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ゼロトラストを「構成例」から理解すると失敗しにくい理由
ゼロトラストは「社内ネットワークは安全、社外は危険」という前提を捨て、どこからのアクセスでも毎回確認する考え方です。ただ、概念だけを読んでも「結局、何を買って、どう繋げばいいの?」で止まりがちです。そこでおすすめなのが、代表的な構成例(アーキテクチャ例)から理解する方法です。構成例は、やるべきことを「部品」と「接続関係」に分解してくれるので、専門知識がなくても意思決定が進みます。
特に中小企業や、予算はあるが詳しくない情シスの場合、ベンダー提案を受ける際に「比較軸」がないと、製品名だけが並んだ資料になりがちです。ゼロトラストを構成例で捉えると、製品より先に要件(守りたいデータ・許可する操作・確認方法)を整理できるため、導入後の手戻りを減らせます。
本記事では、ゼロトラストの代表的な構成例を「何を守るのか」「どう確認するのか」「どこで制御するのか」の3点で噛み砕きます。クラウド利用(Microsoft 365、Google Workspace、SaaS)やテレワーク、委託先アクセスなど、現実の業務シーンに落として説明します。
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まず押さえるべきゼロトラストの要素分解(製品名より先に)
ゼロトラストを理解する近道は、いきなり製品選定に入らず、構成要素を「役割」で分けることです。代表的には次の部品が登場します。なお呼び方はベンダーや資料で揺れますが、役割はだいたい同じです。
- アイデンティティ(ID):誰が操作しているか。例:IDプロバイダ(IdP)、SSO、MFA(多要素認証)
- 端末の信頼性:そのPC/スマホは安全か。例:端末管理(MDM/MAM)、OS更新、暗号化、EDR
- アクセス制御:何にアクセスできるか。例:条件付きアクセス、最小権限、特権ID管理
- 通信の経路制御:どこを通すか。例:VPN代替(ZTNA)、プロキシ、SWG
- データ保護:持ち出しや誤送信を防ぐ。例:DLP、CASB、情報分類、暗号化
- 監視と検知:異常を見つけ、対応する。例:SIEM、ログ統合、SOAR、アラート運用
ポイントは、ゼロトラストは「単一製品」ではなく「組み合わせの設計」だということです。たとえば「MFAを入れた=ゼロトラスト」ではありません。MFAは重要な部品ですが、端末が乗っ取られていたり、社内の共有アカウントが残っていたり、ログが見られない状態だと、攻撃を止められません。
また、ゼロトラストの構成例は「入口(認証)」「移動(経路)」「目的地(アプリ/データ)」「見張り(監視)」の4点で読むと理解が早いです。各構成例を見たときに、入口がどこで、どう認証し、どの条件で拒否し、ログがどこに集まるかを確認してください。これだけで提案書の読み解きが一気に楽になります。
代表的な構成例:クラウド/SaaS中心(IDを軸に固める)
多くの企業が最初に取り組みやすいのが、Microsoft 365やGoogle WorkspaceなどSaaS中心のゼロトラスト構成です。社内にサーバーが少なく、業務がクラウドに寄っているほど効果が出ます。構成の核はID(アイデンティティ)で、ここが整うと「誰が、どの端末で、どのアプリに、どんな条件なら入れるか」を一貫して制御できます。
典型的な流れは以下です。
- SSO(シングルサインオン)でSaaSをIdPに集約する(ログインの入口を一本化)
- MFAを必須化する(まずは管理者・経理・人事など重要ロールから)
- 条件付きアクセスで「場所・端末状態・リスク」に応じて許可/拒否
- 端末管理(MDM/MAM)で「社外端末」「私物端末」を扱えるようにする
- DLP/CASBで「ダウンロード禁止」「共有リンク制限」「機密ラベル」などデータ保護
- ログ統合で異常検知(不審な国からのアクセス、短時間の大量DLなど)
業務シーンに置き換えると、「テレワークで自宅のWi-Fiから、経理担当が請求書を扱うSaaSにアクセスする」場合、ゼロトラストは“社内か社外か”ではなく、本人確認(MFA)+端末の健康状態+アクセス先の重要度で判断します。例えば「未管理端末からは閲覧のみ」「ダウンロード不可」「高リスク判定なら追加認証」など、具体的な制御に落とせます。
この構成例の注意点は、SaaSが増えるほど設定が散らばりやすいことです。IdPに集約し、原則は「許可する条件を決める」形に揃えるのがコツです。また、運用面では例外ルールを増やしすぎないことが重要です。例外が増えると、どこが穴になっているか把握できなくなります。
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代表的な構成例:リモートアクセス/VPN置き換え(ZTNAで「アプリ単位」に絞る)
次に多いのが「VPNが重い・危ない・管理がつらい」問題をきっかけに、ゼロトラスト構成へ寄せるパターンです。従来のVPNは一度つながると社内ネットワークに広く入れてしまいがちで、攻撃者に悪用されると横展開(別サーバーへの侵入)が起きやすいのが弱点です。
そこで登場するのがZTNA(Zero Trust Network Access)です。考え方はシンプルで、ネットワークに入れるのではなく、必要な業務アプリにだけつなぐ方式です。たとえば「勤怠システム」「ファイルサーバー」「社内Web」など、アプリ単位で入口を作り、利用者ごとに許可します。
典型的な構成は以下のようになります。
- 入口:IdP+MFA(SSOで統一)
- 中継:ZTNAコネクタ(社内/クラウド側に設置)
- 判定:端末状態(管理端末か、OS更新、EDR稼働など)+ユーザー属性
- 許可範囲:アプリごと・操作ごと(閲覧のみ、管理画面不可など)
- 監視:アクセスログ、セッションログ、異常検知
理解のポイントは、「VPNの置き換え=配線の置き換え」ではないことです。VPNは“社内に入るトンネル”ですが、ZTNAは“アプリごとにゲートを作る”発想です。つまり、ゼロトラストの構成例を読むときは「社内LANへの到達可否」ではなく、業務アプリ単位で入口が分離されているかを確認してください。
導入でつまずきやすいのは、どのアプリを対象にするかの棚卸しです。まずは「外部公開したくないが利用頻度が高い」もの(例:社内ポータル、ワークフロー、開発用ツールの管理画面)から始めると効果が見えやすいです。また、委託先や派遣のアクセスがある場合は、アカウントライフサイクル(発行・権限・停止)を人事/購買の手続きと連動させると、ゼロトラストの運用が現実的になります。
代表的な構成例:端末セキュリティ強化(EDR+MDMで「端末の状態」を前提にする)
ゼロトラストは「認証」ばかり注目されますが、実際の事故は端末から始まることも多いです。フィッシングで認証情報が盗まれる、マルウェアで端末が遠隔操作される、紛失したPCから情報が漏れるなど、入口を固めても端末が弱いと突破されます。そこで重要になるのが、EDR(Endpoint Detection and Response)やMDM(端末管理)を組み合わせた構成例です。
この構成例の読み方は、「端末の状態がアクセス判定に使われているか」です。具体的には次のような条件が実務的です。
- MDM登録済み端末のみ業務SaaSにアクセス可
- OS・ブラウザがサポート範囲で、更新が一定期間内
- ディスク暗号化、画面ロック、ローカル管理者権限の制限が有効
- EDRが稼働し、危険判定(隔離・要対応)時はアクセス遮断
たとえば「営業が出先で見積書を編集する」業務では、端末が未更新のままでも作業できてしまうと攻撃者に狙われます。ゼロトラスト構成なら、端末が基準を満たさないと編集は不可(閲覧のみ)、あるいは社内ヘルプデスクへ更新誘導、という運用が可能です。これが“信頼しない”を具体的な制御に落とした形です。
注意点として、端末統制は反発が出やすい領域です。「私物端末を完全に管理する」のは難しいため、現実解としてはMAM(アプリ単位の管理)を活用し、「会社データは会社の領域に閉じる」方針が有効です。また、EDRは導入して終わりではなく、アラート対応フローがないと宝の持ち腐れになります。誰が・どの優先度で・何分以内に判断するかを決め、最初は少数の重要アラートに絞って運用を回すのが安全です。
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代表的な構成例:データ保護中心(DLP/CASBで「持ち出し」を制御する)
経営層や管理部門が気にするのは「侵入」だけでなく「情報漏えい」です。ゼロトラストの構成例の中でも、データ保護を中心に据えると、機密情報の扱いをルール化しやすくなります。ここでよく使われるのがDLP(Data Loss Prevention)とCASB(Cloud Access Security Broker)です。
ざっくり言えば、DLPは「この情報は外に出さない」を実現する仕組み、CASBは「クラウド利用の見える化・統制」を助ける仕組みです。両者は製品によって境界が曖昧ですが、ゼロトラストの構成例としては以下のように設計します。
- 情報の分類:公開・社外秘・機密など、最低限のラベル運用を決める
- 漏えいルール:機密ラベルが付いたファイルは外部共有不可、メール添付時は警告/ブロック
- クラウド統制:未承認SaaSへのアップロードを制限、シャドーITの把握
- 例外管理:取引先共有が必要な場合は期限付きリンク、承認フローを必須化
業務でありがちな事故は、「誤って外部共有リンクを全体公開にした」「退職者が個人クラウドに持ち出した」「委託先に渡したデータが再共有された」です。ゼロトラストは“誰を信じるか”ではなく、データそのものにルールを付け、機械的に守る方向に寄せます。ここが構成例の理解ポイントです。
導入のコツは、完璧な分類を目指さないことです。最初から全ファイルにラベル付けを徹底しようとすると止まります。まずは「人事・経理・顧客情報」など範囲を絞り、テンプレート(機密っぽい情報を検知するルール)と部門運用で回し、徐々に対象を広げるのが現実的です。誤検知で業務が止まるリスクもあるため、最初は警告モードから始め、ログを見て調整してからブロックに移行してください。
構成例を自社に当てはめる手順(要件→設計→運用の順で)
ゼロトラストの代表的な構成例を読んだら、次は自社の現実に落とし込みます。ここで重要なのは、ネットワーク図を先に描くのではなく、守りたい業務とデータから逆算することです。以下の手順で進めると、詳しくない担当者でも合意形成がしやすくなります。
- 守る対象を決める:顧客情報、経理データ、設計資料、個人情報など(優先順位を付ける)
- 利用シーンを洗い出す:テレワーク、出張、委託先、BYOD、社内固定席など
- 入口を一本化する:SSO/IdPを中心に「ログインの基準」を統一
- 端末基準を決める:管理端末・未管理端末の扱い、最低限のセキュリティ要件
- アプリ/データごとの制御:重要システムほど強い認証・厳しい操作制限
- ログと対応フロー:誰が見るか、アラートの優先度、一次対応の手順
ここで使える「簡易チェック質問」を用意します。構成例を評価するとき、以下に答えられるかが目安です。
- 誰が(役職/雇用形態/委託先)アクセスするのか?
- どの端末(会社管理/私物/共有PC)からか?
- どのアプリ/データに、どんな操作(閲覧/編集/ダウンロード)をするのか?
- 許可条件(MFA、端末準拠、場所、時間、リスク)を何にするのか?
- ログはどこに集まり、異常時に誰が止めるのか?
失敗パターンとして多いのは、「すべてを一気にゼロトラスト化しようとして設計が破綻」または「導入したが運用が回らず形骸化」です。対策は、最初のスコープを絞り、“守る価値が高いところから順に”進めることです。例えば「管理者アカウントのMFA必須」「重要SaaSの条件付きアクセス」「委託先はZTNA経由で特定アプリのみ」など、効果が見える順に段階導入すると社内の納得感が高まります。
もう一つのコツは、KPIを“技術指標”ではなく“業務指標”に寄せることです。例として「未管理端末からの機密アクセスをゼロに」「退職者アカウント停止のリードタイムを当日中に」「不審ログイン検知から一次判断まで30分」など、運用が改善する目標を置くと、ゼロトラストの投資対効果を説明しやすくなります。
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まとめ
ゼロトラストは概念が広いため、代表的な構成例から理解すると「何を、どこで、どう制御するか」が整理でき、導入の失敗を減らせます。特に、ID(認証)・端末(状態)・アクセス(範囲)・データ(持ち出し)・監視(ログ)の要素分解で見ると、製品名に引っ張られずに判断できます。
代表的な構成例としては、SaaS中心でIDを固める、ZTNAでVPNを置き換えてアプリ単位に絞る、EDR/MDMで端末状態を前提にする、DLP/CASBでデータ保護を中心に据える、の4パターンが特に実務で頻出です。自社に当てはめる際は、守りたいデータと利用シーンを先に決め、入口の統一→端末基準→アプリ/データ制御→ログ運用の順で段階導入すると進めやすくなります。
ゼロトラストは「一度導入したら終わり」ではなく、働き方やSaaSの増減に合わせて育てるものです。まずは小さく始めて、効果が見えるところから拡張していきましょう。
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