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ゼロトラストとVPNの違いを一言でいうと
まず結論から押さえると、VPNは「社外から社内ネットワークへ入るための通路(トンネル)」を作る考え方で、ゼロトラストは「誰であっても、何であっても、都度確認してから最小限だけ許可する」考え方です。どちらもセキュリティに関わりますが、守る範囲と前提が違うため、導入効果も運用のポイントも変わります。
VPNは、社内LANが安全であることを前提に「外から中へ安全に入る」ことに強い一方、いったん中に入れたユーザーが社内のどこまで触れるかの制御は別途設計が必要です。対してゼロトラストは、社内・社外という境界をあまり信用せず、クラウド利用やモバイル端末、委託先アクセスが当たり前になった現代に合わせて「アクセスのたびに本人・端末・状況を検証」し、アプリやデータ単位で細かく守ります。
想定読者である情シスや管理者の方が迷いやすいのは、「VPNを入れている(入れた)からゼロトラストは不要なのでは?」という点です。実務的には、VPNはゼロトラストの一部になり得ますが同義ではありません。VPNは接続手段、ゼロトラストは設計思想(運用モデル)と捉えると整理しやすくなります。
- VPN:ネットワーク境界を中心に守る。社外→社内の接続を安全にする。
- ゼロトラスト:境界を前提にせず守る。アプリ・データへのアクセスを都度検証する。
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なぜ今「ゼロトラスト」が必要と言われるのか(VPNだけでは埋まらない穴)
VPNが広まった背景には、社内にサーバーや業務システムが集約されていた時代があります。しかし現在は、SaaS(例:Microsoft 365、Google Workspace、Salesforce)やクラウド基盤(AWS/Azure/GCP)に業務が分散し、在宅勤務・出張・スマホ利用・委託先アクセスが日常になりました。このとき、社内ネットワークだけを堅くしても、守るべき対象はすでに「社内の外」にもあります。
VPN運用で起こりがちな課題は、たとえば次のようなものです。
- VPNに接続した瞬間、社内ネットワークに広く入れてしまう(横展開のリスク)。
- 端末の状態(OS更新、ウイルス対策、暗号化)が不明でも接続できてしまう。
- VPN装置がボトルネックになり、回線・ライセンス・運用負荷が増える。
- VPNのID/パスワードが漏えいすると「社内にいるのと同じ」扱いになりやすい。
ゼロトラストの狙いは、これらを「アクセス単位」の設計に置き換えることです。たとえば、同じ社員でも「経理システムは社給PC+多要素認証+社内拠点のみ」「日報SaaSはスマホでもOK」「委託先は特定のアプリだけ」など、業務に合わせた最小権限が作れます。つまりゼロトラストは、クラウド・リモート前提の業務環境で“誰が・何で・どこから・何に”アクセスするかを細かく制御するための考え方です。
注意したいのは、ゼロトラストは製品名ではなく、複数の仕組み(ID管理、端末管理、アクセス制御、ログ監視など)の組み合わせで実現する点です。そのため「何をもって導入完了なのか」を誤ると、製品を入れただけで運用が追いつかないことがあります。次章では、比較の軸を揃えて違いを理解できるようにします。
比較表で整理:ゼロトラストとVPNの違い(目的・守る範囲・運用)
ここでは「導入する/しない」を判断しやすいよう、比較の軸を固定して整理します。ポイントは、VPNは主に“通信の通路”の安全確保であり、ゼロトラストは“アクセスの判断”を継続的に行うことです。どちらが上位というより、用途が違います。
比較の要点(実務で効く軸)
- 目的:VPNは安全な接続、ゼロトラストはアクセスの最小化と継続検証
- 守る範囲:VPNはネットワーク中心、ゼロトラストはアプリ・データ中心
- 前提:VPNは「中は比較的安全」寄り、ゼロトラストは「常に侵害され得る」前提
- 運用:VPNは接続管理が中心、ゼロトラストはID・端末・ログ運用が中心
もう少し具体化すると、意思決定者が気にする「費用対効果」「現場影響」「管理のしやすさ」も差が出ます。VPNは比較的短期間で導入でき、リモート接続の課題をすぐ解決しやすい一方、利用者増やクラウド活用が進むほど「VPNを経由させる理由」が薄れ、無理に集約すると体験(速度/安定性)を損ねることもあります。
ゼロトラストは、いきなり全社で完成形を目指すとコストも負荷も上がりますが、段階的に進めることで効果が積み上がります。たとえば、最初は「全SaaSで多要素認証」「重要データへのアクセスだけ端末準拠を必須」「管理者権限をPAMで保護」など、攻撃者が喜ぶ“穴”から優先的に塞ぐ形が現実的です。
結論として、VPNの比較対象は「別のリモートアクセス手段(例:ZTNA、SASEの一部)」であることが多く、ゼロトラストの比較対象は「境界防御一辺倒の設計」です。混同すると、VPN更改の話なのにゼロトラスト全体構想になって予算や期間が膨らむ、逆にゼロトラストを掲げたのにVPN強化だけで終わる、といったズレが起きます。
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たとえ話で理解する:城の堀(VPN)から、入室カード(ゼロトラスト)へ
専門用語を避けてイメージすると、VPNは「城の堀に橋をかけて、外から城の中へ入れるようにする」仕組みです。橋(VPN)を渡るための合言葉(ID/パスワード)や追加確認(多要素認証)があれば、部外者の侵入は減ります。しかし、いったん城内に入れた人が「どの部屋に入ってよいか」は、別のルール(部屋の鍵・見張り)で管理しなければなりません。
一方、ゼロトラストは「城の外・中という区別より、部屋ごとに入室チェックをする」考え方です。入室カード(ID)だけでなく、入室者の持ち物検査(端末の安全状態)、入室時間や場所(異常な状況か)、アクセス先の重要度(機密度)に応じて、許可・拒否・追加確認を決めます。つまり“一度通したら信用する”をやめるのが肝です。
業務シーンに置き換えると、こんな違いとして現れます。
- VPN中心:在宅でも社内ファイルサーバーに入れる。ただし一度入ると共有フォルダが広く見えてしまうことがある。
- ゼロトラスト中心:在宅でも特定のSaaSやアプリだけ使える。経理データは社給PC+条件付きアクセスがないと開けない。
「ゼロトラストにすると社員が不便になるのでは?」という不安もよくあります。ここは設計次第です。ゼロトラストは“何でも厳しくする”ではなく、“重要なものほど厳しく、通常業務は滑らかに”が理想です。たとえば普段と同じ端末・同じ場所・同じアプリなら追加確認なし、普段と違う海外IPや未知の端末なら追加確認、といった形で、ユーザー体験とリスク低減を両立できます。
また、VPNは「一つの門を強くする」発想になりやすく、門が混雑すると業務影響が出ます。ゼロトラストは分散したチェックポイントを作るため、適切に構成すれば集中障害を避けやすい一方、管理項目(ID、端末、ログ、例外対応)が増えます。情シスの体制や委託の有無も含め、どこまで内製するかが現実的な論点になります。
導入判断のチェックリスト:あなたの会社はVPN継続?ゼロトラスト併用?
判断を簡単にするため、現状の課題から逆算して適切な選択肢を整理します。ここでいう選択肢は大きく「VPNを適切に使い続ける」「VPNを残しつつゼロトラストに寄せる」「ゼロトラスト前提に再設計する」の3パターンです。いきなり完全移行が正解とは限りません。
チェックリスト(当てはまるほどゼロトラスト優先度が上がる)
- SaaS利用が増え、社内ネットワークを経由しない業務が多い
- 委託先・グループ会社・アルバイトなど、社外人材のアクセスが多い
- 社給PCだけでなくBYODやスマホ利用がある(端末の種類が多い)
- 重要データ(個人情報・設計図・財務)があり、監査や統制が必要
- VPN装置の更改/増強コストが重い、速度や安定性に不満がある
- 管理者権限が共有されがちで、退職・異動時の棚卸しが不安
逆に、VPN中心でも一定うまくいくケースもあります。たとえば「業務の大半が社内ファイルサーバーと社内基幹」「端末は社給PCのみ」「拠点間接続や工場ネットワークが中心」など、ネットワーク境界が明確な場合です。ただしこの場合でも、IDの使い回しやパスワード運用が弱いと一気に崩れるため、最低限多要素認証と権限分離、ログの可視化は強く推奨されます。
また、用語として混同しやすいものに「ZTNA(Zero Trust Network Access)」があります。これは“ゼロトラストを実現するための接続方式の一つ”で、従来VPNの代替として検討されることがあります。VPNの代替=ゼロトラスト全体、ではない点は重要です。ZTNAを入れても、ID管理が弱い、端末が野放し、ログ監視がない、例外が増えて形骸化、となればゼロトラストとしては不十分になり得ます。
判断のコツは、「今の困りごと」を“接続の問題”と“アクセス統制の問題”に分けることです。接続が遅い・不安定はVPN/回線/経路設計の問題で、誰が何にアクセスできるか分からない、退職者が残っていそう、端末が管理できない、はゼロトラスト(ID・端末・権限・監査)の問題です。課題を切り分けると、投資対効果が説明しやすくなります。
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失敗しない進め方:小さく始めてゼロトラストを定着させる手順
ゼロトラストは“一気に完成”を狙うと失敗しやすい領域です。理由は、業務例外が必ず出ること、権限が棚卸しされていないこと、端末やIDが統合されていないことが多いためです。そこで、情シスが少人数でも進められる現実的な手順を紹介します。
- 守る対象(重要データ/重要業務)を決める:例)経理、設計、個人情報、管理者操作。全部を最初から守ろうとしない。
- ID基盤を整える:SSO(シングルサインオン)と多要素認証を標準化し、退職/異動で権限が確実に反映される状態へ。
- 端末の基準を作る:社給PCは暗号化・OS更新・EDR/AV・画面ロックなど“最低ライン”を満たした端末のみ許可する。
- 条件付きアクセスを設計する:重要アプリだけ「社給PC必須」「国外は追加認証」「リスク高は遮断」など、段階的に強める。
- 権限を最小化する:共有アカウントを廃止し、管理者権限は必要時のみ付与(可能なら承認フロー)にする。
- ログを見える化して運用する:不審なサインイン、データ持ち出し、権限昇格を検知できるようにし、月次で改善する。
この流れで重要なのは、「例外をゼロにする」より「例外を管理する」発想です。現場都合でどうしても古い端末が必要、特定拠点からだけ使う装置がある、などは起こり得ます。ゼロトラストでは、例外を放置すると抜け道になります。例外は台帳化し、期限を切り、代替案を用意することが運用の品質を決めるポイントです。
また、VPNの位置づけも見直します。たとえば「社内限定の古い基幹システムだけVPNを残す」「クラウド/SaaSはVPNを経由させない」「委託先はVPN禁止でアプリ単位のアクセスにする」など、業務ごとに使い分けると合理的です。結果としてVPNトラフィックが減り、装置の負荷や更改コストも抑えられます。
最後に、経営層・利用部門への説明は“脅し”ではなく“業務継続”で語ると通りやすいです。ゼロトラストは攻撃対策であると同時に、アカウント管理・端末管理・監査対応を整える取り組みです。障害やインシデントが起きても影響範囲を小さくでき、復旧判断もしやすくなります。
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まとめ
VPNは「社外から社内へ安全に入る通路」を作る仕組みで、ゼロトラストは「アクセスのたびに検証し、最小限だけ許可する」設計思想です。VPNだけでは、いったん接続した後の横展開リスクや端末状態のばらつき、クラウド分散への対応が弱くなりがちです。
ゼロトラストは一度に完成させるものではなく、まずはID(SSO・多要素認証)、端末の基準、条件付きアクセス、権限最小化、ログ運用から段階的に進めるのが現実的です。VPNは不要になる場合もありますが、古い基幹などで併用が最適なことも多く、業務ごとの整理が成功を左右します。
「自社はどこから着手すべきか」「VPN更改と同時にゼロトラストへ寄せたい」など、現状の棚卸しとロードマップ作りが必要な場合は、要件整理から段階導入まで伴走できるパートナーに相談するとスムーズです。重要なのは“つながる”の安全だけでなく、“触れる”の安全を設計することです。
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