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オンボーディング体験は「最初の成功体験」をどう作るかの勝負
プロダクトをリリースしても、「登録まではしてくれるけれど、その先で使われない」という悩みは多くの個人開発者やPM、管理職の方が抱えています。そのボトルネックになりやすいのが、最初のユーザーオンボーディングです。オンボーディング体験とは、ユーザーがプロダクトに初めて触れてから、最初の価値=成功体験を得るまでの一連の流れをどう設計するかということです。ここがうまく機能していないと、どれだけ機能を作り込んでも、使い方が分からないまま静かに離脱されてしまいます。
良いオンボーディング体験には共通点があります。それは「最短で価値が伝わること」と「迷子にならないこと」です。初回ログイン後の初期状態の画面で、何をすればいいのか分からないまましばらく固まってしまう、空状態が真っ白で不安になる、長いオンボーディングツアーに付き合わされて疲れてしまう……。こうした小さなつまずきが積み重なると、せっかくのユーザーを失ってしまいます。逆に、よく設計されたオンボーディング体験では、数分のうちに「このサービスは自分の仕事で役立ちそうだ」と感じてもらえ、SNSでの好意的なシェアも生まれます。
この記事では、空状態(エンプティステート)とプロダクトツアーという二つの重要な要素に焦点を当てながら、実務で使えるオンボーディング設計の考え方を整理します。UX/UIの専門家でなくても、この記事の内容をもとにすれば、既存プロダクトのユーザーオンボーディングを一段レベルアップさせることができますし、必要であれば株式会社ソフィエイトのような外部パートナーに相談する際の「会話の土台」としても使えるように構成しています。
ポイント:オンボーディングは「UIの飾り」ではなく、登録・アクティベーション・継続利用・課金といったビジネス指標に直結する“入口設計”です。
オンボーディング設計の基本フレーム:「最初の30分」を逆算する
最初に押さえたいのは、「オンボーディング体験は機能紹介の一覧ではない」ということです。ユーザーオンボーディングの目的は、プロダクトの全部を説明することではなく、最初の30分以内にユーザーにどんな変化を起こしたいかを明確にし、そのために必要な最小限のステップだけを設計することです。その中心にあるのが、いわゆる「Aha moment(あ、このサービスは使える、と思う瞬間)」です。
実務では、まずこのAha momentを言語化するところから始めます。例えばフォームツールであれば「フォームを1つ作成して、自分宛にテスト回答を送信できた瞬間」、タスク管理であれば「タスクを登録し、完了にチェックをつけて小さな達成感を得た瞬間」といった具合です。そしてオンボーディング体験は、この成功体験に向けてユーザーを導くためのガイドラインとして設計していきます。
ここで重要になるのが、初期状態の画面、空状態、プロダクトツアーの組み合わせです。登録直後に表示される初期状態の画面では、エンプティステートとして「今はデータがないのは正常な状態である」ことを伝えつつ、「次にすべき1つのアクション」を明確に提示します。そのうえで、必要なタイミングだけプロダクトツアー(ガイドツアー)を出し、「どこをクリックすれば良いか」を最短ルートで示します。つまり、ユーザーオンボーディングの全体像は、単一の長いオンボーディングツアーではなく、「空状態+スポット的なプロダクトツアー」の組み合わせで考えると整理しやすくなります。
工数をかけすぎないためには、オンボーディング設計を次の3ステップで捉えると実務に乗せやすくなります。まず、「初回ログイン後にユーザーが通過する画面」を紙やツール上でざっくり並べます。次に、「それぞれの画面でユーザーが何を感じやすいか」「どこで迷いやすいか」をチームで想像します。そして最後に、「ここは空状態で一歩目を促そう」「ここはプロダクトツアーで操作を誘導しよう」といった役割分担を決めていきます。細かいUIの前に、このレベルのフロー図を描くだけでも、オンボーディング体験の全体像がぐっと見えやすくなります。
小さく始めるコツ:「全部を説明するオンボーディング」を作ろうとすると終わりがありません。まずは「最初の30分以内に到達してほしい1つの成功体験」だけに絞り、そのために最低限必要な空状態とプロダクトツアーを設計するところから始めると、チームの合意が取りやすくなります。
空状態デザイン:エンプティステートを「がっかり画面」からガイドに変える
オンボーディング体験の中で、もっとも軽視されがちなのが空状態(エンプティステート)です。リストやダッシュボードが初期状態の画面として真っ白なまま表示され、「まだデータがありません」とだけ書かれているケースは珍しくありません。しかしユーザーの立場からすると、「自分の操作が間違ったのか」「バグなのか」「何から始めればよいのか」が分からず、不安と戸惑いだけが残ります。これではユーザーオンボーディングとして機能しているとは言えません。
よい空状態は、状況説明・次の一歩・モチベーションの3要素を満たしています。まず「今データがないのは異常ではなく正常な状態である」ことをきちんと言葉で伝えます。次に、「最初のプロジェクトを作成」「テンプレートから1件作ってみる」「デモデータを読み込む」といった具体的なボタンやリンクを配置し、初期状態の画面からそのまま一歩目を踏み出せるようにします。そして最後に、「3分で最初のレポートを作成できます」「まずは1つ試しに作ってみましょう」といった前向きなコピーを添えることで、行動のハードルを下げてあげます。
また、空状態をデザインする際には、プロダクトの文脈に合わせたエンプティステートのパターンを考えると作りやすくなります。例えば、レポートやグラフを見せるダッシュボードであれば、サンプルデータを用いたダミーのグラフを初期状態の画面に表示し、「実際のデータを連携するとこのような可視化ができます」と示すことで価値のイメージを伝えられます。タスク管理やCRMのようなリスト画面なら、「最初のタスクを追加」「最初の顧客を登録」といったボタンを強調し、1件だけでも登録すれば画面の意味が理解できるようにすることが重要です。
さらに、空状態はブランドらしさを表現する場としても有効です。イラストやキャラクターを用いてエンプティステートに温度感を持たせると、無機質な初期状態の画面が少しだけほほえましい体験に変わります。ただし、世界観を出そうとするあまり、メッセージや次のアクションが読み取りづらくなってしまうのは避けなければなりません。実務では「7割は実務的なガイド、3割は遊び心」といった意識でテキストやビジュアルを調整すると、オンボーディング体験としても、ブランディングとしても良いバランスに落ち着きやすくなります。
すぐできる改善アイデア:今ある画面のスクリーンショットを並べ、「データが0件のときにどう見えるか」を確認してみてください。そのうえで、空状態に「状況説明+次の一歩+前向きなコピー」の3点セットを追加するだけでも、ユーザーオンボーディングの質は大きく変わります。
プロダクトツアー設計:クリックさせすぎないオンボーディングツアーの作り方
次に、オンボーディング体験の中で目立つ存在であるプロダクトツアーについて見ていきます。プロダクトツアー(ガイドツアー)は、モーダルやポップアップで「ここをクリックすると〇〇できます」と教えてくれる機能です。一見すると便利ですが、「Next」ボタンを何十回も押させるオンボーディングツアーは、現代の忙しいユーザーには嫌われがちです。ユーザーは仕事や作業の合間に新しいツールを触っており、長い説明に付き合う余裕がないことを前提に設計する必要があります。
良いプロダクトツアーは、コンパクトで、タスクベースで、途中離脱しても困らないという特徴を持ちます。まず、ステップ数は3〜5程度に抑え、「このガイドツアーに従えば、ひとつの完結したタスクが終わる」構成にします。例えば、「フォームを1つ作る」「タスクを3件登録する」「レポートを1つ生成する」といった小さなゴールです。また、ただ画面の説明をするのではなく、「実際にここをクリックしてみてください」「このフィールドに仮の値を入れてみましょう」といったインタラクティブな誘導をすることで、ユーザーの手が動き、記憶にも残りやすくなります。
プロダクトツアーを設計するうえで重要なのは、どの機能にツアーを付け、どこは空状態やツールチップに任せるかの線引きです。プロダクトが複雑だからといって、すべての機能をオンボーディングツアーで案内する必要はありません。むしろ、「契約継続や課金に直結する、数個の重要な行動」に絞ってプロダクトツアーを設計した方が、ユーザーオンボーディングとしては効果的です。その他の細かい機能は、空状態のメッセージや、必要な場所でだけ表示されるスポット的なツールチップ、ヘルプセンターの記事などでカバーするのが現実的です。
実務での進め方としては、まず「オンボーディングツアーに載せるべきタスク」をリストアップし、その中から「これだけは全員に体験してほしい」ものを1〜2個選びます。次に、そのタスクを完了するために必要な画面遷移やクリックのステップを洗い出し、各ステップでプロダクトツアーが出るか、空状態のメッセージで誘導するかを決めます。実装後は、ガイドツアーの完了率や、ツアーを完了したユーザーとしなかったユーザーのアクティベーション率・継続率の差を確認しながら、ステップ数や文言をABテストしていくと、ユーザーオンボーディング全体の質が少しずつ洗練されていきます。
注意点:プロダクトツアーは一度作って終わりではありません。機能追加や画面改修のたびに内容が古くなりがちです。小さくシンプルなオンボーディングツアーにしておくほど、運用コストも抑えられます。
ケース別に考えるオンボーディング:個人開発・SaaS・社内ツール
ここまで、空状態とプロダクトツアーという要素ごとにオンボーディング体験を見てきました。ここからは、実際の現場に近い形で、ケース別にユーザーオンボーディングをどう考えるかを整理します。個人開発・スタートアップ、BtoB SaaS、社内業務ツールという3つの場面をイメージしてみてください。
個人開発・スタートアップの場合、一番多い失敗は「サインアップ後の初期状態の画面が真っ白」であることです。開発者としては「この画面からあれもこれもできる」と分かっていても、ユーザーには一切伝わっていません。まずは初期状態の画面にエンプティステートとしてシンプルな空状態を設け、「最初にやることはこれです」と一つだけ明確に示します。例えば、「テンプレートから1つ作成する」「デモデータを読み込む」など、ハードルの低い行動に絞ることが大切です。そのうえで、「最初の1件を作成するための短いプロダクトツアー」を用意すれば、オンボーディング体験の大部分はそれだけでカバーできます。
BtoB SaaSのように、ユーザーの役割が分かれる場合は、管理者と一般ユーザーのユーザーオンボーディングを切り分けることが重要です。管理者は「権限設定・チーム招待・請求情報」など、少し複雑な設定を担当します。この部分には、初期状態の画面にチェックリスト付きの空状態を設け、「1. チームを招待する」「2. 権限を設定する」といったガイドを出し、必要であればプロダクトツアーで詳しい操作をサポートします。一方、一般ユーザーには、もっとシンプルなオンボーディング体験で十分です。初めてログインしたときに「自分のタスクを登録する」「自分の案件を1件作成する」といったガイドツアーを短く提示し、日々の業務で使う画面の空状態に具体的なアクションを示しておけば、余計な研修や長大なマニュアルに頼らずに現場への浸透が進みます。
社内業務ツールの場合は、「研修・説明会・PDFマニュアルでカバーすればよい」と考えてしまいがちですが、異動や新入社員が発生するたびに同じ説明を繰り返すことになり、長期的には大きなコストになります。ここでも、初期状態の画面の空状態に業務フローの簡単な図や、よくある操作を例示したエンプティステートを用意し、必要な画面にはピンポイントのプロダクトツアーを仕込んでおくことで、「日常的なオンボーディング」を自動化できます。結果として、問い合わせや操作ミスが減り、管理職や情シスの負担も軽くなります。
現場での一歩目:自分のプロダクトを「個人開発」「BtoB SaaS」「社内ツール」のどのパターンに近いか考え、そのパターンのオンボーディング体験を優先的に整えるだけでも、限られたリソースを効果的に投下できます。
少ないリソースでオンボーディングを改善するステップと、ソフィエイトにできること
最後に、個人開発者やPM、管理職の方が、限られた時間・予算の中でオンボーディング体験を改善していくための現実的なステップと、株式会社ソフィエイトのような外部パートナーをうまく活用する方法についてお話しします。いきなり完璧なユーザーオンボーディングを作ろうとすると挫折しやすいので、ここでも「小さく始めて、数字を見ながら育てていく」発想が大切です。
おすすめの進め方は、次のようなシンプルなプロセスです。まず、新規ユーザーが最初に辿る画面のスクリーンショットを時系列に並べ、オンボーディング体験の現状フローを見える化します。次に、それぞれの画面について「ここでユーザーは何をしたくて、何に迷いそうか」をチームで書き出します。そのうえで、「この画面には空状態のメッセージとCTAを追加しよう」「この操作にはプロダクトツアーを付けよう」といった改善案をラフスケッチレベルで整理します。デザイナーがいない場合でも、テキストベースのエンプティステートであれば、開発者やPMがドラフトを書き、後からデザインを整える形で十分に実務に乗ります。
実装後は、オンボーディング体験がビジネスにどの程度効いているかを確認するために、「オンボーディング完了率」「Aha momentに到達した割合」「初週・初月の継続率」といった指標を簡単にでも追います。ここで重要なのは、「完璧な計測環境を構築するまで何もしない」のではなく、「最低限のイベントログを仕込んでざっくりした傾向を見る」ところから始めることです。数字とユーザーの声を見ながら、空状態の文言やプロダクトツアーのステップ数を少しずつ調整していくことで、ユーザーオンボーディング全体が確実に改善していきます。
とはいえ、「どこから手をつければいいか分からない」「自分たちだけでオンボーディング体験を設計する自信がない」というケースも多いはずです。そのような場合には、オンボーディングやUI/UXに知見を持つ外部パートナーに一度相談してみるのも有効です。株式会社ソフィエイトでは、既存プロダクトのオンボーディング体験を診断し、空状態やプロダクトツアーを含む画面設計の改善案を具体的なワイヤーフレームやテキストレベルで提案することができます。また、単に「きれいな画面」を作るのではなく、「ユーザーが迷わず成功体験に到達できるストーリー」を一緒に組み立てるスタイルで伴走支援を行っています。
この記事を読みながら、「自社のユーザーオンボーディングは大丈夫だろうか?」「初期状態の画面や空状態が放置されているかもしれない」と感じた方は、ぜひ一度、自分のプロダクトの初期状態の画面を開き直してみてください。そのうえで、もし第三者の視点からのレビューや、実装まで踏み込んだ支援が必要であれば、株式会社ソフィエイトのWebサイトからお気軽にお問い合わせください。プロダクトの成長を支えるオンボーディング体験を、一緒に設計していければと思います。
まとめ:オンボーディング体験は「入口のUX」を整える最短ルート
本記事では、オンボーディング体験を実務の目線から整理し、空状態とプロダクトツアーという二つの重要な要素に焦点を当てて解説しました。ユーザーオンボーディングは、単なる機能説明ではなく、「ユーザーが最初にどんな成功体験を得るか」をデザインする行為です。初期状態の画面が分かりづらい、エンプティステートが味気ない、オンボーディングツアーが長すぎる、といった状態では、せっかくのプロダクトの価値がユーザーに届きません。
一方で、オンボーディング体験を整えることは、必ずしも大規模な投資や専門チームを必要としません。初期状態の画面に空状態のメッセージと具体的なCTAを追加する、重要なタスクだけに絞った短いプロダクトツアーを用意する、管理者と一般ユーザーでオンボーディングフローを分ける、といった小さな改善を積み重ねるだけでも、アクティベーション率や継続率には目に見える変化が現れます。
オンボーディングに絶対的な正解はありませんが、この記事で紹介した考え方やステップをもとに、自分たちなりのユーザーオンボーディングをデザインしてみてください。そして、壁にぶつかったときには、一人で抱え込まずに外部の専門家に頼るという選択肢も思い出していただければと思います。株式会社ソフィエイトは、そのような場面でのパートナーとして、ご相談をお待ちしています。
株式会社ソフィエイトのサービス内容
- システム開発(System Development):スマートフォンアプリ・Webシステム・AIソリューションの受託開発と運用対応
- コンサルティング(Consulting):業務・ITコンサルからプロンプト設計、導入フロー構築を伴走支援
- UI/UX・デザイン:アプリ・Webのユーザー体験設計、UI改善により操作性・業務効率を向上
- 大学発ベンチャーの強み:筑波大学との共同研究実績やAI活用による業務改善プロジェクトに強い
【メタディスクリプション】オンボーディング体験を改善したい個人開発者・PM・管理職向けに、空状態(エンプティステート)とプロダクトツアーを中心とした実務的な設計ポイントを解説。少ないリソースでも始められる改善ステップと、株式会社ソフィエイトが支援できる内容も紹介します。
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