所、レビューの3つです。

まず命名ですが、「誰のための、どんな場面で使うプロンプトか」が分かる名前を付けます。例えば「営業_初回提案書アウトライン作成」「人事_有給ルールに関する社内FAQ回答」といった具合です。これだけでも、社内AIのテンプレート一覧を見たときに、「自分がどれを使えばいいか」が一気に分かりやすくなります。

次に保存場所です。社内AIのテンプレ機能があるならそこにまとめ、ない場合は社内ポータルや社内Wikiに「プロンプト集」のページを作ります。その際、一つひとつのプロンプトについて、次の情報をセットで残しておくと便利です。

  • プロンプト本文
  • 想定している業務・シーン
  • 入力に必要な情報(チェックリスト)
  • 過去にうまくいった出力例・注意点

最後にレビューです。社内プロンプト設計は、作ったら終わりではなく、使いながら見直していくことでどんどん良くなります。月に一度「プロンプトレビュー会」を開き、「最近よく使ったプロンプト」「使いづらかったプロンプト」「改善したいポイント」を持ち寄ると、組織全体のレベルが着実に上がっていきます。

Tips:プロンプト担当者(オーナー)を決めておく

重要な業務プロンプトには「オーナー」を決めておくと、改善が進みやすくなります。例えば「営業部の標準プロンプトはこの人が責任者」「人事系プロンプトはこの人」という形です。オーナーが現場の意見を取りまとめ、定期的に社内AIのテンプレを更新していくことで、プロンプトが社内ナレッジとして育っていきます。

安全に使うためのルールと社内AIとの組み合わせ方

社内プロンプト設計を進めるときに忘れてはいけないのが、「安全に使うためのルール」とのセット運用です。どれだけ優れた業務プロンプトを用意しても、個人情報や機密情報を外部のAIサービスにそのまま入力してしまえば、情報漏えいのリスクは高まります。

理想的には、社内専用の社内AI環境を用意し、その中で業務プロンプトを標準化していくことです。社内AIの背後でプロキシや監査ログ、マスキングなどの仕組みを整えておけば、利用者は「この画面から使っている限りは安心」という状態で業務プロンプトを活用できます。外部サービスを併用する場合も、「外部には出してはいけない情報」「社内AIなら入力してよい情報」をルールとして明確にしておくことが重要です。

また、プロンプトの中にも安全の工夫を組み込めます。例えば、「分からないことは想像で補わず、必ず『不明』と回答してください」「法律や税務に関する最終判断は専門部署で行う前提で書いてください」といった一文を業務プロンプトに含めておくことで、AIが“それっぽいけれど危ない回答”を出してしまうリスクを低減できます。

こうしたルール設計は、「生成AI利用規程」や「情報漏えいを防ぐ社内AIの構成」とも密接に関わる部分です。社内プロンプト設計は単体のテーマではなく、社内AI活用の全体設計の一部として位置づけると、より安全で効果的な運用ができるようになります。

よくある失敗パターンと、うまくいくためのポイント

最後に、社内プロンプト設計でありがちな失敗と、その乗り越え方をまとめます。

一つ目は、「難しそうだから」と言って、現場に丸投げしてしまうパターンです。「各自で工夫して使ってください」とだけ伝えても、忙しい現場ではなかなか時間を割けません。まずは1〜2の業務に絞って業務プロンプトを作り、それをモデルケースとして展開していく方がうまくいきます。

二つ目は、逆に「最初から完璧を目指して固めすぎる」パターンです。規程やテンプレートを作り込むことに時間をかけすぎると、「いつまで経っても現場で使われない」状態になってしまいます。プロンプトはあくまで“仮説”として軽く作り、使いながら改善していくくらいがちょうど良いバランスです。

三つ目は、「プロンプトだけに期待しすぎる」ことです。どれだけ良いプロンプトでも、前提となる業務プロセスが整理されていなかったり、社内AIの環境やルールが整っていなかったりすると、効果は限定的になります。「業務の棚卸し」「ルール整備」「社内教育」などとセットで取り組むことで、プロンプト設計の価値が最大化されます。

うまくいく社内プロンプト設計の3ステップ

  • ① まずは1〜2の業務に絞り、シンプルな業務プロンプトを作ってみる
  • ② 使いながら「ここが良かった/ここが足りない」を洗い出し、テンプレ化する
  • ③ プロンプト集を社内で共有し、月1回のレビューで改善サイクルを回す

この3ステップを回し続ければ、社内AIは「一部の人だけの便利ツール」から、「組織全体の標準スキル」へと変わっていきます。

まとめ:社内プロンプト設計は「未来の当たり前の仕事術」

本記事では、社内プロンプト設計の基本と、誰もが成果を出せる業務プロンプトの作り方を解説しました。ポイントは、ツールの知識よりも、「どんな目的で、どんな前提で、どのような形でAIに仕事を振るか」を明確にすることです。4要素(目的・入力情報・役割・出力形式)を意識してプロンプトを設計し、それをチームで共有・改善していくことで、社内AIは「なんとなく試すもの」から「業務インフラ」へと変わっていきます。

社内AIや生成AIの導入は、もはや一部の先進企業だけの話ではありません。これから数年のうちに、「プロンプトを設計してAIに仕事を振る」ことは、多くの社員にとって当たり前の仕事術になっていくでしょう。そのときに、「一部の人だけが使えている」状態と「組織として標準化されている」状態とでは、生産性や競争力に大きな差が生まれます。

もし自社だけで取り組むのが難しいと感じる場合は、社内AIやプロンプト設計に詳しい外部パートナーに相談するのも有効です。業務整理からプロンプトの標準化、社内教育、システム構成までを伴走してもらうことで、遠回りすることなく「成果の出るAI活用」に近づくことができます。

株式会社ソフィエイトのサービス内容

  • システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
  • コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
  • UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
  • 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い


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