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ゼロトラストとEDR、混同が起きる理由
セキュリティ製品を検討していると「ゼロトラストも必要」「EDRを入れれば安心」といった言葉が並び、どちらも“守るためのもの”に見えるため混同が起きがちです。特に情シスが少人数の企業では、ベンダー資料やニュースで聞く単語が増えるほど、全体像がつかみにくくなります。
ここでまず押さえたいのは、ゼロトラストは“考え方(設計思想)”、EDRは“機能を持った対策(ツール)”という違いです。似ているのではなく、役割が違うため「どちらが上位」ではなく「どう組み合わせるか」で考えるのが実務に向きます。
身近な例で言うと、オフィスの入退室管理を想像してください。ゼロトラストは「社員証があっても、場所や時間、端末の状態など条件を満たした人だけを都度確認して入室させる」という運用ルール・設計です。一方、EDRは「不審者が入ってしまった後でも、監視カメラや警備員が異常行動を検知し、封じ込め、原因を調べる」仕組みに近いイメージです。どちらも必要ですが、担う局面が違います。
この記事では、ITに詳しくない担当者でも判断できるように、ゼロトラストとEDRを“目的・守る範囲・導入手順・運用”で整理します。読了後に「自社はまず何を決め、何を買い、どう回すか」が言語化できる状態を目指します。
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結論:違いは「入口の制御」と「侵入後の検知・封じ込め」
最短で整理するなら、次の一文に集約できます。
ゼロトラストは“信用しない前提でアクセスを都度判定する”、EDRは“端末で起きた攻撃を検知し、調査して止める”です。
ざっくり比較(先に全体像)
- ゼロトラスト:誰が・どの端末で・どのアプリに・どの条件でアクセスするかを細かく制御。認証・端末状態・権限・通信経路の設計が中心。
- EDR:PC/サーバー上の挙動を監視し、マルウェア感染や不審操作を検知。隔離やプロセス停止など“封じ込め”と、原因調査(フォレンジック)に強い。
つまり、ゼロトラストは「侵入させない・横展開させない」ための設計を強化し、EDRは「侵入されても早く気づいて被害を広げない」ための現場の監視役です。現実には100%侵入を防ぐのは難しいため、“入口を締めつつ、侵入後も素早く検知する”二段構えが合理的です。
ここで注意したいのは、ゼロトラストを「製品名」だと思ってしまうことです。ゼロトラストはSASE、ZTNA、IdP、MDM、CASBなど複数の要素に分解され、企業規模や働き方(在宅・出社・多拠点)により最適解が変わります。一方EDRは比較的「端末にエージェントを入れて監視する」という形が明確で、比較検討がしやすい領域です。
ゼロトラストを“実務の言葉”に翻訳すると何をすること?
ゼロトラストを噛み砕くと「社内・社外という境界で信頼しない。アクセスのたびに本人・端末・状況を確認し、必要最小限だけ通す」運用です。VPNで社内ネットワークに入れたら“中は自由”という状態を改め、アプリやデータ単位で守る発想に寄せていきます。
実務では、主に次の観点を設計します。
- 本人確認(認証):多要素認証(MFA)やSSOで「誰か」を強く確認する
- 端末の健全性(デバイストラスト):OS更新、暗号化、ウイルス対策の稼働など“条件を満たす端末だけ”許可
- 権限(最小権限):見せるべき人に、必要な範囲だけ。管理者権限の常用を避ける
- 通信経路:社内LAN前提ではなく、クラウド利用を前提に暗号化・プロキシ・分離を整える
- ログと継続評価:アクセスを記録し、状況が変われば許可条件も見直す
典型的な導入シーンは、Microsoft 365やGoogle Workspace、各種SaaS、社内のWebシステム、リモートワーク環境です。たとえば「会計SaaSは経理だけ」「人事データは社給端末+MFA必須」「海外IPからのアクセスは追加認証」など、業務ルールを“アクセス制御のルール”に落とすのがゼロトラストの中心作業になります。
ゼロトラストは“全部一気に”だと失敗しやすいです。最初は「MFAの徹底」「特権IDの整理」「端末条件の最低ライン策定」など、効果が大きく運用負荷が読めるところから始めるのが現実的です。
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EDRを“実務の言葉”に翻訳すると何ができる?
EDR(Endpoint Detection and Response)は、PCやサーバーなどの端末(エンドポイント)で起きている挙動を監視し、「怪しい動き」を検知したら、止めたり隔離したりし、原因や侵入経路の調査に役立つ情報を集める仕組みです。
従来のウイルス対策(いわゆるEPP)が「既知のマルウェアをブロックする」ことに強いのに対し、EDRは「未知の手口や、人が操作している攻撃(ランサムウェア前の横展開など)」の発見・追跡に強みがあります。具体的には次のようなことが可能です。
- 不審挙動の検知:怪しいPowerShell実行、資格情報の窃取、異常なプロセス連鎖など
- 封じ込め:端末のネットワーク隔離、プロセス停止、ファイル隔離
- 原因調査:いつ・誰が・どの端末で・何が実行されたかの時系列確認
- 恒久対策:攻撃で使われた設定・脆弱性・権限の穴を特定し、再発を防ぐ
現場目線で重要なのは、EDRは“入れたら終わり”ではなく、アラートを見て判断し、必要なら初動対応をする運用が必要な点です。通知が多すぎると放置され、少なすぎると検知できないため、チューニングや運用体制(社内か外部委託か)をセットで設計します。
情シスが少人数の場合、EDRの運用をMDR(監視・対応を外部が支援するサービス)と組み合わせる選択肢も現実的です。夜間休日の初動、感染端末の隔離判断、ログの読み解きなどを補えるため、投資効果が出やすいケースがあります。
選定に迷わない整理軸:目的・守る対象・必要体制で比較する
「ゼロトラストとEDR、どちらから?」という相談は多いですが、正しくは“自社の困りごと”から逆算して優先順位を付けます。ここでは、稟議や社内説明に使える整理軸を提示します。
整理軸での比較
- 目的:ゼロトラスト=不正アクセスを通しにくくする/EDR=侵入後の検知・封じ込め・調査
- 守る対象:ゼロトラスト=アプリ・データ・アクセス経路/EDR=端末上の挙動・実行プロセス
- 導入の中心作業:ゼロトラスト=ルール設計(認証条件・権限・端末要件)/EDR=端末展開と監視ルール整備
- 必要体制:ゼロトラスト=社内の業務ルール調整が重要/EDR=監視・初動の運用体制が重要
- 効果が出るまで:ゼロトラスト=段階導入で継続的に改善/EDR=導入直後から可視化は進むが運用次第
たとえば、次のように当てはめると判断が早まります。
- クラウド利用が増え、VPNが遅い・危ない・運用がつらい:ゼロトラスト(特にZTNAやMFA強化)の優先度が高い
- ランサムウェアが怖いが、侵入を100%防げないと理解している:EDR+運用(MDR含む)の優先度が高い
- 委託先や子会社など、端末・拠点が多様で統制が効きにくい:ゼロトラストでアクセス条件を揃えつつ、EDRで端末の実態を監視
どちらか一方に寄せすぎると穴が残ります。ゼロトラストだけだと、正規アカウントが盗まれた際や端末が侵害された際の“端末内の異常”に弱くなります。EDRだけだと、そもそも不要な人にアクセスを許してしまう、権限が過大、といった“入口と権限”の課題が残ります。
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導入を成功させる進め方:小さく始めて、評価して広げる
予算があっても詳しくない場合、プロジェクトを大きくしすぎて要件が迷子になりがちです。おすすめは「被害が大きい業務」から逆算して、ゼロトラストとEDRを段階的に組み上げるやり方です。
最初に決めること(ゼロトラスト側)
- 守るべき業務データ:顧客情報、会計、人事、ソースコード、機密資料などを棚卸し
- アクセス経路:社内/在宅/外出先/委託先のどこから使うか
- 最低限のルール:MFA必須、社給端末必須、条件付きアクセス、特権IDの分離
ゼロトラストは「例外」を作りすぎると崩れます。現場の事情はありますが、例外対応は“期限付き”で、解消のロードマップをセットにすると運用が回ります。
最初に決めること(EDR側)
- 対象端末:役員PC、情シス端末、ファイルサーバー、開発端末など優先順位を付ける
- 初動の責任分界:誰がアラートを見るか、夜間はどうするか、隔離判断は誰が行うか
- “やってはいけない”の基準:誤検知で業務停止を起こしやすい操作(自動隔離の範囲など)を決める
運用を社内だけで抱えるのが難しい場合は、MDRやSOC支援を前提にすると現実的です。特にEDRはアラートの意味を読み解く力が要るため、導入初期だけでも外部の知見を借りると失敗が減ります。
よくある失敗と回避策
- ゼロトラスト=SASE製品を買えば完了、と思ってしまう:まず認証・端末要件・権限の運用ルールを決める
- EDRのアラートを誰も見ない:担当とSLA(何分で見るか)を決め、必要なら外部監視を採用
- 現場の反発でMFAが形骸化:役員・管理者から先に徹底し、例外は期限付きにする
導入後は、四半期に一度でも「アクセス例外の件数」「MFA未適用の割合」「EDRアラートの傾向」「隔離・復旧に要した時間」を振り返ると、セキュリティが“積み上がる投資”になります。
ゼロトラストとEDRはどう組み合わせると効果が出る?(業務シーン別)
ここでは、想定読者がイメージしやすいように、業務シーンでの組み合わせ例を示します。ポイントは「ゼロトラストで通行証の条件を厳密にし、EDRで端末内の異常を捕まえる」ことです。
シーン:SaaS中心の会社(Microsoft 365/Google Workspace、各種SaaS)
このタイプはネットワーク境界が薄く、ゼロトラストが効きやすい環境です。まずはMFA、条件付きアクセス(端末準拠・場所・リスク)で“ログインの質”を上げます。同時にEDRで端末の侵害を検知できるようにすると、フィッシングでIDを盗まれた場合でも、端末側の不審挙動や横展開の兆候をつかみやすくなります。
- ゼロトラスト:SSO+MFA、社給端末のみ許可、管理者は追加認証
- EDR:ブラウザ拡張の不審挙動、資格情報窃取、怪しいスクリプト実行を検知
シーン:VPNで社内システムに接続している(古い業務システムが残っている)
VPNは便利ですが「入った後が広い」状態になりやすいです。ゼロトラストの考え方では、VPNでネットワーク全体を開けるのではなく、アプリ単位で必要な通信だけに絞る(ZTNA的に近づける)方向が望ましいです。とはいえ、レガシー環境は一気に変えられないため、まずは特権IDの分離や端末要件の統一から始め、並行してEDRで“侵入後”の被害拡大を抑えます。
- ゼロトラスト:特権IDの棚卸し、踏み台端末の厳格化、アクセス経路の最小化
- EDR:サーバーへの不審ログオン、管理ツール悪用、ランサム挙動の兆候検知
シーン:委託先・子会社・BYODが混在する
端末の統制が効きにくい場合、ゼロトラストで「端末が不明ならアクセス範囲を狭める」設計が効きます。たとえば、閲覧だけ許可、ダウンロード禁止、機密領域はVDI/ブラウザ分離経由などです。一方で、委託先端末にEDRを入れられないケースもあるため、契約・ガイドライン・監査項目を整え、入れられる範囲(社給端末、重要担当者端末)からEDRを徹底します。技術だけでなく統制(ルール)もセットで考えるのが重要です。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
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まとめ
ゼロトラストとEDRは、どちらも重要ですが役割が違います。ゼロトラストはアクセスを都度判定して“通し方”を設計する考え方で、MFA、端末要件、最小権限、条件付きアクセスなどを組み合わせて「侵入しにくい・広がりにくい」状態を作ります。
一方でEDRは、端末で起きた攻撃を検知し、封じ込め、調査して再発を防ぐための仕組みです。侵入を前提にした現実的な備えとして、運用体制(社内対応か、MDRなど外部支援を使うか)とセットで検討すると効果が出やすくなります。
迷ったら、「自社が困っているのは入口(認証・権限・アクセス経路)か、侵入後(検知・初動・調査)か」を分けて考え、優先順位を付けて段階導入してください。入口を整えるゼロトラストと、侵入後を守るEDRを組み合わせることで、過不足の少ないセキュリティ投資に近づきます。
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