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カスタマージャーニーに沿ったMAシナリオ設計で、配信を「成果の出る仕組み」に変える
マーケティングオートメーション(MA)を導入したのに、期待したほど商談が増えない。あるいは、最初は動いたのに半年で運用が止まる。こうした悩みは、ツールの機能不足というよりも、カスタマージャーニーとMAシナリオの設計軸がズレていることが原因になりがちです。
本記事では、PM・管理職が現場を動かせるように、カスタマージャーニーから逆算してMAシナリオを組み立てる手順を、実務レベルで解説します。ナーチャリング(ステップメール)設計だけでなく、データ連携・KPI・改善運用まで一気通貫で設計し、読み終える頃には「どのジャーニーで、どのシナリオを、どんなデータで動かし、どんなKPIで改善するか」を説明できる状態を目指します。
この記事で得られるもの
①ジャーニーを計測できる業務設計に落とす手順、②MAシナリオ設計の実務テンプレ、③CRM/SFA連携の最小要件、④KPIと改善会議の回し方、⑤導入ロードマップと失敗回避の勘所。
1. なぜ今、カスタマージャーニー起点のMAシナリオ設計が必要なのか
MAが「配信ツール」で終わる現象は珍しくありません。典型は、資料DLやセミナー参加をトリガーにメールを数通送るだけの運用で、開封率やクリック率は見えるものの、商談や受注への因果が説明できない状態です。ここで重要なのは、MAシナリオを“メールの順番”として捉えないことです。MAシナリオ設計とは本来、ジャーニー上の状態遷移を、MAで再現できるルールに翻訳する作業です。
PM・管理職が押さえるべきポイントは、①顧客が次に欲しい情報、②意思決定を止める不安、③次の行動に進む条件の3点を、各フェーズで明文化することです。B2Bでは、比較フェーズで「稟議が通る材料が揃わない」、意思決定フェーズで「導入後の運用負荷が見えない」、導入後で「使い方が定着せず効果が出ない」といった“停滞理由”が繰り返し発生します。これをジャーニーに書き込み、停滞理由に対して解消の順序を決めると、「なぜこの配信が必要か」を説明できるようになります。
また、近年は獲得だけではなく、導入後の活用・継続・アップセルが重要です。ここでもジャーニーは強力で、導入後フェーズの利用低下やサポート過多を観測し、離反防止シナリオやアップセル施策につなげることで、LTV改善に直結します。つまり、ジャーニー×MAは短期施策ではなく、成長モデルを支える設計になります。
実務でよく起きるのが「セグメントを増やすほど成果が落ちる」現象です。これはターゲット理解が深まったのではなく、データ品質・分岐設計・コンテンツ供給のいずれかが追いつかず、設計が複雑化して運用が破綻しているサインです。ジャーニーを軸に少数の“状態”に整理し、MAでは状態に応じて動く最小限のシナリオを整える方が、スピードも成果も上がります。
ミニ事例(SaaSを想定)
資料DL後に一律で機能紹介を送っていた企業が、ジャーニーを見直し「比較フェーズの稟議不安」を最優先に設定。シナリオを、(1)稟議テンプレ提供→(2)費用対効果の考え方→(3)導入体制チェックリスト→(4)相談予約へ誘導、に変更。結果、MA経由の相談予約率が改善し、営業が追うべきリードが明確になった。
2. カスタマージャーニーを「計測できる形」にする設計手順
実務で使えるカスタマージャーニーは、見た目の図よりも、判断基準と観測点が命です。まずフェーズは、認知→興味→比較→意思決定→導入→活用→継続(必要に応じて推奨)を基本にします。次に各フェーズで「次に進むための条件」を1つに絞ります。条件が複数あるとMAの分岐が増えて破綻します。例えば比較フェーズなら「選定基準が固まる」、意思決定フェーズなら「社内合意が取れる」、導入フェーズなら「初期設定が完了する」といった具合です。
その上で、タッチポイントを棚卸しします。広告、LP、資料DL、ウェビナー、比較表、導入手順、料金ページ、問い合わせ、営業面談、CS対応などを並べ、どこで何が観測できるかを明確にします。ここで重要なのは、理想ルートだけでなく、迷子ルート(離脱・停滞・誤解)を同時に書くことです。迷子ルートが定義できると、どのタイミングで再活性シナリオを走らせるか、どの不安を先に解消するかが決まります。カスタマージャーニーは“理想の物語”ではなく、現場の詰まりどころ一覧にするほど役に立ちます。
作り方のコツは、ワークショップで出た意見を「感想」で終わらせず、観測できる言葉に変換することです。たとえば「不安そう」ではなく「料金ページを見たが問い合わせに進まない」「導入手順ページは見たが資料請求はない」のように、行動に落とします。こうして初めて、MAでトリガー条件が書けます。
Tips:ジャーニー設計で必ず決める3点
①フェーズ判定に使う行動イベント(例:pricing_view、case_download)、②フェーズを跨ぐ状態フラグ(例:商談中/導入済/更新対象)、③次の一歩の定義(例:比較表DL/相談予約)。この3点が揃うと、シナリオ設計が一気に具体化します。
最後に、ジャーニーを計測可能にするためにイベント命名規則とデータ辞書を作ります。ここは地味ですが、PM・管理職の腕の見せどころです。イベント名が部署ごとに揺れると、分岐条件が崩れ、シナリオが“誰にも直せない状態”になります。最初に辞書を固定し、運用で更新するルールまで決めておくと、改善サイクルが回り続けます。ジャーニー更新と辞書更新をセットにすると、ジャーニーとMAの齟齬が起きにくくなります。
3. MAシナリオ設計の骨格:トリガー、分岐、コンテンツを設計図にする
ここからが本題のMAシナリオ設計です。最初に意識したいのは、「シナリオ数」ではなく状態遷移の明確さです。MAでは、トリガー(開始条件)、分岐(条件)、アクション(配信・通知・スコア付与)を組み合わせますが、成功する設計は、ジャーニーの“次の一歩”を最短で促す設計になっています。
たとえば資料DLを起点にする場合も、「資料DL→3通配信」という固定のステップメールにせず、(1)DL直後は要点整理で理解を補助し、(2)48時間後に比較材料(事例/料金の考え方)を提示し、(3)反応が薄ければ迷子ルート向けに不安解消コンテンツへ分岐し、(4)料金ページ閲覧や特定機能ページ閲覧があれば営業通知または相談導線へ切り替える――のように、停滞理由に沿って設計します。これが「ジャーニーに沿ったシナリオ設計」です。
分岐は増やしすぎないことが鉄則です。最初の設計では、分岐目的を2つまでに抑えます。たとえば比較フェーズでは「稟議材料の提供」か「反対理由の解消」のどちらを先にするか、導入後フェーズでは「オンボーディング」か「活用促進(定着)」のどちらを優先するか、といった具合です。分岐が2つに収まれば、運用負荷も説明責任も管理しやすく、PMがガバナンスを持てます。必要ならセグメントを増やすのではなく、“状態定義”を磨く方が安全です。
もう一つの重要ポイントが頻度制御(Frequency Cap)です。複数シナリオが並走すると、同日に複数通届く事故が起きます。対策として、(a)同日配信上限、(b)優先度(緊急アラート>商談化>ナーチャリング)、(c)除外条件(商談中は獲得シナリオ停止)、(d)失敗時のフォールバック(配信エラーは翌日に再試行)を運用ルールとして明文化します。頻度制御は“設定”ではなくオペレーション設計であり、継続運用の基盤です。
コンテンツ設計も同様に、量より役割で整理します。各フェーズで顧客が理解すべきこと(例:解決できる課題、比較ポイント、導入手順、体制、費用対効果、リスク)を先に決め、その役割に沿って記事・事例・チェックリスト・動画を用意します。コンテンツが揃わないまま設計を進めると、結局「薄いメール」を量産し、MAへの不信が生まれます。先に設計図、後から必要最小のコンテンツ制作、という順番が安全です。
スコアリングは「万能の自動判定」ではなく、運用上の優先度付けとして割り切ります。おすすめは、用途を2つに限定することです。ひとつは「営業へ渡す条件(MQL/SQL)」、もうひとつは「シナリオ内での配信優先順位」です。スコアを細かく作りすぎると説明できなくなり、結局信用されません。ジャーニーの状態に紐づくシンプルな条件ほど、組織で運用できます。
4. データと連携の設計:CRM/SFAとつないで“止まらない”マーケティングオートメーションへ
MA運用が止まる最大要因は、配信文面ではなくデータです。特にB2Bでは、CRM/SFA側の商談ステータス、担当者情報、契約更新情報がMAに渡らないと、ジャーニーの状態判定ができません。結果として「商談中の人に新規獲得のナーチャリングが届く」「導入済の顧客に初歩的な案内が届く」といった事故が起き、配信停止が常態化します。
まず最小要件として、顧客ID(名寄せキー)、同意(オプトイン/配信停止)、接点ログ、CRM/SFA上の状態を定義します。名寄せはメールアドレスだけに依存せず、会員ID・企業ドメイン・Cookieなど複数キーを前提にし、重複時の優先順位ルールを決めておくと運用が安定します。さらに可能であれば、プロダクト利用状況(ログイン頻度、主要機能の利用、エラー発生)を取り込み、導入後ジャーニーの離反防止に活かします。ここまで来ると、設計範囲は“営業前”だけでなく、契約後の価値創出にまで広がります。
連携方式は、リアルタイム連携が必要な領域だけに投資を絞るのがPM的に合理的です。たとえば「料金ページを短時間に複数回閲覧」「導入後の利用が急落」といった今動く価値があるイベントはWebhook/APIで即時反映し、それ以外は日次バッチで十分なケースが多いです。すべてをリアルタイム化すると、障害対応と運用工数が膨らみ、MA自体が負債になります。ジャーニーのどの局面で時間が価値になるかを見極め、そこにだけ投資するのが設計の肝です。
加えて、監査とセキュリティの観点も忘れがちです。誰がどのデータを見られるのか、誰がシナリオの条件を変更できるのか、同意情報をどう保持するのか。ここが曖昧だと、情シス・法務のレビューで止まります。逆に、最初に権限設計と運用ルール(変更申請、リリース手順、ロールバック)を整えると、改善が安全に速く回るようになります。
補足:データ辞書がないとシナリオ設計は崩れる
イベント名、プロパティ名、取得元、更新頻度、欠損時の扱いを一覧化し、変更申請フローを決めておくと、分岐条件が長期運用で壊れません。PM・管理職が辞書のオーナーになると、ジャーニーとMAの整合性が保たれます。
5. KPI設計と改善運用:ジャーニーの「移動」を数字で管理する
KPIは、メール開封率のような局所指標だけでは足りません。PM・管理職としては、ジャーニーのフェーズ移動(認知→検討→意思決定→導入→継続)が進んだかどうかをKPIに置く必要があります。例えば、認知から検討への移動は次行動率(資料DL、ウェビナー参加、比較表DL)、検討から意思決定への移動は相談予約率/商談化率、導入から継続への移動はオンボーディング完了率/定着率といった具合です。これらが設計できると、MAの価値が数字で説明でき、予算や人員の意思決定がしやすくなります。
改善運用では、ABテスト(件名・配信時間)だけでなく、分岐ロジックそのものを検証対象にします。例えば「比較フェーズのナーチャリングを、事例先行からチェックリスト先行に変えると商談化が上がるか」「導入後のステップを、操作ガイド中心から成果事例中心に変えると継続率が上がるか」といった仮説です。MAの強みは、コンテンツだけでなく状態遷移を改善できる点にあります。
会議体は、週次と月次の二段構えが現実的です。週次は配信エラー、急落、急増などの異常検知を短時間で処理し、月次はジャーニー単位で「どのフェーズが詰まっているか」「その詰まりを解消するシナリオは何か」を議論します。ここで、営業・CSの定性情報(反対理由、導入後のつまずき)をジャーニーに戻し、MAへ反映すると、改善が現場の声と接続されます。
ダッシュボードは、指標を増やすほど意思決定が鈍ります。おすすめは「フェーズ移動KPI」と「異常検知」の2種類に分け、前者は月次、後者は週次で見る設計です。観測が整理されると、改善が「議論→変更→学習」のサイクルとして定着します。
6. 失敗パターンと導入ロードマップ:スモールスタートで成果を積み上げる
よくある失敗は、MAを入れた瞬間に、シナリオを大量に作り始めてしまうことです。シナリオが増えるほど分岐が増え、例外処理が増え、誰も全体像を説明できなくなります。結果として「触るのが怖い」状態になり、運用が止まります。これを避けるために、導入ロードマップは“最小で勝つ”ことを優先します。
おすすめは、(1)現状診断(接点棚卸し・データ欠損・同意管理)、(2)ジャーニー策定(フェーズと停滞理由の定義)、(3)最小シナリオ構築(ウェルカム+比較ナーチャリング+再活性の3本)、(4)計測整備(イベント辞書・ダッシュボード)、(5)拡張(導入後シナリオ、アップセル、離反防止)の順番です。最小シナリオの段階では、ステップを少数精鋭にし、必ずKPIと紐づけます。これができると、運用が「作って終わり」ではなく改善して伸ばす形になります。
体制設計もPM・管理職の重要テーマです。マーケはコンテンツと配信、営業は引き渡し条件、CSは導入後の詰まり、情シスはデータと権限、という役割分担(RACI)を最初に決め、変更フローを整備します。特にCRM/SFAの項目追加やステータス定義は、分岐条件そのものなので、勝手に変わらない仕組みが必要です。運用を仕組みにできれば、担当者が替わっても改善は継続し、ジャーニーを軸に学習が積み上がります。
外部支援を使う場合は「ツール設定だけ」ではなく、「ジャーニー定義」「シナリオ設計図」「データ辞書と連携要件」「改善会議の型」まで含めて依頼すると失敗しにくいです。MAは、導入した瞬間に価値が出るものではなく、改善の仕組みを作って初めて価値になる取り組みです。
CTA:いまのMAシナリオ設計、カスタマージャーニーに沿っていますか?
「配信はしているが商談に結びつかない」「シナリオが増えて運用が回らない」「CRM/SFA連携で詰まっている」など、MA運用の課題は構造で解けます。株式会社ソフィエイトでは、ジャーニー設計からMAシナリオ設計、データ連携、改善運用まで、実務に落ちる形で伴走します。
まとめ
カスタマージャーニーに沿ったMAシナリオ設計は、メール配信の最適化ではなく、顧客の状態遷移を再現可能な仕組みにする取り組みです。まずはジャーニーを計測できる形にし、迷子ルート(停滞理由)を定義し、最小のナーチャリング(ウェルカム・比較・再活性)から始めます。次に、MAとCRM/SFAの連携を最小要件で固め、KPIをフェーズ移動に置いて改善運用を回します。これらを積み上げることで、MAは“属人運用”から再現できる成長装置へ変わります。
もし現在、MAの配信が場当たり的になっているなら、まずは一度ジャーニーを棚卸しし、どのフェーズの停滞を解消するシナリオが最優先かを決めることから始めてみてください。小さく作って、数字で学び、改善する。これが最短距離です。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
PM・管理職向けに、カスタマージャーニー起点でMAシナリオ設計を作る方法を解説。MAでナーチャリングを動かし、CRM/SFA連携、KPI設計、改善会議、失敗回避のロードマップまで実務で使える形に整理しました。
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