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ゼロトラストは「製品選び」より先に「守り方の設計」が必要
ゼロトラストは、特定の製品名を買えば完成する考え方ではありません。社内ネットワークの内側は安全、外側は危険という前提を捨て、「社内外を問わず常に検証し、必要最小限だけ許可する」運用をつくるのが本質です。つまり、導入に必要なのは“ゼロトラスト製品のリスト”というより、自社の業務・データ・利用者を基準に、必要な機能を整理する方法です。
特に中小企業や、予算はあるが詳しくない情シスの場合、ありがちな失敗は次の2つです。
- 「ゼロトラスト=SASE/EDR/IDaaSのどれかを入れること」と誤解し、点の導入で終わる
- 要件が曖昧なままRFP(提案依頼)を出し、ベンダー比較ができず高コスト化する
ゼロトラストで守りたいのは、究極的には「事業継続」と「信用」です。例えば、請求書の改ざん、取引先へのマルウェア拡散、顧客情報漏えい、ランサムウェアによる停止など、経営に直結します。だからこそ、製品カタログから入るのではなく、まず「どのアクセスを、どの条件で、どこまで許すか」を決め、そのために必要な機能を揃えていくのが近道になります。
本記事では、ゼロトラスト導入で必要になりやすい製品・機能を、業務担当でも判断できる粒度で整理する手順を解説します。読むだけで「うちに必要なのは何か」「今の投資の優先順位は何か」を言語化でき、ベンダー提案の妥当性も見抜けるようになります。
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最初に棚卸しすべきは「守る対象」と「利用シーン」
ゼロトラスト導入に必要な機能は、会社の規模よりも「何をどこから使っているか」で決まります。まずは、セキュリティ担当だけで閉じずに、業務側も巻き込んで棚卸ししましょう。ここが曖昧だと、後段でID管理やアクセス制御を設計できず、結果として「全部ブロック」か「例外だらけ」になります。
棚卸しは、次の3点をセットで行うと整理が進みます。“データ・アプリ・利用者”を同じ表に書くのがコツです。
- 守る対象(データ):個人情報、顧客データ、設計図、契約書、会計、ソースコードなど。機密度(高/中/低)を付ける
- 利用する場所(アプリ/保管先):SaaS(Microsoft 365/Google Workspace/Salesforce等)、社内サーバ、クラウドIaaS、ファイルサーバ、Gitなど
- 利用者と端末:正社員、委託、派遣、取引先、アルバイト。会社PC/私物PC、スマホ、共有端末の有無
さらに、ゼロトラストの設計で重要なのが「アクセス経路」です。例えば同じ会計データでも、①社内PCからVPN経由で使う、②自宅からブラウザでSaaSに直アクセス、③外部の会計事務所が使う、では必要な制御が変わります。そこで、代表的な利用シーンを5〜10個に絞って洗い出します。
- 在宅勤務でSaaSにサインインして業務をする
- 外出先でスマホからメールや承認を行う
- 委託先が特定のWeb管理画面だけにアクセスする
- 開発者がクラウド管理コンソール(AWS等)にアクセスする
- 工場/店舗の共有端末から業務アプリを使う
この棚卸しを行うと、「今いちばん怖い事故」が具体化します。例えば、共有端末があるのに多要素認証が弱い、委託先が退職してもアカウントが残る、社内の古いファイルサーバに重要データが眠っている、などです。ゼロトラストはこうした“現実の穴”を塞ぐ取り組みなので、現状把握が最重要工程になります。
機能を「柱」に分解する:ゼロトラストに必要な7つの機能領域
ゼロトラスト関連製品は種類が多く、名前もSASE、ZTNA、CASB、EDR、SIEMなど横文字だらけです。比較の前に、機能を7つの領域(柱)に分解すると迷いません。製品名ではなく、「何を実現したいか」から要件を作るためです。
本人確認を強くする(ID・認証)
ゼロトラストの中心は「ID」です。誰がアクセスしたのかを確実にするため、SSO(シングルサインオン)や多要素認証(MFA)、条件付きアクセス(端末や場所で制御)を整えます。ここが弱いと、他を強化してもアカウント乗っ取りで突破されます。
- SSO(社内の入口を一本化)
- MFA(ワンタイムコード、認証アプリ、FIDOキー等)
- 条件付きアクセス(不審な国・深夜・未管理端末は追加認証/ブロック)
端末を信用しない(端末管理・健全性チェック)
「本人が正しい」だけでは不十分で、端末がウイルス感染していれば情報が抜かれます。端末管理(MDM/UEM)で暗号化、パッチ適用、画面ロック、紛失時の遠隔ワイプなどを実施し、アクセス時に端末の状態を確認します。
アプリへの入口を絞る(ZTNA/リモートアクセス)
従来のVPNは「社内ネットワークに入る鍵」になりがちです。ゼロトラストでは、必要なアプリにだけ、必要な人だけをつなぐ(最小権限)方向へ寄せます。代表例がZTNA(Zero Trust Network Access)で、社内のWebアプリや管理画面をインターネットに露出させずに公開できます。
クラウド/SaaS利用の制御(CASB/SSE)
SaaSが増えるほど「誰がどのデータを外に持ち出したか」が見えにくくなります。CASBはSaaS利用の可視化、危険な操作の制御、シャドーIT検出などを担います。最近はSSE(Security Service Edge)として、Web/クラウド向けの制御機能がまとめられることもあります。
社内の横移動を防ぐ(ネットワーク分離・セグメンテーション)
ランサムウェアの被害が大きくなる理由は、侵入後に社内で横に広がるためです。ネットワークのセグメント分割、サーバ間通信の制限、管理者権限の隔離などで被害範囲を限定します。
侵入後を検知して止める(EDR/XDR)
ゼロトラストでも侵入確率をゼロにはできません。EDRは端末上の不審な挙動を検知・隔離し、原因調査まで支援します。複数のログをまとめて検知精度を上げるXDRの形もあります。
証拠と改善のためのログ(SIEM/SOAR・監査)
「何が起きたか」を追えるログは、事故対応と再発防止の土台です。SaaS、端末、認証、ネットワークのログを集約し、相関分析するのがSIEM。運用を自動化するのがSOARです。中小企業は最初から大規模SIEMを目指すより、重要ログの優先順位付けが現実的です。
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整理の実務手順:要件を「表」に落として製品比較できる状態にする
ここからが本題です。ゼロトラスト導入に必要な製品や機能を整理するには、機能領域を「自社の要件」に翻訳し、比較可能な表にするのが最短です。おすすめは、次の順番で進めることです。“理想の完成形”ではなく“段階導入”で作ると、予算と運用が破綻しません。
- 優先業務を決める:まずは被害が大きい業務(経理、顧客管理、開発、管理者作業など)から
- アクセスパターンを3要素で定義:「誰が(役割)」「何に(アプリ/データ)」「どこから(端末/場所)」
- 必要な制御を文章で書く:例「経理SaaSは社給PC+MFA必須。委託先は閲覧のみ」
- 機能領域へマッピング:上の7領域のどれが必要かに印を付ける
- 非機能要件も同じ表に入れる:運用負荷、監査、既存環境との連携、サポートなど
表の項目例(このままExcel/スプレッドシートにすると便利です)を示します。
要件整理シート(例)
- 対象業務/システム:例)Microsoft 365、会計SaaS、基幹Web、AWS管理コンソール
- 利用者:社員/委託/取引先、部門、人数、入退社頻度
- 端末:社給/私物、Windows/Mac、スマホ、共有端末
- 守るデータ:機密度、法規制、取引先要件
- 必須制御:MFA、端末準拠、IP制限、ダウンロード制御、管理者分離など
- ログ/監査:誰が何をしたか、保存期間、レポート要件
- 運用:アカウント発行/棚卸し頻度、問い合わせ窓口、24/365の要否
- 連携:既存IdP/AD、MDM、メール、チケット、資産管理
このシートができると、製品の比較軸が明確になります。例えば「ZTNAが必要かどうか」も、VPNを置き換えたいのか、公開したいアプリがあるのか、委託先アクセスが多いのかで判断できます。また、SASEやSSEといった統合製品を選ぶ場合でも、「統合に価値がある領域」と「単体で十分な領域」を切り分けられるため、過剰導入を防げます。
製品選定で見落としがちなポイント:運用・例外・統合の設計
ゼロトラストの導入が難しいのは、技術そのものより「例外処理」と「運用」にあります。現場の業務はきれいに揃っていないため、要件を詰めないと“例外の山”になり、結局だれも守れないルールになります。製品選定の前に、次の観点で自社の現実をチェックしてください。
例外が多いのはどこか(共有端末・古いアプリ・外部委託)
- 共有端末:個人に紐づくMFAが難しい。端末証明書、キオスク運用、物理管理が必要
- 古い業務アプリ:モダン認証に非対応の場合、プロキシ経由や段階的な更改計画が必要
- 外部委託/取引先:アカウント棚卸しと権限管理が最重要。期限付きアクセスや最小権限が有効
これらは、製品スペックよりも運用設計が効きます。特に外部委託が多い企業では、ID管理(プロビジョニング/権限レビュー)を最優先にすると効果が出やすいです。
統合の“境界”をどこに置くか(全部入りの罠を避ける)
SASE/SSEのような統合型は、設計がうまくはまると運用が楽になります。一方で、既存のMicrosoft 365やGoogle Workspaceのセキュリティ機能、既存MDMなどをすでに使っている場合、全部を置き換えるとコストも移行負荷も跳ね上がります。「今ある強みを活かし、足りない部分だけ補う」という視点で比較しましょう。
ログは「集める」より「使う」設計が重要
SIEMを入れても、アラートが多すぎて誰も見ない状態になりがちです。まずは「重要なイベント」を絞り、対応フローを決めます。例としては、①MFA失敗の連続、②国外からのサインイン、③管理者権限付与、④大量ダウンロード、⑤EDRで隔離発生、などです。最初は月次レポートからでも十分効果があります。
導入後のKPI(守れているか)を決める
ゼロトラストは“入れて終わり”になりやすいので、効果指標を置きます。例:MFA適用率、管理対象端末率、特権IDの棚卸し完了率、端末パッチ適用率、委託アカウントの期限設定率、など。これにより、次の投資判断がしやすくなります。
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導入ロードマップ例:小さく始めて全体最適へつなげる
ゼロトラストの全領域を一度に揃えると、コストだけでなく現場の負担が増え、反発も起きます。そこで、段階導入のロードマップを持つことが重要です。以下は、情シスが「詳しくない」状態でも進めやすい代表パターンです。最初の勝ち筋は“IDの強化”と“重要SaaSの保護”にあります。
フェーズ1:IDの入口を固める(最優先)
- SSOとMFAを全社標準化(まずはメール/グループウェアから)
- 退職・異動のアカウント停止を業務フロー化(申請と連動)
- 管理者アカウントは別ID化し、強いMFAを必須にする
この段階で、フィッシングによる乗っ取りリスクが大きく下がります。現場への説明も「不正ログイン対策」で伝えやすいです。
フェーズ2:端末の基準を作る(“守れる端末”を増やす)
- 社給PCをMDM/UEMで管理し、暗号化・パッチ・ウイルス対策の状態を可視化
- 条件付きアクセスで「未管理端末は制限」を段階的に適用
- 紛失・盗難時の対応(遠隔ロック/ワイプ)を手順化
在宅勤務や持ち出しが多い企業ほど効果が出ます。端末準拠を一気に厳しくすると業務が止まるため、対象部署から徐々に進めるのが現実的です。
フェーズ3:社内アプリのアクセスを見直す(VPN依存を減らす)
- 外部から使う必要がある社内Webを棚卸しし、ZTNAで公開する
- ネットワーク到達性ではなく、アプリ単位で許可する
- 委託先は「必要な画面だけ」「期限付き」で付与する
ここまで来ると、ゼロトラストらしい「最小権限」が効き始めます。VPNをすぐ全廃できない場合も、まずは重要アプリから置き換えると移行が進みます。
フェーズ4:検知・対応を強化して“やられた後”に備える
- EDR導入、隔離対応と初動手順の整備
- 重要ログの集約と、アラートの優先順位付け
- バックアップ/復旧手順の定期演習(ランサムウェア前提)
ゼロトラストは予防だけでなく、検知と復旧まで含めて事業継続を支えます。特にバックアップは製品より運用が重要で、「復元できる」ことを確認して初めて意味があります。
現場説明に使える一言
「ゼロトラストは監視を強めたいのではなく、事故が起きても会社が止まらないように“入口・端末・権限”を整えること」です。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
まとめ
ゼロトラスト導入に必要な製品や機能を整理する近道は、「流行の製品名」ではなく「自社の守る対象と利用シーン」から逆算することです。具体的には、①データ・アプリ・利用者・端末・アクセス経路を棚卸しし、②ゼロトラストの機能領域(ID、端末、ZTNA、SaaS制御、分離、EDR、ログ)にマッピングし、③要件を表に落として比較可能な状態を作ります。さらに、運用・例外・統合の境界を先に設計しておくと、導入後に“例外だらけで形骸化”するのを防げます。
最初の一歩としては、MFAとSSOの標準化、重要SaaSの条件付きアクセス、端末の管理対象化から着手すると効果が出やすいです。段階的にZTNAや検知・復旧へ広げていくことで、無理なくゼロトラストを現場に根付かせられます。
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