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なぜ「開発が終わってから」では遅いのか:情シスが外注選定で見るべき全体像
外注先を選ぶとき、つい「機能が作れるか」「見積が安いか」に意識が寄りがちです。しかし情シスの仕事は、リリース後に始まります。障害対応、問い合わせ対応、アップデート、セキュリティ対応、契約更新、社内調整……。ここを見落とすと、開発は成功したのに運用が破綻するという状態になりやすいです。
特に中小企業や、予算はあるがITに詳しい人が多くない情シスでは、運用を属人化させないことが重要です。外注先が「作って終わり」だと、社内にナレッジが残らず、トラブル時に誰も判断できません。逆に、保守運用まで設計してくれる外注先なら、情シスは「意思決定」と「全社最適」に集中できます。
本記事では、外注先の選び方を「保守運用まで見据える」観点で整理します。具体的には、SLA(サービスレベル合意)、監視設計、運用体制(オンコールやエスカレーション)の3本柱に加え、引き継ぎ・ドキュメント、セキュリティ、契約・費用の考え方まで踏み込みます。専門用語は噛み砕きながら、情シスが社内説明に使えるチェックポイントとしてまとめます。
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SLA(サービスレベル合意)で揉めないために:数字より「前提条件」を固める
SLAは「どの程度の品質で運用するか」を決める約束事です。よくあるのは「稼働率99.9%」「一次回答は2時間以内」などの数値ですが、情シスの現場では数値だけ決めてもトラブルは減りません。重要なのは、SLAが成立する前提条件(何を対象に、どこまでやるか)を明確にすることです。
例えば「障害の一次回答2時間以内」と書いてあっても、対象が「サーバ障害」だけなのか、「アプリの不具合」も含むのか、「利用者の操作質問」も含むのかで、運用負荷は大きく変わります。また、対応時間が「平日9-18時」なのか「24/365」なのかで、必要な体制も費用も変わります。まずは、情シス側で次の観点を棚卸しし、外注先と合意できる形にします。
SLAを実務で固めるチェック観点
- 対象範囲:インフラ、アプリ、データ連携、外部SaaS、ネットワーク、端末などどこまで含むか
- 受付窓口:誰がどこに連絡するか(メール、チケット、電話)/障害と問い合わせの切り分け方法
- 対応時間:平日日中のみ、夜間休日はベストエフォート、24/365など
- 優先度定義:全社停止、部署停止、個人影響などの基準と、各優先度の目標時間
- 復旧の定義:暫定復旧(回避策)と恒久対応(根本原因対策)の区別
- 免責・例外:クラウド障害、第三者サービス、利用者の誤操作、仕様通りの挙動など
また、SLAは「守れること」よりも「守れない時にどうするか」が大切です。例えば、優先度Sの障害で目標復旧時間を超過した場合、報告の頻度、エスカレーション先、原因分析レポートの期限、再発防止策のレビュー会の実施などをセットで決めると、情シスが社内に説明しやすくなります。
外注先選定の場では、SLAのテンプレを提示してもらい、前提条件が丁寧に書かれているかを確認しましょう。「何をやらないか」が明記されている会社ほど、運用で揉めにくい傾向があります。
監視は「入れて安心」ではない:検知→判断→連絡→復旧の流れで設計する
監視は、保守運用の要です。ただし監視ツールを入れるだけでは、障害対応は速くなりません。大事なのは、アラートが鳴った後に「誰が」「何を基準に」「どう動くか」を設計することです。監視は、検知(気づく)だけでなく、判断(優先度を決める)、連絡(関係者に伝える)、復旧(対処する)まで含めて初めて価値が出ます。
情シスが押さえるべきは、アラートの品質です。アラートが多すぎると「またか」と無視され、少なすぎると気づけません。外注先には、監視設計の考え方を必ず聞いてください。例えば「CPU高騰」だけを見ていても、業務影響は判断できません。業務上の重要指標(ログイン失敗増加、決済失敗、APIエラー率、バッチ遅延など)と結びつける必要があります。
監視設計で最低限確認したいポイント
- 死活監視:サービスが動いているか(Web応答、ジョブ実行、キュー滞留など)
- 性能監視:応答時間、エラー率、スループット、DB遅延などユーザー体験に直結する指標
- リソース監視:CPU/メモリ/ディスクだけでなく、枯渇時の影響と閾値の根拠
- ログ監視:アプリ例外、認証失敗、権限エラー、外部API失敗などの検知方法
- 通知設計:誰に、どの手段で、どのレベルから通知するか(メールのみは危険)
- 一次切り分け:オンコールが見るべきダッシュボード、確認手順、よくある原因
監視の成果物としては、「監視一覧(何を・どの閾値で)」「アラートごとの対応手順(ランブック)」「障害時の連絡フロー」が揃っている状態が理想です。情シスがITに詳しくない場合でも、ランブックがあれば初動の質が上がり、外注先への依頼も的確になります。
なお、監視はコストがかかります。24/365の監視・一次対応を外注に求めるのか、夜間休日はクラウドの自動復旧に寄せるのか、重要システムだけ手厚くするのか。監視の厚みは「業務停止の損失」と釣り合うように設計すると、社内説明が通りやすくなります。
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運用体制(オンコール/エスカレーション/窓口)を見える化する:属人化を防ぐ質問集
外注先選定で一番差が出るのが「体制」です。同じSLA・同じ監視ツールでも、体制が弱いと現場は回りません。情シスが確認すべきは、担当者個人の能力よりも、仕組みとして回る体制かどうかです。
具体的には、夜間休日のオンコール有無、一次対応の担当(運用担当か開発担当か)、障害時に開発者へエスカレーションする経路、窓口の一本化(チケット管理)、定例会での改善サイクルなどです。特に「担当者が休むと止まる」状態は危険です。複数名での引き継ぎ、交代要員、手順書の整備があるかをチェックします。
外注先にそのまま聞ける体制確認の質問
- 窓口:連絡先は一本化されていますか(チケットシステムはありますか)
- オンコール:夜間休日の一次対応は可能ですか/可能な場合の追加費用は
- 切り分け:障害か問い合わせか、誰が判断しますか
- エスカレーション:運用担当から開発担当へ上げる条件と時間の目安は
- 担当の継続性:担当交代時の引き継ぎ手順、ドキュメント更新の責任者は
- 定例:月次の運用報告(稼働状況、障害、改善提案)はありますか
- 改善:再発防止策の実施状況をどう管理しますか
また、情シスの負担がどこに残るかも重要です。例えば「問い合わせ一次受付は社内で行い、技術的な二次対応を外注する」形は、社内ヘルプデスクが整っている企業には向きます。一方、情シスが少人数で兼務が多い場合、一次受付も外注に寄せたほうが現実的です。社内の体制に合わせて、外注先の運用体制を“組み合わせる”発想が失敗を減らします。
引き継ぎ・ドキュメント・ソース管理:運用できる納品物の条件
保守運用まで見据えた外注選びでは、「納品物=ソースコード」では不十分です。情シスが本当に欲しいのは、運用可能な状態です。たとえば、障害が起きたときにどこを見ればよいか、環境を再現できるか、設定変更の影響を判断できるか。これを支えるのがドキュメントと運用設計です。
最低限、次の成果物が用意されるかを確認しましょう。外注先が「ドキュメントは別途」と言う場合でも、運用に必要な範囲を契約に含めることが大切です。ドキュメントはコストではなく、将来の保守費の削減策です。
- システム構成図:クラウド/サーバ/ネットワーク/外部サービスの関係が一枚で分かる
- 運用手順書:定常作業(アカウント追加、権限変更、データ修正の手順と注意点)
- 障害対応手順(ランブック):よくあるアラートごとの確認項目、暫定復旧、連絡テンプレ
- リリース手順:本番反映、ロールバック、メンテ告知、影響範囲の確認方法
- ソース/設定の管理方法:リポジトリ権限、ブランチ運用、Secrets(鍵)の取り扱い
- バックアップ/復元手順:バックアップ対象、世代、復元テストの頻度
ここでの落とし穴は、「外注先しか触れない構成」になっていることです。例えば、クラウドアカウントが外注先名義、監視ツールの管理権限が外注先のみ、運用用の管理画面アカウントが共有されていない、などです。これでは契約終了時に詰みます。情シスとしては、最低限「資産の名義」「管理者権限」「ソースコードの所在」「ライセンスの帰属」を契約書・運用設計に落とし込みましょう。
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セキュリティとコンプライアンス:情シスが押さえるべき現実的な線引き
運用フェーズでは、脆弱性対応や権限管理が継続的に発生します。外注先選定時に、セキュリティを「頑張ります」で済ませると、後から監査や事故対応で苦労します。ここでは、情シスが専門家でなくても確認できる、現実的な線引きを整理します。
まず、権限管理。運用担当が本番にアクセスできるのは必要ですが、無制限は危険です。最小権限(必要なことだけできる権限)と操作記録(監査ログ)が設計されているか確認します。次に、脆弱性対応。OSやライブラリのアップデート方針(頻度、緊急時の手順、影響確認)を明文化できる外注先は信頼できます。
セキュリティで確認したい実務項目
- アクセス管理:個人アカウント発行、退職/異動時の削除手順、共有アカウントの扱い
- ログ:管理操作ログ、アプリログ、監視ログの保管期間と閲覧権限
- 脆弱性対応:定期アップデートの頻度、緊急パッチの判断基準、適用手順
- データ保護:暗号化(通信・保存)、個人情報の取り扱い、テストデータのマスキング
- 委託先管理:再委託の有無、開発環境での情報持ち出し制限、NDAの範囲
- インシデント対応:事故時の連絡フロー、初動報告の内容、再発防止の進め方
「厳格にしすぎて運用が回らない」問題もあります。例えば、軽微な設定変更まで都度稟議にするとスピードが落ちます。おすすめは、変更管理を3段階に分けることです。①定型(手順書通りでリスクが小さい)②準定型(影響が限定的でレビューすればよい)③重大(承認・計画・メンテが必要)。この線引きを外注先と合意すると、情シスの統制と現場のスピードを両立できます。
見積と契約の勘所:保守費の「安さ」より、変更と障害の「扱い」を決める
保守運用の見積は比較が難しい分野です。「月額○万円で保守します」と言われても、含まれる作業が会社ごとに違うからです。情シスとしては、安さよりも、障害・変更・問い合わせが発生したときの扱いを明確にすることが重要です。
例えば、次のような観点は契約で曖昧になりやすいポイントです。
- 保守の範囲:監視、一次対応、原因調査、復旧、再発防止、問い合わせ対応は含まれるか
- 軽微改修の扱い:月次の保守枠で対応できる作業量(例:月○時間)/超過時の単価
- 障害対応の課金:夜間休日は割増か、定額に含むか、優先度で変わるか
- クラウド費用:クラウド利用料は誰が契約・支払い、コスト最適化は誰が責任を持つか
- 成果物の帰属:ソースコード・設計書・設定の所有権、納品物の範囲
- 契約終了時:引き継ぎ支援、アカウント移管、ドキュメント更新の条件
また、見積比較の際は「運用の前提」が揃っているか確認してください。たとえば、A社は24/365オンコール込み、B社は平日日中のみ、という条件で月額だけ比較すると誤判断します。比較表を作るなら、SLA(対応時間・優先度)と監視(対象・通知)と体制(窓口・オンコール)を横並びにして、同条件に揃えた上で金額を見ます。
最後に、契約の形もポイントです。開発は請負、運用は準委任(工数ベース)になるケースが多いですが、どちらが良い悪いではなく「期待値を一致させる」ことが重要です。準委任の場合は、月次での作業報告と改善提案が出るか、KPI(障害件数、平均復旧時間、問い合わせの傾向など)を一緒に見られるかが、良い運用の分かれ目です。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
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まとめ
情シス向けの外注先選びは、「作れる会社」ではなく「運用できる状態を一緒に作れる会社」を選ぶのが本質です。開発後に苦労しないためには、SLAで前提条件を固め、監視を検知だけで終わらせず、体制(オンコール・エスカレーション・窓口)を仕組みとして確認する必要があります。さらに、引き継ぎ可能なドキュメントと権限設計、現実的なセキュリティ線引き、契約での範囲定義まで整えることで、属人化と炎上を防げます。
迷ったら、次の3点を外注候補に投げてみてください。①SLAのテンプレと例外条件を見せてください ②監視一覧とアラート対応手順(ランブック)の雛形はありますか ③障害時の体制図(一次対応→エスカレーション→報告)を図で出せますか。この3つを具体的に出せる会社は、運用に強い可能性が高いです。
保守運用まで含めた外注の設計は、情シスの負担を減らし、事業スピードを上げる投資です。社内の状況(体制・リスク許容度・重要システム)に合わせて、無理のない運用像を一緒に描けるパートナーを選びましょう。
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