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デザインシステムとは何か?なぜ今、個人開発や中小チームにも必要なのか
「ボタンの色を少し変えるだけなのに、画面ごとにスタイルが違っていて全部修正が必要」「担当者によってUIの雰囲気がバラバラ」──そんな経験があるなら、すでに見えないところでデザインの負債が溜まっているサインです。こうした負債を減らし、チームでUIを育てていくための仕組みがデザインシステムです。
デザインシステムは、プロダクトの見た目や挙動に関するルールとパーツをまとめた共通の辞書です。色や余白、タイポグラフィなどのスタイルをまとめたデザイントークン、ボタンやフォーム、カードなどの再利用可能なデザインコンポーネント(UIコンポーネント)、そしてそれらの使い方を示すガイドラインで構成されます。大規模サービスはもちろん、個人開発や数名のチームでも、リリースや機能追加を重ねるほどデザインシステムの有無が効いてきます。
特にPMや管理職の立場から見ると、画面ごと・メンバーごとにデザインがバラつくと、レビューのたびに「これはOKなのか?」「別画面と違って見えるが問題ないか?」と判断コストが積み上がります。あらかじめデザインコンポーネントとデザイントークンで「標準のUI」を定義しておけば、その標準からの差分だけを議論すればよくなり、意思決定が早くなります。個人開発者にとっても、毎回ゼロからデザインを考える時間を減らし、コア機能に集中しやすくなるのがデザインシステムの大きなメリットです。
また、FigmaやStorybookなどのツールの進化により、「専門のデザイン組織がないとデザインシステムは作れない」という時代ではありません。小さく、段階的に始められる環境が整ってきました。本記事では、UX/UIの知識が浅い方でも、明日から一歩を踏み出せるように、デザインシステムを支えるデザイントークンとデザインコンポーネントの具体的な作り方と運用方法を解説していきます。
デザインシステムの基本構造:トークン・コンポーネント・ガイドラインをひとまとめにする
デザインシステムを理解するうえで、まず押さえておきたいのが「レイヤー構造」です。土台となるのがデザイントークン、その上にデザインコンポーネント(UIコンポーネント)が乗り、最後にそれらの使い方を示すガイドラインがかぶさるイメージです。この3つを分けて考えることで、デザイン変更や機能追加の影響範囲をコントロールしやすくなります。
デザイントークンは、色や文字サイズ、余白、角丸、シャドウなど、UIを構成するスタイル情報を名前付きの変数として定義したものです。たとえば「#1976D2」という色を、直接CSSに書くのではなく、「color.primary.500」というデザイントークンとして扱います。こうしておけば、ブランドカラーを変えたいときも、そのトークンを差し替えるだけでUI全体が切り替わります。タイポグラフィやスペーシングも同じようにトークン化することで、画面ごとに微妙に違うサイズや余白が混じることを防げます。
次のレイヤーであるデザインコンポーネントは、ボタンやテキストフィールド、ドロップダウン、カード、モーダルなどのUIパーツです。重要なのは、これらのコンポーネントがすべてデザイントークンを前提に設計されていることです。ボタンの背景色は color.primary、テキストは typography.button、余白は spacing.md、というように、具体的な数値ではなくデザイントークンに紐づけます。これにより、デザインシステム全体の一貫性と変更容易性が担保されます。
最後のガイドラインは、「このデザインコンポーネントをどの場面で使うべきか」「他コンポーネントとどう組み合わせるか」「アクセシビリティ上の注意点は何か」といった、振る舞いと使い方のルールです。ここがないと、同じUIコンポーネントでも人によって使い方がバラつき、結局デザインシステムが形骸化してしまいます。特にPMや管理職にとっては、このガイドラインが意思決定のベースになります。「この画面は、フォームのガイドラインに沿っているか?」といった観点でレビューできるからです。
ポイント:最初から分厚いガイドラインを作る必要はありません。まずは「ボタン」「フォーム」「カード」など、主要なデザインコンポーネントに対してだけ、簡単な使い方メモを用意し、実際に運用しながら少しずつデザインシステムのガイドラインを育てていく方が現実的です。
デザイントークンの実務的な設計ステップ:色・文字・余白を変数にする
デザインシステムづくりで失敗しやすいのは、いきなり画面やコンポーネントから作り始めてしまうことです。実務では、その前にデザイントークンをきちんと設計する方が、結果的に工数削減につながります。ここでは、個人開発や中小チームでも無理なく始められる、現実的なデザイントークンの設計手順を紹介します。
最初のステップはカラーの整理です。まずブランドのメインカラー、サブカラー、アクセントカラーを洗い出し、「brand.primary」「brand.secondary」「brand.accent」のような原始トークンとして定義します。次に、それらを役割別の意味トークンにマッピングします。たとえば「color.primary(主ボタン用)」「color.danger(エラー表示用)」「color.success(成功メッセージ用)」といった具合です。このとき、UIでよく使う用途から優先的にデザイントークンを作ると、後からの整理が楽になります。
次にタイポグラフィトークンを定義します。見出し、本文、キャプション、ラベルなどの役割ごとに、「font.heading.l」「font.body」「font.caption」のような名前を付け、フォントファミリ・サイズ・行間・太さをセットで決めます。ここでも、画面上で実際に使う頻度を意識しながら、種類を増やしすぎないことがポイントです。3〜5種類から始めれば十分で、必要になったタイミングでデザインシステムに追加していけば構いません。
最後にスペーシングとレイアウトのトークンです。余白やコンポーネント間の距離を、4pxまたは8pxの倍数で揃えるグリッドを決め、「spacing.xs(4px)」「spacing.sm(8px)」「spacing.md(16px)」といったデザイントークンを用意します。ボタンの内側余白、カードの上下左右マージン、フォームのフィールド間隔など、すべてこのトークンから選ぶようにすると、UI全体に一体感が生まれます。角丸やシャドウも同様に、「radius.sm」「shadow.card」などのトークン化をしておくと、後からデザインコンポーネントを増やすときの迷いが減ります。
ツールの面では、Figmaの変数機能や専用プラグインを使えば、デザイントークンをデザインに直結させられます。コード側では、CSSカスタムプロパティ(–color-primary など)やJSON/YAMLファイルとして管理し、フロントエンドフレームワークから参照する形が一般的です。「デザイン(Figma)」「実装コード」「ドキュメント」でデザイントークンの定義がバラバラにならないよう、どこを“正”とするかをチームで決めておくと、デザインシステム運用がぐっと楽になります。
デザインコンポーネントの設計と運用フロー:開発とPMが会話しやすい土台を作る
デザイントークンが整ったら、いよいよデザインコンポーネントの出番です。ここでは、ボタンやフォームなどのUIコンポーネントをどのように設計し、デザイナー・エンジニア・PMの間で運用していくかを具体的に見ていきます。デザインシステムを機能させるうえで、このコンポーネント設計の質が成果を左右するといっても過言ではありません。
まずは頻出コンポーネントの優先順位付けから始めましょう。ほとんどのサービスで重要になるのは、「ボタン」「テキストフィールド」「選択コンポーネント(セレクトボックスやラジオボタン)」「カード」「モーダル」あたりです。これらを対象に、状態(通常/ホバー/押下/無効)、サイズ(小・中・大)、バリエーション(主要ボタン/サブボタンなど)を整理し、できるだけ無駄に組み合わせが増えないようにします。たとえばボタンであれば、「色は3種類まで」「サイズは2種類まで」といったルールをデザインシステム側で決めておくと、後から破綻しにくくなります。
運用面では、Storybookなどのコンポーネントカタログツールを使うと、デザインコンポーネントの一覧と動きを誰でも確認できるようになります。各UIコンポーネントに対して、バリエーションごとのストーリー(例:Primary / Secondary / Disabled)を用意し、PMや管理職もブラウザ上で状態を確認しながら仕様レビューができるようにすると、コミュニケーションの齟齬が減ります。FigmaのコンポーネントとStorybookのコンポーネント、実装コードへのリンクを相互に張っておけば、「この画面で使っているボタンは、どのデザインコンポーネントか?」をすぐに追跡できます。
運用フローの明文化も欠かせません。たとえば以下のようなシンプルなフローをデザインシステムの運用ルールとして定めます。①新しいUIが必要になったとき、まず既存のデザインコンポーネントで代用可能かを確認する。②代用できない場合は、PMとデザイナーで要件を整理し、Figma上で新コンポーネント案を作る。③デザイントークンに則っているかをチェックし、必要があればトークンを追加・調整する。④実装担当がコードとStorybookに反映し、⑤最後にデザインシステムのドキュメントに「いつ・誰が・なぜ追加したか」を記録する。この一連の流れが回り始めると、「誰かが勝手に似たようなコンポーネントを増やしてしまう」といった問題を防げます。
Tips:個人開発でも、GitHubのREADMEやNotionなどに「利用可能なデザインコンポーネント一覧」と簡単なガイドラインを残しておくだけで、数か月後の自分がUIを修正するときの負担が大きく変わります。小さなデザインシステムを未来の自分のために用意しておく感覚で進めると良いでしょう。
個人開発・中小チームがハマりやすい落とし穴と、現実的な進め方
デザインシステムの重要性が理解できても、実際に手を動かす段階でつまずきがちなのが、個人開発者や少人数チームです。よくあるのが、「有名プロダクトのデザインシステムを見て、自分たちも同じレベルを目指そうとしてしまう」ケースです。Material DesignやPolarisのような大規模なデザインコンポーネント群は、多数のサービスやデバイスを支えるために作られており、そのまま真似しようとすると設計だけで疲弊してしまいます。
現実的には、「まずは一番よく使う画面から始める」という割り切りが重要です。たとえばBtoB管理画面であれば、ログイン後に毎日見るダッシュボードや、主要な入力フォームに絞ってデザインシステムを適用します。その画面で必要なデザイントークンとデザインコンポーネントを整え、運用サイクルを回してみることで、チームに合ったルールや粒度が見えてきます。そのうえで、他の画面や別プロダクトに少しずつ横展開していく方が、組織としての負荷は小さく済みます。
もうひとつの落とし穴が命名とドキュメントです。最初は勢いで「赤ボタン」「青ボタン」といった名前でコンポーネントを作ってしまいがちですが、これは後の整理を難しくします。役割に基づいて「PrimaryButton」「DangerButton」といった名前に揃え、色はデザイントークン側で管理する、という分業を徹底しましょう。また、「どこまでがデザインシステムの範囲か」が曖昧なままだと、メンバーごとに勝手なルールが生まれ、結果的に誰も信用しない状態になります。最低限、「トークン定義」「デザインコンポーネント一覧」「更新ルール」の3つだけでも、NotionやGoogleドキュメントにまとめておくことをおすすめします。
PMや管理職としては、「デザインの細かいルール作りに時間をかけるより、機能開発を進めたい」と感じるかもしれません。しかしデザインシステムは、長期的に見るとリリーススピードと品質を同時に高める投資です。レビュー時間の短縮や、メンバー入れ替え時の教育コスト削減、マルチプロダクト展開時の再利用性など、後から効いてくるメリットが多くあります。逆に、場当たり的なUI追加を続けると、数年後のリニューアル時に「既存画面を洗い出して整理するだけで半年かかる」といった事態にもなりかねません。
現実的な進め方のまとめ:①まずは一つの画面・一つの機能にだけデザインシステムを適用してみる。②そのために必要な最小限のデザイントークンとデザインコンポーネントだけを整える。③運用しながらルールを調整し、良かった点・課題をドキュメントに残す。④うまく回り始めたら、別の画面・別のプロダクトに展開する。このステップを意識することで、「完璧主義でいつまでも始められない」状態から抜け出しやすくなります。
ソフィエイトが伴走できること:内製か外注かで迷ったときの選択肢
ここまで読んで、「デザインシステムやデザイントークン、デザインコンポーネントの重要性は分かったけれど、うちのチームだけで設計・運用するのは大変そうだ」と感じた方も多いと思います。実際、0からデザインシステムを立ち上げるには、UX/UI・フロントエンド・プロジェクトマネジメントの知見をバランスよく組み合わせる必要があり、普段の開発に追われているチームでは、なかなか手が回らないのが現実です。
そこで検討したいのが、「どこまでを社内で進め、どこからを外部パートナーに任せるか」という視点です。たとえば、以下のような役割分担が考えられます。まず、現状の画面やコンポーネントを棚卸しし、どのレベルのデザインシステムが必要かを整理するフェーズでは、ソフィエイトのような外部パートナーが「診断役」として入ることで、問題点や優先順位を客観的に可視化できます。そのうえで、ブランド戦略や事業方針を踏まえながら、コアとなるデザイントークンと代表的なデザインコンポーネント群を設計するフェーズでは、専門家によるレビューやプロトタイプ作成が大きな支えになります。
一方、最終的な運用や日々の改善は、社内で回せるようになっていることが理想です。そこでソフィエイトでは、FigmaやStorybookを用いたデザインシステムの構築だけでなく、「どのように更新・運用していくか」というフロー設計や、PM・デザイナー・エンジニアそれぞれの役割整理まで含めて伴走する形も想定できます。「まずはフォーム周りだけ」「まずは新規プロダクトだけ」といったスモールスタートでのご相談にも対応できるため、いきなり大規模なリニューアルを決めなくても構いません。
個人開発者の方にとっても、「今後サービスを伸ばしていきたいが、今のうちからデザインシステムを意識したUI設計にしておきたい」といったタイミングで、スポットでアドバイスを受ける価値があります。PMや管理職の方であれば、「複数プロダクトに共通するデザインコンポーネントとデザイントークンの方針を決め、チームメンバー間の認識を揃えたい」というニーズにもお応えできます。
もし「うちのプロジェクトにデザインシステムが本当に必要なのか」「デザイントークンやデザインコンポーネントをどこまで整えるべきか」など、判断に迷う点があれば、まずは軽いヒアリングベースのご相談からお声がけください。実際の画面や開発体制を拝見しながら、一緒に現実的なステップと投資の範囲を検討していくことが可能です。
まとめ:小さく始めて、育てていくデザインシステム
本記事では、デザインシステムの基本的な考え方から、デザイントークンとデザインコンポーネントの実務的な設計手順、個人開発・中小チームならではの進め方、そしてソフィエイトのような外部パートナーとの付き合い方までを整理しました。キーワードだけを見ると難しそうに感じるかもしれませんが、実際には「色や余白、文字サイズを変数としてまとめる」「よく使うUIをコンポーネント化する」「使い方を簡単に言語化する」という3ステップからスタートできます。
重要なのは、「完璧なデザインシステムを一気に作る」ことではなく、「今のプロジェクトで一番効く部分に絞って導入し、運用しながら育てる」ことです。ログイン後のメイン画面だけ、主要なフォームだけ、といった限定的な範囲でも、デザイントークンとデザインコンポーネントを意識することで、開発効率とユーザー体験の両方が改善されていきます。その積み重ねが、数年後に「整ったUIを持つプロダクト」としての信頼感を生み出します。
もし自分たちだけでの設計や運用に不安がある場合は、ソフィエイトのようなパートナーと一緒に、スモールスタートの計画を立てるのも一つの選択肢です。この記事が、あなたのプロダクトにとって最適なデザインシステムを考えるきっかけとなり、より良いUIと開発フローを作る一助になれば幸いです。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
デザインシステムの作り方を、デザイントークンとデザインコンポーネントの実務的な設計・運用ステップから、個人開発や中小チームでの導入ポイント、ソフィエイトによる伴走支援まで具体的に解説する記事です。
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