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クラウド運用の「内製」と「外注」:まず何を決めるべきか
クラウド運用を考えるとき、多くの企業が最初に悩むのが「内製(自社で運用)か、外注(ベンダー・MSPに委託)か」です。結論から言うと、正解は1つではありません。重要なのは自社の目的・体制・許容できるリスクを言語化し、その条件に合う運用モデルを選ぶことです。
そもそもクラウドの運用は、サーバーを立てて終わりではありません。代表的には、アカウント管理(ID/権限)、監視、障害対応、セキュリティ対策、バックアップ、コスト最適化、変更管理(リリース・設定変更)、ドキュメント整備、インシデント対応、監査対応など、日々の地道な業務の積み重ねです。しかもクラウドは便利な反面、設定一つで「外部公開してしまった」「不要な高額リソースが動き続けた」といった事故が起こり得ます。
内製か外注かを決める前に、次の3点を先に固めると判断がブレません。
- 運用品質のゴール:例)24時間365日が必要か、平日9-18で十分か/復旧目標時間(RTO)と復旧目標時点(RPO)
- 運用範囲:例)監視だけ、障害対応まで、セキュリティ運用まで、コスト最適化まで
- 責任分界:例)障害時に「誰が判断し、誰が作業し、誰が最終承認するか」
ここが曖昧だと、外注しても「どこまでやってくれるのか分からない」、内製しても「担当者に依存して属人化する」といった問題が起きます。以降では、クラウド運用を内製・外注・ハイブリッドで判断するための基準を、体制・コスト・リスクの観点で具体的に解説します。
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判断の軸は「体制・コスト・リスク」:チェックリストで自社を診断する
内製か外注かの判断を、感覚ではなく整理して進めるために、まずは診断用の軸を持ちましょう。ここでは、非エンジニアの方でも判断しやすいように、実務で効く観点に絞ります。ポイントは「いまの運用が回っているか」ではなく「事故が起きたときに回るか」です。
体制(人・時間・判断)
- 運用担当が2名以上いる(休暇・退職・異動でも継続できる)
- 夜間・休日のオンコール体制を組める(または不要と意思決定できている)
- 運用手順書・構成図・設定の履歴(変更理由)が整備されている
- セキュリティ・ネットワーク・アプリの責任者が分かれていて連携できる
- 障害時の判断者(エスカレーション先)が明確
情シスが少人数の場合、クラウド運用を内製で「回している」ように見えても、実態は担当者の善意と残業で成立していることが少なくありません。担当者が不在になった瞬間に止まる運用は、事業継続の観点でリスクが高いです。
コスト(見える費用と見えない費用)
- クラウド費用の内訳(サービス別・環境別・部門別)を月次で把握できる
- 運用の工数を概算できる(監視、問い合わせ、障害、変更、定例など)
- 障害による機会損失(売上・信用・復旧工数)をざっくりでも見積もれている
外注は「費用が増える」と見られがちですが、内製には人件費だけでなく教育費、採用コスト、属人化のリスク、障害対応の夜間対応など、見えにくいコストが含まれます。逆に外注は月額が明確な反面、スコープ外作業が増えると想定以上に高くなることがあります。比較するなら“月額”ではなく“TCO(総コスト)”で見ましょう。
リスク(セキュリティ・可用性・監査)
- 権限管理(誰が何をできるか)を定期的に棚卸しできている
- ログ(操作履歴・監査ログ)を保存し、追跡できる
- バックアップと復元テストを定期的に実施できている
- 脆弱性対応やパッチ適用の方針がある
- 取引先のセキュリティ要求(ISMS、SOC2相当、監査対応)に対応できる
クラウドは「自動で安全」ではありません。クラウド事業者が守る範囲(データセンター等)と、利用者が守る範囲(設定・権限・データ等)に分かれます。特に設定ミスは、経験がないと見落としやすい典型リスクです。
内製が向いているケース:スピードと学習を武器にする
内製が向くのは、単に「外注費を削るため」ではなく、クラウドを自社の競争力に変える意図がある場合です。たとえば、プロダクト改善のサイクルを速く回したい、データ活用やAIの検証を素早く回したい、アーキテクチャを自社の思想で作り込みたい、といったケースです。ここでの要点は運用を“コストセンター”で終わらせず、改善の仕組みにできるかです。
内製のメリットは次の通りです。
- 変更が速い:小さな設定変更・改善をその場で実行できる
- ノウハウが貯まる:障害や改善の経験が社内に残り、次が楽になる
- 要件の解像度が上がる:クラウドの制約を理解し、現実的な判断ができる
一方、内製の落とし穴は「担当者のスキル差が品質差になる」ことです。特に情シスが本業(社内IT・端末管理・ヘルプデスク等)で手一杯だと、クラウド運用が後回しになり、監視設定が薄い、バックアップが未検証、権限が野放し、といった状態になりやすいです。
内製で成功しやすい条件を、あえて具体化します。
- 最初から100点を狙わない:重要システムだけ先に監視・バックアップ・権限を固める
- 運用をチケット化する:口頭・チャット依頼をやめ、作業履歴と判断理由を残す
- 標準化を先に作る:命名規則、タグ付け、アカウント発行、ネットワークの型を決める
- 属人化を潰す:手順書と構成図、障害時の判断フローを最低限整備する
「詳しい人が1人いるから内製できる」は短期的には成立しますが、長期では危険です。内製を選ぶなら、運用の仕組み(標準・手順・レビュー)に投資することが条件になります。
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外注が向いているケース:運用の安定と責任の明確化を優先する
外注が向いているのは、クラウド運用の品質を一定水準以上に保ちたい、24時間対応が必要、監査・セキュリティ要件が厳しい、社内に経験者がいない、というケースです。外注は「丸投げ」ではなく、運用の型とガードレールをプロに作ってもらうと考えると成果が出やすくなります。
外注の代表的なメリットは次の通りです。
- 即戦力で立ち上がる:監視、障害対応、定例報告などが短期間で整う
- 体制が作れる:夜間休日対応、複数名での引き継ぎが前提になりやすい
- 第三者視点で改善:コストやセキュリティの抜け漏れを指摘してもらえる
一方で、外注の失敗パターンも明確です。典型例は「契約範囲が曖昧」「問い合わせ窓口が増えて遅くなる」「社内に判断者がいないため、ベンダーの提案を検討できず放置される」です。外注がうまくいく企業は、委託先を管理するための最低限の役割を社内に残しています。
外注で押さえるべき契約・運用設計のポイントを挙げます。
- SLA/SLOの明文化:監視対象、一次対応時間、復旧までの目標、対応時間帯
- 変更管理のルール:誰が承認し、いつ実施し、戻し手順はあるか
- 権限の設計:委託先に渡す権限は最小限、操作ログの保存を必須に
- 月次レポートの中身:障害件数だけでなく、予防策・コスト改善提案・課題一覧
- スコープ外の単価:追加作業の費用体系を先に決め、揉めないようにする
外注は「安心を買う」側面が強い一方、任せ方を誤ると、クラウドの改善が止まり、コストだけが増えます。委託先の選定では、技術力だけでなく「説明が分かりやすい」「判断材料を提示してくれる」「やらない方がいいことも言う」姿勢を重視してください。
ハイブリッドが現実解になりやすい:任せる範囲の切り方
内製か外注かを二択で考えると、極端な判断になりがちです。実務では、クラウド運用は「ハイブリッド(役割分担)」が最も採用されやすいです。理由はシンプルで、すべてを内製できるほど人がいない、でも丸投げするとスピードが落ちる、という企業が多いからです。
切り分けの考え方は「頻度×影響度」です。
- 頻度が高い作業(例:軽微な設定変更、ユーザー追加)は内製に寄せるとスピードが出ます
- 影響度が大きい作業(例:ネットワーク変更、権限設計、障害の根本原因分析)は外部の知見を活用すると事故が減ります
代表的なハイブリッド例を、具体的に3パターン示します。
- 監視・一次対応を外注、判断と変更は内製:アラートの受付や夜間対応を外に出し、社内は意思決定に集中
- セキュリティ運用だけ外注:権限棚卸し、ログ監査、脆弱性対応の助言など、専門性の高い部分を委託
- クラウド基盤は外注、アプリ運用は内製:インフラの安定性は担保しつつ、業務要件に近い部分は社内で高速に回す
ハイブリッドの肝は、境界で事故が起きないようにすることです。特に「障害時に誰が何をするか」が曖昧だと、対応が遅れます。そこでおすすめなのが、RACI(実行責任・説明責任・協力・報告先)を表にして合意することです。“緊急時に迷わない設計”が、運用品質を大きく左右します。
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コストの決め方:月額比較ではなく「運用の中身」と「事故の値段」で考える
クラウド運用の内製・外注を費用だけで決めようとすると、「外注は高い」「内製は安い」という短絡になりがちです。しかし本当に見るべきは、支出の額だけでなく、運用の中身(何が含まれるか)と、事故が起きたときの損失です。クラウド費用そのもの(利用料)と、運用費(人・外注)を分けて整理すると理解が進みます。
まず内製コストは、次のように分解できます。
- 人件費:運用担当者の稼働(例:月20〜60時間)
- 教育・学習コスト:トレーニング、資格、検証環境の費用
- 採用・引継ぎコスト:欠員時の採用、退職時の引継ぎの不確実性
- 障害対応コスト:夜間対応、休日対応、再発防止の工数
外注コストは、月額だけでなく「どこまで含まれるか」を必ず確認します。
- 監視:対象範囲(CPU/メモリだけか、アプリ監視やログ監視までか)
- 障害対応:一次切り分けのみか、復旧作業まで含むか
- 変更作業:月何回まで含むか、時間帯制限はあるか
- 改善提案:コスト最適化やセキュリティ改善が定例に含まれるか
そして、意思決定で見落とされがちなのが「事故の値段」です。たとえばECサイトで1時間止まると売上がいくら失われるか、B2BサービスでSLA違反が発生すると違約金や解約につながるか、社内システム停止で現場が何人止まるか。正確でなくて構いません。“止まったらいくら損か”を概算し、それに見合う運用品質を買うのが合理的です。
最後に、クラウド費用の最適化(無駄削減)は、内製・外注どちらでも重要です。タグ付け(部門・環境・用途)、不要リソースの棚卸し、予約/節約プランの活用、開発環境の停止スケジュールなど、基本を徹底するだけで大きく改善することがあります。運用体制を決めると同時に、コスト管理のルールを決めておくと、社内説明もしやすくなります。
失敗しない進め方:現状棚卸し→運用設計→小さく始めて見直す
内製・外注・ハイブリッドのどれを選ぶにしても、進め方を誤ると「移行だけ終わって運用が崩れる」状態になりがちです。クラウドは導入より運用の方が長く、差が出ます。ここでは、非エンジニアの責任者でも実行しやすい手順に落とします。ポイントは最初から完璧を目指さず、重要領域から運用の型を作ることです。
- 現状棚卸し:システム一覧(重要度・停止影響・利用部門)、クラウド構成(アカウント、ネットワーク、主要サービス)、運用作業一覧(誰が・どれくらいの頻度で)を整理
- 運用要件の合意:対応時間帯、監視対象、RTO/RPO、バックアップ方針、権限管理、変更手順を決める
- 責任分界の確定:社内(決裁・業務判断)と外部(技術作業・監視)を線引きし、連絡経路を整える
- 小さく開始:重要システム1つで監視・バックアップ・障害訓練(机上でも可)を回し、課題を洗い出す
- 月次で見直し:障害件数、対応時間、コスト推移、改善提案の実行状況をレビューし、範囲と手順を更新
ここで重要なのが、運用を「担当者の頑張り」にしない仕組み化です。たとえば、アラートが来たら誰が一次対応し、どの条件でエスカレーションし、何をもって復旧とするか。変更は誰が申請し、どこに記録し、戻し手順はあるか。こうしたルールは地味ですが、クラウド運用の事故率を大きく下げます。
また、外注する場合でも、社内の役割はゼロにはできません。最低限、次の役割は社内に残すのがおすすめです。
- オーナー(業務側の責任者):優先順位と停止許容を決める
- 窓口(情シス/IT管理者):委託先との連絡、変更の承認、アカウント管理
- 予算管理:クラウド費用と外注費、改善投資の判断
「詳しくないから外注」でも問題ありませんが、「判断できないから丸投げ」になると失敗します。意思決定に必要な情報を、委託先から受け取れる形にすることが、運用品質を左右します。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
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まとめ
クラウド運用の内製か外注かは、「どちらが正しいか」ではなく、体制・コスト・リスクの条件に合わせて決めるのが最短です。内製はスピードと学習が武器になりますが、属人化と夜間対応が壁になります。外注は安定運用を作りやすい一方で、契約範囲と責任分界が曖昧だとコスト増と遅さにつながります。多くの企業では、監視や一次対応を外に出し、判断と改善を社内に残すハイブリッドが現実解になりやすいでしょう。
まずは「運用品質のゴール」「運用範囲」「責任分界」を合意し、重要システムから小さく運用の型を作って見直す。この進め方なら、専門知識に自信がなくても、クラウド運用を安全に育てていけます。
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