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レガシーシステムがDXを難しくする本当の理由
「DXを進めたいが、基幹システムが古くて動かせない」「担当者が辞めたら終わる」——この悩みは、ITに詳しくない企業ほど深刻です。レガシーシステムは“古い”というだけでなく、業務の中心に深く入り込み、止められない状態になっている点が最大の問題です。
よくある誤解に「とにかく新システムに総入れ替えすればDXになる」があります。しかし現実には、会計・受発注・在庫・生産・顧客管理などの業務が毎日動いており、ビッグバン移行(ある日を境に全部切り替え)は失敗しやすい。なぜなら、仕様の抜け漏れや例外処理、現場の運用ルールが移行時に一気に噴き出し、障害が業務停止に直結するからです。
レガシー環境でDXが進みにくい背景は、だいたい次の3つに集約されます。
- 仕様が資料化されていない:“動いていることが仕様”になっていて、改修や移行の判断ができない
- データが分断されている:部門ごとにExcel・Access・メール・紙が混在し、正しい数字が一つに決まらない
- リスクを取れない構造:障害時の責任が曖昧で、挑戦より現状維持が合理的になっている
だからこそ現実的なDXは、「業務を止めない」ことを最優先にしながら、段階的にデータと機能を切り出していく戦略が必要です。この記事では、専門知識がなくても判断できるように、段階移行の進め方を具体的に整理します。
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業務を止めない段階移行の基本戦略(置き換えではなく“切り出し”)
段階移行の要点は、レガシーシステムを一気に捨てるのではなく、価値の出やすい領域から順番に「周辺から」切り出し、最後に中核を軽くすることです。イメージとしては、家を建て替えるのではなく、住みながらリフォームしていく方法に近いです。
実務で使われる代表的なアプローチは次の通りです。
- ストラングラー(Strangler)パターン:新機能を新システム側に作り、古い機能を少しずつ置き換えていく
- API/連携で“包む”:レガシーを直接触らず、外側に連携層を作ってデータの出入口を統一する
- 二重稼働:新旧を一定期間並行運用して差分を潰し、移行の安全性を上げる
ここで重要なのは「どこから着手するか」です。多くの企業では、基幹の中核(会計や生産計画)から触りたくなりますが、最初に狙うべきは“止まっても致命傷にならないが、成果が見えやすい”領域です。たとえば、次のような周辺業務から始めると段階移行が進みやすくなります。
- 帳票出力の自動化、PDF化、配布の電子化
- 問い合わせ対応(検索性の改善、FAQ化、チケット化)
- 営業活動の見える化(案件管理、見積作成フロー)
- 現場の点検・検品のモバイル入力(紙→データ)
DXはツール導入が目的ではありません。段階移行では、「データが整うほど次の改善が安くなる」状態を作ることが、結果的に費用対効果を最大化します。
最初にやるべき棚卸し:業務・システム・データを“見える化”する
段階移行の成否は、着手前の棚卸しで8割決まります。といっても、分厚い資料を作る必要はありません。必要なのは、意思決定に足りる粒度で「何がどこで動いていて、誰が困っているか」を把握することです。現場ヒアリングを中心に、1〜2週間で作れる範囲から始めるのが現実的です。
棚卸しは、次の3つの地図を作るイメージです。
業務フロー地図(例外処理まで聞く)
受注〜請求、仕入〜支払、問い合わせ〜対応完了など、主要業務を一枚の流れにします。ポイントは「普段はこうだが、月末は違う」「特定顧客だけ別ルール」などの例外を聞くこと。レガシーの怖さは、この例外処理が暗黙知になっている点です。
システム構成地図(どのツールが何を担うか)
基幹、サブシステム、Excel台帳、RPA、ファイルサーバ、メール、紙……実態として使っているものを全部並べます。情シスが把握していない“現場の便利ツール”が出てくるのは普通です。ここで「止まると困る順」に色を付けると、優先順位が一気に決まります。
データ地図(マスタと実績の所在を特定)
顧客、商品、取引先、単価、在庫、案件、請求、入金など、主要データがどこにあるかを明確にします。特に「顧客名が部署で表記揺れしている」「商品コードが複数ある」などはDXのボトルネックになります。データが統一されていないまま自動化すると、ミスが高速化されるので注意が必要です。
この棚卸しの成果物は、立派な図よりも「どの改善が、どの部署に、どれだけ効くか」を説明できることが価値です。ここまでできると、経営と現場の会話が噛み合い、DXが“掛け声”から“実行計画”に変わります。
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段階移行ロードマップ:PoC→小さく本番→拡大の進め方
レガシーがある会社のDXは、最初から完璧な要件定義を目指すと止まります。代わりに、小さく試し、業務に入れて、学びを反映して広げるロードマップが有効です。ここでは、情シスや業務担当が“判断しやすい型”として進め方を整理します。
PoC(検証)は「技術」より「業務」に寄せる
PoCというとAIや新技術の実験を想像しがちですが、段階移行でのPoCは「この業務は、新しい流れに置き換えても現場が回るか」を確認する場です。たとえば、問い合わせ管理をチケット化する場合、必要なのは高度な技術よりも、受付・担当割り当て・期限・エスカレーションが現場に合うかどうかです。
- 期間:2〜4週間
- 対象:1部署、1業務、1〜2画面程度
- 評価:作業時間、ミス、属人性、教育コスト、監査対応
小さく本番(MVP)で“二重入力”を最小化する
PoC後にいきなり全社展開ではなく、限定範囲で本番運用(MVP)に入れます。この段階の最大の敵は「新旧の二重入力が増えて現場が疲弊する」ことです。二重入力を避けるために、次の工夫が効きます。
- 入力は片側に寄せる:新システムで入力し、レガシーへは連携で反映(または逆)
- 帳票を統一:現場が見る紙・PDFの形式を変えずに裏側だけ変える
- 締め処理の順序を守る:月次・週次の締めに影響しない順で導入
拡大フェーズは「横展開」より「縦に深掘り」
よくある失敗は、1業務で成功したら次々と別部署に横展開してしまい、データ設計がバラバラになることです。段階移行では、先に縦(同じデータを使う周辺業務を連結)に深掘りして、データの芯を作るのが王道です。例えば、案件管理→見積→受注→請求までをつなげると、DXの効果が数字で見えるようになります。
ロードマップ作成で迷ったら、「KPIが測れるか」「業務停止リスクが低いか」「データが整うか」の3点で優先順位を決めるとブレません。
具体的な移行パターン:データ連携・段階置換・クラウド活用
段階移行を実装に落とすとき、選択肢が多すぎて混乱しがちです。ここでは、非エンジニアでも判断しやすいように、よくある移行パターンを“何が嬉しくて、何に注意するか”で整理します。結論から言うと、最初は「連携で包む」→次に「機能を置き換える」→最後に「コアを整理する」順が安全です。
パターンA:連携で包む(レガシーはそのまま)
レガシーは変えずに、周辺に新しい受付画面やデータ集計を作り、必要なデータだけ連携します。メリットは早く効果が出ること。注意点は、連携が増えると複雑化するため、早めに“連携の出入口”を統一することです。
- 向いている:改修が難しい基幹、保守担当がいないシステム
- 効果:入力負荷削減、可視化、検索性向上
- 注意:どのデータが正か(正本)を決めないと混乱する
パターンB:機能を段階置換(新旧を共存)
例:受注入力だけ新Webに置き換え、在庫引当や請求は当面レガシーで処理する。新側で入力したデータをレガシーへ流し込み、まず業務の入口を刷新します。入口が整うと、後工程の自動化が連鎖的にやりやすくなるのが強みです。
- 向いている:現場の入力がボトルネック、紙やExcelが多い業務
- 注意:例外入力(返品、値引き、分納など)を潰し切るまで安易に拡大しない
パターンC:クラウドSaaSを挟む(標準化で楽をする)
会計、人事労務、ワークフロー、CRMなどはSaaSで標準化しやすい領域です。カスタマイズでレガシーを再現しようとすると、結局レガシー化するので要注意です。SaaS導入のコツは、「業務をSaaSに合わせて簡素化できる部分」を探すことです。
- 向いている:承認フロー、申請、勤怠、経費、営業管理
- 注意:マスタ統一(顧客・部門・勘定科目等)を後回しにしない
パターンD:データ基盤(DWH)で“見るDX”を先に作る
「まず可視化して意思決定を良くしたい」場合、各システムからデータを集約して分析できる状態(データ基盤)を先に作る方法があります。現場の入力を変えずに効果が出る一方で、データ品質(表記揺れ、欠損)への対処が必要です。
どのパターンでも共通して大事なのは、“移行しやすい単位”で業務とデータを切ることです。部署単位よりも「受注」「請求」など業務単位で切った方が、段階移行は成功しやすくなります。
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失敗しないためのチェックリスト:権限、教育、運用、セキュリティ
DXの段階移行は、技術よりも運用設計で失敗します。特にレガシーがある会社では「昔からのやり方」が組織に染み込んでおり、変更の摩擦が起きます。ここでは、導入前に押さえるべき現実的なチェックポイントをまとめます。“作って終わり”ではなく、“回し続けられるか”を基準に判断してください。
- 責任者(オーナー)を明確にする:業務側の責任者と情シス側の責任者を1名ずつ置く。曖昧だと改善が止まる
- 権限設計:誰が見て、誰が編集できるか。退職・異動時の棚卸し手順も決める
- 教育と定着:マニュアルより「最初の1週間の伴走」が効く。現場の質問が溜まる前に潰す
- 例外処理の逃げ道:100%自動化を目指さず、例外は一時的に手動で処理できる導線を用意
- 運用監視:エラーが誰に通知され、どこで復旧するか。月次締め前は特に重要
- セキュリティ:ログ、アクセス制御、データの持ち出し、委託先の管理。個人情報があるならなおさら
また、段階移行では「いつレガシーを止められるか」が曖昧になりがちです。新旧の二重コストが続くと、DXが“高い割に成果が薄い”状態になります。そこでおすすめなのが、移行対象ごとに「終了条件」を先に決めることです。
- 新システムの入力率が95%を超えたら旧入力を停止
- 月次締めを連続3回、新側のデータで完遂できたら旧帳票を廃止
- 問い合わせの一次回答時間が目標達成したら運用を標準化
終了条件があると、関係者の腹落ちが進み、レガシーからの卒業が現実的な計画になります。
まとめ
レガシーシステムがある会社のDXは、「全部入れ替える」よりも「業務を止めずに段階移行する」方が成功確率が上がります。ポイントは、中核から触らず、周辺から“切り出し”てデータと運用を整えることです。
- レガシーの問題は古さではなく「止められない構造」。ビッグバン移行はリスクが高い
- 段階移行は、連携で包む→機能を置き換える→コアを整理する順が安全
- 最初に業務・システム・データの棚卸しを行い、優先順位をKPIとリスクで決める
- PoCは技術検証より業務検証。MVPで小さく本番に入れ、縦に深掘りして効果を拡大
- 運用(権限・教育・例外処理・監視・セキュリティ)を先に設計し、移行の終了条件を決める
もし「何から始めるべきか決められない」「レガシーがブラックボックスで怖い」「段階移行の設計と実装を任せたい」といった状況であれば、業務とITの両面から伴走できるパートナーがいると進みが早くなります。
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