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「とりあえず使ってみる」を卒業する社内AI PoCの回し方
ChatGPTのような生成AIや社内用のチャットボットを入れてみたものの、「一部の人だけが触っていて、結局どうだったのか分からない」「正式導入するか判断できない」という声は少なくありません。これはツールが悪いのではなく、社内AI PoC(試行導入)の設計がふわっとしていることが原因であることがほとんどです。
本記事では、AIやITに詳しくない中小企業の経営者・マネージャーの方向けに、「30日で回す」ことを前提としたPoCロードマップの考え方と、実際の進め方を解説します。ポイントは、小さく試して、数字と現場の声をもとに「続けるか・広げるか」を判断できる状態をつくることです。社内AI導入を検討中の方も、すでに一度トライしてモヤっとしたまま終わってしまった方も、次の一手を考える材料にしてください。
なぜ「小さく試す社内AI PoC」が必要なのか
社内AI導入に前向きな会社ほど、「せっかくなら最初から全社で使いたい」と考えがちです。しかし、いきなり広い範囲で始めると、想定外の不具合や運用上の課題が出たときに、調整コストが一気に跳ね上がります。「誰が責任を持つのか」「どこから手を付けて良いか」が曖昧なまま、プロジェクトが立ち消えになるケースも少なくありません。
そこで有効なのが、期間・対象・目的をあえて絞った社内AI PoCです。限られた業務とメンバーにフォーカスし、「この30日で何を確認し、どこまで行けたら次のステップに進むか」を決めてから走り出します。これにより、現場の不安を抑えつつ、「とりあえず触ってみる」ではない検証ができます。PoCの段階からPoCロードマップを用意しておけば、結果が出たときに「正式導入」「別テーマでの再PoC」「一旦見送り」といった判断もしやすくなります。
社内AI PoC設計の基本フレーム
うまくいく社内AI PoCには共通の型があります。それが「目的」「対象業務」「スコープ」「評価指標」「期間」の5要素です。
- 目的:なぜこのPoCをやるのか(例:問い合わせ対応時間を20%削減したい)
- 対象業務:どの部署のどの仕事か(例:バックオフィスの社内問い合わせ一次対応)
- スコープ:どこまでやるか・やらないか(例:今回は回答ドラフト作成まで。本番システム連携は対象外)
- 評価指標:何をもって「うまくいった」と見るか(例:時間削減、件数、満足度)
- 期間:いつ始めていつ終えるか(例:30日間で最低◯回は使う)
特に大事なのは、「やらないこと」を決めておくことです。あれもこれも試そうとすると、30日では検証しきれません。あくまで「社内AI導入の第一歩」と割り切り、1〜2業務に絞り込むことが、成功するPoCロードマップの前提になります。
30日で回す社内AI PoCロードマップ(週別の進め方)
実際に30日で社内AI PoCを回すときは、ざっくりと「週ごとのテーマ」を決めておくと動きやすくなります。
1週目:設計と準備
1週目は「考えて整える」フェーズです。PoCの目的と対象業務を最終決定し、関係者と共有します。同時に、利用する社内AI環境(社内用ChatGPTなど)のアカウント発行や簡単なマニュアルの準備を進めます。この段階で、パイロットユーザー(まず試すメンバー)も選定しておきます。
2週目:集中的に試す
2週目は、パイロットユーザーが実際に社内AIを使い込む期間です。「1日◯回は必ず社内AIに投げてみる」といったゆるいルールを決めておくと定着しやすくなります。うまくいったプロンプトや、逆に使いづらかったパターンをメモしてもらい、週の後半でシェア・チューニングします。
3週目:利用拡大とデータ収集
3週目では、必要に応じて対象メンバーを少し広げつつ、時間削減や処理件数など数字面のデータを集めていきます。「社内AIを通した案件にフラグを付ける」「簡単な利用ログを残す」など、後から集計できる形にしておくことが重要です。この週で、社内AI導入による手応えと課題が見えてきます。
4週目:評価・レポート・次の打ち手決定
最後の週は、これまでの結果を整理し、PoCの結論を出すフェーズです。KPIの変化と現場の声をまとめ、次の判断に繋げることがゴールです。「続ける/広げる/やり方を変える/一旦やめる」のどれにするかを決めます。このとき、「次の30日で何を試すか」まで描けていると、PoCロードマップとして綺麗なサイクルになります。
問い合わせ・営業・バックオフィス別 PoCシナリオ例
ここからは、代表的な3分野での社内AI PoCシナリオを紹介します。いずれも30日で検証しやすく、社内AI導入の入り口として扱いやすいテーマです。
1. 問い合わせ対応(社内FAQ・ヘルプデスク)
社内問い合わせやヘルプデスクでは、「よくある質問」を社内AIに一次回答させ、人間が最終チェックを行う形のPoCが定番です。30日の中で、何件をAIに投げ、1件あたりの対応時間がどれだけ短縮されたかを測ります。「自己解決率」「担当者に回さずに済んだ件数」なども評価指標になります。
2. 営業支援(メール・提案書ドラフト)
営業では、提案書や営業メールのドラフト作成を社内AIに任せるPoCが有効です。PoCでは「1通あたりの作成時間」「1週間あたりの商談準備に割ける時間の変化」などを追います。いきなり受注率まで追わず、手前の時間指標で手応えを掴むのがコツです。
3. バックオフィス(議事録・報告書・社内文書)
議事録や報告書は、社内AIが得意とする領域です。会議のメモや録音文字起こしを社内AIに渡し、社内向けフォーマットに整えてもらうPoCを行います。ここでは、「作成時間」「読みやすさに関する評価」「作成者ごとのバラつき減少」などが確認ポイントになります。30日の中で数本試せば、十分な材料が集まります。
PoC結果の評価と、本格導入の意思決定プロセス
PoCが終わったあとに重要なのは、「なんとなく良さそう」で終わらせず、事前に決めた基準に沿って評価することです。まずは時間削減や処理件数などの定量データを、Before/Afterで整理します。そのうえで、「想定したKPIに対してどこまで到達したか」を確認します。例えば、「問い合わせ対応時間20%削減」が目標で、実績が15%だった場合、「ほぼ想定通り」と見るのか、「運用を変えれば伸びる余地がある」と見るのかを議論します。
加えて、現場の声も重要です。数字と同じくらい「使い続けたい理由」が語れるかを見ます。「慣れてくると手放せない」「最初は戸惑ったが、今はこれがないと時間が足りない」といったコメントが多いなら、多少数字が控えめでも続ける価値があります。逆に、「手入力が増えてかえって面倒」「使う場面がピンと来ない」という声が多いなら、対象業務やプロセス設計の見直しが必要かもしれません。
最終的には、「小さく継続」「別部署へ拡大」「別テーマで再PoC」「一旦中止」といった選択肢から、次の一手を決めます。このとき、PoCの学びをドキュメント化し、次の社内AI導入プロジェクトでも再利用できるようにしておくと、会社としての経験値が蓄積されます。
ありがちな失敗パターンと、成功するPoCのチェックリスト
最後に、社内AI PoCでよくある失敗と、その対策をまとめます。
- 目的が曖昧なまま走り出す:「とりあえず触ってみる」だけでは、終わったあとに何を評価すればいいか分かりません。必ず一文で目的を書き出してからスタートしましょう。
- 対象範囲を広げすぎる:複数部署・複数業務を一度に試そうとすると、30日では薄く広くになりがちです。最初は1〜2業務に絞るのが正解です。
- ツールだけ試して運用を変えない:どれだけ良い社内AIでも、業務フローや役割分担を変えないと効果が出ません。プロンプトやテンプレ、チェックフローまで含めて設計しましょう。
- 評価指標がない/多すぎる:指標ゼロだと成果が語れず、多すぎると誰も追えません。3〜5個に絞るのがおすすめです。
成功するPoCロードマップのミニチェックリスト
- 目的と対象業務が一文で説明できる
- 30日間の週別プランがざっくり決まっている
- 評価指標が3〜5個に絞られている
- パイロットユーザーと責任者(オーナー)が決まっている
- 結果をまとめるレポートのイメージが最初から描けている
ここまで決まっていれば、社内AI PoCは「なんとなくの実験」ではなく、「次の一手につながる投資」として機能しやすくなります。
まとめ:30日PoCで「小さく始めて、ちゃんと判断する」文化を作る
本記事では、社内AI PoCを30日で回しきるためのPoCロードマップと、具体的な進め方を紹介しました。ポイントは、「最初から完璧な社内AI導入を目指さない」ことです。まずは小さな範囲で試し、数字と現場の声を集め、3か月・半年と時間をかけながら、対象業務や仕組みを広げていく。その第一歩としての30日PoCです。
このやり方に慣れてくると、「新しいツールや仕組みは、まず30日PoCから」という文化が組織に根付きます。失敗しても傷が浅く、うまくいけばそのままスケールできる。そんな健全な試行錯誤のサイクルは、生成AIに限らず、これからの変化の大きい時代に欠かせない企業の筋力になります。
もし、自社だけでPoC設計から評価レポートまでを組み立てるのが難しいと感じる場合は、社内AI活用と業務設計の両方に通じたパートナーに相談するのも一つの方法です。外部の知見をうまく取り入れながら、「小さく試して、大きく広げる」社内AI導入の一歩を踏み出してみてください。
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