ゼロトラストで対策できる脅威を整理する方法

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ゼロトラストとは何か:なぜ「脅威の整理」が先に必要なのか

ゼロトラストは「社内は安全、社外は危険」という前提を捨て、誰であっても、どこからでも、毎回確認するという考え方でセキュリティを組み立てるアプローチです。クラウド利用、リモートワーク、外部委託、SaaSの増加によって、社内ネットワークの境界だけ守っても守り切れない時代になりました。

ただし、ゼロトラストは製品名ではなく“設計思想”です。そのため「ゼロトラストを導入すれば全部解決」と捉えると、ツール購入だけで終わってしまい、効果が出ません。効果を出すコツは、最初に「どんな脅威を、どの資産に対して、どの経路で受けるのか」を整理し、対策を対応付けることです。特に情シスが少人数の企業や、予算はあるが詳しい担当者が少ない組織ほど、脅威整理の型があると意思決定が速くなります。

この記事では、開発の専門知識がなくても実務で使えるように、ゼロトラストで対策できる脅威を「カテゴリ」と「業務シーン」で整理し、優先順位の付け方まで具体化します。なお、ゼロトラストの実装はID管理、端末管理、ネットワーク制御、ログ監視など複数要素の組み合わせです。以降は難しい用語を極力かみ砕き、必要な場合は例えで補足します。

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まず押さえる:ゼロトラストで守る「資産」と攻撃の入り口

脅威を整理する前に、守る対象(資産)と入り口(侵入経路)を揃えておくと、議論がブレません。資産は「守るべき価値」、入り口は「攻撃が起きる入口」です。ゼロトラストは境界ではなく、資産へのアクセスに着目するので、資産から考えるのが相性がよいです。

守るべき資産(例)

  • アカウント(ID):Microsoft 365、Google Workspace、各SaaS、VPN、社内システムのログイン
  • 端末:社給PC、BYOD、スマホ、管理者端末、サーバ
  • データ:顧客情報、見積・契約、設計図、ソースコード、経理データ、メール、ファイル共有
  • 業務アプリ:基幹システム、CRM、勤怠、会計、ワークフロー、チャット
  • 権限:管理者権限、クラウド管理コンソール、特権ID

代表的な侵入経路(例)

  • フィッシング:偽メールでパスワードや認証コードを盗む
  • 端末の感染:マルウェア、情報窃取、遠隔操作
  • 不正ログイン:漏えいパスワードの使い回し、総当たり、認証回避
  • 設定ミス:クラウド公開設定、権限過多、共有リンクの放置
  • 内部不正:退職者・委託先・従業員による持ち出し、権限濫用

この資産×入り口を土台にして、次章で「ゼロトラストが得意な脅威」と「注意が必要な脅威」を整理します。重要なのは、すべての脅威を同じ熱量で扱わず、自社の資産に直撃するものを優先することです。

ゼロトラストで対策しやすい脅威をカテゴリ別に整理する

ゼロトラストが特に効果を発揮するのは、「正規のアクセスに見せかけた不正」や「一度侵入した後の横移動(被害拡大)」です。逆に、物理的な盗難や、完全にオフラインでの情報持ち出しなどは、ゼロトラストだけではカバーしにくい領域もあります。ここでは“対策の軸”とセットで整理します。

アカウント乗っ取り(ID侵害):フィッシング・漏えいパスワード・認証疲れ

最近多いのが、メールやチャットから偽ログイン画面に誘導し、ID/パスワードや認証情報を盗む手口です。ゼロトラストでは、「ログインできた=正しい人」とは見なさないようにし、多層で防ぎます。

  • 多要素認証(MFA):パスワードだけでなく別要素を要求。ただし「承認ボタン連打」を狙う攻撃もあるため、可能なら番号一致やFIDO2など強い方式を選ぶ
  • 条件付きアクセス:国・IP・端末状態・リスクによりアクセス可否を変える(例:社給端末以外は管理画面に入れない)
  • SSO/ID統合:SaaSごとにバラバラな認証を減らし、ポリシーを一元化
  • 特権IDの分離:普段のメール用アカウントで管理者操作をしない

端末侵害(マルウェア・情報窃取・遠隔操作):BYODや持ち出しPCで起きやすい

端末が侵害されると、正規ユーザーの操作としてSaaSにアクセスされます。ゼロトラストでは端末を「信頼の根拠」に使うため、端末の衛生状態が重要です。

  • MDM/EDR:端末管理と検知・隔離。OS更新、暗号化、ウイルス対策、危険挙動の検知
  • 準拠端末のみ許可:一定条件(暗号化ON、OS最新など)を満たさない端末はアクセス不可
  • 最小権限:ローカル管理者権限を配り過ぎない。管理者作業は別アカウントで

横移動・権限拡大(侵入後の被害拡大):ネットワークの「広すぎる通路」を塞ぐ

一度侵入されても、社内のどこへでも移動できる構造だと被害が拡大します。ゼロトラストは「常に検証」と「小さく区切る」発想で、横移動を難しくします。

  • マイクロセグメンテーション:アクセス可能な範囲を業務単位で小さくする
  • アプリ単位のアクセス:ネットワーク全体ではなく、必要なアプリにだけ接続させる(ZTNAなど)
  • 権限の棚卸し:使っていない権限、退職者、共有IDを整理する

クラウド/SaaSの設定ミス・共有ミス:便利さの裏側で起きる漏えい

SaaSは設定一つで「社外の誰でも見られる」状態になり得ます。ゼロトラストの文脈では、データへのアクセス制御と監査を重視します。

  • DLP/情報保護:機密ラベル、外部共有制限、持ち出し経路(メール添付、共有リンク)を制御
  • CASB:SaaSの利用状況の把握、危険な操作のブロック
  • 監査ログ:「誰が・いつ・どのデータに」アクセスしたかを追える状態に

内部不正・委託先リスク:ゼロトラストが効くが、運用設計が肝

内部の人や委託先は「すでに入れてしまう」ケースが多く、境界防御では対応しづらい領域です。ゼロトラストは権限を絞り、操作を記録し、必要なら即停止できるようにします。

  • 最小権限・期限付き権限:プロジェクト期間だけアクセスを許す
  • 特権アクセス管理(PAM):管理者操作を申請・承認・記録する
  • 操作ログとアラート:大量ダウンロード、深夜アクセスなど“いつもと違う”を検知

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「脅威の整理表」を作る手順:資産×攻撃×影響×対策で見える化

ここからが本題です。ゼロトラストを進めるときは、いきなり製品比較を始めるより、1枚の整理表を作る方が失敗しにくいです。形式は何でも良いですが、情シスと経営側が同じ表を見て議論できることが重要です。Excel/スプレッドシートで十分です。

手順

  1. 資産を棚卸しする:業務上止まると困るシステム、漏れると困るデータ、管理者権限を列挙
  2. アクセス経路を洗い出す:社内/社外、VPN、SaaS、スマホ、委託先、API連携など「どこから入れるか」を書く
  3. 想定脅威を当てはめる:フィッシング、不正ログイン、端末感染、設定ミス、内部不正などを資産ごとにチェック
  4. 影響を言葉で書く:金額換算が難しくても「業務停止日数」「顧客影響」「法令/取引先要件」などで表現
  5. 現状対策とギャップを書く:MFAの有無、端末暗号化、ログの保管期間、退職者ID削除手順など
  6. ゼロトラストの対策に対応付ける:条件付きアクセス、MDM、ZTNA、DLP、PAM、ログ監視など
  7. 優先順位を決める:影響×起こりやすさ×改善コストで並び替える

整理表のひな形(例)

資産:例)見積・契約書が入ったファイル共有
利用者:営業、管理、外部委託(閲覧のみ)
アクセス:社外からもWebでアクセス、共有リンク利用
想定脅威:フィッシング→不正ログイン、共有リンクの誤公開、大量ダウンロード
影響:取引先情報漏えい、信用失墜、対応工数増、監査対応
現状:MFAは一部、共有リンク無期限、ログは追いづらい
ギャップ:端末準拠チェックなし、外部共有の基準なし
優先対策:MFA必須化、条件付きアクセス(準拠端末のみ)、
           外部共有の期限・ドメイン制限、DLP、監査ログの整備

この表があると、「ゼロトラスト=何でも守る」ではなく、守るべき資産に対して必要なコントロールを当てる会話に変わります。結果として、予算の使い方も合理的になります。

対策の対応表:ゼロトラストの主要コントロールを“脅威→打ち手”で覚える

ゼロトラストを構成する要素は多いですが、難しく感じる場合は「脅威別に、効く打ち手をセットで覚える」と整理しやすいです。ここでは代表的な対応関係をまとめます。製品名ではなく、機能の種類として理解してください。

  • フィッシング/不正ログイン:MFA(強固な方式)、条件付きアクセス、ID統合(SSO)、リスクベース認証、特権ID分離
  • 漏えいパスワードの使い回し:パスワードレス、SSO、パスワードポリシー、漏えい検知(ディレクトリ/ID基盤側)
  • 端末感染/情報窃取:EDR、MDM、端末準拠チェック、アプリ制御、ストレージ暗号化
  • 横移動/侵入後の拡大:ZTNA、ネットワーク分離、最小権限、管理者経路の隔離、PAM
  • SaaS設定ミス/共有ミス:外部共有制御、DLP、CASB、監査ログ、テンプレ化された設定基準
  • 内部不正/委託先:期限付き権限、PAM、操作記録、データ持ち出し制御、監査とアラート
  • 検知遅れ/原因追跡できない:ログ集約(SIEM等)、アラート運用、インシデント手順書、演習

ポイントは、ゼロトラストを「アクセス制御」だけで終わらせないことです。検知(ログ)と運用(手順・権限管理)が揃って初めて、継続的に安全性が上がります。逆に、ツールを入れてもログを見ない・権限を棚卸ししない・退職者アカウントが残る、といった状態だと、効果は限定的です。

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よくある失敗と回避策:予算があってもつまずくポイント

中小企業でも大企業でも、ゼロトラストでつまずくパターンは似ています。「買ったけど使われない」「例外だらけで穴が残る」「情シスが運用で燃え尽きる」です。ここでは、よくある失敗と、実務で効く回避策を整理します。

失敗:MFAを入れたのに乗っ取られる

MFAは重要ですが、方式によって強度が違います。通知を「承認」するだけの方式は、うっかり承認や誘導に弱いことがあります。回避策は、強いMFA(番号一致、フィッシング耐性のある方式)と条件付きアクセスをセットにすることです。加えて、管理者アカウントは普段使いのアカウントと分け、より厳しい条件を課します。

失敗:例外対応が増え、ポリシーが形骸化する

「この部署だけ外す」「この端末だけOK」が積み重なると、ゼロトラストの前提が崩れます。回避策は、例外を禁止するのではなく、例外の“期限”と“理由”を必須化することです。例外チケットに有効期限を入れ、期限が来たら自動で見直す運用にします。

失敗:端末管理が追いつかず、準拠端末の条件が守れない

端末台数が増えたり、BYODが混在すると、端末の状態を揃えるのが難しくなります。回避策は「全端末を一気に管理」ではなく、重要資産にアクセスする端末から順に準拠化することです。例えば経理・人事・管理者端末を最優先にし、次に営業端末、最後に閲覧のみ端末、と段階的に進めます。

失敗:ログは取っているが、見ていない/追えない

インシデント対応で最初に困るのが「いつ・誰が・何をしたか」が追えないことです。回避策は、ログを“集める”だけでなく、見る対象を決めて、アラートの基準を作ることです。例えば「管理者権限の付与」「海外からのログイン」「大量ダウンロード」「共有設定変更」など、少数の重要イベントに絞って運用を開始します。

ゼロトラストは、100点満点を狙うよりも、80点を継続的に改善していく方が現実的です。重要なのは、技術だけではなく、業務運用として回る形に落とし込むことです。

まとめ:ゼロトラストは「脅威の整理表」で導入が決まる

ゼロトラストで対策できる脅威を整理するには、まず「守るべき資産」と「侵入経路」を揃え、資産ごとに脅威・影響・現状・ギャップ・対策を表で見える化するのが近道です。特に、アカウント乗っ取り、端末侵害、横移動、SaaS設定ミス、内部不正は、ゼロトラストの考え方と相性がよく、条件付きアクセス・端末準拠・最小権限・ログ監査の組み合わせで現実的に強化できます。

「何から始めればいいか分からない」という場合は、最初の一歩として、重要資産(例:メール、ファイル共有、会計、人事、管理者権限)に絞った整理表を作り、優先順位を付けてください。整理ができると、製品選定も運用設計も迷いにくくなり、予算を効果の高いところに集中できます。

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