事例で学ぶデータドリブン経営:KPIツリー×BIダッシュボードで意思決定を高速化する方法

事例で学ぶデータドリブン経営:KPIツリー×BIダッシュボードで意思決定を高速化する方法

「会議が長いのに決まらない」──何がデータドリブン経営を妨げているのか

「DXを進めよう」「もっとデータドリブン経営にしよう」と掲げてBIツールやダッシュボードを導入しても、会議では相変わらず感覚と経験に頼った議論ばかり──そんな状態に心当たりはないでしょうか。本来、データドリブン経営とは、勘や経験を否定するものではなく、データに基づく経営判断を加えることで、意思決定のスピードと再現性を高めるための考え方です。しかし、現場では「どの数字を見て何を決めるのか」が曖昧なまま、BIだけが先に入ってしまうケースが少なくありません。

典型的なのが、部門ごとに見ている指標も定義もバラバラで、KPIツリーが存在しない状態です。売上の話をしていても、営業は受注件数、マーケティングはサイトセッション数、カスタマーサクセスは解約率とNPSを持ち出し、共通の物差しがないため議論はかみ合いません。せっかくのBIダッシュボードにも、集計ロジックが部署ごとに違うデータが流し込まれ、「どの数字が正しいのか?」という確認だけで会議の半分が終わってしまいます。これでは、データドリブン経営どころか、かえって意思決定が遅くなってしまいます。

もう一つのよくある問題は、「きれいなBIダッシュボードはあるが、それを見て何を決めればいいのかが分からない」という状況です。KPI設計やKPIツリー設計がないままBIを整えると、「数字の一覧」にはなっても、「どの数字の変化が最終成果に効いているのか」を素早く特定することができません。つまり、データドリブンな意思決定のための構造ではなく、単なるレポート置き場としてのBIダッシュボードになってしまうのです。

この記事では、「データに基づく経営をしたいが、何から始めればよいか分からない」「BI導入で失敗したくない」と考える事業責任者・マネージャーの方向けに、データドリブン経営 × KPIツリー × BIダッシュボードを組み合わせて意思決定を高速化した事例をベースに、実務で使える進め方と注意点を解説します。

事例企業の背景と、「意思決定が速くなった」の具体的な定義

今回イメージするのは、複数の事業とチャネルを持つBtoBサービス企業です。売上規模は数十億円、データはSaaSや基幹システム、Web解析などに積み上がっている一方で、データドリブン経営という観点では「人頼み・Excel頼み」の状態でした。部門ごとにレポートが量産され、経営会議前には数字の整合性チェックと資料作成に多くの時間が費やされていました。

課題を整理すると、まず「数字の整合に時間がかかる」という問題があります。営業が持ってくる売上と、経理の売上、BIに表示されている売上が微妙に違い、その理由を確認するだけで会議の前半が消えてしまう。次に、「原因特定に時間がかかる」という課題です。売上が落ちたとき、それが単価なのか数量なのか、新規顧客か既存顧客か、チャネル構成か、感覚で議論が始まってしまい、KPIツリーに沿って分解する習慣がありませんでした。最後に、「打ち手の合意形成が遅い」という課題です。BIダッシュボードを見ても、各部門が自分に都合のよいグラフだけを持ち出し、データドリブンな意思決定どころか、かえって議論を複雑にしていました。

そこで、「データに基づく経営」を実現するために、本プロジェクトではあらかじめ「何をもって意思決定が速くなったとみなすか」を定義しました。例えば、(1) 週次/月次の事業レビュー会議を90分から60分以内に短縮する、(2) 売上やKPIの異常検知から原因特定・打ち手の方針決定までを同じ会議内で完結させる、(3) 新しい施策の決定から着手までの期間を半分にする、といった具体的な目標です。これにより、「データドリブン経営になったかどうか」を、雰囲気ではなく、明確な指標で評価できるようになります。

また、この事例では単にBIを導入するのではなく、KPIツリーを軸にしたKPIツリー設計 → BIダッシュボード設計 → 会議運営の見直しという流れで進めていきました。重要なのは、「ツール導入」ではなく、「意思決定プロセスの再設計」が主役だと位置づけたことです。その結果、BIダッシュボードはデータドリブンな意思決定を支える“共通の事実”の窓として機能し、会議の質とスピードの両方が向上していきました。

KPIツリーで「見るべき数字」と「現場が変えられる数字」をつなぐ

データドリブン経営の土台になるのがKPIツリーです。KPIツリーは、最終的な成果指標(KGI)を頂点に置き、その達成に寄与する要因を分解しながら枝としてつないでいく図です。例えば、「売上」をトップに置き、それを「単価 × 数量」に分解し、数量を「新規顧客数 × 既存顧客数」にさらに分解、そして新規顧客数を「リード数 × 商談化率 × 受注率」といった具合に展開していきます。こうしたKPIツリー設計を行うことで、「どの数字が動けば、最終成果にどの程度効くのか」が可視化され、データドリブンな意思決定のための“地図”ができます。

実務でのポイントは、「管理したい指標」ではなく「現場が変えられる指標」を枝に置くことです。例えば「解約率」をKPIにするとき、解約率そのものを追うだけでは現場は動けません。「解約率 → 利用頻度低下 → 初期オンボーディングの完了率」「解約率 → サポート問い合わせ数 → 初回レスポンス時間」といった形で、現場のアクションに近い指標までKPIツリーを分解する必要があります。このとき、「どう計算するのか(式)」「元データはどこにあるのか」「どのBIダッシュボードで見るのか」「誰がオーナーなのか」を同時に決めておくと、後のBI設計がスムーズになります。

実際のプロジェクトでは、事業責任者・営業リーダー・マーケ・カスタマーサクセス・経営企画・データ担当が集まり、90分×数回のワークショップ形式でKPIツリーを作成しました。ホワイトボードやオンラインホワイトボード上で、まずはざっくりとしたKPIツリーを描き、「この枝は本当にコントロール可能か?」「データは取得できているか?」「BIダッシュボード上でどう見せるか?」と議論を重ねていきます。最初から完璧を目指すのではなく、「まずは『売上』と『解約』だけKPIツリーを作る」といったスコープに絞ることで、短期間で“使えるKPIツリー”まで持っていくことができます。

こうして合意したKPIツリーは、そのままKPI設計の仕様書であり、BIダッシュボードの画面構成のベースになります。言い換えれば、データドリブン経営を支える「論理の骨格」を先に設計し、その後でBIという「可視化の器」をはめ込んでいくイメージです。この順番を逆にして、先にBIツールを導入してからKPIを考えようとすると、ツールの制約に引っ張られて本来必要なKPIツリー設計が歪んでしまうため注意が必要です。

BIダッシュボードでKPIツリーを“ワンクリックの事実”にする

データドリブン経営を実現するうえで、BIツールは欠かせません。しかし、単にグラフや表を並べただけのBIダッシュボードでは、データドリブンな意思決定は生まれません。重要なのは、KPIツリーとBIダッシュボードが一体で設計されていることです。すなわち、「この画面はKPIツリーのどの枝に対応しているのか」「このグラフを見て、どのような意思決定につなげるのか」が明確である必要があります。

実務では、トップ画面に「売上」「粗利」「解約率」「LTV」などの最終KPIと主要なドライバーを並べ、そこからKPIツリーの構造に沿ってドリルダウンできるようにBIダッシュボードを設計します。例えば、売上が落ちていることが分かったら、ワンクリックで「単価」「数量」「新規/既存」「チャネル別」「施策別」に分解し、さらに施策別画面からは「実施有無」「予算消化」「コンバージョン率」まで追える、といった流れです。これにより、データドリブンな意思決定に必要な“原因特定”が、数クリック・数十秒で行えるようになります。

また、BIダッシュボードの設計では、「比較」が非常に重要です。前年比・前月比・前週比・目標比・予算比など、どの比較軸で見るとビジネスの状態が分かりやすいかを、KPIツリーごとに決めておきます。さらに、チャネル別・顧客セグメント別・担当者別など、切り口を切り替えられるフィルタやスライサーを用意することで、「どの顧客群で何が起きているか」を高速で確認できます。

以下のようなイメージ図を置いておくと、社内展開時の理解も進みやすくなります。

ただし、最初から「全部入り」のBIダッシュボードを作ろうとするのは危険です。多くの企業で、凝ったBIを導入したものの、画面が複雑すぎて誰も触らなくなってしまったという失敗例があります。おすすめは、まずは1つの重要な会議(例:週次営業会議)だけをターゲットにし、その会議で使う3画面だけを作る進め方です。そして、実際の会議で使いながら、「どのグラフが役に立ったか」「どの数字は不要か」「追加したい指標は何か」をフィードバックとして集め、少しずつ拡張していくと、データドリブン経営が現場の感覚にフィットした形で浸透していきます。

PoCから定着まで:データドリブン経営を失敗させない進め方

ここからは、データドリブン経営への移行を実務で進めるためのプロセスを整理します。ポイントは、「いきなり全社DXにしない」「完璧なデータ基盤をゴールにしない」ことです。まず行うべきは、現状の棚卸しです。既存のExcelレポートやBI画面、システム出力を洗い出し、「どの数字がどの会議で使われているか」「誰がどれだけの工数で作っているか」をマッピングします。これにより、どこにムダがあるのか、どこから着手すべきかが見えてきます。

次に、優先度の高い会議体(例:経営会議、週次事業レビューなど)を1つ選び、その会議に必要なKGI・KPI・指標定義をメンバーで合意します。ここでKPIツリーを作成しながら、「この枝は当面のスコープから外そう」「ここはまだデータがないので仮で運用しよう」といった現実的な判断をしていきます。この段階で、データ基盤チームや担当ベンダーと連携し、「どのデータを、どの粒度で、どのくらいの頻度でBIダッシュボードに流し込むか」を決めるとよいでしょう。

そのうえで、PoC(概念実証)フェーズを設定します。期間は1〜3か月程度を目安にし、「対象会議」「対象KPI」「対象画面数」をあらかじめ絞り込みます。PoCの評価軸は、「会議時間が短くなったか」「意思決定までの時間が短くなったか」「資料作成工数が減ったか」といった運営上の指標にします。ここでデータドリブンな意思決定の価値がメンバーに体感されれば、その後の展開は一気に加速します。

定着フェーズでは、(1) KPIツリーと指標定義書をドキュメント化して社内共有する、(2) 会議アジェンダを「KPIツリーの上から順に確認する」形に統一する、(3) 新しい施策を打つ際は「どの枝を改善するための施策か」を明示する、といったルールづくりがカギになります。同時に、BIダッシュボードの改修フロー(誰が要望を出し、誰が判断し、誰が作るか)も決めておくことで、「作ったまま放置されるダッシュボード」を防げます。

この一連の流れを「データドリブン経営の導入プロジェクト」として外部パートナーと一緒に設計する方法もあります。単なるBI導入ではなく、KPIツリー設計 × BIダッシュボード設計 × 会議運営の見直しまでを一気通貫で伴走してもらうことで、社内の負荷と失敗リスクを大きく下げることができます。

成果と再現のためのチェックリスト、ソフィエイトが伴走できること

ここまでの取り組みの結果、事例企業では「会議の時間が減り、決まることが増えた」という変化が現れました。例えば、経営会議は90分から60分に短縮され、うち前半30分はBIダッシュボードを見ながらKPIツリーの上から順に事実確認と原因特定を行い、後半30分は打ち手の議論に集中するスタイルに変わりました。また、新規施策の決定から着手までの期間も平均で半分になり、データドリブン経営による高速なPDCAサイクルが回り始めました。

自社で再現するための簡易チェックリストとして、次のような観点が挙げられます。(1) 最終KGIは明確か?(例:売上、粗利、LTVなど)(2) そのKGIはKPIツリーで分解されているか?(単価・数量・チャネル・顧客セグメントなど)(3) KPIツリーの各枝は現場がコントロール可能な指標になっているか? (4) 各指標の定義・計算式・データソースは合意されているか? (5) KPIツリーと対応するBIダッシュボードが用意されているか?、といったポイントです。これらが揃っていれば、データに基づく経営を実行するための土台は整っていると言えます。

とはいえ、データドリブンな意思決定の仕組みをゼロから設計し、KPIツリーを作り、かつBIダッシュボードも構築するのは、社内リソースだけでは負担が大きいのも事実です。そこで株式会社ソフィエイトでは、事業責任者・マネージャーの皆さまと一緒に、(1) 経営課題・事業課題の言語化、(2) KPIツリー設計ワークショップ、(3) KPIツリーに基づくBIダッシュボードの設計・実装、(4) 実際の会議運営への組み込みと改善、までを一気通貫で伴走支援することが可能です。

「社内にデータ分析はできる人はいるが、データドリブン経営の全体設計までは手が回らない」「ツール選定から相談したい」「まずは小さく試してから全社展開したい」といったご相談にも対応できます。もし、この記事を読みながら自社のKPIツリーBIダッシュボードのイメージが少しでも湧いたようでしたら、ぜひ一度、現状のダッシュボードやレポートを見せていただきながら、「何を残し、何をやめ、何を新しく作るべきか」を一緒に整理してみませんか。

まとめ:KPIツリーとBIダッシュボードで、データドリブン経営を「日常」にする

最後に、本記事のポイントを整理します。まず、データドリブン経営とは、単にBIツールを導入することではなく、データに基づく経営判断を素早く繰り返すための「意思決定プロセスの再設計」です。その土台になるのがKPIツリーであり、最終成果指標から現場の行動レベルまでを論理的につないだ構造が、データドリブンな意思決定の“地図”になります。そして、その地図を日々の会議で誰もが共有できる形にしたものがBIダッシュボードです。

実務では、(1) 現状のレポートと会議体を棚卸しする、(2) 優先度の高い会議を1つ選び、その会議で使うKGI・KPIを明確にする、(3) KPIツリーを設計し、指標定義・データソース・更新頻度・オーナーを決める、(4) KPIツリーに対応した最小限のBIダッシュボードを作り、会議で試運転する、(5) 会議運営とダッシュボードを改善しながら徐々にスコープを広げる、というステップで進めると、無理なくデータドリブン経営へ移行していけます。

株式会社ソフィエイトは、こうしたプロセス全体を見通しながら、戦略設計からKPIツリー設計BIダッシュボード構築、業務プロセスやシステム開発までを一気通貫で支援できるパートナーです。「まずは自社のKPIツリーを一緒に描いてみたい」「既存のBI環境をデータドリブンな意思決定に使える形に整えたい」と感じられた方は、ぜひ気軽にご相談ください。小さく具体的な一歩から、貴社らしいデータに基づく経営を一緒に形にしていきましょう。

株式会社ソフィエイトのサービス内容

  • システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
  • コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
  • UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
  • 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い


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